【インタビュー】なぜDrupal?その魅力を訊く(Vol.1:株式会社アイキューム様~まるでレゴブロック。Drupalの自由度と柔軟性を高く評価。)

上部写真)左から、アイキューム 井ノ上さん、井村さん、豆蔵ホールディングス 日比生さん

今、欧米のエンタープライズ向け市場で順調にシェア拡大中のコンテンツ・マネジメント・システム(CMS)「Drupal(ドゥルーパル)」。日本ではまだまだ認知度が高いとは言えない状況ですが、海外での盛り上がりを受け、国内でもDrupalを普及させていこうという動きが活性化しています。先日も、NTTデータがDrupalの開発者向けドキュメントを日本語訳して公開し、国内開発者を喜ばせました。

【プレスリリース】NTTデータ先端技術、オープンソースCMS「Drupal」の日本語翻訳版開発者向けドキュメントを公開

また、去る7月7日にDrupalビジネス・コンソーシアム・ジャパン主催で実施された「Drupalビジネス戦略セミナー」も大盛況。いよいよ国内でもDrupalがブレイクする兆しが感じられるようになってきています。

そこで本連載では、そんなDrupalの国内プレーヤーの方たちにインタビューを敢行。Drupalの魅力や今後の展望について、さまざまな角度から語っていただきます。

記念すべき第1回目のは、さくナレ執筆陣の1人してDrupalを推し続けてきた株式会社アイキューム代表取締役&エンジニア井村邦博さんとフロントエンド・エンジニア、井ノ上靖さんです。

井村邦博さんの記事はこちらから。

なお、株式会社アイキュームは、今年8月1日付けで豆蔵ホールディングスグループの株式会社メノックスとの合併が決定。今回は、同社グループ経営企画本部の日比生和彦さんにもお越しいただき、豆蔵ホールディングスグループがDrupalにかける期待についても語っていただきました。

Drupalの国内ブレイクは、もう目前に迫っている

——まずはDrupalについて簡単に教えてください。CMSの一種ということですが、どういった点に特長があるのでしょうか?

井村さん:CMSというと、ホームページ構築のためのツールと思われてしまいがちですが、我々はDrupalをより高性能なアプリケーションフレームワークとして位置付けています。素早く、簡単にWebシステムを構築できる上、構築後の変更にも容易に対応できるのがDrupalの美点。ログインして利用する製品サイトやオウンドメディア対応のサイト、ポータルサービスやデジタルアーカイブなど、中小規模の検索システムでは既にDrupalを活用中です。これまでDrupalでシステムを構築したユーザー様からは、その高機能、柔軟性について高い評価を受けており、リピーターも増えてきています。

——もう少し詳しくDrupalのメリット・デメリットを教えてください

井村さん:Drupalの最も特筆すべきメリットはコンテンツ管理やユーザー管理、モジュール管理などの基本部分がしっかりしており、「小さく作ってから、大きくする」ができること。

従来のWebシステム開発では、まず全体図を把握した上で、個々の機能ごとにプログラミングを進めていくのが一般的です。しかし、このやり方だと、全体に関わる部分に変更があった際、プログラミングの対応が広範囲に及んだり、根本的な変更で対応が困難になってしまうという問題がありました。スーツをオーダーメイドで作っている最中に体型が変わってしまって丸ごと作り直しになってしまうような印象ですね(笑)。

その点、Drupalでは変化した部分を手直しすると、適切なかたちに全体が自動的に変更されます。これって、開発していてすごく楽。ベースのシステムがしっかりしているため、修正しても影響範囲が少なく、しかも影響範囲がわかりやすいんです。ユーザー様側にも、仕様変更に低コストで対応できるというメリットがあります。

実は初めて触った時は少々懐疑的だったのですが、触れば触るほど、その高機能と柔軟性に驚かされます。

逆にデメリットは最初の敷居がやや高いこと。先日、NTTデータさんが日本語訳ドキュメントを公開してくださいましたが、それまでは日本語のまとまった情報がほとんどありませんでした。また、コミュニティ内では、Drupalは学習コストが高く、あるレベルまで行くとさらにこれが高くなって脱落する人が出てくるなんて声も上がっていますね。

「柔軟性が高く、何でもできる」ということは、裏返せば「そのままでは何もできない」ということでもあります。Drupalはレゴブロックのようなもの。ブロックが1つひとつ、そのままの状態であっても意味はなく、これらを組み合わせて何かを作って初めて、価値が生まれるのです。そこが魅力であり、難しさでもあると感じています。

井ノ上さん:私はアイキュームに入社するまでWordPressを使っていたのですが、初めてDrupalを使った時には、正直戸惑いました(笑)。作法も違いますし、情報も少ない。やりたいことを実現するためにどこをどういじればいいのかわかりませんでした。確かに最初の敷居はけっこう高いですね。

ただ、そこをクリアすると思い通りのマークアップをしやすくなるのがDrupalの良いところ。実際、前職時代のWordPressと比べてコードを書く量は断然減りました。この点が効率化されたことで、働き方も変わったように感じています。

例えば、DrupalにはViewsという強力なモジュールがあるのですが、これを使うと「新着記事一覧」のようなリスト表示から、スライドショー的な表示までをコードを書かずに実現できます。ディベロッパーでなくても表示方法を自在に変更できるメリットはとても大きいですね。デザイナーは、UXやレスポンシブデザインなど、フロントエンドに集中することができます。

また、サイト構築はDrupalの管理画面から設定をしていくことで、各種機能が組み上がっていきます。もちろん、こちらもプログラミング知識は不要。そんなこともあり、弊社ではフォーム作成など、コードを書かずに行なえる変更については、マニュアルをお渡しして、ユーザー様側で対応していただけるようにしています。

井村さん:このモジュールが非常に充実しているのもDrupalのメリットと言えるでしょう。例えば、以前、ユーザー様からアンケートフォーム作成時、「その他」をチェックした時だけ自由記述のテキストボックスを表示するようにしたいという要望がありました。さすがにすこしニッチなニーズだと思ったのですが、試しに調べてみたところ、すぐに対応モジュールが見つかってびっくり。世界中の人たちが同じ問題にぶつかり、解決していっている様子を身をもって知ることができました。

日本最大の図書館イベントのサイトを手がけた際は、Drupalで各種サイトを構築している最中にさまざまな要望に迅速対応。表示する項目を追加したり、「図書館キャラクターGP」というイベントページを追加したりといった要望に対応しています。プログラミングして1から作成していたら、ここまで素早く柔軟に構築ができなかったでしょうね。「図書館キャラクターGP」のサイトは、Excelの一覧データを頂いてから2、3日で公開にまでこぎ着けたんですよ。

ほか、DrupalとApache Solrを利用した検索サイトについては、井ノ上と集中して作業し、3日ぐらいで基本部分の構築を完了しました。通常の開発では考えられないスピードです。

別の事例では、ソフトウェア開発支援ツールの開発・販売を行なっているグレープシティの商品サイト構築もDrupalで行ないました。こちらはSEOや各種ログイン機能、サポートシステムの連携、営業ツールとの連携などを全てDrupalで実現。「アプリケーションフレームワーク」としてのDrupalの面目躍如と言えるでしょう。

——お二人のお話を聞いていると、なんでそんなにすごいDrupalが日本でブレイクしきれていないんだろうか……という気分になってきますね(笑)。

井村さん:Drupalを積極的に打ち出している開発会社が私の知りうる限り両手で数えられるほどしかありませんからね(笑)。ただ、確実に“流れ”は来ていて、Drupalに興味を持たれた企業から問い合わせを受けるケースが急増しています。また「このサイト、実はDrupalで作っていました」なんて話を聞く機会も増えました。

ひょっとしたら、みんな黙っているだけで、Drupalを使っている企業はどんどん増えているのかも? 最近は、そんな雰囲気をひしひしと感じるようになりました。

今年はNTTデータさんによる日本語訳ドキュメントも公開されましたし、私も協力している業界団体「Drupalビジネスコンソーシアム」もより活動を活発にしていっています。

——“キャズム越え”はそう遠くない?

井村さん:その手応えは感じています。

例えば、10月24日には、CI&T株式会社主催による500名規模の大型イベント「Drupal Summit 2016」の開催が決定。私も実行委員会のメンバーとして協力させていただくことになりました。ぜひこの催しを通して、日本のDrupal普及が進めばと思っています。

もちろん、私個人も、これまでに引き続き、さくナレでDrupalの情報を発信していくつもりです。まだ不足している日本語情報への貢献となれば幸いです。

Drupalはなぜホワイトハウスやグローバル企業に選ばれた?

——続いて、すでにブレイクしているという海外での事例についても教えてください。ちょっと検索した感じでは、図書館などでの採用が進んでいるようですね。また、大きなところではホワイトハウスで使われていると聞いて驚きました。

井村さん:図書館の方々は、データを扱うプロフェッショナル。フィールドの自由度が高いDrupalの柔軟さが彼らの目的にぴったりハマったのでしょう。また、多言語対応しているということも図書館業務には必須。もちろん、基本的な性能が高いということも、Drupalが選ばれた理由だと考えています。国内においても、大学図書館が先行してDrupalを採用しており、すでに多くの採用事例があります。弊社でも国立情報学研究所の電子リソース共有サービス「ERDB-JP」の開発を引き継がせていただきました。

ホワイトハウスに関しては、やはりセキュリティ性能の高さが評価されたのでしょう。コア・モジュールをアップデートするだけで、全体のセキュリティが更新されるなどといった信頼性の高さが評価されたのだと思います。

ほか、近年ではグローバル企業での採用が盛んですね。たとえば、医療機器・ヘルスケア製品メーカーのジョンソン・エンド・ジョンソンでは、同社が世界各国で展開する3000ものサイトをDrupalで構築しています。Drupalの基本機能に追加モジュールを設定して、ディストリビューションという形で複数準備、全社的にこのディストリビューションを選択することで運用保守コストやセキュリティアップデートのコストを削減しています。

これら全てをDrupalに統一したことで、社内のエンジニアがDrupalに特化した開発を行なえるようになり、運営コストやスピードが劇的改善されたと聞いています。

最近では、製薬会社のファイザー製薬がDrupalへの移行を急ピッチで進めています。規模の大きな企業ほどメリットが大きく、Drupal自体もエンタープライズ向けに舵を切っているため、近年はこういった大規模事例が目立つようになっていくと思います。

——日本にもこういった流れが訪れるのでしょうか?

井村さん:その可能性は大いにあると思っています。ただ、現在、国内でDrupalを積極推進している開発会社は、どこもそこまでの大型案件を受けられる規模がないというのが実情です。また、日本では大企業は大企業に仕事を発注する傾向が非常に強く、そのことが理由で直接取引ができないという案件もありました。

実は、アイキュームが豆蔵ホールディングスグループの一員となる道を選んだのもそれが理由。Drupalの事業を進めるため、グループ企業から人を集めて技術者を増やすとともに、グループ企業とも共同でDrupalの大規模案件を提案していけるようにしたいと考えています。

これによってDrupal事業を大きくしていくぞ、大きくできるぞという意思の表われだと思っていただければ。

——すごい意気込み、そして自信ですね! それでは最後に、この8月から親会社となり、経営面で御社を支えていくことになる豆蔵ホールディングスの日比生さんから、Drupalに対する期待を語っていただけますか?

日比生さん:豆蔵ホールディングズは、Webサイトのトップに大きく「Climb to The Top of K2」と掲げていることからもわかるよう、困難な道に挑戦していくことで、より大きな成果を得ることを社是としている企業グループ。

Drupalの国内における位置付け、現状は承知していますが、これほどの技術がこのまま埋もれているわけがない。今回、株式会社アイキュームを、我々のグループ企業である株式会社メノックスに合併することで、Drupalの国内認知度を高めていきたいと考えています。

そして将来的にはWordPressを越える存在にまで成長させていきたい。Drupalにはそれだけのポテンシャルがあると期待しています。

■関連リンク
株式会社アイキューム
株式会社メノックス
株式会社豆蔵ホールディングス