(上部写真:NIIクラウド基盤研究開発センター・吉田浩特任教授(左)に取材するさくらインターネット・滝島(右))

大学のクラウド化が近年広がりを見せている。一部ではクラウドを先進的に活用し、組織的に運用できている大学もある一方で、いまだ検討段階の大学も少なくない。そこにはクラウドに対する理解不足や技術的な問題など、クラウド導入における高い壁の存在がある。そこで国立情報学研究所(NII)は、2016年9月から「学認クラウド 導入支援サービス」を提供し、大学や研究機関のクラウド導入支援に取り組んでいる。アカデミッククラウドの未来はいかに。大学ICT 推進協議会クラウド部会副査を務める、さくらインターネットの滝島が、NIIクラウド基盤研究開発センターの吉田浩特任教授に話を伺った。

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<第1回>【インタビュー:武蔵大学】私立文系大学のクラウド化は進んでいるか?大学のクラウド化によるメリットと今後の課題
<第2回>【インタビュー:広島大学】クラウド化する大学~ISMSクラウドセキュリティ取得の最先端セキュリティポリシーに迫る

ついに飛び立ったNIIの「学認クラウド 導入支援サービス」

滝島:まず吉田先生がご担当されている、国立情報学研究所さんのクラウドの推進事業についてご説明をいただけますでしょうか。

吉田先生:我々は大学・研究機関のクラウドの導入と利用のご支援をするという活動をしております。特にクラウドのライフサイクル全体にわたって後方支援したいと考えてい ます。それも大学・研究機関がクラウドを最初に導入されるにあたって、何にどのようなクラウドをどう使うかという導入検討のフェーズから、実際のクラウド の調達、クラウドを利活用して研究や業務を進めるフェーズまで、全てのフェーズに対して何らかのご支援をしたいと思っております。その一環として昨年9月に、大学や研究機関の円滑なクラウドの導入を支援する「学認クラウド 導入支援サービス」を始めました。また、導入の次にあたる利用のフェ-ズでは、既に提供中の「SINETクラウド接続サービス」に加え、「クラウドゲートウェイ」という、大学や研究機関で法人契約したクラウドをワンストップで使えるポータルサービスを7月3日に開始しました。また2018年度には、「オンデマンドクラウド構築サービス」という、複数のクラウドを含む高速で安全なクラウド環境を簡単に構築できるための仕組みを提供していこうとしています。

滝島:単にクラウド導入だけではなくて、運用まで見据えたご提案、ご支援をなさっているというわけですね。支援の内容についてもっと詳しくお聞きしたいのですが、その支援の対象となっている大学のクラウドの現状について、先生はどう見てらっしゃるのでしょうか。

吉田先生:一部の大学では先進的にクラウドを十分に活用されていて、クラウドを組織的に活用されているところも出てきています。しかし一方で、クラウドをまだ導入されていなかったり、導入を検討中の段階の大学とか、あるいは個人的に一部の方が使っておられるけれども組織的な活用に至っていないところも多いという状況にあるのではないかと思っております。

滝島:やはり民間に比べると、クラウド利用に少し慎重なところがある感じでしょうか。

吉田先生:若干そういう傾向もあるんじゃないかと思います。大学内の管理運営とかメールのようなインフラの分野は比較的クラウド化が進んでいると思いますが、大学特有の教育や研究の分野でクラウドがどのように活用できるのかはまだ必ずしも明らかになっていないという状況があります。そういう意味で、ここがこれからクラウド化を広げてゆく中心となる分野じゃないかと考えております。

滝島:事務系のシステム、法人系のシステムですとか、インフラの部分、そのあたりの導入は進んでいるというわけですか。

吉田先生:そういうふうに思っております。一方で教育研究のところ、特に研究の部分にはまだ課題があるように感じています。

コスト削減だけがクラウド化の利点じゃない

NIIで大学や研究機関のクラウド化の推進に務める吉田特任教授

滝島:数年前に文部科学省がしきりにクラウド推進を謳っていたことがありました。その時のキーワードが「コスト削減」にあった気がするんですね。そこの部分に大学の現状とボタンの掛け違いがあると感じています。確かに大学の予算が少ないというのもあるのですけど、技術者が確保できなくなったことでシステム運用ができず、クラウドに移行したという例も少なくない気もします。ですから大学でのクラウド化は必ずしもコスト削減にならないというご意見を伺うことがあります。このように上からのベクトルと下からのベクトルが上手くかみ合っていないような気もするのですけども、これはどうなのでしょうか。

吉田先生:確かにクラウドを導入してもコスト削減にならず、必ずしもクラウドは安くないんじゃないかという声は私も結構伺います。ただ、最近特に言われはじめているような気がするんですけど、大学に限らず、クラウドをコスト削減だけの目的で導入するのはちょっと違うんじゃないかとも思います。クラウドでコストが下がるという効果だけを目標にするのではなく、これは一般企業も同じだと思うのですけど、むしろクラウドで新しいイノベーションができるとか、イノベーションが加速するといった要素も目標にあるわけです。また、クラウド化によってインフラの保守作業から解放されることで、その分イノベーティブなことに労力を割くことが可能になります。これは特に大学でインフラを保守されている方々に当てはまると思います。他にもクラウドの無限ともいえる資源を使って、今までないような研究ができるとか、研究を速く進められるようになるとか、そういう方向を目指すべきじゃないかと考えております。

滝島:単純なコスト削減というよりも、クラウドを使ってより付加価値が出るような研究なり教育なりを目指すべきというのが本来のクラウドの目的というわけですね。

吉田先生:そういうふうに思っております。特に大学にとって、研究能力のある方がインフラのメンテナンスに時間を奪われていることはあまり望ましい形じゃないと思いますね。

滝島:本当に優秀な先生が情報センターに配属されたばかりに、24時間365日トラブル対応しているという、ちょっと建設的ではないところがありますよね。

クラウドはネットワークで使うものだから、どうしてもそこは残る

滝島:逆に従来ですと、運用技術の蓄積といった部分に価値があるという考え方もあります。クラウド化が進むことで、そこの部分がある程度切り捨てられると言いますか、優先順位が下がってくるということもあるのでしょうか。

吉田先生:どうなんでしょうね。私が大学の先生からいくつか聞いたところでは、逆にクラウド化によってシステムがほとんどブラックボックス化してしまうと、人材育成という面で、例えばコンピューターがどうやって動いているのか、ハードウェア周りのことがわからなくなる、実際面ではそういう設定を自分でできなくなるというような、教育面における副作用を気にされる先生がいらっしゃるのも確かだと思うんですよね。

滝島:優秀な先生ほどブラックボックスは使いたくないというところがある気がして、なのでクラウドは使いたくないという先生も実際いらっしゃいます。昔情報センターといえば、いっぱいサーバーがあって、その組み上げとか構築とかを学生にやらせて教育にしていたところが、今そういったものがどんどん少なくなってきています。つまりクラウドというのは、少なくとも情報学とか情報システムの研究をしている人からすると善し悪しの部分があるようなんですよね。

吉田先生:何事も程度問題なのかもしれないですね。コンピューターにおいても、昔はアセンブラで組んでいたのが、今はわかりやすく簡便な言語でプログラムが作れる時代ですが、どういう仕組みで動いているかわかっていたほうが、プログラムを書くにしても効率のいいものができるわけですから、原理を知ることは必要です。このあたりのバランスをどうとっていくかが今後のポイントなのだと思います。

滝島:武蔵大学さんや広島大学さんに取材した際に、大学の情報センターのやっているサービスを分解していくとどうなるかという話がありました。例えば研究の部分のサービスはセンターがやらないで、研究者に分解して任せてしまってもいいんじゃないか。または事務所のシステムをクラウドとかSaaS的なものを使ってしまうと。こうしていくとセンターに残るものってネットワークぐらいになっちゃう。ネットワークの部分に認証とかセキュリティが紐付いていますので、そこらへんが残るだけじゃないかという気がします。そして必要な時だけクラウドで必要なリソースを調達して使うという形で、大学の情報センターにはクラウドが残るんじゃないかみたいな話もあったりもします。

吉田先生:確かに必要な知識とかスキルとして、ネットワークが最後に残るわけですよね。クラウドはネットワークを通じて使うものですから、どうしてもそこは残ります。そうなると、そのネットワークのセキュリティをどうやってちゃんと維持しながら使うかという部分が重要になってきます。昔はハードウェアを含めてメンテナンスしていて、例えばハードディスクが壊れたらどうやって交換するかという話もしていたわけですが、今はこのネットワークのセキュリティをどうするか、関連してネットワークからシステムを使う際の認証をどうするかといったところがとても大事になってきています。

チェックリストの活用で、円滑なクラウド導入が可能に

滝島:それではNIIさんもセキュリティ的な支援ですとか、対策とかいうのは考えてらっしゃるのでしょうか。

吉田先生:当研究所としてはネットワークもセキュリティも、そしてその基盤の上にあるとも言えるクラウドにも取り組んでおりますので、全体が連携することで安全かつ効率的にクラウドを使えるご支援ができるのではないかと思っております。

滝島:SINETがあってクラウドがあって、クラウド導入支援があり認証もありということですね。

吉田先生:そうです。このようにいろいろある中で、まずクラウドの導入検討の時点からセキュリティなどを含めた重要な着眼点を理解して進めてゆくことが全ての基本になりますから、そこでつまずかないためにも、昨年9月に「学認クラウド 導入支援サービス」を開始させていただいた次第です。この支援サービスを通じて、クラウド固有の課題をよくご理解いただいて使って下さればと思います。

滝島:大学さんはある種民主的な組織ですから、反対の人がいるとなかなか判断が進まないところがあったりします。民間の業者を使うと問題があるけれども、NIIさんが進めるサービスであれば大丈夫みたいなところがあるように思います。実際の情報センターの人と話をすると、やはりNIIさんに期待するところが大きいという話もよく聞きます。

吉田先生:そういう立場にあるだけに、我々は「学認クラウド 導入支援サービス」を通じて積極的に情報共有をしていきたいと考えています。このサービスの中心は、我々が作成したチェックリストの各項目を、クラウド事業者の方々に、ご自身が提供されているクラウドサービスの内容に即して埋めていただき、さらに我々のほうでそれを検証した結果を、クラウドの導入を考えておられる大学や研究機関にご参照・ご検討いただくことで、クラウドの導入を支援するというものです。こうすることで、皆様が安心感を持ってクラウドをお使いいただくのをお助けできると考えております。

滝島:「学認クラウド 導入支援サービス」を利用されている大学さんってどのぐらいになっているのでしょうか

吉田先生:最新状況はホームページで随時公開しているのですが、昨年の9月から始めて現在37機関です。事業者の数が今22になっており、約30サービスのチェックリストの公開がようやくできたところです。事業者のほうは大体主要なところは網羅できたと考えておりますが、ご利用いただく大学・研究機関の数をこれから増やしていきたいですね。

滝島:チェックリストは大事なものなんですよね。さくらでも、文教営業に新人が入ると、チェックリストをまず見て勉強してもらいます。そうすることで、文教の世界でこういうような質問が出るということが事前にわかるようになります。

吉田先生:ここ半年ぐらいの導入支援サービスの活動は、事業者に出していただいたチェックリストを我々が検証し、これを大学・研究機関にご提供するということに注力して進めてきました。現在は、このチェックリストと、さらにクラウド導入に必要な知識やチェックリストの読み方などをまとめた「スタートアップガイド」のご提供という形で情報を共有しているわけです。今後は、実際に使った事例だとか、何で困っているというかという課題やニーズを集めて共有していかなければいけません。ですので、大学・研究機関にクラウドに何を求めるのか、何に困っているのかというのを積極的に聞きに行かないといけないと考えております。最終的にはこの導入支援サービスを一種の情報共有サービスにしていければと考えております。

滝島:実際にチェックリストを拝見させていただきましたが、あれはとてもよくできていると思います。でもあれ、項目を埋めるの結構大変なんですよね。

吉田先生:確かにちょっと項目数は多いし、内容も細部に渡っているかなと思います。

滝島:根拠とかも書かないといけないようにできていますね。できますと書いたら、それはウェブやカタログのどこに書いてあるかも明記しないといけないようになっています。

吉田先生:しかし、我々のほうでも、そこに書いていただいたものを全部参照して、確かに該当する情報があるかどうかを検証しているのです。そういうプロセスを経たものを出すと、大学のほうでは、NIIが確認しているからここに書いてあるのは客観的に裏付けのある情報なんだということで見ていただけます。全部の大学がチェックリストの記述を一から確認し始めたら恐らく全体としては大変な労力となるでしょうが、我々が一度きちんと確認しておけば全体の負担が軽くなるということです。確かに事業者の方々にはご負担をお願いするといった側面はあるのですけども、長期的に見れば、こういう形で情報がきちっと出ているクラウドが使われてゆくようになるのではないかと思っています。

滝島:そうですよね。きつい質問もありますけど、正直さくらでもできませんという項目もあります。しかしそういったことを公開することがお客さんから見ると信頼感になるのかなと。なんでもできますというのが逆に怪しいですね。

吉田先生:大学にチェックリストを見ていただくときに、できないことがあるからダメということではないですよと、何回も申し上げてきました。要するにサービスレベルや料金との見合いなので、ある機能はない・これはできないというサービスでも、目的にかなっていて妥当な料金であれば、利用価値はあるわけです。ここができないと書いてあるから選ぶべきではないという話ではないですよと、誤解のないように随分申し上げているつもりです。

クラウド化の推進には文系的な導入支援も必要

学認クラウド 導入支援サービスで使用しているチェックリスト。技術的な部分だけでなく、契約面や会計面など、文系的な項目も充実している(http://cloud.gakunin.jp/checklist/

吉田先生:「学認クラウド 導入支援サービス」では、チェックリストだけでなく、一般向けセミナーや利用機関向けのワークショップを通じた大学・研究機関へ の支援も行っております。6月に開催したオープンフォーラムでも、学認クラウドに参加していただいている大学・研究機関向けに、クラウド上のソフトウェアライセンスに関するワークショップを実施しました。クラウド上で有償ソフトウェアを使う際にはいろいろなライセンスの問題が出てくるのですけど、これに関しての課題の共有と、大学からの要望の多いソフトウェアベンダーさんからの情報提供を行う場として有意義なイベントとなりました。

滝島:確かにライセンスの問題はソフトウェア会社ごとに違いますし、また何年かに一度改訂するとことも多いですからね。

吉田先生:去年大学の方々に聞いたら、このライセンスの部分で結構悩んでおられる声があったんですね。悩む以前に、そもそも現状がどうなっているのかわからないという話を結構伺いまして。

滝島:さくらでも例えばマイクロソフトさんのライセンス、包括ライセンス、これクラウドに持ってこれるんですかみたいな質問は多いです。ただそれはお客様がマイクロソフトさんに申請をあげて承認を取ってください、とかいう回答にならざるをえないんですね。

吉田先生:クラウドはそういうところのわかりにくさがあって、技術的な課題以前に、ライセンスや契約の問題に直面することもあります。

滝島:制度が追いついてないんですよね。

吉田先生:そもそも現状どうなっていて、何ができて何ができないのかというところがわかりやすくなっていない。だから使う側としてもどう使っていいのかわからない。お金が要るなら要るで、それはこういうふうにやればできます、というのだったらまだわかるのですが、そういう情報が行き渡ってないのです。結局面倒くさいから使うのをやめとこうみたいな話になってくる。ライセンスの話は専門的で、お客様対応の現場に出ておられている方々だけでは十分対応できないということもあります。

滝島:契約がネックになる話もよくありますね。要はブラックボックスになってしまっているんですよね。

吉田先生:技術的なブラックボックスだけじゃなくて、契約みたいなものもブラックボックスになっているわけです。

滝島:そうですよね。やったことある人は個人ノウハウとして知っているけどみたいなレベルでそれが共有されていない。

吉田先生:それはクラウドの調達におけるお金の話でも当てはまります。クラウドの料金体系や支払方法は、今まで大学や研究機関でやっておられたモノの買い方と違う部分もあるんですよね。どういう買い方だったら可能かといった情報もあまり共有されていない現状があります。

滝島:確かに我々が売り込みに行くと、予算をオーバーするのも言語道断だし、余るのもどうしたものかという声を聞きます。本当は使った分で済むというのがクラウドのメリットなんですけど、いくらかかったか変動してしまうと、大学・研究機関としては調達しづらくなるようなんですね。ですからさくらでは定額制サービスという形も始めました。

吉田先生:単価で契約したという例もあるようなんですけど、どうすれば大学や研究機関の調達スキームでそれができるのか、なかなか知れ渡っていません。クラウドを調達する具体的な方法や選択肢を皆様と共有できればと思います。

滝島:確かに大学さんでも他の大学でクラウド調達した仕様書を見たいという話はとても多いですよね。会計制度をどういうふうに解釈してクラウド調達に繋げたとかですね、具体的な調達の文言をどういうふうに書くかとかですね。やはりこういったノウハウの部分が共有されていない問題があります。「学認クラウド 導入支援サービス」では、こうした具体的な調達の方法ですとか、進め方のコンサルティングもされているのでしょうか。

吉田先生:導入支援サービスの中でお受けする個別相談のメニューの中にはもちろん入っています。それから「クラウドスタートアップガイド」という資料をホームページで公開しています。まだ内容的に十分とは言えない部分もあり、特に今後は各大学・研究機関の事例ベースの話を増やして共有していきたいところですね。一方で、導入支援サービスの一環としてセミナーという形での情報共有も進めています。昨年12月に弁護士の先生に講演にきていただき、先ほどのライセンスの話も含めて、クラウドにおけるリーガルリスクのセミナーを開きました。

滝島:どういったセミナーだったのでしょうか。

吉田先生:クラウドを使う上でどのようなリーガルリスクが考えられ、それに対してどう対処すればいいかという内容で3時間、びっしり200枚以上のスライドで講演していただきました。こうしたテーマは関心が高いようで、60名から70名ぐらいの参加者がありました。技術面をテーマにしたセミナーも実施していますが、このような法律セミナーの人気も高まっています。クラウドをお使いになる上で、技術面やセキュリティの問題の他に、技術的ではない部分で不安を感じておられるようですね。

滝島:どっちかというと文系的な内容ですね。

吉田先生:そうだと思います。特に技術者にとっては、ライセンスや会計の話というのは文系的なスキルということで厳しいところもあったと思うんですけど、ニーズは高いし、逆にこのような情報の提供をしっかり進めてゆくと、クラウドがより使いやすくなるのではないかと思います。

滝島:各社約款とか作っていますけど、約款を読む人ってあんまりいないですよね。

吉田先生:全部は読まないにしても、じゃあ約款にどういうことが書いてある可能性が あって、それに同意するとどんなことが起きうるのかというところをある程度わかっていないといけません。セミナーではどこにリスクがあるかといった話をしていただきました。クラウドを使う上で、慣れていないとハードルが高いところでもありますね。

滝島:やはり最低限チェックしておかないといけないポイントって出てきますね。

吉田先生:そこがはっきりすれば、使う上での不安は大分減るんじゃないかなと思います。最初から約款の何十条もの条項を全部読んで理解しないといけないということではなく、大事なところはこことこことここで、まずはそこを押さえれば最低限はクリアできるという情報提供をしたいと考えています。ですから、導入支援サービスで使っているチェックリストでは、契約面の項目も多く含まれています。こういったことが明文化されていますかとか、こういうことが約款なり利用規約に書いてありますか、という質問も多く設けています。こうすることでクラウドの導入の障壁がかなり下がるのではないかと思っております。

滝島:クラウド導入の障壁は技術的な問題だけではないと。契約面ですとか、調達面だとかということですよね。そこらへんがみんなのコモンセンス的になっていかないと、なかなかクラウド導入の雰囲気になっていきませんね。

吉田先生:手前味噌ですけれど、導入支援サービスのチェックリストをご覧になった方々からは、クラウドの導入にあたって何に注意しないといけないかがわかったとか、こういう着眼点も必要なんだとわかったというコメントを結構いただいております。クラウドを考える上でのポイントといいますか、こういったものが全体の知識として共有されてくればよいと思いますね。

アカデミッククラウドの未来は明るい

2017年7月から提供を開始した「クラウドゲートウェイ」の操作画面のイメージ。大学など所属機関で法人契約を行っているサービスやグループで利用しているサービスが一目でわかり、 ワンクリックで各サービスに移動できるようになっている(http://www.nii.ac.jp/news/release/2017/0703.html

滝島:「導入支援サービス」が非常に有意義なものだということは再確認できました。というところで、新しくNIIさんが公開された「クラウドゲートウェイ」や、さらにその先にある「オンデマンドクラウド構築サービス」について伺いたいと思います。こういったものは導入支援サービスの先にあるものだと思うんですけども、これによって大学さんのクラウド利用というのはどのように変わっていくのでしょうか。

吉田先生:導入支援サービスをご活用いただいてクラウドの導入や調達をしていただいた後のクラウドをよりよく使うフェーズにおいてもいろいろなご支援をしてゆこうと考えています。その中で、今年7月3日から提供を開始した「クラウドゲートウェイ」は、いろいろなクラウドにアクセスするためのポータルサイトであり、所属機関で法人契約をしているクラウドを一覧として表示することで、利用者がこれらのクラウドにワンストップでアクセスできるようにする仕組みです。さらに学認対応していただいているクラウドに関してはシングルサインオンも可能です。表示するクラウドは大学・研究機関ごとにカスタマイズでき、APIも提供いたしますので、各大学のポータルの一部に含めるといったことも可能です。

滝島:複数のクラウドベンダーを使っているときに、こういったインターフェイスを使って一括で管理利用ができるようなイメージなんでしょうか。

吉田先生:入り口を一つに集約できるので、管理側からすれば組織の全員が使うクラウドを把握でき、管理者が知らないところでの不適切なクラウド利用によって起こりうるセキュリティやコストの問題を回避することができます。一方、使う方からしてみれば自分が使えるクラウドサービスがすべて並んでいて、しかもサービスによってはシングルサインオンもできるメリットがあります。使えるクラウドはどれだということが漠然と頭の中にあって、それぞれ別々の入口から個別のサービスにアクセスしに行く状況が改善されることになります。

滝島:様々なクラウド業者のクラウドを一つのインターフェイスから一つのシステムのように使えるようにするサービスということなんですね。

吉田先生:たくさんのクラウドを使いこなしていくためのしくみですね。

滝島:例えばここにアマゾンウェブサービスが一つあって、さくらがあってみたいなそういうイメージなんですね。で、NIIさんはこれを無料で提供しているのでしょうか。

吉田先生:個別のクラウドサービスは各大学・研究機関でご契約いただくという前提で、ゲートウェイサービス自体の利用は無料となっております。

滝島:さらにその先にあるのが「オンデマンドクラウド構築サービス」というものですね。

吉田先生:これは、クラウドのより高度な利活用を支援するものになります。例えばIaaSの特長として資源の配備や設定がWebコンソールからセルフサービスで簡単に行えるということが言われます。しかし、実際に教育・研究のためのクラウド環境を構築しようとすると、必要なインスタンスを配備し、各インスタンスに必要なソフトウェアをインストールし、さらにセキュリティや性能が保証できるようにインスタンスのネットワーク環境を適切に設定して……というように決して単純ではなく、手間もかかるし設定ミスも起きうるでしょう。ましてそれが複数のクラウドの資源あるいはオンプレミスのサーバー群を連携させた環境を構築するとなると大変です。クラウド化してもこういう大変さは残るわけで、そこを解決しようとするのが「オンデマンドクラウド構築サービス」になります。これはテンプレートを用意し、これを選択することで、事務作業の負担やプロバイダ側の自動化できない設定作業などをのぞき、必要なクラウド環境がおおよそ自動的に作られるというものです。さらにこれを、SINET5のL2VPNを活用して、一つのクラウド上だけでなく、複数のクラウドやオンプレミスを対象とするという技術を現在開発中です。今年度にテスト運用を始めて、来年度に本番に持っていきたいと考えております。

滝島:これは「クラウドゲートウェイ」と併用していくものなのでしょうか。

吉田先生:独立のサービスにはなっていますけれども、複数のクラウドを対象とする場合はゲートウェイがあったほうが操作しやすいとは言えますね。

滝島:しかもSINET接続の設定作業の負担も軽くなると。

吉田先生:プロバイダ側を含めて自動化できない設定作業や組織ごとの申請事務作業は残るのでしょうけども、技術的な構築作業は極力テンプレートの中に組み込んでゆきます。これも含めて、サービスメニューに関しては、現在検討中の段階です。

滝島:でも徐々に機能が充実していけばいい話ですよね。

吉田先生:そういうことですね。テンプレート自体が増えていけばいろんなパターンのものが作れるでしょう。

滝島:例えばeラーニング用とか。

吉田先生:そうです。現在、ユースケースとして、講義・演習用VDI環境の構築や、LMSの構築について研究中です。このようなクラウド環境の構築が、例えば教職員がテンプレートを選択あるいは作成することにより行えるようになります。

滝島:まるごとこのテンプレートで作ってしまうということなんですね。

吉田先生:たとえばコンピューターの講義や演習に使われるVDI環境がこれで構築できるということができるようになります。構築の負担が大幅に小さくなりますので、講義がない夏休み期間中は削除しておくという運用も可能になります。

滝島:授業で使う時だけぱっと立ち上げて、終わったら消しちゃうこともできるわけですか。

吉田先生:先生がテンプレートを選んで、あとは人数など必要な情報を決めてやれば自動的に構築できる。こうした環境を先生が毎回一から作っておられたら大変な負担になるところですが、これによって先生が教えることに集中できるようになるわけです。

滝島:これがもうすぐ実現するということですよね。今後はこういったところで実際のクラウド提供にも踏み込んでいくということなのでしょうか。

吉田先生:これ自身も一種のクラウドサービスとして提供されますが、クラウドの資源自体を提供するというよりも、クラウドをよりよく使っていくための仕組みの提供と考えています。

滝島:大学のシステムはかつて時代の先端をいっていた時期がありましたけど、今では民間よりかなり立ち遅れてしまっていて、もうなんか埋没してしまった感じがします。でも、こういうのができると一気に先端に躍り出るような感じがしますね。

吉田先生:確かにこういう形でクラウドを活用しているようになってゆけば、相当新しいことができると思います。

滝島:アカデミッククラウドの未来は明るいということですね。ありがとうございました。