上部写真)7th heaven&Co 代表取締役 天上博規さん

さくらインターネットが注目するスタートアップ企業を紹介していく本連載。今回は、サッカーファンの間で、今話題のアプリ「JOOOY –ジョイ-」を開発・運営している7th heaven&Coが登場。このサービスのためにそれまで経営していた会社をたたみ、ゼロからの再スタートを切ったという同社・天上博規さんに、その熱意と覚悟を語っていただきました!

週末にスタジアムで過ごす“日常”ってすごく良いなって

——まず始めに、7th heaven&Coの事業内容について教えてください。

天上さん:7th heaven&Coは2015年に起業したばかりのスタートアップで、Jリーグのサポーターが情報収集とコミュニケーションをできるアプリ「JOOOY –ジョイ-」を提供しています。

——サッカーファン専用アプリということは、やはり天上さん自身、サッカーがお好きなんですか?

天上さん:元々はファンというよりプレイヤーでした。まだJリーグが生まれていない小学生の頃からサッカーを始め、高校生の頃には全国高校サッカー選手権大会にも行っています。もちろん当時はプロを目指していたんですが、チームにいた、“Jリーガーになれる人”のレベルを肌で感じてしまって、諦めました。これは無理だと(笑)。

その後はもう1つの趣味だったバンド活動の方に完全にシフト。そちらの方は上手くいって、全国ツアーなどもさせていただけるようになりました(編集部注:某インディーズロックバンドのリーダーとして活躍。国内全国ツアーのほか、台湾での単独ライブなども成功させるが、2009年無期限活動停止)。サッカーはもちろん好きでしたが、テレビで試合を見るだけ、それも海外サッカーだけという具合でしたね。

——そんな天上さんがJリーグのサポーター向けアプリを作るようになった経緯を教えていただけますか?

天上さん:2011年に行われた震災復興チャリティーマッチをたまたま観に行くことになって、そこでカズのゴールにやられてしまったのがきっかけですね(笑)。それからJリーグの試合も見に行くようになったんですが、そこで、スタジアムの空気感を良いなぁって思ってしまったんですよ。週末、親子連れやカップルがワクワクしながらスタジアムに集まってくる。そういう“日常”がすごく良いな、って。

——休日の過ごし方としてアリだな、と。

天上さん:そうですね。そうして地元ガンバ大阪の試合を追いかけ続けていたら、いつの間にか熱心なサポーターになってしまっていました。(笑)

その際、当時の知人を巻き込んでやったのですが(笑)、ITリテラシーのさほど高くない普通の人だったので、気に入った選手のブログに毎日アクセスしては「更新されてへん!」って怒ってるんですよね。それで選手のブログや関連ニュースが更新されたら分かる仕組みを当時経営していた会社で作ってあげました。せっかくなのでそれをインターネットに公開したところサッカーファンの間ですごい話題になってしまい……それが「JOOOY –ジョイ-」の原型になっています。

——え? 天上さんは、7th heaven&Co設立の前にも起業していたんですか?

天上さん:はい。実は、バンド活動をしながらWebの制作会社を経営していました。バンド活動初期のお金のない時代に独学でチラシやWebサイトを作っていたら、いつの間にかライブハウスやイベンターの皆さんからも制作を依頼されるようになってしまったんですよね。それで、友人のエンジニアやデザイナー、営業マンを集めて制作会社を立ち上げたんです。

——サッカーで全国レベルの活躍をした上で、ミュージシャンとして海外進出にも成功、そして会社経営もやっているなんて、凄まじい多才ですね! そして、その会社が7th heaven&Coの前身となるんですか?

天上さん:いや、その会社と7th heaven&Coは全くの別モノですね。当時、その会社はまぁまぁ長く続いていたこともあって、新しいことをやる労力とモチベーションを生み出しにくい状況にあったんです。当面、お金を生まないプロジェクトに手間をかけられる雰囲気ではありませんでした。そこで、「JOOOY –ジョイ-」を始めるにあたって、その会社は実質的に解散。務めていたスタッフたちを新しい職場に送り出してから、2015年に全くの新企業として7th heaven&Coをスタートさせています。

ターゲットはむしろサッカーのライト層なんです


——「JOOOY –ジョイ-」がどういったアプリなのかを教えていただけますか?

天上さん:お気に入り選手のブログ更新やSNSでの発言をまとめて表示するほか、その関連ニュースをクローリングしてきてくれる機能を備えています。Jリーグのサポーターは40代前後の男性が多いのですが、その年代ってITリテラシーの低い人が多いんですよね。若い人はSNSなどを駆使して上手に見つけてくるんですけど、40代以上の人はそういう人が苦手。存在する情報にアクセスできずに飢餓感が募っていくという悪い状況をこのアプリで打破してあげたいなと思いました。

そして、その上で、コミュニケーション機能をもう1つの柱として用意しています。個人的には、こちらこそがこのアプリの最大の売りだと考えています。

——もう少し詳しく教えてください。

天上さん:実はサッカー界隈って、意外なほどにコミュニケーションの場が少ないんです。にちゃんねるとか、超掲示板とかはありますが、普通の人が参加したいと思えるような場にはなっていなかった。Facebookにもいろんなグループがありますが、年配者中心になってしまっていることや実名制であることで敬遠されてしまうんですね。

——分かるような気がします。

天上さん:また、サッカーファン特有かもしれないのが、リアルなコミュニティではサッカーファンであることを隠している人が多いこと(笑)。特に女性に多いように感じるのですが、スタジアムでの“サポーターとしての人格”を、リアルに知られたくないと考えているようなんです。そこで、“サポーターとしての人格”のまま、同じクラブのファンとつながれる場を作ってあげようと考えました。これが、なかったんですよ、本当に。

——そうしたファン特有の空気感というのは、実際に熱心なサポーターである天上さんだからこそ気づけたのかもしれませんね。そして、すでにサービス開始から1年以上が経過していますが、ユーザーの評価はいかがでしょうか?

天上さん:サービス開始から約1年。昨年末の時点で、およそ3万人のユーザーに使っていただけるようになりました。ただ、コアなサッカーファンは約50万人、その周辺のライト層も含めると約500万人と言われていますので、数字的にはまだまだこれからですね。

——まずはコアファンを狙っていくイメージですか?

天上さん:いえ、「JOOOY –ジョイ-」がターゲットとしているのはむしろライトなサッカーファンですね。コアなファンは自分でニュースも探せますし、すでにリアルにしっかりとしたコミュニティを確立できているので、ネット上に仲間は要らないんです。

Jリーグは土日に試合があるので、他の全てを犠牲にしても良いという人でなければ、長く続けることができません。就職したり、結婚したりするタイミングでスタジアムに来られなくなってしまうんですね。そうすると、どんなに好きでもコミュニケーションが薄くなって、モチベーションが維持できなくなってしまいます。実際、それでファンをやめてしまう人がすごく多いんです。

——コミュニケーション機能は、そうしたライト層のためのものである、と。

天上さん:はい。そうした、年に1、2度しかスタジアムに来られない、あるいはテレビ観戦しかしないという人でも、Jリーグのサポーターを止めずにすむ仕組みとしてコミュニケーション機能を機能させていきたいと考えています。実際に試合に来られなくても、テレビで観た試合の感想で盛り上がったりできれば、ファンを続けやすくなりますから。また、そこからコアファンを育てていきたいとも思っていません。「JOOOY –ジョイ-」はサッカー以外にも大切なもの(家族や仕事)がある人が、それらとサッカーを両立させていくためのアプリなんですよ。

実は現状、「JOOOY –ジョイ-」のことを「NewsPicks」のサッカー版だと思っている人がとても多いようなのですが、それは狙いと違うところ(苦笑)。今後の機能強化で印象を新たにしていきたいですね。

——では、コミュニケーション機能を、今後どのように強化していくかを教えてください。

天上さん:当初「JOOOY –ジョイ-」では、同じクラブのファンでまとめてあげれば、それだけで盛り上がるのかなと思っていたんですが、実際にやってみると、ファン歴の差、熱意の濃淡で、全くかみ合わないという問題が発覚しました。ライトファンがうかつなことを言うと、古参ファンに怒られてしまう空気感すらある。まずはこれをなんとかしたいと考えています。

具体的には、コメントに「ナイス!」と付けられるボタンを新設しました。これによって、まだ上手いことは言えないという初心者にも、会話に参加している感を持たせてあげつつ、会話をリードしている古参ファンの自己顕示欲も満足させてあげられればいいな、と。また、そうしたやり取りをアプリを起動した直後のホーム画面として表示するように仕様変更しています。

——たとえは適切ではないかもしれませんが、昔の掲示板はそうした「ROM専」をある程度の期間やってから発言するのが普通でしたよね。

天上さん:その上で、実況コーナーなどではゴールの瞬間にワーーーッっと盛り上がってほしい。その瞬間にはライトもコアも関係ありませんからね。そういうところから活性化していってほしいなと考えています。

——そこに向けて、何か運営側として仕込んでいることはありますか?

天上さん:システム的には特にないのですが、個人的なガンバサポーターの友人たちにコミュニティの活性化をお願いしたら上手く回り始めたということはあります。ただ、それは今の人数だからできていることで、それがもっと増えていったらどうなるか分かりませんね。

——現在は3万人だそうですが、将来的な目標はどれくらいなのでしょうか?

天上さん:ずばり100万人ですね。そうなるとおそらく荒れます(笑)。でも、その荒れるくらいの本気を見てみたいという気持ちがあります。そして、それをクラブなどのJリーグ運営陣にぶつけることが、このアプリの究極的な目標なんですよ。

——なかなか過激な発言ですが、その真意は?

天上さん:これはぜひ、記事に書いていただきたいんですが、Jリーグの運営陣って、サポーターのことをほとんど見ていないんですよ。クラブはスポンサーが第1だし、リーグはワールドカップで日本代表が勝つことしか考えていない。

いや、確かにそれで日本代表がワールドカップで優勝できたらすごいと思いますよ。でも、私個人はそれが、日本のサッカー文化を盛り上げることにはつながらないと考えています。実際、なでしこジャパンが優勝していますけど、盛り上がったのは一瞬でしたよね。実は日本のスポーツファンって、世界ナンバーワンになることをそれほど望んでいないのではないでしょうか。仮に日本がワールドカップで優勝したとして、せいぜい数週間、渋谷が大騒ぎになって終わりなんではないかと。なでしこジャパンのほか、野球のWBC2連覇などを見ていてもそう思います。

——そこ(優勝)を目指しても意味がない?

天上さん:大切なのはサッカーを応援してくれる人を1人でも多くすること。全てのプロスポーツはファンありきのものです。ファンがいなかったら、スポーツ選手なんて、ただの運動が上手い人ですから。そこに価値を生み出しているのがファンだということを「JOOOY –ジョイ-」の成功を持って彼らに知らしめたいという思いがあります。

そのためには100万人。それも少しでも早く達成したいですね。今年達成しなければ間に合わないというくらいには焦っています。日本のスポーツエンタテインメント市場全体がしぼんでしまう前に何とかしなければいけないと思っています。

一日も早く100万ユーザーを達成したい!!

——「JOOOY –ジョイ-」の今後についても教えていただけますか? 例えば、ちょっと下世話な話になるのですが、マネタイズについてはどうなっているのでしょうか?

天上さん:実はそこが後回しになっていて……(笑)。さくらインターネットさんには無償でサーバーを提供していただくなど、本当にお世話になっています。ご協力いただけなかったら、とっくに「JOOOY –ジョイ-」は潰れていますよ!

その上で、もちろん計画はあって、具体的にはゲーム的な要素をアプリに盛りこもうと思っています。ゲーム内通貨的なものを用意して、結果予想などの簡単なゲームを提供できればな、と。

後は宿泊施設の紹介みたいなこともやっていきたいですね。Jのサポーターは隔週でアウェイの試合があるので、宿泊施設の確保はすごく大事なんです。ホテルに専用プランを用意してもらったり、流行りのAirBnBとの連携などもあり得ますね。

——土地勘がないと宿泊地を決めるのも一苦労なので、それはありがたいですね。

天上さん:後は“食”ですね。敵地遠征はちょっとした小旅行でもあるので、それを楽しむための情報提供もできればいいな、と。私なんかは、敵チームのサポーターに直接聞いてしまうんですが、それはそれですごく話が弾むんですよ。もちろんこちらに来る人には地元自慢も兼ねて、美味しいお店を紹介したい。こういうコミュニケーションって、「食べログ」なんかではできませんよね。

——アウェイ観戦が楽しくなりそうですね。

天上さん:あと、これもまだ構想レベルなのですが、今年からJリーグの配信を担当することになったDAZN(ダ・ゾーン)との連携も考えています。彼らに試合の中継画像を提供してもらいつつ、こちらから送客できるような仕組みができたら双方メリットがありますよね。

何にせよ、100万ユーザー年内達成に向けて、いろいろやっていきます。「JOOOY –ジョイ-」の今後にご期待ください!

おまけ:さくらの情報システム室 室長も「JOOOY –ジョイ-」に期待!!

さて、実は今回の取材には、熱烈な浦和レッズファンとして社内では有名(?)な、さくらインターネット情報システム室 室長、武中洋親氏が同席。ガンバ大阪サポーターの天上さんとの衝突も危惧されましたが……無事、取材完了。7th heaven&Coおよび、「JOOOY –ジョイ-」について、率直な感想を語ってもらいました。

『天上さんのおっしゃっている、Jリーグサポーター(特にライト層)の交流の場がないというのは本当にその通り。私も結婚・子育てでスタジアム通いができなくなり、そこで一旦、コミュニケーションが途絶してしまったことがあります。ただ、Jリーグ公認ファンサイトである「J’s GOAL」がリニューアルされるなど、業界全体でこうした問題を何とかしようという気運が盛り上がりつつあるように感じます。その中で「JOOOY –ジョイ-」の活躍が期待されているなというイメージです。

その上で、今回、個人的にグッと来たのは、「JOOOY –ジョイ-」がアウェイの面白さをサポートしていきたいという部分。チームによっては、普通に生活していたら絶対行かないような場所だったりしますからね。試合観戦のついでに美味しいものを食べたり、珍しい場所に行ってみたいという人は多いはず。そこをサッカーファンのコミュニティでサポートする/されるというのはとても魅力的に感じました。あと、試合中のコミュニケーションでは、相手クラブの実況板をサッと見られるようになっているのが面白かったです。いや、気になるんですよね、相手チームがどんな発言をしているのかって(笑)』

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JOOOY –ジョイ-