【連載】スタートアップ企業訪問 (Vol.8:株式会社ペットボードヘルスケア〜全てのペットを健康へと導く)

上部写真)株式会社ペットボードヘルスケアCEO 堀宏治さん、CTO中谷圭吾さん

さくらインターネットが注目するスタートアップ企業を紹介していく本連載。今回は「ペットの健康」に真正面から取り組むスタートアップ、株式会社ペットボードヘルスケアを訪問します。IT技術を活用しつつ、それをあくまで手段と割り切る同社の目指すものとは?

震災の惨禍を目の当たりにし、ペット業界への参入を決意

――堀さんは元々、病院のシステム開発に携わるシステムエンジニアで、これまで2つの会社を創業・イグジットしている、言わばIT業界の成功者。そんな堀さんが、どうして全く畑の異なるペット業界に参入したのかを教えてください。

堀さん:元々ペットが大好きで、個人的にも長年犬を飼っていたのですが、2社目のイグジット直後に東日本大震災が起きました。そのとき、被災地の皆さんがペットと一緒に住めなくなってしまったというニュースを見て、これを何とかしたいと考えたのがペット業界に参入したきっかけですね。

まず最初にやったのが、クラウドファンディングで、「犬・猫の殺処分0をソーシャルで実現するプロジェクト」というプロジェクトを立ち上げること。これが無事サクセスしたことで、ペットに関する仕事を本気でやっていこうという意志を固めました。

――やはりエンジニアとしてのスキルを活かした事業を検討されたのでしょうか?

堀さん:いえ、最初にやったのはリアル店舗の展開です。「株式会社ぺっとぼーど」を創業し、小田原にペットサロン「CARE&SPA」をオープンしました。ITとは全く関係ありませんね(笑)。

実際、全くノウハウのないところからスタートだったのですが、今にして思うとそれが良かったのかも知れません。飼い主の視点から本当に求められるサービスを考える事ができ、結果、約1年で黒字化することができました。

――それはすごいですね! 黒字化できた秘訣は何だったんですか?

堀さん:一番大きかったのは月額2000円で犬の歯磨きを受け放題にするサービスを始めたことですね。犬の歯磨きって、一般的にはトリミング時のオプションなんですが、それだとせいぜい月に1度しかやらないことになりますから全く意味がありません。結果、国内では約8割の飼い犬が歯周病を患ってしまっているんです。病気の原因になってしまいますし、何より口が臭い。私はヒマさせあれば犬とチュッチュしちゃうんですが(笑)、口が臭いとすごくつらいんですよ。

――私は犬を飼ったことがないので分からないんですが、飼い主が歯を磨いてやるというのは難しいんですか?

堀さん:実際にやってみると分かるんですが、どんなに慣れた犬でも歯を磨こうとすると噛んでくるんです。私も自分では怖くて犬の歯磨きできません(笑)。

――そうすると、歯磨き受け放題には一定のニーズがありそうですね。ただ、月額2000円では赤字になってしまうのでは?

堀さん:はい、実のところ当初は、トリミングは別のお店でやって、歯磨きだけを受けに来るというお客さんがほとんどでした。でも、毎日歯を磨くために来店していただいているうちに関係性ができてくるんですよ。飼い主との関係もそうですが、何よりペットとの関わりが深くなっていくんです。何せほぼ毎日顔を合わせるわけですから。「うちのワンちゃんはおたくに来るとすごくうれしそう」なんて言ってもらえるようになるんですね。

――そうこうしているうちに、トリミングなども任されるようになる、と。

堀さん:小田原にはすでに多くのペットサロンがあって、昔から小田原で犬を飼っている方には行きつけのサロンがあります。そこで新規にやっていくためには、何かお客さまを呼び寄せる仕掛けが必要。パッと思い付くのは値下げキャンペーンなんですが、それだとキャンペーンが終わると同時にお客さんが去ってしまいます。歯磨き受け放題は、その後に繋がる仕掛けという意味で良いアイデアだったと思います。

――まずは関係性の構築が大事だということですね。

堀さん:ただ、いろいろ相談されるようになっても、それに適切に対応できないと意味がありません。そこで、並行してスタッフ全体の技術と知識を向上させる勉強会などもしっかりやりました。「ペットにまつわる相談や要望に何でも応えられるコンシェルジュになろう」がお店のコンセプトなんです。

そして、そうしたコンシェルジュとしてのノウハウを、本職だったITのノウハウを活かしてオンラインで展開したものが、昨年1月にスタートした、テレビ電話で獣医師にペットの悩みを相談できる「PetBoard.vet」となります。

――おお、ここでITが登場してくるんですね。

堀さん:はい、ただこのサービスの問題点は、困った時にしか利用していただけないこと。それだとどうしても利用頻度が少なくなってしまいますし、何より手遅れであることも少なくない。

小田原のペットサロンの方は、歯磨きサービスのおかげで、毎日飼い主やペットとやり取りができ、良いコミュニティが形成できていたのですが、そうした流れを生み出すことができなかったんです。

――ペットサロンで構築できた関係性をオンラインで実現するのは難しかったというわけですね。

堀さん:そこで、これをITの力で何とかできないか、実際に顔を合わせているのと同じような密度でペットの情報を集める方法がないかを考えました。そして生まれたのが今回紹介するIoTを活用した新事業となります。サロン運営とはだいぶ性格の異なる事業ですので、「株式会社ぺっとぼーど」とは別の新会社を立ち上げました。その名も「株式会社ペットボードヘルスケア」です。

大切なのは「ペットが健康になる」という軸を見失わないこと

――堀さんが新しく立ち上げた、株式会社ペットボードヘルスケアの事業内容について教えてください。

堀さん:実はこれまでもペット向けのIoTはたくさんありました。代表的なものは生体センサーの内蔵された首輪ですね。ただ、これは多くの場合、「情報を録る」ことが目的になってしまっていて、そこから先がないんです。人間のウェアラブルなんかもそうなりがちですが、何のためにやっているのかが分からなくなってしまう。

――数字を見てニヤニヤして終わり、になってしまいがちなのはよく分かります。

堀さん:でも本来の目的は「ペットが健康になる」ですよね。実はすでに、大手企業と獣医師による「ペット長寿国プロジェクト」という取り組みが始まっているのですが、ここではペットの健康と長寿のために必要な3つのことを掲げています。

きちんとした食生活を心がけること、定期的に健康診断を受けること、そしていざと言う時のためにペット保険に入っておくことの3つです。

そして、今回、ペットボードヘルスケアとして取り組んだのは、その最初の2つ。これを実現するために「ハチたま」というペットのトータル健康サービスをスタートしました(現在、神奈川県鎌倉市、藤沢市、茅ヶ崎市、逗子市の4都市にて提供中)。

――「ハチたま」についてもう少し詳しく教えてください。

堀さん:「ハチたま」は、これまで「CARE&SPA」で提供してきた歯磨きサービスやオンライン相談などをより広いエリアに広げたもの。また、4月からは新開発したIoT機器「スマートごはんサーバー」を利用した健康管理サービスを提供します。

「スマートごはんサーバー」は、いわゆる自動給餌器をIoT化したもの。適正な量のエサを、毎日決まった時間に与えるための装置です。これまでもそうした装置はあったのですが、こちらはエサやりの記録をインターネット上に残しておけるようにしています。

また、本体正面にカメラが搭載されており、これで留守中のペットの様子を確認することも可能です。自宅にいることができないときも、カメラを通じてペットの食べっぷりを確認できるので、「いつもより元気がない」などといった病気のシグナルにいち早く気がつけるというわけです。

――これは「数字を見てニヤニヤして終わり」になってしまわないのですか? 「ペットが健康になる」ためにどういう工夫をしているのですか?

堀さん:その何より大切なポイントが、ここで給餌されるエサの品質です。「ハチたま」では、認定フードとして、第三者機関から認証を取った「認定オーガニックペットフード」をお勧めしており、これがペットの健康に大きく貢献します。

もし、お手元にドッグフードがあるのならぜひご確認いただきたいのですが、一般的なドッグフードは賞味期限が何と2年もあるんです。それは酸化防止剤などの添加物が大量に含まれていることを意味します。対して、この「認定オーガニックペットフード」の賞味期限は半年しかありません。逆に言えば、それだけ自然に近いということです。

――品質が根本的に異なっているということですね。

堀さん:このペットフードは、すでにCARE&SPAでも提供しているのですが、多くのペットで脱毛やアレルギーの問題が解決しているのを目の当たりにしてきました。「スマートごはんサーバー」は1万4800円で販売(あるいは500円/月のレンタル制)されるのですが、これにその価格と全く同じ1万4800円分の「認定オーガニックペットフード」が同梱されています。

高品質で“ヒューマングレード”な「認定オーガニックペットフード」と、それを毎日同じ時間に、適量食べさせることができる「スマートゴハンサーバー」の組みあわせが本サービスの根幹となります。

——なるほど、これなら確かに健康的な食生活を実現できそうですね。

堀さん:将来的には「ハチたま」ユーザー向けのペット保険も検討しています。これまでのペット保険って、料金が高く、それゆえに使わなければ損という気持ちになってしまい、それがまた料金を引き上げるという負のスパイラルになっていました。

でも、「ハチたま」のユーザーなら、病院に行く前にオンラインで診断を受けていただくことができますし、何より適切な食生活のおかげでそもそも健康状態が良い。これなら、低価格なペット保険を提供できますよね。今、自動車保険の世界では安全運転を続けると保険料が下がるという仕掛けが注目されていますが、そうした「健康でいることでインセンティブを受けられる」仕組みも充実させていきたいと思っています。

——現状とは真逆のポジティブなスパイラルが生まれそうですね。ちなみにさくらインターネットはこれらのサービスのどこで活用されているのでしょうか?

中谷さん:「スマートごはんサーバー」の取得したデータを蓄積したり、遠隔コントロールしたりするのに利用しています。カメラ機能を使った動画配信などは海外のサービスを活用しているのですが、基本的な部分に関してはあえて、国内のさくらインターネットを選択しています。

堀さん:最悪、ビデオ機能は落ちても良いんです。でも、エサやり機能などは、絶対にダウンしてはいけませんから、そこは信頼できるサービスを選びました。

中谷さん:あとはやっぱりデータセンターが日本にあることが大きいですね。性能に関してはかなりシビアにみています。どんなに安くても、インスタンスごとに性能がバラバラとかそういうのでは困りますから。また、サポートを日本語で受けられることもありがたいですね。私自身は英語でも大丈夫なんですが、スタッフ全員が英語をしゃべれるわけではありませんので。

——「ハチたま」の今後の展開についても話せる範囲でお聞かせいただけますか?

堀さん:ペット保険のほかにもいろいろ考えていますが、それはまだナイショで(笑)。ただ、技術的にすごいことをやろうとか、そういうことは一切考えていません。何より大事なのはペットを健康にすることですから。新機能、新サービスを考える会議では、いつもその軸がぶれないように気をつけています。

そしてゆくゆくは海外展開ですね。特に一大ペットブームが巻き起こっている東アジアに展開していきたい。台湾、香港、シンガポール……合計で日本の数十倍にもなる広大な市場にチャレンジしていきたい。

中谷さん:東アジアは住環境が日本と似ていることもあって、人気の犬種が近いんです。そういうこともあって、アメリカなどのペット先進国よりも有利。ペットサロンを開業するために留学しに来ている人も多く、今後に期待が持てます。

堀さん:ただ、まずは日本市場ですね。他社に追いつかれる前に、多くのユーザーを獲得して、「ハチたま」を使いたいというファンの方を増やしていきたいと考えています。

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