1984年の創業以来、鹿児島の地にて数多くのプロダクト&サービスをリリースしてきたピクオス株式会社。医療や司法などの分野において、確かな信頼と実績を築き上げてきた老舗開発会社として知られています。また、地場企業として鹿児島の新人エンジニア育成やIT文化隆盛にも熱心に取り組んできました。そんな同社のエンジニアの企画部 開発 萩原正道さん、福吉智志さんに、これまでの取り組みと、今後の展望についてお話しをお聞きします。

プロ向けシステムの開発で鹿児島から全国へ

――まずはピクオス株式会社について教えてください。

萩原さん:ピクオスは鹿児島で30年以上続く開発会社。リハビリ支援システム「リハメイト」、司法書士業務支援システム「司法くん」、勤務表自動作成ソフト「おまかせDATE」の3つのパッケージソフトを主軸に、事業を展開してきました。2005年には、インターネット関連事業を推進する「企画部」を設立。私は、その2年後に入社しています。当時は本当にいろいろなことを試していて、Webサイトの制作代行なども行っていたんですよ。
そんな中、やはりこれまでターゲットにしていたユーザーさんに向けたものを提供していくべきだろうという話になり、歯科医向けのクラウド型予約システム「デンタマッププラス」を開発します。当時のレセプトシステムの中にも予約システムは組み込まれていたのですが、単なる予約台帳になっていて、ネットに繋がっていなかったんですね。それをネット対応にして使い勝手を高めたのがこのシステムになります。

――お客さんの反応はいかがでしたか?

萩原さん:歯医者さんって、医院長=オーナーなので話が速いんです。良いものと認めてもらえればすぐに導入してもらえます。おかげさまで、トントン拍子でユーザー数が増えていき、数年で500ユーザーを突破。そこから、いっそレセプト処理の部分もクラウド化できないかという声をいただくようになり、2010年にクラウド型レセプトシステム「Julea」が誕生しました。当時、こういったシステムは300万円くらいするのが普通だったのですが、「Julea」はこれを大幅に低価格化(月額1万8000円)して大成功。現在はデンタマッププラスが1000以上、Juleaは250以上の歯医者さんに使っていただいています。

福吉さん:「Julea」登場前は、「デンタマッププラス」ユーザーが並行して使っているレセプトシステムとの間で、患者さんの情報が分散してしまうという問題がありました。であれば、うちがどっちもやってしまおうというのが発想の原点です。すでに「デンタマッププラス」で多くの歯科医とのコネクションができていたので、現場の声を聞きながら、相談しながら作っていくことができました。

――エンジニアの福吉さんが直接お客さんに話を聞きに行くというのはかなり珍しいやり方なのでは? 営業担当者を介したりはしなかったんですね。

萩原さん:当時は人手不足だったということもあるのですが、私個人としては、エンジニアがエンドユーザーと密接にやり取りする作り方がベストだと思っています。間に人を挟んでしまうと、どうしてもズレができてしまいますし、空気感も伝わりません。役割という壁を作らない方が良いものを作れるんです。

――そういったもの作りを支援する環境はあるのですか?

萩原さん:もちろん、そこに投資する方針はあります。ピクオスはパッケージソフトの方で売上の目処が立っているので、過剰な期待をされていないのも結果的に良かったのかもしれません。

――今後の取り組みについても教えてください。

萩原さん:サービスの特性上、病院のデータなどが集まってきているので、それを活かしたサービスを検討中です。AIというと大げさですが、情報分析を行って、業務の改善などを提案できるようなものですね。あと、個人的には「IoT」にも興味があります。これを駆使すれば弊社のノウハウをハードウェアでも活かすことができます。例えばリハビリの道具と連携させて、と言うことは充分に考えられますよね。今すぐというわけではありませんが、そのためのサーバーをすでに借りているなど、着々と準備は進めています。

クラウドではなくVPSを上手に活用しコストを抑える

――ピクオスでは「デンタマッププラス」や「Julea」の運用に、さくらインターネットの「さくらのVPS」を使っていたいていますね。世間的なトレンドは「さくらのクラウド」に代表されるパブリッククラウドだと思うのですが、あえてVPSを選ばれた理由を教えていただけますか?

萩原さん:ピクオスのサービスは原則的にB to Bのため、B to Cのサービスのように急激にユーザー数が伸びると言うことがないんです。後々のアクセス増加も読みやすいので、コスパ的に見てVPSの方が良いだろうと結論付けました。クラウドの手軽さを否定するつもりはありませんが、冗長性や負荷分散などは自分たちで工夫していけばある程度、担保できますからね。ここではコスト面のメリットを最重視しています。
ちなみにサーバーの構成は“枯れた”感じで、本当に普通です。nginxが最初にあって、アプリケーションサーバーが2台、データベースサーバーが3、4台、かな。特に目新しいことはやっていません。立場的につねに新しい技術には興味を持って接しているんですが、実際にそれをプロダクトに反映していくとなると、やはり枯れたものになってしまいますね。

――ちなみに、VPSに移行する前はどのようにしていたんですか?

萩原さん:地元(鹿児島)のプロバイダーにハウジングしつつ、一部のバックアップは社内のサーバーでやっていました。VPSに移行することになったのは、それまで開発リーダーを任せていた者が退職することになって、管理のリソースを確保できなくなったからですね。あと、この先、ドカッとサーバーを増やしていこうと考えた時に、これまでのやり方は現実的ではないと思いました。

――VPSへの移行に際して苦労したことがありましたら教えてください。

萩原さん:変わったことはなにもしていなかったので、まったく苦労しませんでした。枯れた構成で運用しているのには、そういったメリットもあるんですよ。

――そういえば、先日はそのVPSが稼働している、さくらインターネット石狩データセンターにお越しいただいたそうですね。その感想を聞かせていただけますか?

萩原さん:さすがにちゃんとしていて、すごい安心感がありました。以前借りていたプロバイダーさんは規模がだいぶ小さかったので、それと比べると「すごいな……」という言葉しか出てきません。電源設備もしっかりしているし、たくさんの工夫も盛りこまれている。全てにおいてパーフェクト、ですね(笑)。
石狩データセンターのことはずっと気になっていて、さくナレのレポート記事も全部読んでいたんですよ。それである程度予測していたつもりだったんですが、実際に観て見るのとでは大違いでした。
感心したのは実際の管理において困った事を、続く、2号棟、3号棟でどんどん改善していっているということ。当初は黒塗りだったサーバーラックを気が滅入るという声を受けて明るい色にしたとか、メンタル的なところまで踏み込んでいるのに感心しました。

福吉さん:1号棟ではラックの上の方にあった鍵が、「作業がしにくい」「ロックの状況が一目で分からない」という声を受けて、中央部分に移動しているところなどに工夫の歴史を感じましたね。

「萩原塾」でピクオスの若手エンジニアをスパルタ教育?

――続いて、ピクオスにおける開発現場の現状について聞かせてください。若手の教育に力を入れているとのことですが、具体的にはどのようなことを行っているのでしょうか?

萩原さん:僕らの世代(40代前後)が、冗長性とか負荷分散とか、インターネットサービスが大規模化していくのを肌で感じながらプログラムを学んできたのに対し、今の若い人は、それらが発展しきった後、レイヤーが細分化されすぎている中で参加してきたので、サーバーとかインフラとかをあまり意識していません。プログラムやデータベースも、細かいことを見なくても動いてしまう時代ですよね。
でも、それって便利な反面、きっといつか壁にぶつかってしまうんです。分からないままにしておくと損をしてしまう。インフラの基本を知っていれば別のアプローチもできたのに、それを知らないから大回りせざるを得ない、とか。そこで、我々は、若いエンジニアに、本当に基本中の基本について教えることから始めています。
私はそうした現状に対する「怒り」が原動力になっています(笑)。若手がどんどんシステムを作り、それをリリースしていく中で、ある日、エラーが起きて営業からクレームが届くんですが、彼らはそれに対してほとんど何もできないんですね。せいぜい、ソースを見直してバグをチェックすることくらい。まずログを見るのが基本中の基本なんですけど、それすらできないんです。これはまずいと危機感を覚えたのが始まりです。

――具体的にはどのように教育しているんでしょうか?

萩原さん:業務時間に教えるのは難しいので、定時後に時間を取るようにしています。ずっとやらねばと思っていたんですが、なかなか行動に移せず……正直なところ「教える価値もないな」という失望感の方が大きかったんです。わざわざプライベートな時間を割いてまでやろうという気持ちにもっていけなかった。

――失望感とは?

萩原さん:以前、さくらインターネットさんから、クーポンをいただいたので、それを渡していろいろ試してみたらと若手に勧めてみたりもしたのですが、実際に使った者がほとんどいなかったんですよ。クレジットカードを持っていないとか、時間がないとか、いろいろ理由をつけて結局やらないんです。そういう人には教えたくないなぁ、と。
あと、よくあることなんですが、「サーバーを勉強したいんですが、どういう本を読めばいいですかね」というのも不合格。まずは手を動かして、サーバーを起動してみてほしい。その上で「ディストリビューションはどれがいいですかね?」とか聞いてくるのが普通でしょう。昨年4月、やっとそういう質問をしてくる者が現れました。入学試験合格ですね(笑)。今は、その2名とその後に合格した4名と私の7人で勉強会をやっています。

福吉さん:人呼んで「萩原塾」です(笑)。

――授業内容についてもう少し詳しく教えてください。

萩原さん:クラウドのクーポンを渡して、実際にサーバーを作るところから教えています。その上で、まずはLinuxとか、Daemonとか基本中の基本から、ですね。そこを学んだら、Apacheとか、nginxとかを入れてみましょうとか、本当に一歩ずつという感じです。
年末年始はたまたま休暇が長かったので、一旦、サーバーを全部削除して、これまで教えたことを全部最初からやってこいなんてスパルタなこともしました(笑)。学んだことをやり直すだけなんで本当はできるはずなんですが、手順を覚えているだけだとだいたい上手くいかないんですよ。本当に理解していないとダメなんですね。
将来的にはこうして育った若者たちが、ピクオスのインフラを厚くしていってくれることに期待しています。

鹿児島のIT文化活発化に貢献していきたい

 

――日本Androidの会鹿児島支部は今でも定期的に勉強会を行っているそうですね。

福吉さん:勉強会に行くと、すごい人たちがたくさんいて、自分の技術力がまだまだだということを思い知らされます。これは社内でだけ完結していたら気づけなかったこと。それに刺激を受けて、それからはいろいろな勉強会やイベントに参加するようになり、自分でもアウトプットを始めるようになりました。

萩原さん:今はインフラをやっていますが、開発者である以上、ものを作りたいという気持ちがずっとあり、実は趣味でAndroidアプリを作っています。開発者がAndroidを手に入れたらアプリを作るのは至極普通のこと。今から10年程前に「ユビキタス」という言葉ありましたよね。当時はかなりの空論でしたが、今、それが「IoT」という形で現実のものになって興奮しています。今はまだ、測定した気温データをサーバーに投げて、みたいなことしかやっていませんが、今後はもっといろいろやっていきたいですね。やはり、もの作りはすごく楽しいですよ。

福吉さん:私は、素晴らしい技術はどこにいても発表できると思っています。そうしたアウトプットの場をこれからも鹿児島の地にどんどん作っていきたいですね。

――最後にそうした視点からも、さくらインターネットに一言いただけますか?

萩原さん:歴史的にさくらインターネットってギークの方に向き合い続けてきた会社だという気持ちがあります。田中社長を筆頭に、かつて日本でインターネットインフラが育ってきた時期に中心にいたと思うんです。そこが技術者に響いているところはあるはず。大きくなってもそのギークさが損なわれないでいて欲しいですね。技術の会社であり続けてほしい。

福吉さん:最近の施策では、「さくらのIoT」にインパクトを感じました。ここに来たか!、と(笑)。ほか、さくナレの記事も、初心者から上級者まで幅広く記事が揃っていて愛読しています。ピンポイントにツボを突いてくる時期があって、本当に楽しみにしているんですよ。これからも新しいチャレンジを継続していってほしいですね。期待しています。

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ピクオス株式会社
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