こんにちは、さくらインターネットの大喜多です。

2018年7月29日(日)に、産業技術大学院大学にて「July Tech Festa 2018」(JTF)が開催されました。本記事ではその様子をレポートいたします。

Preferred Networksの機械学習クラスタを支える技術


Preferred Networksで機械学習クラスターの開発・運用と、Chainerのクラウド環境でのユーザビリティ強化に携わっている大村伸吾さん。

Preferred Networksでは機械学習クラスターを自社で保有しているそうですが、自社保有にこだわる理由として「計算力が自社の競争力の源泉となる」ことや、「多くの研究者が実験をおこなうなかで、日常的に大規模な計算を回せるようにしたい」ことや、「分散学習をおこなうときは、すべての重みを平均化して次のステージにいく処理をおこなうが、膨大なネットワークトラフィックが発生するため、InfiniBandなどの高速インターコネクトを利用している」ことなど、複数の「保有することで得られるメリット」を挙げておられました。

Preferred NetworksにはソフトウェアエンジニアなどのいわゆるIT系のエンジニアのほか、ロボット等ハードウェアの研究者や物理学・医学の研究者など、さまざまなバックグラウンドをもったメンバーが集まっているとのことで、非IT系の研究者にとってはDockerやKubernetesというのは関心事ではなく、自分たちのおこないたい計算がおこなえる環境があることが重要で、そのためにリテラシーレベルにあわせてクラスターの操作方法を分けるなどして対応されているのだとか。また、クラスターにはApache MesosKubernetesを使用しているそうで、クラスター上で複数の計算処理を並行して実行するために必要なカスタマイズなどはそれぞれ独自におこなっているそうです(将来的にはKubernetesに統合する計画があるそうです)。

組織の生産性を上げる役割「VP of Engineering」とは?

IT企業の中でエンジニアを束ねるマネジメントの責任者として、CTOとは別に「VP(Vice President) of Engineering」という役職を置く会社が増えてきているそうです。このセッションではVPoEという仕事について、実際のVPoE3名によるパネルディスカッション形式で、VPoEの現在の姿や、今後の目標などについての共有がありました。

(左)株式会社メルカリ 是澤太志さん
(中央)株式会社ハートビーツ 高村成道さん
(右)株式会社Gunosy 加藤慶一さん

モデレーターを務めた株式会社ハートビーツ 藤崎正範さんは、スタッフ業務との兼務のため、ホール2Fからの参加でした。

VP of Engineering立ち上げのヒストリーでは、各社とも「エンジニアリング組織がスケールしていくにあたり、CTOが技術と組織を両方見ることが難しくなってきた。技術のマネジメントはCTO、組織のマネジメントをおこなう専任の役職としてVP of Engineeringをたてることになった」とのことでした。

CTOとVP of Engineeringの役割の違いについては、立ち上げの際にもあったように「技術のマネジメントはCTO、組織のマネジメントはVP of Engineering」「それぞれ得意な分野に特化する」など、各社とも明確な立場上の違いが現れているようでした。


VP of Engineeringという仕事のやり甲斐については、「マネジメントによるエンジニアリング組織拡大の可能性を追求できる」「それぞれの価値観を知ることができる」「エンジニア全体のスケールアウトが目指せる」など、エンジニアのマネジメントに特化した役割ならではの回答が並びました。

VP of Engineeringの大変なところとしては「信頼はするが信用はしない」「自分の強い意志を持つ。折れない心」など、精神面でのタフさが求められる役職であることが感じられました。

エンジニアといえばやはり技術が好きでなっている人も多く、組織マネジメントに抵抗のあるエンジニアも多いなか、組織マネジメントによってエンジニアの可能性を広げていくことに高いモチベーションを持っている方が揃って登壇されていることが非常に印象的でした。VP of Engineeringの今後に期待したいと思います。

副業で収益化を目指す!月数百円から始めるWebサービスの立ち上げから運営まで


OSSなOpenFlow実装「Trema」でも知られる高宮安仁さん、プライベートの時間を使ってWebサービスを立ち上げられたそうで、本セッションはその際に注意したことなどが共有されました。

Lingomineという英語学習サービスを開発・提供中

「サービスを維持するには支出を減らすこと。身銭を切ることで支出を減らすための知恵を編み出すことができるようになる」とのこと。また「会社でやろうとするとどうしても大きくしようというバイアスが働く。むやみに大きくしようとせずひとりでできる範囲で進めていくことが重要」「初期の段階で支出を減らしたことが、後々にも効いてくる」と、サービス維持継続のための支出削減の重要性が説明されていました。

多くのサービスが失敗するのは「一度もリリースされないから。小さくでもいいから毎日進めていくことが重要」と、実際に手を動かして「動くものをつくる」ことの重要性が説明されていました。

開発においては「デフォルトで用意されているものを使用する」ことを徹底されているとのことで、その理由は「デフォルトで用意されている物は先人の知恵の塊で、正しく理解して使用すれば短く書くことができる」とのことでした。

Webサービスに限らず、個人が事業をはじめるうえで重要なポイントがいくつも含まれているセッションでした。

【仕事は楽しい、ですよね?】経験談から語る、「一歩先を行く」ITエンジニアの競争戦略


出産を機に意図せずフリーランスになり、その後会社設立、シンガポール法人設立など怒濤の経歴を持つINGoT株式会社 山中瑞起さん。

山中さんは出産を機に時短勤務で残業ができないことが、「技術力より労働時間を求める」就職の上での大きなハードルになったと語り「私が幸せになるためにはサラリーマンではだめだ」と気づき、「自分と顧客のWIN-WIN」を目指して、労働時間ではなく成果に対しての対価を求めること、気の合う仲間と一緒にやることなどに取り組んで、自らのはたらきかたを確立させていったことが語られました。

高宮さん・山中さん、ともにクラウドサービスを立ち上げていて、その知見を共有するセッションでもあったわけですが、いかに小さく始めるかという高宮さんに対して、気の合う仲間を巻き込んでいくやり方を選択した山中さん。連続して聞いたので特に印象に残りましたが、対照的なセッションになっていて非常に興味深かったです。

Cloud Nativeな俺のCI/CD環境 〜 GitLab x Rancher で夢見るイケてる世界 〜


「KubernetesとGitLabRancher、どれも微妙に機能が被っていますが、それぞれの得意な部分を生かして使うことで便利に使えるようになります」とのこと。レッドハット株式会社 北山晋吾さん(写真左)からは、GitLabを使ったKubernetes環境のCI/CDについて、日本ヒューレット・パッカード株式会社 塚本正隆さん(写真右)からは、Rancherを使ったKubernetesクラスタの管理について、それぞれ解説がありました。開発者のためのGitLab、運用者のためのRancherという観点での活用例が示されていました。


イゼルローン要塞攻略に学ぶ、エンジニアの戦略思考


レッドハット株式会社 中島倫明さんからは、人気小説「銀河英雄伝説」のイゼルローン要塞をめぐる戦いから「戦術」と「戦略」についてのセッションがありました。なお、中島さん曰く「このセッションは銀河英雄伝説を知らなくても大丈夫な内容になっています」とのこと。実際に筆者は「銀河英雄伝説」を知らないのですが、内容を理解できました。

イゼルローン要塞をめぐる戦いは原作小説中計7回あるそうですが、今回はそのうち1回目から3回目までをもとに「戦術」と「戦略」の違いについての説明がありました。
1回目:要塞内に戦闘要員を送り込む奇策によって「艦隊対要塞」の戦いを「人対人」の戦いに置き換えて勝利した(戦術)
2回目:要塞を移動させ「要塞対要塞」の戦いを仕掛けたが失敗(戦術)
3回目:別のルートを使って本拠地を攻め込むという「状況を変化させる」ことによって勝利(戦略)

戦略と戦術の違いについて

中島さんは「戦術のミスは戦略でカバーできるが、戦略のミスは戦術ではカバーできない」「戦略についての考え方は、古くは2500年前、孫子の時代からあり、世の中が大きく乱れたときに発展してきた」と語り、「変化の激しい環境にいるITエンジニアこそ戦略の考え方を身につけてほしい」と締めくくっていました。

ソフトウェアで構築する成長し続けるインフラストラクチャとメルカリの挑戦


最後に、招待講演として、株式会社メルカリ SREチームの長野雅広さんが登壇されました。

メルカリのインフラの歴史と、ソフトウェアの力でインフラを改善してきた実例が紹介されたセッションでした。長野さんが入社される前、最初期のメルカリは1台のさくらのVPSにWebサーバとDBサーバが同居したかたちでスタートしたのだとか。その後さくらのクラウドを経て、さくらの専用サーバをメインの基盤として使用されているとのこと。

現在のメルカリはJP/US/UKの3リージョンが存在し、それぞれ違うインフラサービスを利用されていますが、JP/USではマイクロサービス化の進展により従来の基盤とGoogle Cloud Platform(GCP)を併用する構成になっているとのことでした。

石狩と東京のレイテンシを克服するためにさまざまな工夫がなされたとのことで、その中で「chocon」という長野さんが開発したミドルウェアが重要な役割を果たしているとのこと。結果として、httpsで約200msだったものが約20msまで改善したとのこと。

長野さんは「SREって色々言われますが、わたしはオペレーションのプロフェッショナルだと思っています。いつでも快適で安全なサービスを提供し続けることのプロフェッショナルです」「ソフトウェアの力を使ってインフラをどうするか」と語り、締めくくっておられました。

まとめ

いかがでしたでしょうか。「最高のエンジニアリングを身につける」というテーマで開催されたJuly Tech Festa 2018、組織の成長・個の成長などの違いはあれど、どのセッションにもエンジニアが成長するためのヒントが多く盛り込まれていたように感じました。IT業界は変化の激しい世界ですが、そんな中でも変化するものしないものがあり、その双方を見つめ直す、いい機会となったのではないでしょうか。また来年も新しいテーマで開催されるであろうJuly Tech Festaを楽しみにしています!

「エンジニアはサバ好きですもんね!」ということで用意されたサバ弁当。今年は大人気で、すぐになくなっていました。