第3回 小学校プログラミング教育を考える夕べ @東京 レポート
2018年12月9日、「第3回 小学校プログラミング教育を考える夕べ @東京」を、さくらインターネット株式会社西新宿セミナールームにて開催いたしました。
そもそも、学校でのプログラミング教育って?
特定非営利活動法人みんなのコード 利根川 裕太 氏より、エンジニア向けに「小学校のプログラミング教育ではどのようなことをするのか、なぜするのか」ということについての話がありました。
みんなのコードの「全ての子どもがプログラミングを楽しめる国にする」というミッションは、裾野を広げることによって全体のレベルが上がっていくことを目指してのことだそうです。「プログラミング教育に関しては大人の事情でいろいろ言われることが多いが、楽しんでもらえたら思考力もつくだろうし、そういう仕事に就く子も出てくるだろう」ということで、「みんなのコードとしては『プログラミングを楽しむ』ということを現場レベルで大事にして活動している」とのことです。またこういった活動は「東京と地方の取り組みに格差があるが、子供は生まれる場所を選べない」ということで、全国に広げていくことに重きをおいているそうです。
小学校でプログラミング教育をするのは「ITエンジニアが不足している」からではなく、テクノロジーで社会が変わっていく時代にあって、学校から出ていった先が変わるので学校教育も変わらないといけないという説明がありました。またコンピュータを科学技術として理解すること、大事なことについて体験的に理解することを目的にしているとのことです。デジタルの価値消費者としてだけではなく、「困ったときにテクノロジーを使って解決することができる」デジタルの価値創造者となることも期待されているそうです。
オリジナルの教材「プログル」を使った正多角形の授業のデモンストレーションがありました。プログルでは「まず手続きを細かく示す」ことから「同じことは繰り返しを使うことで命令の数を減らすことができる」といったような流れで進めていけるようになっており、コンテンツが工夫されて作られているという印象を持ちました。またプログルは指導案のひな形や授業で使用するプリントのひな形も用意されており、学校教育に導入しやすくする工夫もなされていると感じました。
また、みんなのコードでは、石川県加賀市と協力して、「コンピュータクラブハウス」を日本国内で初めて設置しようとしています。コンピュータクラブハウスとは、1993年にアメリカのボストンで初めて設立された、子どもたちに「いつでも」「安全に」「テクノロジーを知ることができる」施設で、現在、世界中18カ国において約100ヶ所の施設が存在します。小学校の中でのプログラミング体験はどうしても時間に限りがあり、プログラミングをもっと体験したい子供のための場所として機能することが期待されています。このプロジェクトの資金調達はふるさと納税制度を活用して全国からの支援を募集するとのことですので、是非とも皆さんもご支援いただければと思います。
石狩市でのプログラミング教育支援 2年目の成果とは
続いて、さくらインターネット株式会社 石狩市への小学校プログラミング教育支援プロジェクト 朝倉 恵から、さくらインターネットが北海道石狩市でおこなっているプログラミング教育支援について「どんなことをしてきたのか、今どうなっているのか、これからどうしていくのか」という話がありました。
さくらインターネットが石狩市でおこなっているプログラミング教育支援は、さくらインターネットが出前授業を提供し続けていくことではなく、「小学校の先生方が授業をできるようにしていくこと」をプロジェクトの目標としています。出前授業も「まずは学校の先生に知ってもらう」ためにはじめたものです。朝倉は元々幼稚園教諭ではありましたが、小学校での授業経験はないため、3週間の間、実習生のように授業を見て「小学校の授業」を知り、出前授業に臨んだとのこと。このときに学校の先生と会話ができたことも後の活動に役に立った部分であるそうです。
各学校でリードする役割を担う先生を育てていこうと、みんなのコードと協力して石狩市で実施が決まった「プログラミング指導教員養成塾」には、各学校から1人づつなら集められるのではないか、と石狩市教育委員会として考えていたところ、各学校から「1人では足りない、もっと出させてくれ」ということで各校から2~3名、総勢30人以上の参加者が集まったとのことです。2017年度は出前授業を中心とした支援メニューだったものが2018年度から支援メニューを拡張し、学校の中で実践をする先生の支援をおこなうメニューも追加されています。実際に石狩市では学校現場での実践が各校で進んでいるようです。
またこの取り組みを石狩市のみならず、北海道に広げていくために、各自治体で教育委員会から支援を要請されている大学教員等の方々との連携を強化しているとのことです。またこの活動は企業のCSR活動として実施しているもので、より多くの人に知ってもらう必要があり、そのためにプロジェクト内では広報活動を担っているメンバーが大きな役割を持っていると説明していました。
そんな朝倉ですが、「小学校の先生や教育委員会とどうお付き合いしていけばいいのか?」という点は難しかったとのことで、以下を理解することが重要だと説明していました。
- 小学校の先生や教育委員会は、子どものことを一番に考えている
- 小学校の先生は課題が山積、仕事が多すぎる
- 学校側から歩み寄ってきてくれというのは難しい こちらから歩み寄っていく必要がある
- 小学校では平等・均一化が重要視され、差がつかないように苦労している
1年かけて丁寧に信頼関係を築いてきたことが、このプロジェクトがうまくいく要因になったのではないだろうか?と評価していました。
パネルディスカッション『小学校でのプログラミング教育とは?』
最後に、「小学校でのプログラミング教育とは」?というテーマでパネルディスカッションがおこなわれました。
モデレータ:前佛 雅人 (石狩市への小学校プログラミング教育支援プロジェクト)
パネリスト:利根川 裕太 氏 (特定非営利活動法人みんなのコード)
平井 聡一郎 氏 (情報通信総合研究所)
新妻 正夫 氏 (CoderDojoひばりヶ丘主宰/合同会社桃山.舎)
安藤 祐介 氏 (Facebook)
朝倉 恵 (石狩市への小学校プログラミング教育支援プロジェクト)
パネルディスカッションは会場も巻き込んで、非常に盛り上がっていました。特に今回はエンジニアの方が主な参加者ということもあって、「小学校でのプログラミング教育と学校外でのプログラミング教室とではどう違うのか」「アンプラグドコンピューティングの意義」といった、学校の外側にいる一般の方々が抱かれる疑問の数々についての議論が中心となっていました。途中で懇親会に突入しましたが、引き続き議論は続いていました。ここではその議論の一部をご紹介いたします。
ひとりあたり見れるのは3人が限界?指導する人が足りない
「児童のスキルセットやICT環境から、この組合せだったらどのような授業ができるかを考えればよいと思います。また、メンターはその教材を用いて指導するための研修を受けるなどすることも必要です」(利根川さん)
「できる子チームとはじめての子チームに分けるなどして、わかる子がはじめての子に教えるといった、子ども達で教え合えるような環境作りはできるのかなと思います」(新妻さん)
小学校の一斉授業はつまらない?
「学校の先生方も、もっと面白い授業にしたいと思っていて、そのための工夫をいろいろしようとしています」(朝倉)
「まずは先生方に(プログラミング教育の授業や教材を)知ってもらうことが大事。学校の先生方は教育のプロですから、そこからアイデアが生まれてきます」(平井さん)
小学校プログラミング教育は「プログラミング言語を習得する」ためのものではない
「ITエンジニアの方がプログラミング教育という言葉を聞いてイメージする期待値が、大体高すぎます。まずは落ち着いて(一次情報をもとに理解を深めて)ほしい」(安藤さん)
「学習指導要領ではプログラミングを学ぶとは言ってないんです。あくまでプログラミングの体験を通じて教科のねらいを学ぶと言っているわけです」(平井さん)
「小学校に関しては、プログラミング教育ではなく『コンピュータ』くらいの名前でいいのかもしれませんね」(安藤さん)
小学生とキーボード入力
「小学校1・2年生ぐらいからだんだんキータッチを習わせていったほうがいいでしょう。ローマ字は3年生からということになっていますが、英語体験の一環として実施可能だと思います」(平井さん)
「BASICの場合アルファベットはすべて大文字ですけど、それ以外のプログラミング言語の場合小文字で入力させるのが普通になっています。そこで皆さんの手元のキーボードを見ていただきたいんですけれども、大文字だけで小文字が印字されていない。このため小学生は入力するキーを見つけられないという問題が起こります。このようなことは事前にわかっていれば(補助資料などで)カバーできます」(安藤さん)
日本の教育は遅れている?
「日本のプログラミング教育が諸外国と比較してすごく進んでいると思っている人はほとんどいないと思いますけれども、実際のところすごく遅れているわけでもないです。中学校・高等学校ではすでに学習指導要領に含まれていますし、小学校でも必修化されようとしている」(安藤さん)
「イギリスではmicro:bitが配布されましたが、定着するまではインターネットオークションに出品されるなどの問題がありました。プログラミング教育が必修化されたタイミングでオーストラリアに視察に行きましたが、ICT支援員の方が『他に誰もやらないから全部自分がやっている』と言っていました。結局他の国もそんなに変わらないということです」(平井さん)
まとめ
小学校でのプログラミング教育はまだまだ誤解されることが多いですが、その疑問に率直に答えるような内容となったと思います。
「企業や個人等、外部の人間として公教育におけるプログラミング教育に関わる時には、教育委員会・学校や先生方は『教育分野に対する専門性』を持っていることを前提として接するべきである。特にITエンジニアは、自身はITに関する専門知識を持っていても、教育の専門的な知識に関しては素人であることを認識してコミュニケーションをとるべきである」ということが、今回のイベントの重要なポイントだったように思います。
引き続き、このようなイベントやさくらのナレッジの連載などを通じて、小学校でのプログラミング教育に対する理解を広めていきたいと考えています。
過去の関連イベント
●「第1回 小学校プログラミング教育を考える夕べ」 [開催概要] [レポート]
●「第2回 小学校プログラミング教育を考える夕べ」 [レポート]