さくらのテックランチ vol.7 〜ガバメントクラウドとチームビルディング〜
こんにちは、さくらのナレッジ編集部 安永です。
今回は、7月11日(木)に「さくらのテックランチ vol.7 〜ガバメントクラウドとチームビルディング〜」をオンラインにて開催しましたので、その内容をレポートします。
目次
ガバメントクラウドとは さくらが取り組む意義
最初に、ガバメント推進室 深井 雄輝さんによる「ガバメントクラウドとは何か さくらが取り組む意義」についてです。
ガバメントクラウドの目的と意義
ガバメントクラウドとは、デジタル庁が整備する、政府全体で共通利用するクラウドサービス基盤のことを指します。このクラウドの導入目的は、「柔軟性」「迅速性」「機密性」に優れたクラウドを、必要なときに必要な分だけすぐに利用できるようにすることです。また、デジタル庁が政府全体で一括してクラウド環境を調達することで、コスト改善、品質向上、DX推進が可能となります。コスト改善では、一括調達によりボリュームディスカウントが得られ、コストメリットの追求やコストの可視化や妥当性の評価を行えます。
デジタル庁が国の情報システムに関する事業を統括することで、共通のテンプレートなどを提供し、運用監視の省力化や自動化支援を行うほか、ベストプラクティスを組織間で共有し、品質やセキュリティ水準の向上が期待されます。このように、政府や自治体のアプリケーション開発をより現代的にすることで、国民に対して利便性の高いサービスを提供することができ、さらなる利便性向上につながります。
ガバメントクラウドの歴史と背景
次に、ガバメントクラウド導入について、国内外の事例をもとにその経緯を説明します。2010年ごろ、アメリカにてクラウドファースト政策が開始され、2013年にイギリスでも同様の政策が始まりました。国内では、2012年に政府共通プラットフォームが導入され、2017年にはクラウド・バイ・デフォルト政策が閣議決定されました。さらに、2021年に創立されたデジタル庁により、同年にガバメントクラウド第1期の認定が開始されました。このような取り組みにより、政府や自治体のITインフラがクラウドベースに移行する動きが、個別調達の非効率性やセキュリティ、コストの課題を是正するために、世界的に加速しています。
現在のガバメントクラウドに登録されている主要なクラウドサービスプロバイダ(CSP)について説明します。2021年に初めて登録されたAmazon Web Services(AWS)やGoogle Cloud、2022年に登録されたMicrosoft AzureやOracle Cloud Infrastructure、そして2023年に条件付きで登録されたさくらのクラウド、現在は合計で5社のサービスが登録されています。
では、このガバメントクラウドはどのように活用されるのでしょうか。自治体での利用例を挙げると「地方公共団体情報システム標準化基本方針」では、自治体の基幹20業務と呼ばれる自治体業務を、2025年度中にすべての自治体がシステム移行を完了することを義務づけられており、その移行先としてガバメントクラウドが利用されます。実際に、和歌山市では基幹業務システムのガバメントクラウドへの移行がすでに始まっています。このようにデジタル基盤の整備、競争環境の確保、システムの所有から利用へ、迅速で柔軟なシステムの構築が目指されています。
現状の政府情報システム導入に関する検討について説明します。政府情報システムは、クラウドサービスの利用を第一候補とする「クラウド・バイ・デフォルト」を原則としています。クラウドサービスの利用に際しては、ガバメントクラウドを基本としますが、もし利用しない場合には、セキュリティの観点から、ISMAPクラウドサービスリストまたはISMAP-LIUクラウドリストに登録されたサービスを原則として選定することが求められています。
ISMAP(Information system Security Management and Assessment Program)とは何でしょうか。これは、政府が利用するクラウドサービスのセキュリティを評価する制度のことです。政府が求めるセキュリテイ基準を満たしたクラウドサービスを事前に評価・登録することで、調達時のセキュリティ水準を確保し、円滑な導入が期待されます。また、ISMAPに登録されたクラウドサービスは、セキュリティ基準を満たした信頼性の高いサービスであることを証明するものです。そのため、ガバメントクラウドとしてクラウドサービスを利用するためには、ISMAP認証を受けていることが前提となります。
アメリカでは、CSP各社は連邦政府専用リージョンを準備しています。AWSを例に挙げると、AWS GovCloud (米国東部) および (米国西部) リージョンは、米国在住の米国市民である従業員により運用され、スクリーニングプロセスに合格した米国法人とルートアカウント所有者のみがアクセスできます。また、利用者も米国人(グリーンカード所有者または米国国務省によって定義された市民)に限定されています。
さくらインターネットを取り巻く環境の変化
さくらインターネットがガバメントクラウドに取り組む意義は、国産クラウドの価値を最大限に発揮できることにあると考えています。近年、さくらインターネットを取り巻く環境も大きく変化してきています。まず1つ目は、サプライチェーンの強化やデータ主権などの経済安全保障です。2つ目は、デジタル貿易赤字を是正するために、国内企業の育成が求められていることです。
さくらインターネットでは、ガバメントクラウドが既存事業とのシナジーを生むことが期待されています。経済安全保障推進法に基づき、クラウドが特定重要物資に指定されました。それに伴い、経済産業省によるクラウドプログラム政策が開始され、クラウドの計算資源や技術開発に対して助成金が提供されるようになりました。実際に、上図に示されているように、2023年および2024年に助成金を受けています。さらに、さくらインターネットのクラウドは国内法に準拠しており、データも国内に保管されているため、データ主権を確保しています。このように、サプライチェーンの強化やデータ主権の確立を通じて、政府が掲げる経済安全保障政策に対応できる体制を整えています。
また、さくらインターネットは、デジタル貿易赤字の是正にも貢献していきます。2024年2月19日の読売新聞の記事によると、2023年度のデジタル貿易赤字は約5.5兆円に達しています。ITがあらゆる産業において不可欠な存在となっている一方で、現在のまま海外に依存し続けると、デジタル赤字はさらに拡大してしまいます。しかし、石油などの天然資源とは異なり、ソフトウェア開発はエンジニアのスキルさえあれば国内で十分に行うことが可能です。さくらインターネットは、他産業の利益を守りつつ、日本全体の成長の起爆剤となるべく貢献していきたいと考えています。
また、さくらインターネットの「当たり前」が強みとなっています。上図に記載されている通り、さくらインターネットでは、OSSを活用することで、自立したサービス開発が可能です。最近では、VMwareの買収に伴うライセンス変更により、インフラベンダがサービスの値上げを余儀なくされる状況や、利用しているリソースは変わらないのに為替の影響でコストが上下する問題が国内で発生しています。しかし、さくらインターネットのサービスはこれらの影響を受けず、お客様に安定的にサービスを提供できています。
さくらインターネットグループがこれまでに受注した主な官公庁・公的機関の案件について紹介します。最大のトピックスとして、平成30年度以降、経済産業省が進める「Tellus」という政府衛星データのオープンアンドフリー化・データ利用環境の整備事業が挙げられます(現在は当社のグループ会社である株式会社Tellusがサービスを提供しています)。また、気象庁の案件も受注しています。
ガバメントクラウドの正式登録に向けて
2025年度末のガバメントクラウドの正式登録を目指すためには、クラウドの機能強化、世界標準のセキュリティ認証への対応、資格制度の設立及びパートナープログラムの支援を行う必要があります。さくらのクラウド検定という資格制度がすでに設立しており、第1回試験は2024年9月に実施されます。
さくらインターネットでは、ガバメントクラウド対応がクラウドの付加価値につながる取り組みであり、政府だけでなく民間企業にも安心感を提供できると期待しています。全方位でインターネットインフラを支える企業であり続けるとともに、ガバメントクラウド国産第一号の登録を成し遂げる覚悟と実力、そして実直さをもとに、邁進していきます。
ガバメントクラウドとバックエンドチームの変化と成長
次に、クラウド事業本部バックエンドユニット 川村 真吾さんによるガバメントクラウドとバックエンドチームの変化と成長についての発表です。
まず、「さくらのクラウド」とはどのようなサービスかを説明します。さくらのクラウドは、仮想化されたインフラを提供するIaaS型のクラウドサービスです。2011年にサービス提供を開始し、2021年には、ガバメントクラウドの前提条件である政府情報システムのためのセキュリティ評価制度(ISMAP)のクラウドサービスリストに登録されました。そして、2023年には条件付きでガバメントクラウドに採択されました。
バックエンドチームの組織再編と人員増加
2025年度末までにガバメントクラウドのすべての要件に対応するため、さくらのクラウドの開発チームは開発に取り組んでいます。この新しい要件に対応するため、バックエンドチームの体制が大きく見直されました。
2023年4月以降、チーム分割についてのディスカッションを重ねた結果、バックエンドチームは従来の2チームから4チームへと再編されました。この組織再編により、チーム数とメンバー数が増加しました。具体的には、2023年4月時点で2チーム15名だった体制が、同年10月には4チーム16名となり、2024年4月にはさらに26名に拡大。そして現在では、さらに4名が加わり、合計30名となっています。こうした体制強化により、ガバメントクラウドの要件に対応する組織全体の力を高めています。
バックエンド2チーム時代の課題と新体制に向けての対応
バックエンドチームが2チーム体制だった頃は、仮想化と課金という2つの領域に分かれて活動していました。しかし、仮想化の領域は非常に広範で、多くのサービスや機能が含まれていたため、メンバーの認知負荷が高まり、サービスの発展に伴い課題が顕在化していました。具体的には、サーバやディスク、データベース、ロードバランサなど、多岐にわたる領域を一つのチームで管理することが困難であり、効率的な開発と運用が難しくなっていたのです。
2023年4月以降、バックエンドチームはこれらの課題を解決するために、チーム分割のディスカッションを開始しました。書籍『チームトポロジー』を参考にしながら、クラウド事業本部の今後の方針を確認し、チームの最適な規模や個人に依存しない体制の整備、パラレルでの開発体制の実現などが重要であると確認されました。
メンバー全員が建設的かつ肯定的にチームの分割について話せる雰囲気を醸成し、意見のすり合わせを行いました。具体的には、マインドセットを深めるための機会として、アジャイルやスクラムに関する読書会を開催したり、1on1形式のミーティングを通じて、全員が納得のうえでチーム分割に合意できるようにしました。
新たに導入された4チーム+SRE室の体制では、各チームがそれぞれの専門分野に特化して活動することになりました。具体的には、クラウドAPI開発チームはAPIやIAMを担当し、ベータチームはDBアプライアンスや課金システムを、ガンマチームはPaaSやコンテナを、IaaS基盤開発チームはサーバ、ストレージ、ミドルウェア運用など物理的な部分を担当します。そして、SRE室はSRE活動と他チームの開発支援を行います。各チームは5~10名で構成され、それぞれの領域に集中することで、コミュニケーションがスムーズになり、効率的に業務を進めることができる体制が整いました。
新体制における重要な方針と役割の明確化
新しいチーム体制の導入にあたり、いくつかの重要な方針が明確にされました。まず、ガバメントクラウドへの対応を契機に、技術課題や新しい挑戦に対応できるよう、継続的な体制改善が求められることです。次に、各チームが小規模で自律的に活動できるようにすること。そして、一人で迅速に対応するのではなく、チーム全体で協力して取り組む体制を維持することが重要視されました。
これらの方針を実現するために、各チーム内ではチーム責任者、開発支援者、テックリード、シニアエンジニアといった役割が明確に定義されており、それぞれがリードアンドフォローを通じて、チーム全体の目標達成に貢献しています。
新体制への移行後、バックエンドチームは各領域に特化することで、効率的な開発と運用を実現しました。その結果、メンバーの認知負荷が軽減され、より迅速なサービス提供が可能になりました。特に、ガバメントクラウドの厳しい要件にも迅速に対応できるようになった点は、大きな成果といえます。今後も、チームの自律性を高めながら、さらなる技術力の向上とサービスの改善に取り組むことで、さくらインターネットのクラウド事業が一層発展することが期待されています。
そのためにも、より並行して開発を進める必要があります。小規模だった4つのチームが採用により大きな4チームとなった今、これからは8チームに分割し、より効率的に開発を進めていく計画です。
まとめ
ガバメントクラウド対応を進める中で、さくらインターネットのバックエンドチームは、2チーム体制時代に直面した課題を解決するため、建設的かつ前向きなディスカッションを重ねました。このプロセスでは、チーム全体で重要事項を確認し、丁寧に合意形成を進めながらチーム分割を実現しました。結果として、4つのチームとSRE室という新しい体制が確立され、各チームが自律的にリードアンドフォローを行い、効率的に活動できる環境が整いました。
現在の体制では、各領域と役割が明確化され、チームは自律的に活動しやすくなっています。今後は、さらに採用を進めてチームを増強し、ガバメントクラウド対応におけるスピード感を一層高めることが予定されています。
さいごに
さくらインターネットでは、一緒に社会を盛り上げていくメンバーを絶賛募集中です。今回のテックランチを通じて、興味を持った方はぜひ採用ページをご覧ください。