20年続くコミュニティを支えるさくらのVPS 〜「さくらの夕べ 小江戸らぐナイト」レポート〜

はじめに
さくらのナレッジ編集部の法林です。
さくらインターネットはさまざまなITコミュニティの活動を支援しています。その一環として、埼玉県川越市に本拠を置く地域Linuxユーザグループである小江戸Linux Users' Group(小江戸らぐ)に対してサーバを提供しています。
そこで当社は自社イベント「さくらの夕べ」にて、小江戸らぐの活動、ならびに当社が行っている支援活動を紹介することにしました。それが「さくらの夕べ 小江戸らぐナイト」です。イベントでは小江戸らぐにおけるサーバ利用などの話をメンバーの方々にご発表いただきました。その模様をレポートします。なお今回のイベントはZoomとYouTubeを使ったオンラインイベントとして実施しました。
さくらのVPSのコミュニティ的活用
1人目の発表者は、小江戸らぐの主宰者である羽鳥健太郎さん(@hatochan)です。羽鳥さんには、小江戸らぐの活動や、当社から提供しているさくらのVPSの活用についてお話しいただきました。
小江戸らぐについて
小江戸らぐは2002年に結成されたLinuxユーザグループです。「小江戸」は、羽鳥さんが在住する川越市が通称「小江戸」と呼ばれていることに由来します。「らぐ」はLinux Users' Groupを略したLUGから来ていますが、表現を柔らかくしたいとのことでひらがなで表記しています。
本グループを立ち上げた目的としては、Linuxでわからないことなどを気軽に相談できる場を作りたい、イベントやセミナーの開催を通じてLinuxの普及促進に貢献したいといったものがあります。そして、こういった活動を楽しむためにメンバーが自ら考えて行動するという方針があります。
小江戸らぐの活動
現在の活動としては、毎月開催している勉強会(オンラインが多いですがオフライン開催もあります)、年1回のバーベキュー、Slackなどを使った情報交換、活動報告集「LinuxUSER」の発刊、コミックマーケットやオープンソースカンファレンス(OSC)への参加などがあります。小江戸らぐのイベントはconnpassの小江戸らぐグループにて公開されており、登録者数は約350人です。勉強会の参加者数は概ね20〜30人といったところです。
小江戸らぐには、活動を継続的に行うためのエコシステムが存在します。以下のような仕組みになっています。
- 勉強会で、やったことだけでなくできなかったことも含めてゆるく発表します
- 勉強会での結果をまとめて冊子「LinuxUSER」を制作します
- LinuxUSERをコミックマーケットやOSCで頒布して活動を紹介します
- 活動を見た人が楽しそうに思い勉強会に参加します
- 勉強会でのゆるい発表を見て、これなら自分でもできると思い発表するようになります
- 上記のサイクルを繰り返していきます
勉強会は、当日発表したい人が名乗りを挙げて発表するアンカンファレンス形式で行われます。発表人数や発表時間の規定もありません。ただしあまりに長いと羽鳥さんがやんわりと収束するように促すそうです。だいたい14時ぐらいにスタートし、18時ぐらいまで発表会を行ってから、オンライン飲み会に移行します。直近数回の発表テーマもご紹介いただきましたが(下のスライド参照)、Linuxユーザグループと言いつつも、IT関連のかなり幅広い話題を受け入れていることがうかがえます。
また、勉強会の開催や冊子の制作などを定期化していることで、その開催/制作時期が近づいたら題材を考える必要に迫られ、そこで考えることでいろいろなアイデアが浮かぶという、いわばイベントドリブン開発のスタイルで動いているという話もありました。
さくらのVPSの活用
小江戸らぐは設立当初からサーバを運用していましたが、当初のサーバは、当時東芝から発売されていたDynabookというノートPCの中古品にLinuxをインストールしたものを使用していました。しかし数年に一度ぐらいのペースでハードウェア故障が発生してメンテナンスが発生し煩雑なため、2012年ぐらいから羽鳥さんが自費でさくらのVPSを契約して使い始めました。現在は後述する当社から提供したVPSに移行していますが、こちらのサーバも羽鳥さん自身の用途で継続利用しており、Linuxディストリビューションのカスタマイズ版の配布や、Webサービスのテストなどに利用しています。
その後、2021年からは当社から提供したさくらのVPSを使用しています。こちらのサーバには小江戸らぐのウェブサイトや、これまでに発刊したLinuxUSERのアーカイブ、ならびに付録DVDなどを置いています。なおこちらのサーバではOSとしてFreeBSDを使用しています。これは羽鳥さんが長年BSD系のOSを使用していることに由来しているようです。
小江戸らぐのウェブサイトはCMSを使わずに静的なHTMLのみで構成されています。こうすることでアクセス集中に対する耐性の向上や脆弱性を突いた攻撃を受ける要素が減るといった利点がありますが、ユーザー入力や動的機能がないのでサーバを介したコミュニケーション要素を持てないというデメリットもあります。そこを補うためにSNS的な機能はすべて外部サービスを利用しており、Slack/Twitter/Facebookなどを使ってコミュニケーションを図っています。
羽鳥さんの願望としては、以前は動いていたmailmanを復活させたり、Mastodonを立ち上げて小江戸らぐと他のコミュニティをつないだり、Slackの代わりにMatrixを運用してコミュニケーションの記録を残したりといったことをやりたいそうですが、現在のサーバではスペック不足に陥りそうなので、もし実際に立ち上げることになったときはさくらインターネットに相談したいとのことです。
さくらのクラウドのAppRunを試してみた
2人目の発表者は小江戸らぐのメンバーであるカロスさん(@karosuwindam)です。カロスさんからは、当社が2025年2月にリリースしたさくらのクラウドのAppRunを試用した感触についての話がありました。
カロスさんは自宅サーバでいくつかのアプリケーションを動かしていますが、そのうちの1つをクラウドで動かしたいと考えたのが、さくらのクラウドやAppRunを試用する動機になったそうです。
コンテナレジストリについて
AppRunの話に入る前に、さくらのクラウドのコンテナレジストリについての話がありました。
コンテナレジストリはDockerなどのイメージファイルを保管する機能を提供するサービスです。さくらのクラウドのコントロールパネルでレジストリを作成し、dockerコマンドを使ってコンテナのpushやpullを行うことで利用できます。現在はβ版のため無料で使うことができます。
現時点(2025年5月)ではコンテナレジストリの中身(どんなイメージが保管されているか)はコントロールパネルでは確認できないため、regctlコマンドやdocker-registry-browserというWebアプリで確認することになります。アップロードされたコンテナの状態を確認するコマンドを以下に示します。(exampleはレジストリ名です)
docker run --rm -p 8080:8080 \
-e DOCKER_REGISTRY_URL=https://example.sakuracr.jp \
-e TOKEN_AUTH_USER=<user> \
-e TOKEN_AUTH_PASSWORD=<password> \
-e ENABLE_DELETE_IMAGES=true \
klausmeyer/docker-registry-browser:1.6.1
AppRunについて
AppRunはコンテナの実行サービスです。カロスさんいわく「GCP(Google Cloud Platform)のCloud Runに非常に近いサービス」です。AppRunの設定はさくらのクラウドのホーム画面からAppRunを指定し、AppRun専用の画面に遷移して実施します。アプリケーションの実行は、設定画面にて各種設定項目を記入して作成ボタンを押すことで行われます。カロスさんからは「コンテナレジストリと同様にさくらのクラウドの画面と一体化してほしい」という意見がありました。
利用例
カロスさんは某小説サイトの更新をチェックするために、Webクローラの結果を表示するアプリケーションを作成して使用しています。GCPのCloud Runでは月額数十円程度の費用で稼働しています。
今回の発表ではGCPとAppRunで同時にアプリケーションを実行し、両方の画面を見せて実行速度を比較しました。AppRunはアプリケーションの起動に時間がかかりますが、起動してからの処理はGCPよりもかなり早く終了しました。カロスさんによると、このアプリでクロールする対象は日本国内のウェブサイトなので、実行基盤が国内にあるAppRunの方が早く処理が進むのではないかとのことです。
実行した感想など
カロスさんからはAppRunを実行した感想として以下のコメントがありました。
- (今回実行したアプリケーションに関しては)Cloud RunよりもAppRunの方が反応が早い。
- 処理が終わらなかったときにコンテナが停止するまでの時間もAppRunの方が短い。これはリクエストのタイムアウトが、Cloud Runがデフォルトで600秒であるのに対してAppRunは最長でも300秒であることが関係しているのではないか。
- 設定する際に、Cloud Runはほとんどの操作がマウスで完結するが、AppRunはコンテナの指定などテキスト入力する項目が多く面倒。今後の開発で操作が簡単になることを期待したい。
質疑応答と懇談会
発表終了後は参加者の皆さんを交えて質疑応答を行いました。誌面の都合で簡単な紹介にとどめます。詳しくご覧になりたい方はビデオアーカイブをご覧ください。
質問:LinuxUSERの制作環境(編集ツールなど)を教えてください。
羽鳥:LibreOfficeのWriterを使っています。有志の方に作っていただいたテンプレートをメンバーで共有して作っていますが、LinuxとWindowsで見た目が変わったりして編集に苦労するので基本的に全員Linuxで使うことにしています。
質問:小江戸らぐは20年以上続いていますが、長く続けるために心がけていることはありますか?
羽鳥:無理や背伸びをしないことです。小江戸らぐの設立当初は勉強会をやっても参加者が数人でしたが、数年続ける中で少しずつ人が増えてきて現在に至ります。また、長年やっていると、しばらく離れていた人が戻って来ることもあります。さくらのVPSで運用しているウェブサイトを見つけてコミュニティが存続していることを知るようです。
質問:メンバー間のコミュニケーションツールは、昔はメーリングリストが主流でしたが、現在プラットフォームを選ぶにあたって「こういうのがいい」というポイントはありますか?
羽鳥:できれば、XやSlackのような外部サービスに頼らずに、MastodonやMatrixのように自前のリソースで完結できるプラットフォームを利用するのがよいと考えています。
質問:性能以外の面で、Cloud RunとAppRunを比較して良かったところや便利だったところはありますか?
カロス:AppRunはまだ開発歴が浅いこともあって設定項目が少ないですね。Cloud Runはマウスでほぼ全部設定できるのが優位点だと思います。
質問:カロスさんのスクレイピングアプリでは、取得したデータをどこに保存していますか?
カロス:動かしているアプリのメモリ上に保存していて、アプリを再起動するとクリアされます。すべてテキストデータで数MB程度しかないので、この方法でも問題なく動作しています。
質問:コンテナのアプリケーションを他のクラウドサービスからさくらのクラウドに移行するときに、仕様の違いなどで注意しないといけない点はありますか?
カロス:移行そのものは、ストレージを使わないアプリであれば特に難しくはありませんでした。ただ、Cloud Runでは専用コマンドでDockerにログインした状態が維持されるのですが、AppRunにはそういったものがないとか、一括登録などの仕組みもAppRunにはないので、今後の開発に期待しています。
イベント終了後の懇談会の時間は、Zoom参加者の皆さん(多くは小江戸らぐの勉強会によく参加している方々)といろいろな話をしました。かつては全国各地にLinuxユーザグループが存在したが現存するグループは数えるほどになっている、地域コミュニティの重要人物が転職などで東京に移住してしまったことでコミュニティが衰退する例もよく見かける、毎年川越で開催しているオープンソースアンカンファレンス(OSunC)の話(2025年のイベントページ)、AIの活用、などの話題が出ました。こちらも詳しくはビデオアーカイブをご覧ください。
おわりに
筆者の個人的な想いとして、地域のITコミュニティを応援したいというのがあります。今回のような支援活動はそういった筆者の想いにも合致するものであり、これからも長く続けていけたらと考えています。イベントにご参加・ご協力いただいた小江戸らぐの皆さん、ありがとうございました。
それではまた次回のイベントでお会いしましょう!