数千人規模のカンファレンスを支える自作ケーブル 〜JANOG NOCケーブリングセミナーレポート〜

はじめに

2026年2月11-13日(水-金)にJANOG57ミーティングが開催されます。JANOGには毎回、イベントをホスティングする企業が付きますが、JANOG57ではさくらインターネットがホストを担当しています。ただいまイベントの開催に向けて、スタッフや事務局と力を合わせて準備に励んでいるところです。

ところでJANOGでは毎回、有志により組織されたNOCチームが会場ネットワークの構築・運用を行っています。構築作業の中には、会場内に敷設するケーブルの作成や配線といったものもありますが、NOCメンバーは必ずしもそういった分野の専門家ではなく、学生や経験の浅いエンジニアも多数含まれています。

セミナー会場の様子

そこでJANOGの本番を迎える前に、ケーブルに関する知識の習得や作成の実習を行う機会を設けようということで、2025年12月17日(水)にBlooming Camp(さくらインターネット大阪本社)にて「JANOG NOCケーブルセミナー」を実施しました。セミナーにはJANOG57のNOCメンバーだけでなく、当社でネットワーク構築に従事もしくは関心のある社員も参加しました。

それではセミナーの模様をご紹介します。

講義編

講師の浅香さん(中央)

前半はケーブルに関する知識を習得するための座学を行いました。講師は日本製線の浅香芳晴さんです。日本製線ではオフィスなどにLANケーブルを配線する施工業者を主な対象とした「LANケーブル(メタル)施工技術認定トレーニング」を行っており、今回のセミナーはそのトレーニングをもとにしたものです。

はじめに日本製線のケーブリングシステム保証プログラムの紹介がありました。これは日本製線のトレーニングを受けた人を認定者とし、その人や会社が配線を施工した物件に対して性能保証を行う仕組みです。今回のセミナーを受講した人にも認定証が発行されます。

規格やカテゴリの一覧

次にISO/IEC(国際標準)、TIA(米国標準)、JIS(日本規格)といったLAN配線の規格を紹介した後、LANケーブルの基礎知識について重点的に解説していただきました。現在使われているLANケーブルはカテゴリ(Cat)5、Cat6、Cat6A、Cat7、Cat7A、Cat8.1、Cat8.2といったものがあります。同じカテゴリでもISO/IECやJISとANSI/TIAでは規格が異なり、例えばISO/IECのCat6A(下付き文字)はANSI/TIAのCat6Aよりも規格値が厳しいです。また我々がよく使うカテゴリであるCat5e、Cat6、Cat6Aがそれぞれどの速度や長さまで対応しているかや、各カテゴリごとにケーブルの内部構造がどう違うかなども教えていただきました。

カテゴリごとのケーブルの違い

ちなみに、規格上はCat5/Cat6/Cat6A/Cat8.1のケーブルはRJ45コネクタを使用し、Cat7/Cat7A/Cat8.2のケーブルはRJ45とは非互換のプラグを使用することになっています。しかし市販の製品を見ていると、ケーブルはCat7なのにコネクタはRJ45という、規格に準拠していない製品も散見されるので注意が必要です。

さらにケーブルを施工する際の注意点も教えていただきました。ケーブルがねじれないように敷設する、余長を束ねるときの輪を大きくする、電源や高周波器具などのノイズ源を避けて配線する、などです。このように注意して配線したとしても、さまざまな要因でノイズを受けたりケーブルが損傷することがあります。

ケーブルの被覆を剥がして水に入れて性能劣化をテスト

今回のセミナーでは、これらの損傷を受けたときにケーブルがどれぐらい劣化するか(性能低下や通信断の発生)を実演していただきました。具体的には、ケーブルの両端をパケットジェネレータに接続して1Gbpsや10Gbpsのトラフィックを流した状態で、ケーブルを踏んだり叩きつけたり、極端な角度に曲げたり、ケーブルのそばで大きなファンを回したり、さらにはケーブルを水に入れたりとさまざまなノイズやストレスを与え、エラー率の上昇やグラフの変化を観察しました。

また、ケーブルの隣でファンを止めたり動かしたりするようなノイズ源が存在する環境においては、10Gbps伝送時ではパケットロスが発生する一方で、1Gbps伝送時ではパケットロスが発生しないといった違いを、実際のトラフィックを流しながら比較する実験も行われました。さらに、このようなケースではケーブルテスターによる試験では問題が検出されないにもかかわらず、ノイズ源が存在する状態でパケットテスターを用いて実際に通信を行うことで初めて問題が顕在化することもデモしていただきました。

加えて、Cat6Aケーブルであっても、極端に折り曲げるなど望ましくない状態に置くことで、ケーブルテストの結果が不合格となるケースも実際に見せていただきました。これにより、配線時の取り回しや施工品質がネットワーク性能に直結することを、参加者全員が具体的な事例として理解することができました。

テスト結果が不合格に

実習編

後半は実際にケーブルを触ってコネクタを取り付けたりする実習の時間です。今回は主に以下の2つの製作実習を行いました。

  1. Cat.6A両端ケーブルのジャック加工
  2. Cat.6細径より線のプラグ加工

それぞれについて少し説明します。

Cat.6A両端ケーブルのジャック加工

インストラクターによる手順説明

最初に行ったのはCat.6Aケーブルの両端にコネクタ(ジャック)を取り付ける実習です。参加者全体を3つのグループに分け、各グループに日本製線の方が1名ずつインストラクターとして付いて作業手順を説明しました。手順は以下の通りです。

  1. ケーブルの片方の端から約4cmのところに専用の皮むき器を当てて回し、ケーブルの外被を除去します。
  2. ニッパーを使って外被の中にある各種テープや十字介在を除去し、心線を剥き出しにします。
  3. 整線キャップを挿入し、結線ラベルに合わせて心線を配置した後、キャップからはみ出した心線をカットします。
  4. ジャックのカバーを開き、整線キャップをジャックに取り付けます。
  5. 成端ツールをジャックにセットし、整線キャップをジャックに押し込みます。
  6. ジャックのカバーを「カチッ」と音が鳴るまで押し込みます。
  7. 成端ツールの切り欠き部にジャックをセットし、挟み込んでケーブルを固定します。
  8. もう片方のケーブル端にも同様にジャックを取り付けます。

日本製線による動画での手順説明もありますのでぜひ参考にしてください。

日本製線の浅香さんによる実演

ケーブルを作成したら、ケーブルテスターのメーカーとして著名なフルーク社製のテスターにケーブルを挿し、規格通りの接続性や性能が出ているかどうかを検査します。合格した人は認定証を作るための写真を撮ってもらいました。

フルークのテスターで検査

Cat.6細径より線のプラグ加工

Cat.6細経より線のサンプル

もう1つの実習はCat.6の細いケーブル(細径より線)にプラグを取り付けるものです。ケーブルやプラグの形状については日本製線の製品ページをご覧ください。作業手順は以下の通りです。

  1. ケーブルにブーツ(保護カバー)を挿入します。
  2. ケーブルの外被を端から約4cmほど、皮むき器で除去します。
  3. 内部にある補強紐や十字介在を除去します。
  4. 心線の撚りをほぐして1本ずつまっすぐにします。
  5. スリーブを取り付け、心線をスリーブの溝に入れ込みます。
  6. 外被の先端をスリーブガイドに突き当て、スリーブからはみ出した余分な心線をカットします。
  7. ハウジング(プラグ先端部)をスリーブにかぶせ、先に挿入していたブーツも接合します。
  8. ハウジング部分を圧着工具に挿入し、圧着します。
  9. 反対側の端も同様にプラグを取り付けます。

こちらもインストラクターによる手順説明を見てから作業に入りました。日本製線による手順説明動画もありますので参考にしてください。

プラグ加工の実演

プラグを取り付けたら、同じくフルークのテスターにケーブルを挿して検査を行います。

テスターで検査。合格の文字が見える

なおJANOG57の会場ネットワークもこちらのケーブルを用いて構築するとのことです。本日の実習で行った検査も全員合格しましたので、本番のネットワークも問題なく作れるでしょう。

参加者の感想

セミナーに参加した人々に感想をうかがってみました。

米田悠人さん(さくらインターネット/JANOG57 NOCチーム)

普段からネットワーク関連の業務に携わっており、ケーブルの製線などの経験もありますが、今回のセミナーでは「ケーブルにノイズが乗るとどんな問題が起きるのか」を、実際のデモを通じて体験できたのがとても印象的でした。特に、ケーブルの特性については知らなかったことだらけで、ただの知識として知っていた内容も良い例・悪い例の比較を通じて一気に理解できたのが大きな収穫でした。また、日本製線の皆さまのご指導のもと、実際にケーブル製作まで体験でき、楽しく学べただけでなく、NOCチームだけでなく業務にも直結する内容ばかりでした。

さらに、日本製線様の分かりやすくて惹きつけられる説明のおかげで、NOCの学生メンバーも社会人メンバーも終始楽しみながら参加できたのが良かったです。2月からはいよいよJANOG57が始まりますが、今回のセミナーで学んだを活かして、これまで以上に良いネットワークを届けられるよう頑張っていきたいと思います!

貴重な機会をご提供いただいた日本製線様には、本当に感謝しています。

ケーブル作成の実習に励む米田さん(右)と東條さん

東條ななみさん(さくらインターネット/JANOG57 NOCチーム)

普段は、abuse(弊社サービスを通じて行われたオンラインハラスメント等)の対応業務をしており、ケーブルや配線に関する深い知識や実務経験はないのですが、見識を広めるために今回のNOCに応募しました。その中で、日本製線様のケーブル講習を受講できたことは、非常に貴重な機会でした。
当日は50人ぐらいで受講しましたが、面識のある方も少なかったため、最初は少し緊張していました。座学では皆さん静かに話を聞いていましたが、ケーブルを踏んだり叩きつけて計測してみるというデモンストレーションをきっかけに場の雰囲気が和らぎ、実習では和気あいあいと参加者同士で会話しながら楽しく取り組むことができました。細かく情報が記載された資料を読みながら進めることができたことで理解も進み、今回の講習で得た学びを、今後のネットワーク構築で生かしていきたいです。

市毛大渡さん(京都大学/JANOG57 NOCチーム)

以前にAXIESというイベントでNOCチームに参加して、そのとき初めてケーブルのかしめなどの作業をして知見を得ていました。しかし今回、日本製線さんに教えていただいた、撚り対線の中身や規格の話は初めて聞いたもので、そのあたりは新たに得た知識となりました。また規格に関しても、私は学生ということもありRJ45やCat7なども初めて聞く言葉で、このような規格について学ぶことができたのもよかったです。加えてこういった規格は1つしかないと思っていたので、今回のセミナーにおいて、国内で採用されている規格や国際的に採用されている規格など、それぞれに焦点を当てて解説していただいたのも、概念として新しいものを知ることができてよかったと思います。ありがとうございました。

江草陽太さん(さくらインターネット/JANOG57 ホストチーム)

ケーブルを踏む江草さん

今回のセミナーで印象に残ったのは、日本製線・浅香様の座学でした。知識量の多さもさることながら、ケーブルそのものを心から好きだという熱量が前面に出ていて、話を聞いているこちらまで引き込まれる感覚がありました。好きな人が語るプロダクトは、やはり説得力とワクワク感がまったく違います。LANケーブルにまつわる裏事情や、普段なかなか聞けない開発側の視点も盛り込まれており、とても興味深い内容でした。

さらに、日本製線の皆様の作業風景があまりに滑らかで、工程が次から次へと無駄なく進んでいく様子は、もはや技術というよりマジックを見ているようでした。積み重ねられた経験値の凄さを目の当たりにした気がします。どうして撫でるだけでケーブルがまっすぐになるのか不思議です…笑

実技パートでは、参加者全員がフルークでのテストを無事クリアし、認定をいただくことができました。これで、ここれから迎えるJANOGのホットステージ、そして本番ネットワークの構築にも自信を持って臨めそうです。

ケーブルの世界の奥深さと、そこに携わる方々の情熱を強く感じる、とても良い機会となりました。

おわりに

今回のセミナーは、JANOG57のNOCにケーブルをご提供いただく日本製線との打ち合わせにおいて、同社が行っているセミナーがあるという話を聞き、これをNOCメンバー向けに実施することでケーブルについて学んでもらおうということで企画したものです。冒頭でも書きましたがNOCメンバーは学生や若手エンジニアが多く、ケーブルを自作した経験を持つ人も多くはない中で、ケーブルに関する知識と経験を得てもらう良い機会になったと思います。日本製線の皆さんのご協力に厚くお礼申し上げます。

また、JANOG57では、「『いま』メタルLANについて考えてみよう」という、ケーブルに関するセッションも行われます。この日のセミナーでも講演や実演をしてくださった日本製線の仙谷悠さんと浅香芳晴さんが登壇されます。関心のある方はぜひ会場にてご参加ください。配信もあるとのことなので会場に行けない方は配信でご視聴ください。

それではまた次回のイベントでお会いしましょう!

2月は大阪でお待ちしています!