【インタビュー】なぜDrupal? その魅力を訊く(Vol.4:Gennai3株式会社~よいものだから、もっと広く使われてほしい)
上部写真)Gennai3の程田和義さん
最先端のコンテンツ・マネジメント・システム(CMS)「Drupal(ドゥルーパル)」の魅力を、業界の“先駆者たち”が語る本連載。今回、お話をお伺いしたのはGennnai3株式会社の程田和義さん。30年以上に渡ってIT業界の最前線で活躍してきた程田さんが、なぜDrupalを選んだのか。そしてこの先、Drupalが広まっていくために必要なことを語っていただきました。
Drupalが本当の意味で普及するには先行者による啓蒙活動が必要
――Drupalについてお伺いする前に、まずはGennai3株式会社について、そのあらましを教えていただけますか?
程田さん:Gennai3は川崎にある、社員は私1人というとても小さな会社です。地元の中小企業が主なお客様で、そのITサポートを中心にさまざまな業務を行なってきました。社名の由来は江戸時代中期の偉人・平賀源内。発明家として有名な彼にあやかってこの名前を付けました。中小企業の社長には彼のことが好きな人が多いですしね(笑)。そして末尾の“3”は、近江商人の「三方良し」から。売り手良し、買い手良し、世間良し、という考え方がとても好きで、自分もこうありたいな、と。
――程田さんとDrupalの出会いについて教えてください。
程田さん:フリーランスのエンジニアとして活動し始めた2003年(当時はまだ未法人化)以降、さまざまなオープンソースCMSを使ってきました。Drupalに行き当たるまで、いろいろなCMSを試し、いくつかにはかなり熱心に取り組んでいます。その上で、2009年、Gennai3を法人化するに際し、「今、本当に自分やお客様にとって最良の選択肢はなんなのか」を改めて考えてみたんです。当時はWordPressが盛り上がり始めていたのですが、これでより複雑なことをしようとすると、とたんに工数が増えてしまうことが分かっていました。正直、もうあんまりコードを書きたくないなと思っていたので(笑)、これを却下。ほか、消去法で選択肢をつぶしていった結果、最後に残ったのがDrupalだったというわけです。
――なるほど(笑)。そんなDrupalのメリットはどんなところにあるのでしょうか?
程田さん:複雑なWebサイトでなければ、スクリプトを書くことなしに構築できてしまうことですね。既存の拡張モジュールを組み合わせていくだけで高度な仕組みが簡単に作れてしまいます。世界中のDrupalコミュニティメンバーが多くのモジュールを作成、共有しているので、たいていの場合、カスタマイズ不要で開発でき、運用も容易になります。
またそのため、ある程度勉強すればエンジニアでなくてもそれなりに使いこなせるようになるというメリットもあります。エンジニア以外の人にも使いやすいということはとても大事。個人的にはここを高く評価しています。
ただし、あまりに機能豊富で拡張性にも富んでいるため、本格的に使いこなそうとすると理解に時間がかかってしまうのが弱点。また、APIが充実しており、PHPでのカスタマイズが容易なことが逆にデメリットとなることも。既存の拡張モジュールを使わず、自分で何とかしようとしてしまい(それができてしまい)、それによって本来、APIやモジュールを活用することで得られるメリットの拡張性を損なったり、メンテナンスの手間を増やしてしまったりするというケースが多いようですね。
――日本では「これから」というイメージのDrupalですが、海外では既に多くの実績を築いていると聞いています。そのブレイクぶりを教えていただけますか?
程田さん:北米や欧州では、行政機関や多国籍企業、社会貢献団体など、幅広く多くの事業者がDrupalを使っています。日本でもホワイトハウスや、ジョンソン・エンド・ジョンソンなどでの活用事例が有名ですね。ただ、「ブレイク」という表現にはちょっと違和感があるかな。もちろん盛り上がってはいますが、それを言うならもう2010年くらいからたくさんの開発者がDrupalに注目していました。ですので、たとえば「IoT」などのように、インターネット界隈の一大トレンドとしてグーンと関わる人が増えた、というイメージではないんですよ。そもそもDrupalは大規模サービス向けのCMSなので「数」という点では、到底、WordPressなどの既存CMSには敵いませんし。残念ですが、Gennai3の売上が一気に伸びるというようなことにはならなさそうです(笑)。
その上で、気がついたら皆が使っているサービスの裏でDrupalが動いているという時代になっていくのでしょう。例えば、先日行なわれたリオのオリンピックでは、多くのサービスの裏でDrupalが使われていたそうですよ。
参考)Drupal goes to Rio
https://www.drupal.org/blog/drupal-goes-to-rio
――その流れは日本にもやってくるのでしょうか?
程田さん:それは間違いありません。今後、大企業でDrupalを採用する事例が増えていくことになるはず。グローバル企業などではとっくにそうなりつつありますし、保守的な国内企業においても徐々にCMSを活用していこうという気運が高まっています。そして、そうなったときに選ばれるのが大規模案件に強いDrupalだと考えています。
ただ、問題はその際、それをどこがサポートするのかが明確でないこと。現在はまだDrupalの大規模案件に対応できる選択肢が非常に少ないんです。CMSというと、広告業界のWebサイト制作会社が扱うイメージですが、Drupalについては、もう少し大きな規模の開発を行なえる、これまで情報システムを構築してきたような開発会社の参入を期待したいですね。
そしてそのためには、技術資料の日本語訳などといった啓蒙活動が必要。それが改めて動き始めたのが、今、なんです。
“外”の人たちに向けた情報発信もより積極的に進めていきたい
――Drupalの啓蒙活動について、程田さんが行なっている最新の取り組みについて教えていただけますか?
程田さん:まず、Drupalの解説書を出しました。昨年、Drupalを普及させようとがんばっている有志で集まり、まずは日本語で読める入門書を出版しようということになったんです。最新のDrupal 8については別の方が書くことになったので、私はDrupal 7のものを執筆、先日、電子出版のみの自費出版というかたちではありますが、無事リリースすることができました。
『はじめてのDrupal-入門編-Drupal-でWebサイトを作ってみよう!』
<リンク設定:https://www.amazon.co.jp/はじめてのDrupal-入門編-Drupal-でWebサイトを作ってみよう!-程田和義-ebook/dp/B01EFYRUAO>
もちろん、これがものすごく売れるということは期待していません。はっきり言って出版ビジネスとしてはお話にならないでしょう(笑)。ただ、これは絶対に必要な先行投資。誰かがやらなければ“次”がありませんから仕方ないですよね。今後も、皆でいろいろなドキュメントを出していこうと話し合っています。
ちなみに私の入門書に関しては、今後、その英訳版を出そうと計画中です。日本で大した冊数が売れなくても、海外まで広げればトントンになるくらいには読まれるのかな、海外のDrupalコミュニティに参加する際の名刺代わりにもなりますしね。
――日本の技術書が英訳されるという話はほとんど聞いたことがないので、素晴らしい取り組みだと思います。ほか、Gennai3としてはどういった取り組みをされていますか。
程田さん:まずはエンジニア以外の“外”の人たちにDrupalが良いものだと知ってもらうことをもっと積極的にやっていかねばならないと考えています。私がどんなにDrupalを使えるようになっても、入門書を書いてDrupalを使えるエンジニアを増やしても、Drupalを使おうと考える企業が増えなければ仕事は増えませんからね。
今は、そこに向けた情報発信の強化を進めているところです。勉強会をやったり、本や記事を書いたり……。今はあえて自分ではメイクをしないようにし、主に営業方面の活動を行なっています。案件を取ってきて、それを外部のエンジニアにお任せするというかたちですね。まずはとにかく営業。そこに一番力を入れています。
――まだDrupalが浸透しているとは言えない中、お客様の反応はいかがですか?
程田さん:他のCMSとのコンペという案件はやはりまだ厳しいですね。なので、現在は最初からDrupalをご指名で、というお客様を中心に営業をしています。
例えば今年の頭には、これまでWordPressでサイトを構築してきた会社から、ECのシステムをDrupalで再構築したいという相談がありました。その会社はずっとWordPressを拡張するかたちでいろいろやってきたのですが、何をやるにも工数がかかるので、さすがにもう限界だと。もちろんWordPressが全ての原因ではなく、開発者の腕にもよるところもありますが。いずれ確実に破綻するので、その前に移行したいということですね。
まさにそういうケースではDrupalが最適。こんなふうに、WordPressに限界を感じ始めたお客様からDrupalが注目され始めているんです。そこにきちんと情報を提供して行ければ、より勢いを増していけるのではないでしょうか。
――今後の御社の展開についても教えてください。
程田さん:まずはこれまで通り、Drupalを使って、企業内のWebサイトやWebサービスを社員が構築・運用できるためのシステム環境、業務パッケージ作りなどに関連する事業を充実挿せていこうと考えています。
その上で、今後は「ツーリズム」分野でのDrupal活用を進めていこうかな、と。Drupalを本格的に国内で普及させて行くにあたり、その魅力を最大限に活かせる分野はどこだろうと考えると、この分野なのではないかと。多言語対応が容易ですし、ユーザー管理も強力、もちろんモバイルデバイス対応も万全です。
中国人の“爆買い”はもう衰え始めていますが(笑)、これからは東京オリンピックもありますし、日本にとって、これまで以上に「観光」が重要な産業になっていくはず。そこで利用されるシステムの裏でDrupalが動いているというふうになるといいですよね。まずは海外と連携している、特にオープンソースのコミュニティに参加している企業から広げて行けたら良いですね。
■関連リンク
Gennai3株式会社
http://www.gennai3.co.jp