ブロックチェーンは異論が多い分野

ブロックチェーン技術について取材したり記事を書いたりしていると、本当に多種多様な意見を耳にします。ブロックチェーンに取り組んでいる人たちの間でも、意見が一致しない場合を目にします。否定的な意見もまだまだあります。古い情報、間違った情報、真偽不明の情報、さらには意図的に人をだまそうとする情報まで流通しているのを目にしました。

そんな中で、私個人として「ブロックチェーンの価値」に関する現時点での議論をかなりきれいに整理していると感じた意見を聞いたので、ここで紹介します。「ブロックチェーンの価値は (1)アセット管理、(2)スマートコントラクト、(3)認証基盤に整理できる」という内容です。ただし、これだけだと取っつきにくいので、まず背景の話をさせてください。

なぜブロックチェーンに関して多種多様な意見が出てくるのか、それを一言でいえば、成熟も認知も進んでいない中で、産業応用が盛んに議論されているからです。たとえ話をすると、インターネットの基礎となっているTCP/IPは登場して間もない時期の評価はまちまちでネットワーク技術の中の異端児でしたが、もし同じ時期にWebテクノロジーやEコマースやネット広告やクラウドコンピューティングの話をしても議論は収束せず、それ以前に理解が行き渡らなかったはずです。ブロックチェーンを取り巻く動向は、まさにそんな状況に近いのです。

ブロックチェーン技術について理解しようと思ったときには、既存のITと横並びに比較して理解しようとしても、たぶんうまくいきません。TCP/IPがそれ以前のネットワーク技術の改良ではなく新しいネットワーク技術体系(インターネット)の出発点だったように、ブロックチェーンも既存の技術の改良ではなく、新しい技術体系の出発地点にいると考えた方が、おそらく理解が早いのではないかと思います。

そして、TCP/IPに多種多様な用途があるように、ブロックチェーンの可能性も複数の選択肢があります。

そんな中で、冒頭に紹介したように、「ブロックチェーンの価値」に関する現時点での議論をかなりきれいに整理した意見を聞きました。独自ブロックチェーン技術を開発するベンチャー企業であるKeychain社の共同創設者CEO、Jonathan Hope氏は、次の3つの価値を指摘します。

(1)アセット管理
(2)スマートコントラクト
(3)認証基盤

ブロックチェーンの本来の役割はアセット管理

(1)のアセット管理ですが、これはブロックチェーン技術を価値(お金)の記録、移転のために使うということです。

ブロックチェーンは、もともとビットコインというお金の価値を記録し、移転するための「公開の台帳」として作られました。アセット管理はブロックチェーン本来の機能といえます。

「公開の台帳」という考え方は、逆転の発想といえます。従来の「お金」を扱うシステム(その筆頭は銀行の基幹系です)では、セキュリティを強固にするため、厳重な防壁で守られたデータベースに取引(トランザクション)の情報を格納していました。ところがブロックチェーンは、オープンなネットワークに取引を記録した台帳を公開します。

公開することで、その取引に間違いがないことを誰もが監査できます。台帳の内容は公開されていますが、取引を不正に記録したり、改ざんしたりすることは非常に困難な仕組みになっています(改ざんが仕組みはビットコインとブロックチェーンの最も面白いところですが、ここでは割愛します)。

「公開されているが、改ざんできない台帳」に価値を記録する──これがブロックチェーンの役割です。このことを、

データがセキュリティ境界の外にある

と言い換えることもできます。

最近、銀行間の国際送金のシステム(SWIFT)がハックされた事件が起こりました。銀行の内部の情報システムをいかに強固に作っても、銀行どうしのネットワークがハックされてしまうと防げません。金融機関の視点では、複数の金融機関の間にまたがる取引のセキュリティレベルを高くできることがブロックチェーンの魅力です。

なお、「データが丸見えでは情報の秘密を保てず、使えない」という意見もあります。この課題に立ち向かう方針として、一つはプライベートブロックチェーン(あるいはコンソーシアム方式のブロックチェーン)、もう一つはデータを秘匿したままブロックチェーンに載せる方法が研究されています。「金融機関もパブリックブロックチェーンを検討するべきだ」と指摘する専門家もいます。

このように、「価値」を記録し、しかも複数の組織にまたがってその価値を移転する(取引を行う)ためのシステムとしてブロックチェーンは非常に注目されているのです。その真価が発揮されるには、実際に価値(お金)と結びついたシステムに使われることが必要ですが、ビットコインを筆頭とする仮想通貨がまさにそのシステムの具体例です。仮想通貨以外のお金(例えば円、ドルのような法定通貨)にブロックチェーンが使われて本格的に利用される時期になれば、ブロックチェーンの認知は今よりずっと高まるはずです。

スマートコントラクト

(2)のスマートコントラクトは、ブロックチェーン上で動く「改ざんされず、自動執行されるプログラムによる電子契約」です。スマートコントラクトの機能を前面に押し出したブロックチェーン技術Ethereumの台頭に伴って注目されています。

前回のコラムで紹介したThe DAO攻撃事件は、このスマートコントラクトの脆弱性を突いて巨額の資金を移動させた事件でした。いわばスマートコントラクトの悪用です。

ここには異論もあって、悪用かどうかを決めるのは人間の判断ですが、スマートコントラクトのいい点は契約の執行に人間が介入しない点です。そこで「プログラムを契約と見なすなら、バグや脆弱性もまた契約の一部ではないか?」とする意見もあります。このように、あまりにも考え方が新しいので、現実世界にスマートコントラクトが浸透するには時間がかかるのではないか、との意見もあります。おそらく、普及に必要なのはスマートコントラクトのキラーアプリなのでしょう。私個人は、スマートコントラクトで投資ファンドを運営しようとしたThe DAOは、スマートコントラクトの認知を高めることを目的の一つにしていたものの、それに失敗したプロジェクトだと考えています。

認証基盤としてのブロックチェーン

(3)の認証基盤ですが、これもブロックチェーン本来の機能の活用です。先に説明したように、ブロックチェーンは改ざんが非常に困難な公開型の台帳です。この特性を使えば、例えば「ある文書が改ざんされていない」ことを証明できます。これを応用すれば「本人確認」のような役割をブロックチェーンに持たせることもできます。

例えば、文書のデジタルデータのハッシュ値をブロックチェーンに記録し、文書の真正性をブロックチェーンに「公証」してもらうサービスがいくつも提案されています。例えばリクルートテクノロジーズの実証実験シェアリングエコノミー協会の実証実験が、その事例です。

ブロックチェーンを認証基盤に使うメリットは、特定の組織、人物を信用しなくてもいいことです。以前、SSL証明書を発行する認証局がハックされる事件がありました。いかに強固なセキュリティを保つ仕組みを作っても、例えば認証局という機関を信用する必要がある場合、例えば内部犯行によりハックされるリスクがどうしても残ります。ブロックチェーンはもともと「特定の誰かを信用しなくてよい」仕組みとして作られたものなので、次の世代の認証基盤として優れているのではないか、という期待があります。

ところで、今回紹介したブロックチェーンの価値の整理を行ったHope氏は、KeychainのCEO、つまり経営者です。Hope氏は「最も早い時期に認知されるブロックチェーンの価値は認証基盤だ」と主張しており、実際にChain社は認証基盤のため「だけ」に独自ブロックチェーン技術を活用する、と説明しています。これは明らかにポジショントークではありますが、認証基盤としてブロックチェーンを使うという考え方そのものは広く行き渡っています。

ブロックチェーンは、まだまだ議論が多い分野です。しかし、今回紹介した意見のように、「何に使うと有用なのか」という議論の整理が徐々に進んでいるとも感じています。