Mastodon運営をどう楽しむか?「mstdn.jp」管理人ぬるかるさん & ゲヒルン代表 石森大貴さん 対談

ネットで急速に注目を集めるSNS「マストドン」。「mstdn.jp」を自宅サーバーで日本人向けに立ち上げた管理者ぬるかるさんは、わずか1週間で日本のIT業界に訪れたマストドン熱のキッカケを作った張本人で、すでに時の人となっています。世界最大のインスタンスとなった「mstdn.jp」はその後、さくらインターネットのサーバーに移動して運営されています。ぬるかるさんに管理者の苦労話や面白さ、そしてこれからマストドンを始める人のため、どう活用するか、管理者の視点を伺ってきました。

ーーマストドン最大のインスタンス「mstdn.jp」をどういった経緯で立てようと思ったのですか?

ぬるかる:最初はマストドンが広まるなとも思ってなく、実家のサーバーを実はあまり有効活用できていなかったので、この際だから使ってみようかなあと。サーバーがヤバイことになってきたのは、「ITmedia砲」からですね。ITmediaが「mstdn.jp」を最初に取り上げ始めた時、ゼミが終わって一息ついていたんですが、「ITmediaが取り上げてる」って聞かされて、マジかよと。

マストドンは自分でインスタンスを立てられることが一番大きく、自分が管理しているユーザーに向けてプッシュしやすくなると思うんです。そう考えると、Twitterよりも広まる速度が速い要因はそこにあるんじゃないですかね。

「mstdn.jp」管理人の、ぬるかるさん

ーーマストドンとTwitterの大きな違いをどう考えていますか?

ぬるかる:Twitterは1社が全てを管理していますよね。そうでなくて、分散型でインスタンスごとに管理できることは大きいですね。

僕は、Twitterと比較するよりも、自分でサーバーを設置して作るコミュニティサイトとかスクリプトがあるじゃないですか。あそこと比較するべきだと思っていて。放置しておくと、コミュニティが育たなくて苦戦するじゃないですか。マストドンはリモートフォローができるから、コミュニティの形を作りやすいところが利点かなと思っています。

ーーマストドンが広まっていくには、どんなことが必要だと感じていますか?

ぬるかる:広まるには企業の利用も必要だと思っています。だからといって、個人ごとに誰でもインスタンスを立てられる部分を見捨ててはいけない。贅沢な願いですかね。でも優劣は付けられないと僕は思っています。

サーバーを用意しちゃえば、「Docker」と「nginx」をインストールして、公式のドキュメントを読んで出来てしまうので、インスタンスを動かせられます。「mstdn.jp」ほど大人数になると難しくなるんですけれど、数百人のレベルだったらきつくはないので。

ーーマストドンを活用するのは、そんなに難しくないと。

ぬるかる:僕が「mstdn.jp」の運用で苦労しているので、「ああ、マストドンって大変なんだな」と思われて敬遠されるのは、やっぱり嫌ですね。もうちょっと簡単に始められるよ、ということをもっと知ってほしい。

マストドンはインスタンスを分けられる以外であまりTwitterと変わりがない、と考える人は多いと思いますが、技術的な目新しさじゃなく、コンテンツの面白さに人は集まってくると思うので、やっぱりコミュニティが重要かなと思います。

ーー普段はどう使ってらっしゃいますか?

ぬるかる:普段は自分のインスタンスを見たり、あとは他のインスタンスでアカウントを作っているので、ローカルタイムラインを見たりしてますね。リモートフォローができるので、一つのアカウントでも十分なんですけれど、登録していたインスタンスが問題で潰れたりする可能性もあるので、その予備も兼ねて別のアカウントを作ったりしますね。

「○○@ドメイン名」を入力すると、他のインスタンスの情報が出てくるので、クリックするとリモートフォローの画面を開いて、気になった人をフォローすることができます。

面白かったのは、ゲヒルンさん(ゲヒルン株式会社)がやっている「unnerv.jp」の災害情報インスタンスが面白くて。情報発信専用のインスタンスを立ててやるっていうのは面白いチャレンジだなと。別にさくらインターネットさんとつながっているから、とかそういう理由じゃなくて(笑)。本当に素で面白いと思ってましたし、情報を提供してくれる専用のインスタンスを企業がもっと立ててくれれば。

(参照:https://isid.ai/dev/2017/04/16/1191/

ーーマストドンではアカウントの作り方も自由ですね。

ぬるかる:Twitterだと、Twitter社の規約に添っていないと、公式アカウントマークを付けさせてもらえないじゃないですか。公式アカウントにしてほしい人がいたんですけれど、特定のカテゴリーに入らないと駄目らしいので、断念した人がいる話を聞いてすごく残念だなあと思ってました。

マストドンだと、そういったことが一切関係なく、個人や企業がドメインを切って「これは公式アカウントのインスタンスです」と言い切れて自分で証明できることが、面白い。

(参照:https://togetter.com/li/1081135

ここからは、マストドンで防災情報を配信するインスタンス「unnerv.jp 」を立ち上げた、ゲヒルン株式会社代表取締役の石森大貴さんに参加いただき、ぬるかるさんと伴に、一早くマストドンでインスタンスを立てて運用を始めた時の驚きや苦労話、今度の課題を、お二人に運営者視点で包み隠さず語ってもらいます。

(参照:https://isid.ai

石森:最近マストドンで、ユーザーが作れる新しいタスクが追加されていたんですけど、それがひどくてですね、コマンドラインからユーザーを追加できればいいのに、対話形式になっていて凄い不便で(笑)。いちいち答えるスクリプトを書かないといけないんですよ。ちょっと直してもらえます?(笑)

ゲヒルン株式会社 代表取締役 石森大貴さん

ぬるかる:もうちょっと時間が取れるようになったら、コードベースやサーバーをゆっくりみたいんです。改良したい点とか、いろいろあるんですよ。例えば、ヤバそうなトゥートを見つけた時、管理画面からワンクリックでできなくて。まず自分で通報して(笑)。管理画面で通報一覧を見て、そこから消すと。あとは、削除権限だけ与えたいとか、サイトトップの情報だけ変えられる権限を与えたいとか、部分的に権限を譲渡することが今はできないので。そこも直したいし。

石森:(2ちゃんねるに)削除人って昔いませんでした?

ぬるかる:でも、削除人が増えて騒いでると、面倒くさいことになりそうで。マストドンで削除人を募ることも難しいなあと思ったりしてます。

石森:ドキュメントにベストプラクティスを書いてほしいですよね。

ぬるかる:そこもコミットが必要かなと。最初READMEのトップにpush:refresh の仕様とか書いてあったのに、いつの間にか移っていたので。そこら辺も試行錯誤なのかな。nginxのコンフィグも最近いじくられたって聞いたので、見ないとなと思ってます。

僕の時は、ストリーミングとそうでないものでnginxのフロントエンドを分けているので。そこの設定はすごく試行錯誤で、そこら辺はドキュメントが欲しいなと思いました。そうだ、特に欲しかったのは、S3の設定をどうすればいいか、全くわからなかったので、そこは一番苦労したところで、ドキュメントに書いておいてほしかったです。

石森:うちはAmazon CloudFrontを使っているんですけど、APIは直接キャッシュせずに通して、他のページやアセッツはキャッシュしているんです。それだけでも結構リクエスト数は減りますよ。

石森:ニッポン放送の「TUNER」は良いなあと思いました。運用の方法って二種類あると思うんです。片方は、自分専用で、この場合だと放送局だけのアカウントがあって、他のユーザーに登録を許可していない場合。もう片方は、誰でも来ていいよと言って、読者やリスナーが参加できて、一緒にローカルタイムラインを作っていく場合。どっちも放送局には向いていると思いました。

それから、一日一日経つごとにユーザー層が変わってません?初日と三日目と1週間でユーザーを見ていると、違うなって感じしませんか?

ぬるかる:特に「mstdn.jp」はリセットを何回もしたので。そこで断絶が生まれているんですよ。

石森:リセットしたら、中でパラレルワールドが生まれる感じじゃないですか。そこで人々が生まれ変わっている感じはしますよね。

ぬるかる:よく「1週間ごとにリセットすればいいじゃないか」と言われることがあって(笑)。

石森:7日でこの世を作る的な(笑)。匿名感が増えて自由度も増すけれど、7日で全て消える。

ぬるかる:でもニーズがあるなら、特別なサブドメインを切って作ってみるのも悪くないかも。

石森:マストドンの難しいところは、リモートフォローした時に、投稿が飛ぶので、他のサーバーから投稿を消すことが難しいことがあり。でも7日で消えるなら、「ロストドン」みたいにするのが面白いのかもしれませんね(笑)。7日目に全リセットですよ。リモートフォローも禁止にして。そうすれば他のサーバーに投稿が残ることも減らせるかも。

ぬるかる:マストドンはAGPLライセンスだから、不可能じゃないですよね。Twitterの変わりのような話で利用されているのに、実際はTwitterのアカウント連携させてたり(笑)。

石森:Twitterから避難してきたけれど、Twitterでログインしているという(笑)。

企業アカウントや大学のac.jpドメインのアカウントのみを紐付けたら、凄いタイムラインになりそうですね。

ぬるかる:ドメイン制限をコンフィグで設定できるので、現状でも実現できそうですね。ただ、公開設定の範囲にも寄りますけれど、公開されるって前提で動かないと。Slackみたいな使い方は、さすがに厳しいかなと思いますね。

石森:公開設定で「パブリック」と「アンリステッド」を殺してしまえば、プライベートなマストドンみたいにできると思うんですけど。

ぬるかる:ただ設定が不完全って話も聞くので。外からDMが見えるとか。

石森:プライベートな投稿はするなって気もしますけれどね。

ぬるかる:DMでやりとりはありますので、そういう使い方も不可能ではないとは思いますね。「東銀座ぱう」って投稿したら、東銀座ってIT企業といえばドワンゴしかないから、見つかりたくなければ「品川ぱう」ってトゥートするといいよと言われたことはあります(笑)。

石森:長文の投稿は嫌われますね。

ぬるかる:長文は結構スパム報告ありますね。

石森:500文字書けるからって、本当に書くと怒られる(笑)。

ぬるかる:長い投稿をする時は、「CWボタン」(コンテンツ・ワーニング・ボタン)をクリックして「長文注意」とメッセージを入れておくことをおすすめしたいですね。

石森:200文字くらいに修正したバージョンでマストドンを作っても良いかもしれないですね。コンフィグに文字数制限の設定を入れて欲しい。

ぬるかる:1文字だけしか流れないインスタンスとか、できそうですね。

石森:絵文字だけどか(笑)。寿司とか(笑)。

ぬるかる:いいなあ、絵文字インスタンス(笑)。ありそうですね。

こうやっていろいろ改造できるのが、マストドンの面白いところですね。

石森:あえて言えば、今のマストドンの勢いって、Twitterが生まれてからの10年を1週間で体験している、そんな感覚しません?

ぬるかる:結構そういう速度で進んでいるものは、多い気がします。例えば、ソーシャルゲームはゲームの歴史を凄い速度で追い上げているって話も聞きましたし。確かに「mstdn.jp」はどんどん人が増えて、カオスになってきているので。

石森:秩序を保とうとする人が出始めた時に、また世代が入れ替わるんだろうなと。そんな気がしますね。今は無法地帯なりの楽しさがあるんですが、Twitterみたいに秩序を守ろうとする体制が出てくると、うるさくなってくるんじゃないですか。

ぬるかる:僕としては、法律で捕まるようなコンテンツじゃない限りは、保護したいなと思っているので。これからはドワンゴさんが悩むと思いますけれど(笑)。

ーー最後の質問ですが、マストドンによってインターネットの何が一番変わると思われますか?

ぬるかる:今までTwitterに頼ってきた企業が乗ってくると、独力で自分たちに近い形の情報を提供できるので、情報発信の仕方が大きく変わってくると思います。

石森:それは僕も思います。企業が自分たちのドメインで、自分たちの利用規約を制定して、活動ができる。コーポレートサイトと同じ機能を担う点では、Twitterに依存しなくてもいいし。利用規約が急に変えられることもないし。そういう面はいいなと思います。

あと、SNSのコミュニケーションとしては、自由が広まる一方で、分断も広まる気がします。人類で言う共存と調和の問題が、インターネット上で起きている、そんな気もします。