「さくらの専用サーバ」ってどういうサービス?――はじめての「さくらの専用サーバ」(1)
近年では仮想化やクラウドを使ったサービスが注目されているが、ある程度以上のスペックのサーバーが必要な場合や、長期にわたって稼動させるようなサーバーであればサーバー1台をまるごと借りる専用サーバーサービスのほうがコストパフォーマンスが高いことも多い。今回は、さくらインターネットが提供している「さくらの専用サーバ」について、コストと性能、そして受けられるサービスの面からクラウドやVPSと比較してみよう。
目次
専用サーバーって何?
ネットワーク越しに何らかの機能を提供するハードウェア/ソフトウェアは、一般に「サーバー」と呼ばれる。サーバーにはオフィス内で利用するようなファイルサーバーやグループウェアからデータベースサーバー、不特定多数がアクセスするようなWebサーバーまで、小規模なものから大規模なものまでさまざまなものがある。
サーバー用マシンは通常のPCとは異なり、利用者が直接そのハードウェアに触る必要がない。むしろ、不用意にハードウェアに触れてしまうとトラブルの原因になることも考えられる。そのため、データセンターと呼ばれる専用の場所にサーバーを設置するのが一般的だ。大規模な組織などでは自社でデータセンターを持っていることもあるが、データセンターの運用・管理には多くのコストがかかるため、多くは専門の会社が運用しているデータセンターに利用料を払ってサーバーを設置する「ハウジング」や、そのデータセンター内にあらかじめ設置してあるサーバーを借りて利用する「レンタルサーバー」を利用することになる。
レンタルサーバーにもいくつかの種類があり、昔から使われているのが、1台のサーバーを複数の利用者で共有して利用する「共有サーバー」だ。共有サーバーは1台のサーバーを複数の利用者で共有するため比較的低料金で利用できるが、例えば自由にソフトウェアをインストールすることができないなど、ユーザーの権限には制限があった。その後、この問題をある程度解消した「VPS(Virtual Private Server)」といったサービスも登場、近年利用者を増やしている。また、最近ではVPSを発展させ時間単位/使用したリソース単位での課金を可能にしたクラウド型サービスも注目されている。
いっぽう、サーバー1台を丸ごとレンタルできるサービスもあり、これは「専用サーバー」などと呼ばれている。専用サーバーは共有サーバーやVPSと比べるとやや費用は高いが、サーバー1台を専有できるため、より多くの処理能力やストレージを利用できるという特徴がある(図1)。
各サービスの料金比較―― 専用サーバーは実は「安い」
近年では、独自のサービスやサーバーを立ち上げようとする際にVPSやクラウドなどを利用するケースが増えている。VPSやクラウドサービスは比較的安い料金から利用できるので、コストパフォーマンスが高いように見えるのがその理由の1つだろう。もちろん、小規模なWebサイトや利用する人数が少ないようなサービスであれば、低価格のVPSやクラウドで十分に足りるケースも多い。しかし、だからといってすべてのケースでVPSやクラウドが最適かというと、実はそうではない。場合によっては、「専用サーバー」サービスを利用するほうが適しているという場合もあるのだ。
さくらインターネットが提供する「さくらの専用サーバ」
さくらインターネットは古くから専用サーバー型サービスを提供しており、現在では「さくらの専用サーバ」という名称でサービスが提供されている。ハードウェアやネットワーク、電源などのインフラはすべてさくらインターネット側が管理を行っているので、ユーザーがこれらに対する作業を行う必要はない。ユーザーが物理的にハードウェアに触ることはできないが、後述するリモートコンソール経由でBIOS設定やRAIDカードの設定を変更したり、IPMI(ネットワーク経由でハードウェアにアクセスして操作を行う機構)を利用して電源のオン/オフやハードウェアリセット(リブート)を行うといった、ハードウェアに関する設定変更や操作なども可能だ。
ユーザー側は、Webブラウザでアクセスできる管理コンソール(図2)や、Javaベースのリモートコンソール(図3)でサーバーにアクセスできる。リモートコンソールはサーバーのコンソールに直接アクセスできるもので、サーバー本体側のネットワークなどが停止している場合でもアクセスが可能だ。
さくらの専用サーバではCPUやメモリ容量、ストレージの種類/容量、電源の冗長化など、構成を柔軟に選択できるのが特徴だ。「エクスプレス」および「エクスプレスG2」、「フレックス」という3種類のラインアップが提供され、各シリーズにはそれぞれCPU構成が異なる複数の基本構成が用意されている。さらに、メモリ容量やストレージの種別/容量などもカスタマイズできる。
専用サーバーとVPS、クラウドとスペックや料金を比較する
専用サーバーと同じように使えるサービスとしては、ほかにもVPSやクラウドといったサービスがある。さくらインターネットではそれぞれ「さくらのVPS」や「さくらのクラウド」といった名称でサービスが提供されている。これらサービスと「さくらの専用サーバ」の違いだが、まず単純にその基本となる仕様と料金をまとめたものが表1だ。(※表は2013年1月時点の内容です)
サービス名 | 月額 料金 |
初期 費用 |
メモリ | ストレージ | ストレージ 種別 |
CPU | |
---|---|---|---|---|---|---|---|
VPS | 1G | 980円 | 0円 | 1GB | 100GB | HDD | 仮想2コア |
2G | 1,480円 | 1,980円 | 2GB | 200GB | 仮想3コア | ||
4G | 3,980円 | 5,980円 | 4GB | 400GB | 仮想4コア | ||
8G | 7,980円 | 9,980円 | 8GB | 800GB | 仮想6コア | ||
SSD 2G | 1,780円 | 1,780円 | 2GB | 50GB | SSD | 仮想2コア | |
SSD 4G | 3,680円 | 3,680円 | 4GB | 100GB | 仮想3コア | ||
SSD 8G | 7,980円 | 7,980円 | 8GB | 200GB | 仮想4コア | ||
SSD 16G | 15,880円 | 15,880円 | 16GB | 400GB | 仮想8コア | ||
専用サーバ | エクスプレス | 8,800円 | 79,800円 | 16GB | 1TB ×2(RAID1) |
SATA HDD |
4コア |
10,800円 | 99,800円 | 6コア (HT対応) |
|||||
12,800円 | 149,800円 | 6コア×2 (HT対応) |
|||||
エクスプレスG2 | 19,800円 | 0円 | 4コア (HT対応) |
||||
27,800円 | 8コア (HT対応) |
||||||
37,800円 | 8コア×2 (HT対応) |
||||||
フレックス | 27,675円 | 199,800円 | 2TB ×2(RAID1) |
6コア (HT対応) |
|||
30,675円 | 4コア×2 (HT対応) |
||||||
33,675円 | 6コア (HT対応) |
||||||
37,675円 | 6コア×2 (HT対応) |
||||||
クラウド | 1,900円 | 0円 | 1GB | 20GB | SSD | 仮想1コア | |
3,570円 | 2GB | 仮想2コア | |||||
8,295円 | 4GB | 仮想4コア |
なお、専用サーバおよびクラウドについてはそれぞれメモリやストレージ容量をカスタマイズできるため、ここでは基本となる仕様およびその価格について掲載している。また、クラウドについては時間単位での課金が行われるが、ここでは最大月額料金で表記している。
ここから分かるのは、専用サーバは確かに最低料金はVPSやクラウドと比べると高いが、スペックはVPSやクラウドよりも高く、費用対効果が高いということだ。
料金以外の面で見ると、さくらのVPSはメモリやストレージ容量のカスタマイズが行えず、用意されているプラン(現状では8プランが提供されている)からしか選択できない。さくらの専用サーバとさくらのクラウドはどちらもメモリやストレージの容量を柔軟にカスタマイズ可能で、目的に応じた構成を取ることができる。さくらの専用サーバの場合、エクスプレス/エクスプレスG2シリーズではメモリやストレージの容量を増やした場合でも月額料金は変わらない(初期費用のみ必要となる)のも特徴だ。
ちなみに、専用サーバのフレックスシリーズおよびクラウドはメモリやストレージの容量に応じて月額料金が変わる料金体系となっており、フレックスシリーズの場合メモリを16GB増やすごとに月額料金が1,575円アップする。いっぽう、クラウドの場合はコア数やトータルのメモリ容量によって料金が異なるものの、メモリを16GB増やすと1万円以上月額料金がアップする。また、ストレージを増やした場合についても専用サーバのほうが安い料金設定となっている。利用期間にもよるが、メモリやストレージを多く使用する場合は専用サーバを選択したほうがコストパフォーマンスは高い。
そのほか、専用サーバの大きなメリットの1つとして、サーバー上でKVMやXen、VMwareといった仮想化ソフトウェアを実行できる点がある。小規模なWebサイトなど、あまりリソースを必要としないサーバーが複数台必要な場合、複数台のVPSを利用するよりも専用サーバ上で仮想化ソフトウェアを動かし、そこで複数の仮想マシンを動かして運用するという選択肢も考えられるのだ。
「さくらの専用サーバ」サービス詳細
さて、それではこの「さくらの専用サーバ」のサービスについて詳しく紹介していこう。さくらの専用サーバでは、さまざまな需要に柔軟に対応できるよう、「エクスプレス」および「エクスプレスG2」、「フレックス」という3種類のラインアップが用意されている。
コストパフォーマンスの高い「エクスプレス」シリーズ
まず、さくらの専用サーバでもっともコストパフォーマンスが高いシリーズが「エクスプレス」シリーズだ。CPUが異なる3モデルが用意されており、標準構成時の月額料金は8,800円~12,800円となっている(表2)。
CPU | Xeon E5-2407 (2.20GHz、4コア) |
Xeon E5-2430 (2.20GHz、6コア) |
Xeon E5-2430 (2.20GHz、6コア)×2 |
---|---|---|---|
標準構成時の月額料金 | 8,800円 | 10,800円 | 12,800円 |
初期費用(SATA HDD選択時) | 79,800円 | 99,800円 | 149,800円 |
標準構成の場合メモリは16GB、ストレージは1TBのSATA HDD×2となっているが、これらは前述のようにオプションでカスタマイズが可能だ。そのほか、細かい仕様などはさくらの専用サーバのエクスプレスシリーズページに掲載されている。
なお、初期費用は構成によって代わり、ストレージとしてSAS HDDを選択した場合は+5,000円、SATA MLC SSDを選択した場合は+20,000円となる。また、16GB単位でメモリの増設も可能だ(16GBあたり+17,850円)。メモリやストレージの構成を変更した場合、初期費用は追加でかかるものの、月額料金は変わらない。
エクスプレスシリーズは初期費用はかかるものの、月額料金は比較的低廉であるため、長期にわたって利用したい場合のコストパフォーマンスが高い。また、最低利用期間は3か月と短いため、1年未満しか利用しないことが決まっている場合などもこちらを選択することになるだろう。
初期費用を押さえられる「エクスプレスG2シリーズ」
エクスプレスG2シリーズは、初期費用0円で利用できるシリーズだ。標準構成時の月額料金は19,800円~37,800円(表3)。標準構成のメモリは16GB、ストレージは1TBのSATA HDD×2でエクスプレスシリーズと同じだが、提供されるCPUのスペックはより高いものになっているほか、より多くのメモリを増設できる仕様になっている。さらに、オプションでフラッシュメモリベースの高速ストレージである「Fusion-io ioDrive」も選択できる。より詳しい仕様や料金などはエクスプレスG2シリーズのページを参照してほしい。
CPU | Xeon E3-1230V2 (3.30GHz、4コア) |
Xeon E5-2670 (2.60GHz、8コア) |
Xeon E5-2670 (2.60GHz、8コア)×2 |
---|---|---|---|
標準構成時(SATA HDD選択時)の月額料金 | 19,800円 | 27,800円 | 37,800円 |
初期費用 | 0円 |
エクスプレスG2シリーズでは、申込時に選択したストレージによって月額料金が変わるようになっており、SAS HDDを選択した場合は標準構成時の料金+1,000円、SSDを選択した場合は+2,000円(4コアモデルの場合)/+3,000円(8コア/8コア×2モデルの場合)、Fusion-io ioDriveを追加した場合は+30,000円となっている。どれを選択した場合でも初期費用は変わらない。
また、エクスプレスシリーズの場合と同様、ストレージやメモリの増設も初期費用のみ、月額料金の追加なしで可能だ。ただし、Fusion-io ioDriveについてのみ初期費用は0で、月額31,500円という料金設定となっている。
エクスプレスG2シリーズは標準構成での初期費用が0円なので、初期費用を抑えたい場合や、より高性能なサーバーが必要な場合にはこちらを選択すると良いだろう。
大容量のHDDを搭載できる「フレックス」シリーズ
最後に紹介する「フレックス」シリーズは、より大容量のストレージを搭載できるシリーズだ。料金は月額19,800円から(表4)。CPUのスペックはエクスプレスシリーズに近いが、エクスプレスシリーズやエクスプレスG2シリーズよりも大容量のストレージを最大で12台まで搭載できる。
CPU | Xeon E5645 (2.40GHz、6コア) |
Xeon E5620 (2.40GHz、4コア)×2 |
Xeon X5675 (3.06GHz、6コア) |
Xeon X5675 (3.06GHz、6コア)×2 |
---|---|---|---|---|
月額料金 | 19,800円 | 22,800円 | 25,800円 | 29,800円 |
初期費用 | 199,800円 |
より詳しい仕様や料金などはフレックスシリーズのページで確認できるが、フレックスシリーズではエクスプレスシリーズやエクスプレスG2シリーズとは異なり、標準構成での月額料金にメモリおよびストレージ料金が含まれていない。そのため、選択したメモリおよびストレージ容量に応じた月額費用(メモリは16GB単位で16GBごとに1,575円、ストレージはSASの場合2TB×2で6,300円、SSDの場合4,200円から)が追加で必要となる。その代わり、メモリやストレージの追加に対する初期費用はかからない。また、ストレージは最大12台(+Fusion-io ioDrive)まで増設できる。
フレックスシリーズは、同等のスペックのサーバーを選択した場合にエクスプレスシリーズやエクスプレスG2シリーズよりもやや割高になるが、その代わり大容量のストレージを搭載できる。そのため、大容量のストレージが必要となる用途ではこちらを選択することになるだろう。
「さくらの専用サーバ」の柔軟なネットワーク構成
さくらの専用サーバではハードウェアだけでなく、ネットワークの構成についても柔軟に変更できる。たとえば専用サーバーを複数台利用する場合、それらをローカルネットワーク内で接続することが可能だ。ローカル接続は無料で利用でき、すべて1000Mbpsの回線が使用される。たとえばインターネット側からアクセスしてほしくないデータベースサーバーなどは、ローカルネットワークのみに接続するよう構成すれば良い(図4)。さらに、大規模なシステムを構築する場合などにも対応できるよう、ローカル接続は最大で3つまで利用できる。また、さくらの専用サーバだけでなく、さくらのクラウドやリモートハウジングなどと接続する「ハイブリッド接続」も有料オプションとして用意されている。
インターネット側の回線については、デフォルトでは100Mbpsの共有回線が提供されるが、優先制御により安定して一定の帯域が利用できる「プレミアム」回線や、1Gbpsの回線の利用できる「スタンダート1G」回線なども有料オプションとして提供される(表5)。
プラン名 | 初期費用 | 月額料金 | アップリンク | 接続形態 | 利用帯域の目安 |
---|---|---|---|---|---|
プレミアム10 | 0円 | 7,800円 | 100Mbps | 100Base-TX | 10Mbps(優先制御回線) |
プレミアム30 | 0円 | 29,800円 | 100Mbps | 100Base-TX | 30Mbps(優先制御回線) |
プレミアム100 | 0円 | 79,800円 | 100Mbps | 100Base-TX | 100Mbps(優先制御回線) |
スタンダード1G | 0円 | 199,800円 | 1000Mbps | 1000Base-T | 200Mbps(ベストエフォート) |
さらに、複数台のサーバーを接続できる専用のグローバルネットワークを提供する「専用グローバルネットワーク」オプションもある。これは、使用しているサーバーをユーザーごとに独立したサブネットに接続するサービスだ。料金は月額3,360円から(割り当てられるIPアドレス数によって異なる)。また、専用グローバルネットワーク利用時は有料オプションとしてファイアウォール(月額9,800円)やロードバランサー(月額12,800円)も利用できる。
IPv4/v6アドレスの追加も可能だ。IPv4とv6で若干費用は異なるが、IPv4の場合は申込み手数料6,300円+1IPアドレスあたり月額210円、IPv6の場合は申込み手数料6,300円+初期費用1,050円で追加が行える。
「用途に応じての使い分け」が正解だが、長期にわたっての利用なら確実に「さくらの専用サーバ」のコストパフォーマンスが高い
今回は主に料金とスペックの面から「さくらの専用サーバ」と「さくらのVPS」、「さくらのクラウド」を比較したが、「さくらの専用サーバ」や「さくらのVPS」と比べると「さくらのクラウド」はやや高めの料金設定になっていることが分かる。
とはいえ、さくらのクラウドを選択する理由がないわけではない。クラウド型サービスでは、いつでもサーバーの数を増やしたり、稼働中のサーバーを停止させることが可能だ。その際に初期費用や手数料がかかることはなく、使った分だけの料金を支払えば良い。そのため、ごく短期の間だけサーバーを使いたい場合や、サーバーの負荷が大きく変動するようなサービスであれば、小まめにサーバーの数や割り当てリソースを変更することでコストを下げることができる。
逆にいうと、長期にわたって稼動させるようなサービスや、負荷の変動が少ないようなサービスであれば、専用サーバーのほうがコストパフォーマンスは高い。稼動させたいサービスの内容によって、どのサービスを利用するのが良いのか事前に吟味して、最適なサービスを選択するのが良いだろう。