7月31日(火)に、さくらインターネットから新たな取り組みに関するプレスリリースが出ました。

さくらインターネット、
日本初の衛星データプラットフォーム「Tellus(テルース)」の開発・利用促進を行うアライアンス「xData Alliance」発足
〜宇宙データのオープン&フリー化で多様な宇宙ビジネス創出を牽引〜

「衛星データ」とか「宇宙ビジネス」とか聞き慣れない単語が並んでいて、これはいったい何が始まるのだろう?という感じなのですが、同日に渋谷の東京カルチャーカルチャーで、この取り組みに関する記者発表会と、有識者の方々をお招きしてのトークイベントがあると聞いたので、ちょっと行ってきました。

オープン&フリーな宇宙データプラットフォーム「Tellus」

午前中に行われたxData Alliance記者発表会では、はじめに経済産業省の國澤朋久さんからあいさつがあり、続いてさくらインターネット代表の田中邦裕が事業内容を説明しました。今回の事業はさくらインターネットの新サービスというわけではなく、経済産業省が手がける「平成30年度政府衛星データのオープン&フリー化及びデータ利用環境整備事業」として行われるものです。こういう事業が始まった経緯は以下の通りです。

  • 現在の宇宙産業はJAXAをはじめとする官需が8-9割を占める。
  • よって、今後この分野を発展させるには民需の拡大がカギ。
  • しかし現在の宇宙産業には、データの利用や処理に高い費用がかかる、データが巨大なためPCで処理できない、どんなデータがあるのかよくわからないので民間からのニーズが出てこないなど、いくつかの課題がある。
  • そこで、これらの課題を解決するために、政府衛星データを利活用できるプラットフォームを作る。衛星データを使いやすく処理して載せるのに加えて、分析や解析のためのソフトウェアやコンピューティング環境も用意する。さらに、プラットフォームの利用促進のために、これを無料で使えるようにする。

このプラットフォームは「Tellus(テルース)」と命名されました。由来はローマ神話に登場する大地の女神「Tellus」からで、地上から得られるデータにより豊かな未来を作りたいという願いが込められています。そして、さくらインターネットはこの事業の委託先として、Tellusの構築や運用を担当します。Tellusは2018年内にβ版を提供、2019年2月下旬にVer.1.0の提供開始を予定しています。β版はすでに申し込みを受け付け中です。

田中は事業内容の説明とともに、次のような抱負を述べました。

「今回のプロジェクトにおいては、『やりたい人が手軽にできる』環境を作りたいです。チャレンジやイノベーションを起こすには、まずそれにかかるコストを下げることが大切です。そうすれば失敗しても痛手が小さくなるので、チャレンジする人が増え、成功する人も出てきます。そんな世界を宇宙データの分野でも作っていきたいです。
それから、単に宇宙データを提供するだけでなく、宇宙データを使うことが前提になるような社会を作りたいです。例えばLCCはネット予約が前提になっているので価格を弾力的に変えられます。宇宙データもこんな感じで『使うのが前提』になると一気に普及が進んでいきます。このような状況を作るために、ライブラリの提供や勉強会・コンテストの実施なども並行して進めていきます」

Tellusの開発・利用促進を行う「xData Alliance」

続いて、さくらインターネットのフェローである小笠原治から、Tellusの開発・利用促進のために結成された「xData Alliance(クロスデータアライアンス)」の説明がありました。Tellusの事業モデル(下図)におけるCLOUDの部分はさくらインターネットが担いつつ、PARKの部分をアライアンス各社と連携することで、より良いプラットフォームに育てていこうという狙いです。技術だけを育てればよいわけではないので、アライアンスにはIT企業や宇宙・地理関係の企業だけでなく、ビジネス開発、投資、人材育成など、幅広い企業が参加しています(一覧はTellusのウェブサイトに掲載されています)。

Tellusの事業モデル

アライアンス名に使われている「xData」は、宇宙データと地上データをクロスさせることを意味しています。宇宙データは遠く離れた所から地球をセンシングしたマクロなデータであり、地上データと組み合わせることで効果を発揮するだろうと期待されています。小笠原は「昔、インターネットは速くなる、セキュリティは強くなると信じた方々がインターネット上でビジネスを作ってきました。我々もそれと同じように、数年後には技術が進歩して宇宙データが当たり前に使えるようになると信じてやっていきます」とコメントしました。

アライアンス企業が続々と登場!

この後はxData Allianceに参加する企業の方々が登壇しました。メルカリの大堂由紀子さんは、民間で初めて衛星データを利用したビジネスを開発した経験をもとに「非宇宙系企業が参入することで、宇宙データの利用可能性が大きく広がる。メルカリで新しい価値を持つインフラ作りに挑戦したい」と述べました。アライアンスのリーダーを務める柴崎亮介さん(東京大学/G空間情報センター)からは「このプラットフォームは自分自身が使いたい。データ処理に時間がかかっているので、さくらのGPUサーバを使わせてもらいたい」といった要望もいただきました。自前で超小型衛星を打ち上げ、地球を観測するサービスを立ち上げているアクセルスペースの中村友哉さんは「宇宙データの利用はまだ世界的にも苦戦している状況の中、政府が衛星データの利用に舵を切る決断をしたことは大きい」とし、「今年が宇宙データ利用元年になってほしい」という期待を寄せました。

宇宙データビジネスフォーラムは大盛況!

続いて午後は「宇宙データビジネスフォーラム」と題する一般公開のイベントが行われました。記者発表会でもやった事業内容の説明と、宇宙に関わりのある有識者の方々をお招きしてのトークセッションというプログラムだったのですが、これが大好評で募集定員の150人があっという間に満席に。東京カルチャーカルチャーのホールいっぱいに椅子を敷き詰めて、それが全部埋まるぐらいにお客さんが座っている、なんていうイベントは初めて見ました。しかも平日の昼間です。宇宙データやそれを使ったビジネスに関心のある人がこんなにいるんだ!という衝撃が筆者の中に走りました。

宇宙データビジネスのいま

トークセッションの前半は、宇宙ビジネスメディア「宙畑」代表の城戸彩乃さんがまとめた、宇宙データビジネスの現状をまとめたスライドを見ながら進行しました。内容を要約するとこんな感じです。

  • 宇宙ビジネスの規模は世界で38兆円。そのうち35%程度が宇宙利用ビジネスの市場。
  • 宇宙利用の用途はいろいろあるが、宙畑では「人工衛星の利用」「宇宙空間の利用」「宇宙利用の促進」の3つに大別している。詳しくは宙畑作成の「宇宙利用マップ」を参照。
  • 宇宙利用マップ (出典:https://sorabatake.jp/gn_20171022/ )

  • 欧米では「宇宙×○○」というビジネスが増えていて、通信(飛行機内でのWiFi利用)、農業(農地のモニタリング)、漁業(魚群探知)、貿易(船舶による物流)など各種分野の事例がある。
  • 一方、日本の宇宙産業は金額で見ると1.2兆円、人口は約9千人で、欧米に比べると非常に小規模(ちなみに日本のIT業界の人口は約90万人)。会場でも宇宙ビジネスに関わっている人に手を上げてもらったが数人程度。
  • 宇宙ビジネスを手がける企業もまだ少ないが、アクセルスペース(超小型衛星の製造と運用)、スペースシフト(衛星を利用したビッグデータ取得)、ウミトロン(養殖産業への利用)、ビジョンテック(農業への利用)などの例がある。
  • 衛星データプラットフォームとしては、欧州のCopernicus、米国のLandsatLook Viewer、日本のG-PortalやDIASなどがある。欧米では民間企業もプラットフォームを提供していて広く利用されているのに対して、日本は官需が大半ということもあってまだ広がりが薄い。
  • 広域を観測できるのが衛星の大きな利点で、国土の広い国はその利点を十分に活かせるが、日本は国土が狭いのでメリットを得られにくい。これが今まで衛星データ利用が広まらなかった原因かもしれない。

なお、宇宙ビジネスの現状については、宙畑の記事に詳しくまとめられています。興味のある方はぜひご覧ください。

有識者が語り合う宇宙データビジネスの展望

この後は、登壇者の皆さんによるフリートークに移行しました。さまざまな話が出たのですべてを取り上げることはできませんが、気になった話題をレポートします。

宇宙データのライセンスはどうなる?

登壇者の1人であるSF作家の藤井太洋さんからは「宇宙データのライセンスがどうなるか気になりますね」というコメントがありました。例えば米国のNASAのデータはパブリックドメインであり、欧州の宇宙データもクリエイティブ・コモンズで提供している例があります。このようになっていると商用利用も含めてデータの利用がしやすいのですが、さて日本のプラットフォームはそこまで利用しやすいライセンスを設定できるだろうか?という問いかけです。何かと規制をかけたがるのが日本の文化ですが、宇宙データについてはぜひともその壁を乗り越えてほしいですね。

[参考]

注目の宇宙ビジネスは?

同じく登壇者の1人である石田真康さん(A.T.カーニー株式会社/一般社団法人SPACETIDE代表理事)には、ファシリテーターを務めた小笠原から「宇宙ビジネスで注目しているのはどのあたりですか?」という問いかけがありました。これに対して石田さんは、フランスが世界中に排他的経済水域(EEZ)を持っていて、その安全を確保するために衛星利用が発達している例を挙げ、日本もEEZの広さは世界6位なので海洋分野での適用は大いに可能性があるとしました。また、日本は国土が狭い上に地上のインフラが非常に発達していて、国内に閉じた衛星利用ではメリットを見出しにくいので、国を超えたオペレーションが必要なものに向いているのではないかと指摘しました。

衛星データはいろんな情報が詰まった地図

参加者からは「宇宙データは地理的な情報だけですか?」という質問がありました。これに対しては、可視光で撮影された画像だけでなく、電磁波の反射から地表の水分量や温度などさまざまなデータが取れることや、飛行機や船舶の位置情報なども衛星経由でデータを送っているなど、「いろんな情報が詰まった地図と思ってもらうといい」(小笠原)という回答がありました。

電磁波の波長と取得できるデータ (出典:http://www.sapc.jaxa.jp/use/data_view/ )

その一方で、「衛星からリアルタイムなデータが欲しいのですが」という要望に対しては「秒以下のリアルタイム性は衛星には求めない方がいい」(小笠原)「小説の中で『リアルタイムに地上を撮影する衛星ネットワーク』を考えたのですが試算したら8万基必要だったので、現実には無理だと思います」(藤井さん)とのことでした。衛星データも万能ではないようで、だからこそ地上データとの組み合わせが重要になるようです。

プラットフォームのカギを握るのは衛星以外のデータ!?

さらに、石田さんからは「Tellusの概要を見ると、衛星データ以外に『その他データ』というのがあるのですが、これはどこからどんなのが来るのですか?」という質問が出ました。衛星データだけでできることは限られているので、それ以外に何が使えるかがこのプラットフォームのカギを握っている、という意見です。「妄想レベルでは『みんなTellusに置いてよ』と思っています」(小笠原)とのことですが、まだ具体的には決まっていないようで、「今日の参加者に『こんなデータを置いてほしい』というのを書いてもらって、それを見て小笠原さんがデータ持ってるところに営業に行くとかどうですか?(笑)」(石田さん)という提案もありました。

身近なところに利用されてこそ本当の宇宙データ時代の到来

そして、宇宙データビジネスを発展させるにはどうすればよいかについてはいろいろな意見が出ました。石田さんは「宇宙データビジネスは宇宙産業側の発想だけで押し売りしても売れるわけではなく、いろんなデータを使いたいと思っている非宇宙産業側の発想が必要」という考えを示し、例としてfacebookがアフリカの人口分布マップを作りたいという動機で衛星データを大量に購入した件を挙げました。城戸さんも「こんなことやりたいんだけど、これに合った衛星データありませんか?というユーザからの要望をもっとどんどん出していった方がいいですね」と、やはりユーザ側からのニーズが産業を発展させるという意見。藤井さんからは「衛星データからは日本だけでなく近隣国の情報も取れるので、例えば中国のデータを分析して結果を中国に売るなんていうビジネスもできそうですよね」という新たなビジネスアイデアが。そして小笠原からは「宇宙データとか宇宙ビジネスっていうと壮大なものをイメージされるかもしれませんが、もっと身近なところにも活用できるはずで、そういうところに宇宙データが入り込むことで産業規模が大きくなります」というコメントがあり、最後に今後の抱負として「多機能じゃなくてもいいから使いやすいプラットフォームを作ることが大切だと思っています。一般の方も宇宙データを触れる状況を作っていきますので、期待していてください」と述べてトークセッションを締めました。

おわりに

イベントを見るまでは、宇宙データビジネスと言われてもピンとこなくて、それこそ宇宙ぐらいの遠い世界のことだと思っていました。でも、記者発表会やトークイベントを見て、これはいろんなデータを分析して何らかの結果を導き出すデータサイエンスにおける、材料となるデータの一種として衛星データを使えるようにしましょうという話だと理解しました。データが遠くからやってくるだけで届いてしまえば他のデータと同じように使えるはずですから、そう思えば少しは身近なものだと感じられるようになりました。

こうなると、あとはこの衛星データを何と組み合わせてどう使うかがポイントになりそうです。まだ今の時点ではどんなデータがあって何ができるのかわかりませんが、Tellusが公開されてデータを使えるようになったら、アイデアソンやハッカソンなどをやると一気にいろいろなものができそうな気がします。ITの歴史を見ると、10年ほど前に出てきたものが今では当たり前に使われている例はたくさんあるので、宇宙データも5年後や10年後には当たり前の存在になり、記者発表会で田中が言っていた「宇宙データを使うことが前提になっている」状況を期待したいと思います!

(イラスト:オガ(ブログ))