はじめに

インターネットは、「ネットワークのネットワーク」と呼ばれるように、世界中のコンテンツ事業者や通信事業者が相互接続することで成り立っています。しかし、その形態は国や地域によって異なっており、その地域ならではのインターネットの形が存在するといっても過言ではありません。本コラムでは、各種データをもとに、各地域のインターネットの状況について分析していきます。

ピアリングやトランジットなど、インターネット接続の形態について説明した前回の記事から時間が空いてしまいましたが、今回の記事では世界を地域別に見たインターネット回線の相互接続事情について説明します。

各地域のインターネット利用者数

各地域の状況を確認するにあたって、まずは各地域のインターネット利用者数を把握することからはじめましょう。Internet World Statsのデータ(*1)によりますと、2018年12月末現在の各地域のインターネット利用者数は

  • アジア: 約21.6億人
  • ヨーロッパ: 約7.1億人
  • アフリカ:約4.6億人
  • 中南米: 約4.4億人
  • 北米: 約3.5億人
  • 中近東: 約1.7億人
  • オセアニア: 約0.3億人
  • 合計: 約43.1億人

となっており、実に世界人口約77.5億人のうち55.6%がインターネットユーザです。地域別にみると、アメリカやヨーロッパでは既に普及率が高いことから、今後はアジア、アフリカでの伸びが期待されます。

*1: Miniwatts Marketing Group社がITUなど様々なソースを元に世界のインターネット利用者数を推計しています。

各地域におけるキャリアホテルへのネットワーク集積状況

さて、本題に入りましょう。

前回の記事では、インターネットのピアリングは1対1のプライベートピアリングと1対多のパブリックピアリングに分けられ、前者のプライベートピアリングはキャリアホテルと呼ばれる通信事業者が集積するデータセンタ内で行われることが多いと書きました。そこで、まずは世界の各都市のキャリアホテルへのネットワーク集積状況をみてみます。

図1は、データセンタ内に入居しているネットワークの累計数が多い都市、トップ10におけるネットワーク拠点数の累計を示したグラフ(*2)です。このグラフでは、PeeringDB(*3)というデータベースの登録データを元にしています。

*2: ちなみに、Vienna(ウィーン)という都市はオーストリアだけではなくアメリカにも存在するため、都市名だけでなく、国と都市名の組み合わせで調査しています。
*3: 2019年3月1日時点でPeeringDBのデータベースに登録されているデータを元に集計。PeeringDBとは通信事業者などASを持っているネットワーク事業者が、自己申告で相互接続拠点を公開しているサイト。

図1:データセンタ内に入居しているネットワークの累計数が多い都市

このグラフを見ると、1位から4位をヨーロッパの都市が占めており、5位と7位と10位に北米、6位にオセアニア、8位と10位にアジアの都市がランクインしている状況です。一般にインターネットの中心はアメリカと思われがちですが、意外な結果に驚かれた方もいらっしゃるのではないでしょうか。

図2に、さらに範囲をトップ100まで広げたグラフを示します。ランクインしている都市の所在地域は、

  • ヨーロッパ: 38サイト
  • 北米: 32サイト
  • アジア: 16サイト
  • 中南米: 5サイト
  • オセアニア: 5サイト
  • アフリカ: 3サイト
  • 中東: 1サイト

です。ここでは、少数の都市に多くのネットワークが集中しており、べき乗則関係に従っているように見えます。トップ100もトップ10と同じく、ヨーロッパが38件と一番多い地域となっており、それ以降が北米が32件、アジアが16件、中南米、オセアニアがともに5件(同順)、アフリカ、中東の順になっています。

図2:データセンタ内に入居しているネットワークの累計数が多い都市(トップ100)

さらに範囲をトップ100から、3つ以上のネットワークが入居するキャリアホテル全てに広げてみます。すると、

  • ヨーロッパ: 264サイト
  • 北米: 153サイト
  • アジア: 50サイト
  • 中南米: 28サイト
  • オセアニア: 19サイト
  • アフリカ: 18サイト
  • 中東: 4サイト

という結果になり、ここでも、キャリアホテルがもっとも多く相互接続に使われれている地域はヨーロッパ、続いて北米、アジア、中南米、オセアニア、アフリカ、中東の順になっています。

この数字をインターネットユーザ数で割って、インターネット人口あたりの3件以上のネットワークのあるキャリアホテル件数をみますと、

  • ヨーロッパ: 約267万人につき1サイト
  • 北米: 約226万人につき1サイト
  • アジア: 約4321万人につき1サイト
  • 中南米: 約1565万人につき1サイト
  • オセアニア: 約150万人につき1サイト
  • アフリカ: 約2583万人につき1サイト
  • 中東: 約4251万人につき1サイト

となります。人口あたりのキャリアホテルの状況を見ると、意外にもオーストラリアやニュージーランドといった先進国があり、他の地域から離れているオセアニア地域がトップ、次に北米、ヨーロッパとなっており、そこから中南米、アフリカ、アジア、中東という順になっています。その意味で、オセアニアや北米、ヨーロッパではキャリアホテルを介した相互接続が進んでおり、中東、アジア、アフリカでは相互接続がインターネット利用者数に比して活発ではないということができるでしょう。

さらに、キャリアホテル1カ所あたりに入居しているネットワーク数の中央値を以下に示します。(3以上のネットワークが入居しているサイト全てを対象に集計)

  • ヨーロッパ: 8.0件/サイト
  • 北米: 7.0件/サイト
  • アジア: 13.0件/サイト
  • 中南米: 11.0件/サイト
  • オセアニア: 9.0件/サイト
  • アフリカ: 7.0件/サイト
  • 中東: 13.5件/サイト

3以上のネットワークが入居しているキャリアホテルに入居しているネットワーク数の中央値をみますと、ヨーロッパや北米、オセアニア、アフリカではサイトあたり10ネットワーク未満となっていますが、アジアや中東、中南米では11以上となっています。比較的小規模なキャリアホテルが多くなればなるほど、サイトあたりの件数は小さくなるため、この数字はアジアや中東、中南米では少数のキャリアホテルに多数のネットワークが集まっている傾向を示している可能性があります。

各地域におけるIXの集積状況

次に1対多の接続である、パブリックピアリングやIX(Internet Exchange)の観点で各地域をみてみましょう。

図3に、PeeringDB登録数を元にした世界の主要IXトップ10を示します。

図3:PeeringDB登録数の多いIXトップ10

このグラフを見ると、1位が中南米のIX、2位から7位をヨーロッパのIXが占め、8位に北米、9位にアフリカ、10位にアジアのIXがランクインしているという状況です。中南米から世界1位となったIX.brを除けば、概ねキャリアホテルを介した接続と同じような傾向を示します。

図4に、同じくPeeringDB登録数の多いIXトップ100を示します。

図4:PeeringDB登録数の多いIXトップ100

これらを所在地域ごとに集計すると以下のようになります。

  • ヨーロッパ: 48 IX
  • 北米: 18 IX
  • アジア: 14 IX
  • 中南米: 8 IX
  • オセアニア: 4 IX
  • アフリカ: 4 IX
  • 中東: なし

IXにおいてもヨーロッパのIXが48件と世界トップ100のうちおよそ半数を占めており、北米が18件、アジアが14件と続きます。

さらに範囲をトップ100から、3以上のネットワーク数が接続するIX全てに広げてみます。

  • ヨーロッパ: 222 IX
  • 北米: 114 IX
  • アジア: 91 IX
  • 中南米: 72 IX
  • オセアニア: 22 IX
  • アフリカ: 31 IX
  • 中東: 10 IX

IXもキャリアホテルと同様の傾向となり、ヨーロッパがトップ、北米、アジアが続く形になっています。

この数字をインターネット利用者数で割って、インターネット人口あたりの3件以上のネットワークのあるIX件数をみますと、

  • ヨーロッパ: 約318万人につき1IX
  • 北米: 約303万人につき1IX
  • アジア: 約2374万人につき1IX
  • 中南米: 約609万人につき1IX
  • オセアニア: 約129万人につき1IX
  • アフリカ: 約1500万人につき1IX
  • 中東: 約1700万人につき1IX

となっています。概ね、人口あたりのキャリアホテルの件数と似たような傾向を示しています。一方、アジア、アフリカ、中東ではIX 1件あたりのインターネットユーザ数が1000万人を超えているのですが、中南米は1000万人を切っているにもかかわらず、アジアやアフリカと同様にパブリックピアリングの方がプライベートピアリングより充実しているというユニークな特性を示しています。

また、IX 1つあたりに接続しているネットワーク数の中央値を以下に示します。(3以上のネットワークが接続しているIX全てを対象に集計)

  • ヨーロッパ: 17.0件/サイト
  • 北米: 15.5件/サイト
  • アジア: 12.0件/サイト
  • 中南米: 12.0件/サイト
  • オセアニア: 54.5件/サイト
  • アフリカ: 9.0件/サイト
  • 中東: 6.0件/サイト

これらの数字を見ると、オセアニアは突出してIXあたりのネットワーク接続数が多いことがわかります。これは、多数のネットワークが比較的少数のIXに集中していることのが1つの要因だと考えられます。

パブリックピアリングにおいては、1つのIXごとに接続しているネットワークの数がキャリアホテルよりも総じて多いといえます。これには、以下の2つの理由があると考えられます。

  1. 1対多の接続を行えるIXを活用したパブリックピアリングでは、一本の回線で相互接続を多数行えるため、帯域に対するニーズが少ない相互接続を多数行うのに向いている。従って、IXの方がプライベートピアリングに比べて接続ネットワーク数が多くなりがちである。
  2. 今日のIXでは複数データセンタにまたがって拠点を構築している。従って、IXの絶対数はプライベートピアリングの拠点数よりも小さくなりがちである。

最後に、地域別にみた3件以上のネットワークが接続しているIXとキャリアホテルの比較を図5に示します。絶対値を見ると、ヨーロッパと北米が充実していることがわかります。

図5:3件以上のネットワークが接続しているIXとキャリアホテルの比較

これだけではここまでの傾向と同じなのですが、IX(IX_Count_min3、最低3つのネットワークが接続しているIX)とキャリアホテル(netfac_min3、最低3つのネットワークが接続しているキャリアホテル)の割合に注目してみますと、ヨーロッパと北米はIXよりもキャリアホテルでの接続が充実しているのですが、それ以外の地域ではIXの件数の方が多くなっており、アジアや中南米、アフリカにおいてはIXの件数の方が1.7倍〜2.6倍もキャリアホテルの件数より多くなっています。つまり、アメリカやヨーロッパではプライベートピアリングやIPトランジット接続といったキャリアホテル内での接続が多く、それ以外の地域ではIXでの接続が多い傾向にあるのではないかと考えられます。

まとめ

世界のインターネットの中心はアメリカであるというイメージをお持ちの方も多いのではないかと思います。しかし、ことインターネットの相互接続となりますと、ヨーロッパの方がアメリカよりも、パブリックピアリング、プライベートピアリングの両方で拠点が集積しているといえます。

筆者はこの傾向をヨーロッパは小国が多いため、電気通信事業者、とくにIncumbent carrierと呼ばれる元国営通信事業者の利用者数や事業規模が、アメリカのそれと比べて小さいことから、ヨーロッパにおける事業者間の力関係がIPトランジットの販売というよりもピアリングを促進する方向に働いたためではないかと推測しています。

一方でヨーロッパと北米は、世界のインターネットのハブになっている側面も見逃せません。アジア、アフリカはインターネットユーザの規模に比べて相互接続の拠点がまだ十分とは言いがたく、地域内のトラフィックの交換が地域外で行われているケースも存在します。また、他の地域との相互接続の関係もあり、ヨーロッパはヨーロッパ内だけではなくアフリカと中東などアジアの一部のハブとなっており、北米は南米、アジアの一部のハブとなっていることが浮かび上がってきます。

次回は、トランジットの状況について説明します。