さくらの学校支援プロジェクトを振り返る【第2回】手探りのプログラミング教育

さくらの学校支援プロジェクト

「さくらの学校支援プロジェクトを振り返る」2回目の今回は、2017年度に発行した「こどもプログラミング通信」の記事紹介を中心に、学習指導要領が示す小学校プログラミング教育の理解がどのように広がったのかを見ていきます。

第1回の記事は、こちらをご参照ください。

こどもプログラミング通信第2号(2017年5月23日発行)

第2号では、冒頭で6月分の出前授業実施予定について触れながら、この取り組みが「いずれ先生がご自身で授業をする」ためであると伝えています。

学校や学級の状況に合わせた授業を行うため、申込を受けた学校の先生と相談の上、同じ授業タイトルでもそれぞれの学級専用の指導案を作成して臨みます。この指導案や、授業の記録は、今後ご自身での授業を検討される先生たちが参考にしていただけるよう、共有の方法についても考えていきたいと思っています。

その他、「小学校プログラミング教育推進の動向」としてソフトバンク社によるPepperの3年間無償貸与について掲載。札幌で開催されるScratch教室も紹介しています。また、教頭・校長会などで寄せられ、今後も繰り返し質問のありそうな点をQ&Aにまとめています。

以下では、こどもプログラミング通信記載の記事をご紹介します。

「プログラミング教育出前授業」Q&A

プログラミング教育出前授業について、教職員の皆様から寄せられた質問についてお答えするコーナーです。

出前授業の実施に向けて少しずつ各学校の担当の先生と打ち合わせをさせていただく機会が増えますので、その際にお聞かせいただいた疑問などを取り上げていきたいと思います。

なぜ、さくらインターネットが石狩市でプログラミング教育の出前授業を行うのですか?

さくらインターネットは、石狩市の石狩湾新港地域にてデータセンター(コンピュータをたくさん保管する専用の建物)の運営を行っており、このデータセンターが弊社の事業の基盤になっています。将来的な労働人口の減少や、海外各国との競争、ロボットやAI(人工知能)の普及などによる社会環境の変化に、柔軟に対応できる優秀なIT人材を育成することは、私たちの会社にとっても将来の事業存続にかかわる重要な課題であると考えています。

そのため、データセンターのある石狩市への小学校プログラミング教育支援を、弊社のCSR(企業の社会的責任)のひとつと位置付け、プログラミング教育のすそ野を広げる活動を通じて、石狩市が優秀なIT人材を輩出する『ITの街』となることを後押しできればと思っています。

「プログラミング的思考」が身に付くと、どんな良いことがあるんですか?

物ごとの仕組みを単純な命令に分解したり、同じ性質や規則性のあるものをパターンとして認識したり、ルールに沿って部品を組み合わせたり、関連付けることで意味のある動きを作りだすといった経験を通して、論理的な問題解決や、アイディア・発想の具体的な実現につなげていくことができます。

例えば、ブロックだけでは限られた形の物しか作ることはできませんが、そこにタイヤを付けてモーターを組み込むと動くタイヤが作れるという発想があったり、そのモーターをプログラミングで制御するという発想があったりすることで、より自由な発想で作りたいものを具体的に表現する可能性が広がります。

また、最初は動く車をブロックで作る方法が全く想像できなくても、動作を細かく分解するという考え方に慣れていくに従い、動かすためには何か要素を加える必要があることや、その要素にはどんな条件が必要なのか、それをどのようにして加えるのかなど、問題を自分の力で一つずつ道筋を立てて解決していく力が身に付きます。

自分が想定した動きになるまで、繰り返し試したり、先生や友達からもらったヒントを自分の考えに組み込んで発想力を高めるといった経験もたくさんできます。

どのメニューがどの学年に向いているんですか?

「プログラミング体験(CodeMonkey、IchigoJam)」以外は、授業の中でどの学年でも取り入れることができます。出前授業をお申込みいただきますと、申込書に記載いただいたクラスの人数やクラスの状況に対する事前情報を元に、指導案のサンプルを作成して打ち合わせをさせていただきます。

石狩市の場合は、複式学級の小規模校から、1学年に数クラスという学校まで、いろいろな学校がありますので、クラスに合わせた指導を、先生にアドバイスいただきながら組み立てるという手法を取らせていただきます。「プログラミング体験(CodeMonkey、IchigoJam)」は、実際にプログラミングのコードをアルファベットで打ち込む場面がありますので、タブレットやパソコンでの入力操作に慣れた学年への導入をおすすめしています。

こどもプログラミング通信第3号(2017年6月27日発行)

第3号では、冒頭で7月分の出前授業実施予定を掲載。さらに「プログラミング的思考」についての解説を加えました。

私たちにとっても耳慣れなかった「プログラミング的思考」を先生方に分かりやすく説明するには苦労があり、出前授業の実践と説明の繰り返しで、少しずつ理解を深めていきました。

また、第9回教育ITソリューションEXPO(EDIX)の展示内容を紹介。北海道の現場の先生方がなかなか触れられない、授業で活用できるICT機器など(ロボホンインタラクティブホワイトボードスマートマーカー)を紹介しています。

プログラミング教育とプログラミング的思考

今年3月に文部科学省から公示された新学習指導要領では、情報活用能力という文言が明記されました。これは、授業や学習におけるコンピュータ等の活用に加え、プログラミング的思考を育む意図があります。前者のコンピュータ等の活用は、以前からあるPCやタブレット端末を授業に取り入れた学習を進めること。一方、後者は新しく追加されたものです。

プログラミング的思考という言葉からは、「難しそう」「子どもには早いのではないか」といった印象をお持ちの先生方もいらっしゃると思います。しかし、プログラミング的思考とは、プログラム言語を覚えてコードを書くものではありません。これは、子どもたちが各教科で育む思考力を基盤としながら、思考の論理性を明確にするための考え方です。そして、この考え方には次の4つの要素があります。

プログラミング的思考のパターン

プログラミング的思考のパターン

私たちの出前授業も、子どもたちにプログラミングの仕方を覚えてもらうことが目的ではありません。コンピュータが機能を提供する仕組み・考え方を知れば、新たな機能を作り出せるようになります。出前授業ではそれぞれの考え方に対し、学習効果のある考え方を、子どもたち自身が導き出せるように。そのためにも先生方のご経験を活用しながら、私たちも共に考えていく機会にしたいと考えております。

こどもプログラミング通信第4号(2017年7月20日発行)

第4号では、6月に実施した初めてのプログラミング出前授業のレポートを掲載しました。

先生方が気になる情報として、ベネッセが発表したプログラミングで育成する資質・能力の評価規準を紹介、文部科学省が公開した学習指導要領の解説も紹介しています。出前授業の実践と、各所から続々と発表されるプログラミング教育に関する情報とがリンクするよう、配慮して編集していました。

出前授業の実施報告

授業内容と参加した子どもたちの声

6月に実施した八幡小学校と石狩小学校の子どもたちの声を集めました。次号以降では、先生方の声もご紹介予定です。

CodeMonkey

CodeMonkeyの感想

モンタがバナナを取りに行く道筋を、プログラミングを通してコンピュータに指示する仕組みを学びました。はじめはパソコンを使わず、カードで正しい命令の順序を組み立てます。そのあと画面を通して動くかどうかを確認。間違った場合は、なぜ思い通りに動かなかったのかを考えました。

IchigoJam

IchigoJamの感想

コンピュータを意図通りに動かすためには、命令を正しい順で並べて伝える必要があります。カードでLEDを点灯する命令を友達と相談しながら組み立てます。実機を起動した後は、キーボードを通して命令を入力。LEDが点灯する長さを変えたり、点滅する方法を学びました。

身の回りにあるコンピュータを探そう

モノが写ったカードを見せ、コンピュータが入っているかどうかを友達と話し合いました。また、信号機の働きを、先生を信号機に見立てて学びました。

身の回りにある授業を探そうの授業の様子

ルビィの服を作ろう

パターンの理解と利用のために、 文章を元に服の模様(パターン)を考案し、コンピュータもこのパターンを高速に処理することを学びました。

ルビィの服を作ろうの授業の様子

こどもプログラミング通信第5号(2017年8月29日発行)

第5号では、6月~7月の出前授業を実施した小学校から集めたアンケート結果を紹介しました。

打ち合わせの時には、「プログラミング教育をイメージできない」「子どもたちが何を知っていて、プログラミングをどのくらい理解できるのかわからない」など、わからないことばかりで不安そうだった先生方が、出前授業を見た後に「自分にもできそう」という感覚を抱いてくださったとわかります。このような情報の提供が、プログラミング教育に対する理解促進の契機になりました。

出前授業アンケート結果・先生方の声

プログラミング教育に対する理解と、授業を自分でもできそうな意識を高めるきっかけに

私たちの出前授業は、7月末の時点で14コマ・335名の児童を対象に実施しています【表1】。出前授業に参加された先生方に対し、授業内容に関するアンケートを依頼しています。

これまでの授業メニュー実施状況

結果からは、コンピュータが苦手であったり、授業が難しいというご意見もありました。その一方で、プログラミング教育(プログラミング的思考)に対する理解を深めるきっかけになったという声や、先生自身が自分で授業を行えそうに感じたとの声もいただいています。

以下、集計結果の一部やご意見・ご感想をご紹介します。

プログラミング教育のアンケート集計結果とご意見

※ペンギンからのお手紙
「ペンギン語」という架空の言語で書かれたお手紙を、ローマ字との対照表とローマ字と日本語の対照表を使って解読したり、日本語をペンギン語に変換してペンギンへお手紙を書くという内容の授業。コンピュータが文字を表示する仕組み(文字コード)と関連付けて学ぶ。

こどもプログラミング通信第6号(2017年9月26日発行)

第6号では、小学校プログラミング教育の動向として、教科書検定にプログラミング教育の項目が入った点をお伝えしています。この年の3月に学習指導要領が公開され、「プログラミング教育」という教科の新設をしない方針が決まりました。教科にならなければ、プログラミング教育の教科書が発行されず、評価も実施されません。

そのため、いくら学習指導要領で方向性を示しても、現場で実際に具体的な指導が行われるかどうかが大変危惧されていました。一方その時点で、算数や理科などの教科書においてプログラミング教育に相当する内容は必ず記載されるとわかりましたので、先生方の取り組み姿勢・意識の変化を期待しました。

また、文部科学省の平成30年度概算要求についても触れ、予算の面から国がどのようにプログラミング教育を進めようとしているのかをお伝えしました。その他、石狩市の学校向けに相談窓口の開設、先生方を対象としたミニ研修のご案内を掲載しました。

小学校プログラミング教育推進の動向

教科書検定にプログラミング教育の記述が新設

8月10日、文部科学省から新しい教育課程に対応した義務教育諸学校教科用図書検定基準が公布されました。今回からは、プログラミング教育に関する記述が新設されました。また、パブリックコメント(意見公募手続き)に対する回答とあわせ、新しい教育課程では、どのような教科書になるのか方向性が見えてきましたので、要点をまとめてご紹介します。

まず、新しい検定基準では算数と理科に関する教科が例示されています。算数は5年生の図形に関して、理科は6年生の物質・エネルギーに関して、それぞれプログラミングを体験しながら論理的思考力を身につけるための学習活動が取り上げられています。

しかし、これらは各教科の授業で必ずプログラミングの実施を求めるものではありません。パブリックコメントの回答では、これらは例示であり、例示以外の授業でもプログラミング教育を実施可能とあります。学校の教育目標や、児童の実情等に応じて、工夫して取り入れられることが求められます。

そのほか、教科共通の要素として”ウェブページのアドレス等”に対する記述も新設されています。こちらの記述では、学習上の参考に供するために真に必要であること、教科書の内容と密接に関係があることや、情報の扱いは公正であること、といった記述が追加されています。

以上のように、教科書検定の段階においても、論理的思考力を身につける手段としてのプログラミング教育という方向性が、改めて明確化されました。

義務教育諸学校教科用図書検定基準(文部科学省)(記事掲載当時とURLが異なるため現在アクセス可能なページへのリンクに修正)

文部科学省が概算要求を発表

来年度の文部科学省概算要求が発表されました。計上された予算案からも、プログラミング教育に関する記述が見受けられます。

たとえば、教育の情報化の推進です。小学校においては、情報活用能力の育成を含む、プログラミング教育の円滑な実施等に向けた取り組みとして、指導事例の創出・普及や先生方の研修用教材の開発が挙げられています。

他には、児童生徒が減少した小規模校における学びの質を向上するため、遠隔授業システムの導入支援の補助も計上されています。

平成30年度文部科学省概算要求等の発表資料一覧 (記事掲載当時とURLが異なるため現在アクセス可能なページへのリンクに修正)

こどもプログラミング通信第7号(2017年11月21日発行)

第7号では、出前授業とは別に担当者が石狩市内の小学校で1週間ずつ研修をさせていただいた時の様子を掲載しました。企業側には小学校の授業に対する理解が乏しいという課題があり、普段の授業を見学させていただきつつプログラミング教育を学校の授業の中で実施していくためのヒントを探り、先生方の困りごとを実際に現場で見るのは、この後の支援の方向性に大きな影響を与えました。

この他に、小学校プログラミング教育推進の動向として、文科省が公表した「教育情報セキュリティポリシーに関するガイドライン」を紹介しています。この時点で文科省は「クラウドの利用」を積極的に促進する立場ではありませんでしたが、「それらサービスの利用を否定しない」との見解を示しました。

市内小学校に1週間お邪魔しました!

10月23日(月)~27日(金)は生振小学校に、11月7日(火)~13日(月)は花川小学校に、それぞれ出前授業の講師としてお世話になっている朝倉が常駐させていただきました。目的のうちの一つは、小学校教員の経験がない朝倉が石狩市のプログラミング教育の支援を行うにあたり、普段の授業を見学したり先生方とコミュニケーションをとったり、学校にあるICT機器の操作を覚えたりして、「既存授業でのプログラミング教育」を考えるためのいろいろな情報を得ることにありました。

次期学習指導要領では、プログラミング教育を個別の教科とせず、既存授業の中で行うようにとされています。今回2つの学校に1週間ずつ滞在させていただく中で、ヒントを少し見出すことができたように思います。また、もう一つの目的は、常駐している間にお忙しい先生方と少しでもコミュニケーションをとり、気軽にプログラミング教育について疑問に思っていることなどを聞いていただけたら…という点にありました。

では、1週間の滞在の様子をダイジェストでお伝えします!

生振小学校

生振小学校では、滞在中に3・4年生の体育の授業の中でプログラミング教育を取り入れていただきました。発表会前だったため、劇中で踊るダンスの授業があったのですが、ウォーミングアップと称し、子どもたちはダンシングロボット、担任の先生にはプログラマになっていただいて、並んだ命令の繰り返しを体で表現するという手法でプログラミング的思考に触れていただきました。

出前授業ではなく、指導案を担任の先生が作成し、指導を担任の先生が行う、私が知る限り石狩市内では初のプログラミング教育! 約5分という短い時間ではありましたが、子どもの感想(命令を正確に行うことが難しかった)を拾い、コンピュータはこういった命令を正確に素早くこなすことができる、人間とは違う特徴があることをお話しされていました。

授業の様子

花川小学校

花川小学校では、滞在中に6年生のプログラミング教育出前授業(CodeMonkey)を行いました。また、中休みと昼休みにパソコンのある視聴覚室を開放!子どもたちが、用意されたプログラミング教育用の教材を思い思いに使い、プログラミングを楽しむ様子が見られました。

1年生で毎日通って次々とレベルアップする子もいたり、中高学年ではわからない子にやり方を教えるなどの交流も見られていました。6年生では、IchigoJamという小さなコンピュータにBASIC言語で命令を記述するプログラミングに挑戦し、「かわくだりゲーム」を作るという上級レベルにまで到達した子も!

特別支援学級向けに、既存の出前授業をアレンジした授業を行うこともでき、たくさんの子どもたちにプログラミングを楽しんでもらうことができました。

授業の様子

こどもプログラミング通信第8号(2017年12月12日発行)

第8号では、特別支援学級におけるプログラミング教育体験の様子を掲載しました。当時の先生方の感覚として大勢の方が抱いていた「小学生にプログラミングは難しい」というイメージが、ここまでの実践紹介や出前授業で少しずつ変わりつつありました。同様に、特別支援学級においての可能性についても知っていただきたいと考えました。

プログラミング教育は「学習の基盤となる資質・能力」として位置付けられた、情報活用能力育成の一環です。これを踏まえ、特別支援学級も含めたどの子どもにも必要な学習であり、特別支援学級でもできるとお伝えしています。また、ここで紹介した実践は「急遽行った」という経緯があり、準備がなくても手軽にできる教材も紹介しています。

その他、小学校プログラミング教育推進の動向として、一橋大学で行われた小学校プログラミング教育に関する教材開発者と教育専門家の意見交換会のレポートも掲載しました。

可能性広がる!特別支援学級プログラミング教育

「 こどもプログラミング通信 No.7 」にて、生振小学校、花川小学校の2校にそれぞれ1週間滞在させていただき、出前授業だけでは難しいプログラミング教育普及のための活動を行った話題を掲載しました。この1週間の滞在の中で、花川小学校では特別支援学級の子どもたちに対するプログラミング体験を実施させていただくことができました。ひとつの事例としてご紹介させていただきます。

花川小学校での実践は、急遽実施されたもので、特別な準備のない状況でした。ですが、通常の出前授業をベースにしながらいくつか工夫した点があります。

アングリーバードを使った授業

今回は、2年生~6年生まで、学年も支援の必要な状況も全く異なる子どもたちを一斉に指導するという試みでした。教員の皆さんがご自身も教材を体験しつつ、子どもたちにやり方のみを教えるのではなく、考えるポイントを指導しました。また、うまくいかなくても諦めず、もう一度試みるように働きかけたため、スムーズに進められました。

子どもたちの支援が必要な状況にもよりますが、ハードルを低めに設定し、まずは「できた!」という経験をさせてあげることで、次への挑戦意欲を引き出すことが重要なのではないかと感じました。

また、特に低学年の子どもは「左右の区別がつくか」「数の概念を理解できているか」などで必要な支援が変わってきます。ただし、左右の区別がつかない子どもが、右左逆にプログラミングを記述したとしても、画面上で間違った動きを見て「逆だった!」と自分で気付いて直せます。これも、これら教材の良い特徴ですので、上手に利用できると良いのではと思います。

実は、特別支援学級でのプログラミング教育については、総務省も全国的に実証実験を行うなど、授業に取り入れることに対する効果について期待されています。 教科書と向き合って授業を聞くだけでは、なかなか集中できない子どもが、プログラミング教育の教材や、コンピュータの操作には強い関心を持って集中して取り組むことも報告されています。私たちも、授業と結びつけて上手に活用する方法を模索していきたいと考えております。

こどもプログラミング通信第9号(2018年1月26日発行)

第9号では、学校での情報セキュリティについて触れました。

当時の現場の先生方にとって、情報セキュリティは「自分たちが理解しておく必要があること」という実感が薄かったと認識しています。日々の学習に最大限コンピュータを活かしつつ、情報セキュリティを維持していくためには、先生方の理解が欠かせません。ガイドラインの解説と、無料セミナーの案内を掲載しました。

みんな気になる「情報セキュリティ特集」

平成29年10月、文部科学省が学校や教育委員会を対象とした「教育情報セキュリティポリシーに関するガイドライン」が公開されました

方針
  1. 組織体系の確立
  2. 児童生徒による機微情報へのアクセスリスクへの対応
  3. インターネット経由の標的型攻撃へのリスク対応
  4. 教育現場の実態を踏まえたセキュリティ対策の確立
  5. 教職員の情報セキュリティに関する意識の醸成
  6. 教職員の業務負担軽減とICTを活用した多様な学習の実現

情報セキュリティポリシーとは、一般的に組織における情報セキュリティを確保するための「方針」「体制」「対策」等を包括的に定めた文章のことです。学校であれば、子どもたちの授業成績や通知表などをはじめとして、個人情報として取り扱われる情報が増えつつあります。また、機器の紛失や不正アクセスなどによる情報漏洩の危険性もあります。

学校において何を守るべきか、あるいは、トラブルがあった場合にはどのように対処するのかをあらかじめ決めておくのが教育情報セキュリティポリシーです。これまでは総務省から平成27年3月に地方公共団体に対するセキュリティポリシーが公開されており、公立学校においても同様のポリシーが適用の対象とされてきました。

しかしながら、学校では先生方の日常業務においてパソコンやインターネットを利用するだけでなく、子どもたちも学習活動を通して利用する機会が増えてきています。

そこで、文部科学省からは現状に即し、学校と教育委員会向けのガイドラインが改めて明確化されました。これは学校と教育委員会が連携する組織体制をはじめ、子どもたち自身によるリスクの回避、インターネットからの攻撃回避、現場の実態を踏まえたルール作りの確立などを扱っています。単にガイドラインが例示されているだけでなく、その背景の解説もされているため、学校でのポリシー作成に有用でしょう。

ガイドラインと教育情報ポリシー

体制

ガイドラインでは、学校の教育情報セキュリティ管理者は校長が担うこと、教育情報システムの導入・運用・管理は原則として教育委員会が行うこと、また、最高情報セキュリティ責任者として、自治体ガイドラインと同一の者(副市長等)が担うなど、役割分担の明確化が示されています。

情報セキュリティ体制

対策

適切なセキュリティを維持するために

何らかの情報漏洩などの事故(これをセキュリティ・インシデントと呼びます)が起こらないように、先生方に対しても未然防止や対策案が例示されています。以下は主な対策例です。

適切なセキュリティ

より詳しい情報は、公開されたガイドラインをご覧ください。

こどもプログラミング通信第10号(2018年2月27日発行)

第10号では、CSAJプログラミング教育委員会の千葉県柏市視察の様子を取り上げました。早くからプログラミング教育を取り入れていた柏市のカリキュラムや、このカリキュラムを効果的に実施するための工夫など、意見交換で得た情報を掲載しました。

市全体でこの取り組みを長く続ける秘訣は、学校だけで終わらせない地域全体での取り組みと紹介しています。

千葉県柏市のプログラミング教育への取り組み

CSAJで柏市教育委員会「プログラミング教育」視察を実施

さくらインターネットも参加しているCSAJ(一般社団法人コンピュータソフトウェア協会)プログラミング教育委員会では、1月26日、千葉県柏市の小学校へプログラミング教育の授業見学・意見交換を実施しました。柏市では昭和62年度からプログラミング教育を一部の学校で開始し、約30年もの活動実績があります。

柏市では情報リテラシー育成カリキュラムを設けており、プログラミングに限らず、コンピュータを使ったリテラシー向上のためのカリキュラムを制定しています(表1)。学年ごとに目標が定められており、どこまで学ぶべきかと達成すべき課題がまとめられています。小学校だけでなく、中学校にも至るまで、一貫した方向性が示されています。

情報リテラシカリキュラム

そして、柏市ではプログラミング的思考が情報リテラシーの1つであるという考えから、今年度(平成29年度)は市内の全小学校(42校)で、4年生を対象としたスクラッチを使ったプログラミング授業が取り入れられています。

理科の授業(6年生)で「電気を無駄なく使う方法」をプログラミングで学習

視察した理科の授業では、電気の性質とその利用が課題でした。節電の条件を学ぶために、明るさを取得できるセンサーとプログラミング(スクラッチ)を使いました。

節電をテーマとした授業の様子

節電をテーマとした授業の様子

授業では、まず二人一組で、無駄なく電気を使うためのアイディアを出し合います。そして、センサーが取得する明るさの変化に応じてプログラムに条件を与え(音や光の状態を変更)、結果としてライトを節電できる方法を学びます。また授業の最後では、ペアごとにプログラムの発表もありました。

はじめからプログラミングをするのが目的ではなく、あくまでも情報活用能力の拡大という点で、有効に活用されていました。

意見交換会と柏市の取り組み

柏市はカリキュラムを定めただけでなく、ICT支援員の増員や、カリキュラム充実のために企業や民間団体と連携した素案作りなどの取り組みを行っています。

また、授業はあくまで導入でしかないため、ほかにも、地域ボランティアとの連携や、地域でのイベント企画・開催や、プログラミングコンテストの実施などにも取り組んでいます(図1)。

小学校プログラミング教育の位置付け

こどもプログラミング通信第11号(2018年3月23日発行)

第11号では、オープンソースカンファレンス(OSC 2018 Tokyo/Spring)というITエンジニア向けのイベントで、さくらインターネットがプログラミング教育支援の状況を発表したと紹介しました。

異なる立場でプログラミング教育を見ると誤解が生まれるのを確認し、座談会では共通認識を持つ必要性に話が及びました。ここでの発表内容は、ASCII.jpの「少年時代のプログラミング『ブランク』が今になって悔しい」に詳しく掲載されています。

また、この号では新学習指導要領の教科ごとにQ&Aが公開されたのを受け、プログラミング教育に関する部分を要約してご紹介しました。そして、デジタル教科書が紙の教科書と併用できるよう、法律の改正案が出たのも併せて伝えています。

新学習指導要領のプログラミング教育を含むQ&Aが公開

小学校および中学校における新学習指導要領に対し、文部科学省から各教科ごとのQ&Aが公開されました。このなかで、小学校のプログラミングに関係する一部を要約してご紹介します。

質問:プログラミング教育の全面実施に向けて、どのような準備をすすめたらよいでしょうか?

回答:小学校では「プログラミング的思考」と呼ばれる論理的な思考力を育むことや、各教科等で学ぶ知識及び技術等を確実に身に付けさせるというねらいを踏まえ、教科における学習上の必要性や学習状況と関連付けながら、プログラミングを実施する教科・学年・単元を決定し、計画していくとともに、必要なICT環境を整えることや、教員自身が研修等でプログラミングを体験することも有意義と考えられます。

質問:小学校理科において、プログラミング教育を行う際の留意点はありますか?

回答:新小学校学習指導要領では「児童がプログラミングを体験しながら、コンピュータに意図した処理を行わせるために必要な論理的思考力を身に付けるための学習活動」を計画的に実施することが示されています。

これを受け、理科では「児童の負担に配慮しつつ、例えば第2の各学年の内容の〔第6学年〕の「A物質・エネルギー」の(4)における電気の性質や働きを利用した道具があることを捉える学習など、与えた条件に応じて動作していることを考察し、更に条件を変えることにより、動作が変化することについて考える場面で取り扱うものとする」と規定があります。

※算数や総合的な学習の時間も例示があります。

質問:プログラミングを体験しながら論理的思考力を身に付けるための学習活動は、総合的な学習の時間で必ず取り組まなければならないのでしょうか?

回答:総合的な学習の時間のみならず、各教科の特質に応じて体験し、その意義を理解することが求められています。どの教科等で実施するかは、各学校が教育課程全体を見渡し、プログラミングを体験する単元を位置付ける学年や教科等を決定していく必要があります。

総合的な学習の時間で行う場合、プログラミング体験にとどまらず、自分たちの暮らしとプログラミングの関連性を考え、プログラミングを体験しながらよさや課題に気づき、現在や将来の自分の生活や生き方とつなげて考えることが必要です。

質問:「コンピュータで文字を入力するなどの、学習の基盤として必要となる情報手段の基本的な操作を習得する」活動における留意点を教えてください。

回答:児童の発達段階や学習過程に応じて、情報手段の基本的な操作スキルの取得が望まれます。特にコンピュータで文字を入力するスキルは、将来にわたる学習活動や情報活用能力の基盤となるスキルと考えられ、確かな習得が望まれます。

これら基本的な操作の習得に当たっては、自分にとって必然性のある探求的な学習の文脈の中で行われることが大切です。なぜなら、探求的な学習の文脈において習得した操作スキルは、他の学習活動や現実社会における探求的な学習においても容易的に活用することができ、主体的な情報手段の活用につながることが期待されるからです。

なお、コンピュータで文字を入力する際は、第3学年におけるローマ字の指導との関連が図られるように配慮する必要があります。

新学習指導要領(平成29年3月公示)Q&A

2017年度の取り組みを振り返って

前年度末に新学習指導要領が発表されたばかりの状況で、十分な情報がなく、先生方や教育委員会の関心も低く、発信をするさくらインターネット側も情報を集めながら認識を深めたのが、こどもプログラミング通信の紙面からも伺えます。

このような状況だったからこそ、先生方に新鮮な情報を伝える意義がありました。

この年度では、プログラミング教育支援を成功させるための土台作りとして、まずは教育委員会や先生方と良いコミュニケーションを取るのを目指して活動を行っていました。出前授業と並行してこの通信を出し続け、コミュニケーションが生まれ、一部ではありますが関心のある先生が「もっとプログラミング教育を知りたい」と言ってくださるようになりました。

2017年12月には石狩市の教育委員会と有志の教員を石狩データセンターにお招きして、プログラミング教育の勉強会を開催。これが、翌年度から活動がスタートする「プログラミング教育推進プロジェクトチーム」発足の契機となりました。2017年度の取り組みの評価については、EdTechZin:「学校主体」のプログラミング教育はどうすれば実現できるのか?――さくらインターネットと石狩市の挑戦にも掲載されています。

2018年度は、この土台を活かし、更に活発な活動につながっていきます。次回の連載第3回では、2018年度の活動や当時のプログラミング教育関連の動きを、こどもプログラミング通信の記事を中心に振り返ります。