レンサバのサービス企画業務という松花堂弁当

この記事は、2023年4月24日(月)に行われた「さくらのテックランチ vol.3 ~レンサバサービス企画の松花堂弁当と新規事業3分クッキング~」における発表を編集部にて記事化したものです。

谷口と申します。本日は「レンサバのサービス企画業務という松花堂弁当」というタイトルで、さくらのレンタルサーバにおけるサービス企画や開発ディレクションについてお話ししたいと思います。

自己紹介

私はWebディレクターとして2002年ぐらいからIT業界に入っておりまして、2016年にさくらインターネットに入社をしております。で、今はインターネットサービス部というところに所属しているんですけれども、さくらのレンタルサーバとか、さくらのドメインさくらのSSLといったオプションサービスと、ウェブアクセラレータ(CDN)の企画職を担当しておりまして、さらに2年前ぐらいからマネジメントの方もやらせていただいています。あと、書籍の執筆であったり、コラムの執筆とか登壇活動などもさせていただいております。

お品書き

続いて今日のお品書きです。既存サービス、ここでは主にさくらのレンタルサーバの、運用とか改善とか機能追加などプロダクトマネジメント方面のいろんなお役立ち情報やノウハウとか、組織が大きかったりプロダクトが大きかったりする場合にどういう風にしてるんですかとか、リモートワークではどういうことに気をつけてますかといった話をします。そして最後に、ディレクター職をもうちょっと盛り上げていきたいという意思表示をしたいと思います。

さくらインターネットのサービス企画とは

さくらインターネットにおいてサービス企画という職種が何をやっているかというところなんですけれども、皆様ご存知の通り、さくらインターネットはエンジニア中心の会社というイメージが強いと思っています。実際、エンジニアの人数が多いのでサービス企画職は割と少なめになっていて、インターネットサービス部の場合は26人のうちサービス企画専任で担当している者が私を除いて4名という形になっています。そのぐらいの比率っていうところですね。

実際に何をやっているかというと、エンジニアリング以外の業務ほぼ全般を担当しています。マーケティングやインターネット広告のマネジメントみたいなところは別のマーケティング部門にお願いしているんですけれども、例えばレンタルサーバの新しい機能を追加するときに仕様の検討をしたり要件定義をしたりといった開発ディレクションですね。あとはデザイナーさんといろいろ調整するデザインディレクションの部分とか、広報まわりとか法務とか経理とか、バックオフィスとの調整と呼ばれる部分の全般ですね。それから、これはとても重要なんですけれども、サポート部門との調整、例えばサポート方針とかサポートコンテンツの作成といったところを主に担当しているというような感じになっています。

プロダクト開発におけるディレクターの存在意義

プロダクト開発におけるディレクターの存在意義というところで、自分で一番大きいと考えているのは、エンジニアにエンジニアリング以外の仕事を振らないっていうことに対して強い意志を持った存在であるべきだなと思っています。

エンジニアは、例えば経理の方と支払いサイトの調整に入ってしまうと当然ながら開発が止まってしまうっていうのがあります。でもエンジニア中心の組織だと、あまりこういうディレクションをやってくれる人がいなくて、結構よくある事象になったりします。でも調整業務って人によっては非常にストレスフルなので得意な人がやるべきだし、職種としてはエンジニアとは別にした方がいいのではないかと思って、こういう形の組織ができているという感じになっています。

もちろん、エンジニアリングに付随する細かいドキュメント作成などはエンジニアにお願いする場合もあるんですけれども、社内の調整であったりというのは、やっぱりそれができる人にまかせた方がいいのではないかという感じですね。

開発のマイクロマネジメントをしない

その中でも特に気をつけていることとしては、開発のマイクロマネジメントをしないというところを心がけたいなと思っています。

ディレクション業務って、進捗を確認して誰がどれくらい進めているかを管理する仕事っていう風に勘違いされがちだと思うんですけれども、必要以上に「まだですか?」とか「進捗どうですか?」みたいな、かつては椅子を蹴られるみたいなこともあったかもしれないですけれども、最近はリモートワークが普及して物理的に椅子を蹴れない距離で働いてるんで、Slackでたくさんピコピコ鳴ってくるわけですね。私も集中して仕事してる時にそうなるとつらいですし、そういうのを確認するのは最低限にしたいなと思っています。

なので、ある程度は信じておまかせするっていうのが大事なんですけれども、社内でよく言われているのが「合意なき期待」っていう言葉です。簡単に言うと「やってると思ってました」とか「いやもうできてると思ってました」みたいな、作業する人はやる意識はないのに指示する人間だけがこの日までに終わってると思ってるという、合意のない状態の期待をしないっていうのもやっぱり大事です。信じて任せるのはもちろん大事だと思ってますが、ある程度、この日までにこれが終わってるといったマイルストーンの確認っていうのはやらなきゃいけないと。その上で、その間の進捗は基本的にはおまかせするというようなところを意識してやっているという感じですね。

業務運用のコツ

さくらのレンタルサーバは年間30〜40億円近くの売上があります。使ってるお客様も50万人近くいらっしゃって、サービスの規模としてはIT業界の中でも結構大きい方ではあると思うんですけれども、業務運用という点では、基本的にはWebディレクションをやってきたときの進め方とあまり変わりはないかなと思っています。

進捗確認に関しては早め早めに、とは言っても細かい進捗確認ではなくて、しっかり確認しておけば定例会議などで十分かなと思ってます。ディレクターのポジションって、いろんな人に協力してもらったり、人々の間を取り持って仕事をするっていうのが大事なので、みんなに誠意を持った対応をしましょうというところですね。あと結構大事だと思っているのが、ステークホルダーの業務を理解するところですね。エンジニアがこういう作業をしているとか、自分のわからないことだから全部おまかせしてますっていうよりは、ある程度どれぐらいの作業をしているのかっていうのをちゃんと自分で把握しておくっていうのはすごく大事だと思います。エンジニア以外でも、経理の人とか法務の人がどういう仕事の流れの中で働いているのかを把握しておくのはすごく大事かなと思います。なので、ものすごく重い仕事を「すみません今日中にお願いします」みたいなことがないようにすることはやっぱり大事かなと思っています。

そして、スケジュール調整に幅を持たせることですね。プロジェクトを進めていく中で、突発的にこの作業の量が実はとても多いことが判明して納期が間に合わないみたいになることって、防ぐためにできるだけ努力はするんですけれども、100%防ぐことってたぶんできないと思うので、そういったことに備えて柔軟にスケジュール調整幅を持つっていうのは大事かなと思っています。もちろん、半年で終わりそうだけどまぁ1年にしとくかみたいな丼勘定的な調整幅ではないんですけれども、あまりギリギリのスケジュールを組まないっていうのは大事かなと思っています。

プロダクトが大きいから心がけていることは?

先ほどもちょっとお話ししたんですけれども、プロダクトがすごく大きいからといって意識をすることはそれほどありません。製品が大きくても小さくてもお客様がいて、何かしらのインパクトがあるっていうのはどんなサービスでもWebサイトでも一緒かなと思っています。ただ、ホスティングやレンタルサーバ、それからドメインやSSLって、一般的なSaaSと比べて商材が結構わかりにくいので、わかりやすさを意識して、お客様とのコミュニケーションとかサポートコンテンツの作成、Webサイトの制作ディレクションなどは気をつけてやるようにしています。

それから、やっぱりどうしてもプロダクトアウト思考になりがちで、「こんな機能あったら便利やろ」みたいな感じであまり深く考えずに機能追加してしまうことも過去には結構あったと思うんですけれども、どちらかというと「市場でどういったものが求められているか」をマーケットイン志向で考えていくというのは大事かなと思っています。

マイクロマネジメントをあまりしないでまかせていくっていうところが大事かなと思っているので、エンジニアの方とかデザイナーの方とかマーケターの方とか、あと法務とか経理とかバックオフィスの方にも、こっちが細かく口を出すっていうよりは信じておまかせして仕事を進めていくというのが大事かなと思っています。小さい組織であれば、自分でディレクションをやるしデザイナーもやるしフロントエンドのコーディングもやるし、みたいなことって可能だと思うんですけれども、大きくなっちゃうとそれはやっぱり無理なので、そこは信じておまかせするというのが大切かなと思っています。

リモートワークによる進行業務への影響

リモートワークで進行業務に影響あるんですかみたいなことをよく聞かれるんですけれども、やっぱり文字ベースのコミュニケーションが増えたことによって、コミュニケーションコストは増えてるかなというふうに思っています。ただ、それは文字であることやインターネットリテラシーの問題というよりも、自分がやってほしいことを日本語にうまく落とし込む能力っていうのがすごく求められる時代が来てるんだなという風に感じてますね。自分が考えてることを簡潔な文章に落として表現する、そして相手に何かをやってもらうってことです。

例えば進捗確認する一言でさえ、それが「これって終わってますか?」の一言だと、受け取る側としてはそれって僕は詰められてるのか、それともただの確認なのかっていうのがわからなかったりするので、そういう無用な心配をさせないようなコミュニケーションが求められる時代になっているのかなと。そうなるとやっぱり得意な人と不得意な人がたぶんいると思うので、そこはリモートワークの課題かなと思ってますね。まだリモートワークに移行してから3年ぐらいなんですけれども、いろいろな改善や取り組みをやっていかなきゃいけないなというふうに感じています。やっぱりどうしても非同期コミュニケーションになっちゃうので、進行スピードって落ちるのかなと思われがちかもしれないですけれども、みんなの意識がちゃんと統一できていれば、そこまで進行スピードに影響があるとは思っていないですね。

リモートワークで気をつけていること

リモートワークで気をつけていることとしては、やっぱり情報共有とか流通性の良さっていうところは大事ですね。場所はどこでもいいんですけれども、当社の場合だとConfluenceっていうドキュメントツールを使っていて、ちょっと自分が考えたことなどもそこに情報を集めて、さらにコメント機能なども活用して、そこを読めばできるだけ自分の思考がわかるように、そして別の人が読んだ時に「こういうことを考えてこうなってるんだ」みたいなのがわかるように書くのが大事かなと思っています。そして、進捗はそこまで細かく管理しなくていいように、なんかざっくりとスケジュール感をみんなで握っておくっていうのが大事かなと思っています。

あとは、できるだけSlackでのコミュニケーションで完結した方がいいんですけれども、スレッドの中で50件とか100件のレスポンスを短時間でつけるような状態になっちゃうと結構効率が悪いので、Slackではダメそうなら早々にあきらめてSlackのハドルミーティングをするなりZoomでミーティングするなりという方法に切り替えるところの判断っていうのが結構大事かなというふうに思ってます。ちょっともうこれはSlack上でのやりとりは無理そうだなってなった時に、どれだけ早くそれに見切りをつけてリアルタイムのコミュニケーションに移行できるかっていうところはすごく気を使うところですね。

なんでも屋で楽しいの? キャリアパスは? 未来はあるの?

ところで、まあ結構、なんでも屋というか、なんでこんなにいろいろやってるんですか?みたいなことはよく言われるんですけれども、なんでも屋なのかと言われるとその通りだと思っています。

キャリアパスって、エンジニアだと、こういう言語ができますとかインフラエンジニアで構築とかできますみたいな、明確な自分のアピールポイントってあると思うんですけれど、ディレクターってやってることが結構多彩ですよね。採用活動をやっていても思うんですけれども、ディレクター経験者を募集しますって言うといろんな経験をされている方が応募してくるので、表現することが結構難しい職種だとは思います。それでも、自分のできることを明確にしておけば未来にも仕事はあるかなと思っている次第です。

なんでも屋の技術スタック

そこで、なんでも屋の技術スタックを、技術周りとビジネス周りというところで書いてみました。

技術周り

技術周りでは、自分が担当するサービスの関連技術全般を薄く広くなんとなく理解しておくっていうのがすごく大事かなと思っています。スライドにいろいろ書いてるんですけど粒度がめちゃくちゃで、ミドルウェアもあればOSもあれば、なんかすごく些末な.htaccessがあったり、WordPressがあったりTLSとかDNSなどもあります。もちろん全部完璧に理解しているわけではないのですが、HTMLで書いたらこういうことができるとか、PHPでこういうことやったらこういうことができるとか、nginxとApacheってこういう違いがあるとか、MySQLってこういう風に使うものであるとかっていう、これで何ができるみたいなのをまず理解するのが大事かなというふうに思っています。本を書けるほどの知識はたぶん必要ないと思うんですけれども、こういった技術をわからない人にも簡単に教えられるような程度の理解があればいいかなと思っています。

あとは、事情の抽象化と書いていますが、要は要件定義ですね。「こういうことがやりたいです」というざっくりした要件を、どういう機能を使ってそれを実現するか、みたいなところに落とし込む力っていうのはすごく大事かなというふうに思っています。ざっくりとした要望に対して「それって例えばWordPressのこういう機能を使ったらできるよね」みたいなところまで案件化する力というか、そういう所って必要かなというふうに思っています。

ビジネス周り

ビジネス周りでは、やっぱり幅広くみんながどういう業務をやっているのかを理解するのがすごく大事だと思いますので、バックオフィスの業務であったりとか、あとはライティングとかデザインとかクリエイティブ業務への理解であったりとか、自分でできる必要は必ずしもないんですけれども、これを言っちゃいけないなっていうポイントなどはたぶんどこの部門にもありますし、そういうところをちゃんと理解してポイントを押さえておくっていうのも大事かなと思っています。あとはマーケティングとか販促業務ですね。最近は社員が増えてきてマーケティングなどは他の部門にお願いできるような体制を取れるようになってきましたが、自分でやらないにしてもその辺の販促業務などの知識も必要になってくるかなと思います。

それから、インターネット業界のディレクターの方って、Webディレクターをしていましたとか広告の運用ディレクションをしていましたとか、さまざまな方がいらっしゃるんですけれども、見ていると結構どこかに秀でてる人っていうのが多いですね。デザイナーを経験してディレクターになりましたっていう方はデザインができますし、エンジニアをやっていてフロントエンドもできるしディレクターもできますっていう方もいらっしゃいます。そういう人は特定の技術方面が得意だったりするので、全員がスペシャリストにならなきゃいけないわけではないですけれども、欲を言うと何かに秀でているとすごく仕事がやりやすいかなというような気がしています。

ディレクター職はもっと注目されるべき!

最後に、ディレクター職ってIT業界に欠かせない仕事なので、もっと注目されてしかるべきだろうと思っています。ITエンジニアが注目される時代になってきていて、この前自分で調べていて初めて知ったんですけれども、某社の調査では高校3年生男子のなりたい職業のなんと3位に「ITエンジニア」が入っています。サッカー選手・公務員・医者・ITエンジニア、みたいな時代が来てます。というところで、これからもっとWebディレクターもみんなで盛り上げていって、いつか4位ぐらいにランクインする日が来てほしいですね。そうすると、IT業界っていろんな職種があるので、IT業界にいい人がもっといっぱい入ってくるような時代になるかなと思っています。

まとめ

今回はさくらのレンタルサーバにおけるサービス企画や開発ディレクションについてお話ししました。既存サービスのプロダクトマネジメントのTIPSであったり、大規模な組織・プロダクトでもディレクションの要点はそれほど違わないこと、リモートワークによる変化、そして「なんでも屋」とでもいうべきこの職種の技術スタックなどを紹介しました。これからサービス企画に携わる人の参考になれば幸いです。

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