新規事業3分クッキング 〜宅配便取次サービスができるまで〜
この記事は、2023年4月24日(月)に行われた「さくらのテックランチ vol.3 ~レンサバサービス企画の松花堂弁当と新規事業3分クッキング~」における発表を編集部にて記事化したものです。
中澤です。今日は「新規事業3分クッキング」と題して、ゼロから始める新しいサービスの出し方、特にクイックにリリースしていくことについて、事例を通して説明し、そしてその振り返りという形で話をしたいと思います。
目次
今日のレシピ
今日のレシピとしては「鮮度を活かして新しいサービスを出していく」ということにフォーカスしてお話ししたいと思います。企画の仕事に関わっている方とそうでない方のどちらにも、企画の視点ではこういうふうに見えてるなっていうことがお伝えできればいいかなと思います。
自己紹介
最初にちょっと自己紹介させていただきます。中澤道治と申します。さくらインターネット入社は2002年だったので、もうかれこれ22年目に入りましたという割と古い人です。入社当時はまだ小さい会社だったんですけれども、ホスティングやレンタルサーバを自社設備でやってるので、そういうところからいろんなことができるんじゃないかと思って入社して、最初は営業部に所属しました。当時、本当にその通り、いろんな業種・分野のお客様と一緒にお仕事ができて、セールス部分だけではなくシステムを考えたり改修したり、いろんなことをやってきました。
そのうち、ブログ・SNS・ソシャゲとか、だんだんインターネットの活用が広がってシステムの規模が大きくなってくると、お客様のコンピューティングリソースに対する課題とかニーズが変わってきて、ちょっと違うなって思う部分を感じるようになってきました。そんな時に企画部に異動しました。営業から企画ってあまり見かけないパターンなんですけど、社内でその当時、社内公募っていう仕組みができ上がって、それに乗っかって異動したという形で、もう企画としても10年経ちました。そこから、その間に作ったサービスのマネジメントもやるようになって、今はプライベートクラウドやストレージという分野でサービスのマネジメントをやっているという形です。
宅配便取次サービスができるまで
それでは今日の本題に入ります。
「宅配便取次サービス」というサービスを通じてお話ししたいと思います。現時点における当社で一番新しいサービスになります。今年の2月にリリースしたサービスなんですが、さくらとしてはちょっと異色なサービスになるかなと思ってます。
このサービスは、さくらが宅急便の取次店になってしまうという形のサービスなんですけれども、このサービスをどうやって作ったのかという調理法と、そこから気づいたことをお話しできればいいかなと思っています。
材料
このサービス作りの準備というところで、材料を紹介します。まず宅急便ということでヤマト運輸さんですね。あとはSlack上で動くということでSlackさんがいます。それから、非常に頑張ってくれるエンジニアが1人と、フォロワーとして私が入りました。で、本当はフォロワーだったんですけど、いつのまにかサービスを作るという役割になって、サービスを作りましたというところです。
このクッキングの味付けは、無茶ぶりが少々で、開発期間も小さじ1杯ぐらいの少なめなんですが、なんかいいサービスに感じたのでやる気だけはすごくたくさんあって、全然根拠はないんですけれどもやってみようという形になって始めたサービスになります。
下準備:材料の仕込み
というわけで作り方というか、サービスを作っていくんですけれども、下準備として、このサービスは元となる機能が、私が参加する前からできていました。
コロナ禍になって、会社の中での働き方もリモートワーク主体にシフトしていて、その中で今までは東京支社や大阪本社といった事務所に荷物が届くというのが普通だったんですけれども、みんな在宅勤務という形になって荷物の取り扱いに課題が発生しました。社内の規定で各社員の住所は共有されていませんし、なかなか聞き出しにくいということもあったので、荷物が届いたら荷物の預かり場所やデスクに置いておくといったことが当時発生しました。
やれることを精一杯やってたという感じなんですけれども、出社してないのにデスクの上に置かれてもなーとか思ってたりしたところに、エンジニアの方から、Slack上で送り元と送り先の情報をお互いが入力して匿名配送の送り状を作ってしまうというものが作られて、社内で使われるようになってきました。これは社内で非常に好評で、他社でも同じような課題って抱えてるんじゃないのかなっていう発想のもとに、これサービスにできたら面白いんじゃないかということでサービス化の話が私の方に来ました。それで、じゃあ実際にサービスを作るという話で進めてみましょうということになりました。
調理:材料の切り揃え
社内では好評で実績もあったサービスなんですけれども、サービス化をするということになると、機能が良いだけではダメで、それ以外にも準備することが当然たくさんあります。
サービスを提供しましょうという点では、当社ではホスティングとかクラウドとかコンピューティングリソースを提供するサービスはたくさんあって長い経験があるんですけれども、この宅急便を使えるようにするというサービスだとターゲットもサービスのあり方も全然違うなあと。そうすると、表現から商習慣までいろいろ違うお客さんに使っていただくことになるので、契約から提供、あとサービスの発展まで一通り考えていかなきゃいけないなと。過去の事例とはちょっと違うなあというところがありました。それを社内に話しても、社内でも「今までのサービスとどう違うの?」みたいな形で質問いただいたり比較を求められたりというところがあったんですけれども、比較しようにもまったく違う形のサービスなので同じ尺度でお話しすることができないっていうところがありました。なので、そういうところも理解できるように基礎から組み立てていくことが必要だなと感じました。
同様に、Slackやヤマト運輸という、業種が違うところと共同でやらなければいけないという中で、それぞれやっぱり感覚が違うところがあるんですね。で、まったく違う感覚から話を進めて同じ認識を持たなければいけないというところで、お互いがこう違うんだよっていうのを認識して、理解協力できる関係にしていくというのが大事だなと思って対話をスタートしたというところがあります。こういう認識の違いを整えるってやっぱり苦戦するところは多くて、文章として表現しても受け取り方がやっぱり違っていて伝わりにくいっていうことがあったりしたんですが、それでもまあ将来に向けて一緒にやりましょうっていうところで三者で強い意志の合意があったので一つ一つクリアしていきました。
この時に、この状況、つまりリモートワーク主体というのがとても効果的に働いたかなと思っています。今までは、こういう協力関係を組もうっていう場合にはメールでやり取りをしていて、必要であれば商談みたいな形で打ち合わせをするということが非常に多かったんですけれども、それだととても時間がかかるというのがありました。しかし今回はSlack上で三者対話をしながら、必要であればZoomでちょっと話をしましょうみたいなことができたりして、昔考えてた企業間での対話に比べたら格段に量も多く質も良いお話ができたかなと思っています。
調理:焼き上げ
そんな感じで準備ができ上がったので、お互いのスタンスがわかればサービスとして組み上げていくのは非常に早くできました。やることはたくさんあるんですけれども、ストレートな対話ができる、話が通じるというところがあるので、みんなで機能テストもしながら使いやすさや表現を詰めていくということをやっていきました。そういう形でしたので、サービスの全体像が早く見えて共有できたのが良かったのかなと思っています。
でも、どうしても部分ごとの進行、例えばこの部分をこうしましょうみたいな部分最適化をやっていくと、組み上げた時のバランスをすり合わせるためにちょっとここの出っ張りを削ったりとかここを足したりみたいな形でレベル感を整えるというところに工数を割かれがちなんですけれども、そういうことがなくきれいに積み上げることができたというのが良かったのかなと。部分的に組み上げていくのはダメではないんですけれども、最後に合わせるところでちょっと抑えたりした感じが出てしまうともったいないというか、マイナスではないんですけどちょっと残念な仕上がりになりがちなんですけれども、そういうのがなくサービスを出せたっていうのが良かったのかなと思っています。
出来上がり
こういう形で、便利だなって思ってた機能の部分に集中して、シンプルに組み上げることでサービスを早く作ることができたと思っています。
とは言っても、機能の開発と業務フロー、あと企業間の契約やサービスの規約を作ったり、ウェブサイトのデザインとかサポートの体制を整えたりといった作業をすべて並列に実行していたので、サービスの根幹の部分に意識のズレがあったりすると全部が崩れてしまうというような状況だったんですけれども、その部分でのブレがなくやれたので非常に進行が早くて、検討からリリースまでだいたい半年ぐらいで進んだと。これは非常に早くできたのかなというふうに思っています。当然、今までの業務と違っているところも多くて、知らないことをやるのがすごく多かったんですけど、いろいろこの半年は本当に調べることをたくさんやったなという記憶があります。
サービス作りの振り返り
今日のポイントとして、このサービスのリリースを通じて、何が良かったのかを振り返ってみたいと思います。当社が主力としているクラウドやホスティングサービスとまったく違うのは当然で、これが万能なベストプラクティスではないとは思っていますが、良い点や注意点とか、そういう部分は他のサービスにも活かせるんじゃないかなというふうに思っています。
しっかり話ができる協業関係
ポイントの一つ目は、しっかり話ができる協業関係というのが非常に大きな点だったのかなと思っています。これまでもいろんな協業をしてきましたが、正直なところ、今回は自分の中でも当たりだったかなというぐらい、よくお話ができたと思っています。
業界や文化が違うと、本当にささいな部分なんですけれども、そういうところで認識が違って、手間取ったり時間がかかったりするものなんですけれども、そういう、いわば言語が違うような感覚になる部分が非常に少なく、不安を取り除けて、嫌なことでもしっかりお話ができるっていう関係を組めたっていうのが非常に大きかったのかなと思ってます。で、これがサービスをやりましょう、検討しましょうと言ってから比較的早く確立することができたので、私も急に参加という形で呼ばれたんですけれども、非常にやる気が出る要素であったのかなというふうに思っています。
本当に最小のコアメンバーと周囲のフォロワー
2つ目はサービスの開発体制というところなんですが、最小のコアメンバーということで、実質的にコアメンバーは2人しかいませんでした。エンジニアサイドで頑張ってくれる人とビジネス側で頑張る人という2人だけですね。なのでこれ本当に最小単位だなと。最小単位だとどうなるんだろうっていうのは不安でもあったんですけれども、面白さにもなるかなと思ってやってみました。
で、やってみると、やるべき課題がすごくたくさんあって、作らなきゃいけないこととか考えなきゃいけないことがたくさんあったので、それを細かく、いちいちどっちがやるみたいな分担はもうしてられないような状態です。お互い気づいたら声かけて可能な方がやる、どっちかがやるしかないという形なので、誰かがやるとかやってくれないかなーみたいな考えはもうまったく起きないという状況になりました。やらなかったら進まないっていうだけの一択なんですね。なので、どうするかって考えた時に、ある意味、最速の判断ができたっていう風に思っています。やってくれるか自分がやるかだけですからね。
それから、2人しかいないのでまったく会議がないっていうのも面白いポイントだったかなと思います。共有のために会議で伝えて、みたいなことはまったく不要で、Slack上でほとんどの話が進んでいくという形でした。ただ注意としては、雑談的な思いつきからクリティカルな話まで、すべてをSlack上でオープンに書いていくっていう形をやっていました。なので、本当に細かな部分まで伝わって理解できたのかなっていうところで共有が進んでいたのかなと思います。
そういう形で気楽に話をしていく中で、チャンネルログを見ればすべてがそこにあるっていう形なので、ちょっとそれを見てフォローや手伝いをしてくれる方がすごくポジティブに手伝ってくれたというのがポイントになってるのかなと思います。この部分、通常ですと「これやってくださいね」みたいな形で事細かな説明をしてお願いするとかがあったんですけれども、Slackに参加して見ていただければどんな状況かわかりますよっていうところで雰囲気が伝わってお手伝いしてくれるので、説明などを本当に省くことができてとても助かりました。コアメンバーがガシャガシャと動いてる中で、フォローする方もうまくやっていただけたというのがありました。
こんな感じで、チームが大きい小さいというのはどちらがいいっていう話ではないんですけれども、最小単位だとこういう形で進むというのを知ることができたかなと思っています。
時間軸の違い
次に時間軸の違いですね。既存のサービスの場合には利用者のイメージがあって、そこから発生するニーズなので、極端に方向が違うような、ピボットするような変化っていうのはなかなかないんですね。それはサービスの中心の部分で非常に確固たるものが存在しているというのがあります。
ところが、今回やったような新規サービスの場合はその部分はまったくないという状態ですので、自分たちが考えたものを出していくことになりますし、それが思った通りに市場や利用者に理解されるかどうかは未知数というところがあります。なので、中心の部分に絞って、この部分だけを伝えたいっていうところをサービスとしてスタートするということをやっています。で、それ以外のちょっとした部分とかそういうのは、状況に合わせてお客さんからのニーズとか、もっとこういうふうにできるかなっていうところを付け足していこうという形で、先送りする形でアイデアの集まりとして取ってあります。そういうことにしてますので、柔軟性というのが確保できて、サービスとしてはシンプルにできている、これが早くリリースすることにもつながったのかなというふうに思っています。
ごく普通の事かもしれないが、それが難しい
あとは、ごく普通のことかもしれないんですけれども、うまくいかないかもっていう不安が企画する側としても結構ありがちなんですけれども、それを柔軟性を持って埋めていこうという形です。
で、従来ですと、柔軟性を活かすために知識とか経験っていうところに頼りがちで、知識ベースで作っていこうというのがあるんですけれども、今回の場合は未知のものを作っていくっていうところが非常に多くあるので、知らない方がいい視点があったりする場合も多いと思います。なので、みんなで考えて、みんなの考えを大切に扱うという形を進行上で非常に大切にしてやっていきました。あまり知らないけどこんな風に感じた、みたいな意見も大事にしてやっていくと面白くなるかなと思います。
新しいサービスの作り方の考え方
ということで、新しいサービスの作り方とか考え方としては、利用者もサービスも開発者もみんな成長していくというところを意識することかなと思っています。といっても、あまり遠くのところを目標にしてしまうとなかなか難しくなってしまい、達成できないとか違ったとかそういうことが起きてしまうので、一歩一歩進むことっていうのを大事にしようと思っています。
そして、速さと柔軟性を持ち続けるということは、そういう考え方を関係者とチームのメンバーみんなが理解することが大事なのかなと。で、そこに対して積極的に参加していくっていうのがサービスの作り方の上で重要なのかなと思っています。
どうしてこんなやり方を考えたのか
補足になりますが、どうしてこんなやり方を考えたのかをお話しします。
従来のプロダクト的な企画っていうのは、階段みたいな形で新しいリリースや進化をしていくんですけれども、実際はその間にいろんなことをやっていて、その部分に結構面白いことがあるんだよなっていう部分を、企画としてももっとフォーカスしてやっていきたいなと思っているところがあります。
また、役割分担すると外から見えなくなったり、その役割から出にくくなったりしてしまうことが多いので、そういう部分も最適化できたらいいのかなと。もっと成長できてもっと広いことができるようになればいいかなと思っています。
企画の仕事についても、新しい技術やサービスが出てくるのと同じで、企画のやり方ももっと進化して新しいことができたらいいなっていうのも日頃から考えています。
まとめ
今回は宅配便取次サービスを例に、新規サービスを企画するときに考えたことをお話ししました。今回の件は少し特殊なサービスにはなるんですけれども、技術と同じように企画の方法論も進化していきたいと思いながら作ったサービスです。新しいサービスを作りたいとか、これからやってみようという方の参考になればいいかなと思っています。
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