【インタビュー】地方IT×アンカンファレンス式勉強会×IaC! ~独特かつ刺激的な「姫路IT系勉強会」~

はじめに

関西は兵庫播州、白鷺城のおひざ元に、ITの集いがございます。

お仕事でITに携わる人、ただ興味のある人、仕方なく取り組んでいる人、あるいはこれからIT業界を目指す人。さまざまな人がさまざまな事情で集まっているのが「姫路IT系勉強会」です。
この勉強会の特徴のひとつに「アンカンファレンス式」が挙げられます。講師1人に聴衆多数の一般的なカンファレンス式と異なり、そもそも講師はいません。参加者全員が1人1つお題を出し、それに対して参加者全員でディスカッションする、という座談会スタイルです。
なかなか他で例を見ないこの勉強会フォーマットについて、今回は勉強会参加者である植木が、主催メンバーに地方のIT業界の実情を交えてインタビューいたしました。

聞き手:さくらインターネット 植木(洋)・前佛
場所:さくらインターネット株式会社 大阪本社

メンバー紹介

――(植木):まずはお一人ずつ自己紹介をお願いします。

のがたじゅんさん(以下のがた):
姫路獨協大学で非常勤講師をやっています。最近は1年生にWord/Excelを教えたり、2年生にプログラミング(編集部注:PythonとFlaskを使ったWebアプリ)を教えたりしています。

姫路獨協大学 非常勤講師 のがたじゅんさん https://github.com/nogajun

姫路獨協大学 非常勤講師 のがたじゅんさん https://github.com/nogajun

wateさん(以下wate):
PHPを中心に活動しているWebプログラマーで、現在はフリーランスでお仕事しています。最近はプログラムだけでなくインフラ周り、特にAnsibleやTerraformを使ったサーバ構築が範囲に入ってきます。またRedmineによるチケット管理の導入支援なども手掛けています。

フリーランスエンジニア wateさん @aWebprogrammer

フリーランスエンジニア wateさん @aWebprogrammer

たたみ/223nさん(以下223n):
姫路IT系勉強会では事務・会計などを担当しています。数年前に愛知県に移り住み、勉強会にはDiscordでのリモートで参加しています。普段はNPO法人の社内SEをしていて、組織内のIT関連を全般的に見ている感じです。さくらさんはよく利用しています。

NPO法人社内SE 223nさん @223ntech

NPO法人社内SE 223nさん @223ntech

――(植木):ありがとうございます。私は2015年にさくらにジョインしました。その前は金融系システムのB2Bヘルプデスク、PC保守などのCE(カスタマーエンジニア)、ルータのリプレイスやActive Directory構築などのインフラ周り、あと製造業の社内SEなどをやっていました。現在は主にセールスの活動を行っています。

――(前佛):私はデータセンター関連の仕事をメインにやってきまして、2016年にさくらにジョインしました。エバンジェリストとしての活動を主に、最近は社内の非エンジニア層に向けたDX化などの啓蒙活動などを行っています。

地方ITの実情

――(植木):さて最初のお題目ですが、「地方ITの実情」というトークテーマでお話したいと思います。まずは実務経験が豊富そうなwateさん、肌感覚としていかがでしょう?

wate:
私は中小企業のお客様とのお付き合いが多いんですが、特徴としてはまず「予算が少ない」。そもそもIT化への関心が大阪や東京と比べて薄いんですよね。紙や口頭でのレガシーコミュニケーションが根強く、わざわざ業務をIT化しようというモチベーションが少ない。

――(植木):ですよね。私も明石市(※)にある製造業で2年ほど社内SEをやっていましたが、電話・FAX・紙のやり取りが多く残ってました。大手の取引先なら、発注データのCSVをメールで送ってくれたりするんですが。
※:姫路と神戸の間にあり、淡路島の北の対岸に位置する中核市。子育て支援行政で有名。

さくらインターネット 植木(洋) 前職は地方製造業の社内SE

さくらインターネット 植木(洋) 前職は地方製造業の社内SE

wate:
ただそういう現状に課題を感じている方はいらっしゃって、ご相談をいただくんですが、お客様の企業はお年を召した方が多く、学習コストの高いドラスティックなシステムはなかなか導入しにくい。なので、とりあえず「メールではなくChatworkでコミュニケーションしてみませんか」とか「Redmineでタスクを管理していきませんか」といった提案をしています。Redmineもいきなり環境を渡して「はいどうぞ」ではなく、業務全体からチケット管理の効果があるところを洗い出して、そこを入り口に提案する、という感じです。

――(植木):DXとかIT化って、テクノロジーそのものより業務改善の成分が多くて、コンサルティングに近いお仕事になりがちですよね。

wate:
ですね。暗黙知だったり、明文化されてない既存の業務フローや社内ルールを、ひとつひとつヒアリングして棚卸をして、IT化できないかを探す作業が中心です。
ITってキラキラしたイメージがあると思うんですが、私からみた実情に限っては泥臭い作業の積み重ねですね。

――(植木):223nさんはいかがでしょう? wateさんは社外から導入を支援するお立場ですが、223nさんは社内SEなので内側の視点でお話いただけますか。

223n:
「予算がない」という点では同じですね。例えばルータを購入するにしても、ネットワークの分離や監視をするためには家庭用のものでは難しいので、YAMAHA製ルータの導入を要望するんですが、実際に買ってもらえるまで半年かかる、みたいな世界です。「なんでYAMAHA製が必要なの?」という説明に一苦労する感じです。
また3つ拠点があってそれぞれNASがあるんですが、VPNが無いので拠点間のデータ共有はメールの添付ファイルに依存していました。で、メールを送りあっているうちに「どれが最新版だ?」問題が発生しちゃう。そこでまず各拠点で独立していたNASをDropboxのNPO法人(非営利団体)向けプラン(※)に置き換えて一元管理し、メールを使わずSlackを導入して掲示板的に使う、という提案をしていきました。
※:チーム用Dropboxアカウントを対象とした割引

のがた:
素晴らしい! 一般企業でSlack使っているところはなかなか聞かないですね。

223n:
普及には2年ぐらいかかりましたけど(笑)。
多分とっかかりが重要で、初期はチャンネルを「全体周知」だけにして掲示板的に運用してみて、便利さを感じてもらってから、次に個別案件ごとに専用チャンネルを作ってディスカッションしてもらうとか、ゆるいガイドラインを決めて段階的に導入したのが良かったと思います。あとSlackにもNPO法人向けの支援プログラム(※)があったのも大きいですね。
※:SlackのNPO支援プログラムの割引に申し込む

wate:
個人的にはSlackを薦めたいけど、一般的な日本人の感覚には馴染みにくいと思ってChatworkを提案する機会が多かったんですよね。つい先日、三重県がSlackの全面導入(※)を宣言したので、今後は提案のハードルが下がると思うんですけど。
※:三重県庁にSlack全面導入 自治体初 (2023年3月8日・Impress Watch)

223n:
あと傾向として、DropboxやSlackのように「もともとない」ものを新規に導入するのはそれほど抵抗がなかったりします。でも「すでにある」ものを変更すること、つまり現行で稼働しているシステムの変更はなかなか理解が得られないですね。
私自身は前職がシステム会社だったので「システム導入費用には安くても数百万かかる」っていう感覚は持ってるんですが、一般の中小・零細企業だとその感覚を持っていない。なので先ほどのルータにお金がかかることに理解が得られないとか、レガシーな社内システムの改修にかかる初期投資が大きくて、決裁者が見送っちゃう、という局面が多い。
対して現場レベルで導入して効果が得やすく、小規模なNPO法人に限ってですがほぼ無償で導入できちゃうDropboxやSlackは「あんまりお金かからないんで、とりあえず使ってみません?」とやりやすかったです。

wate:
田舎の現場はお年を召した方多いですからね。導入コストも学習コストが低いものが喜ばれます。

カンファレンス式ではない勉強会が生む「知見の共有」

インタビュー中の雰囲気は「いつもの姫路IT系勉強会」そのもの

インタビュー中の雰囲気は「いつもの姫路IT系勉強会」そのもの

――(植木):実は恥ずかしながらDropboxとSlackにNPO法人向けのプランがあることを今初めて知りました。こんな感じで、普段の姫路IT系勉強会でも、参加者の知見や経験が積極的に共有されて、勉強会で初めて得る知識が多く、とても刺激的です。そのキーになっているのが「アンカンファレンス式」だと思うんですが、これはどういう経緯で始まったんですか?

のがた:
講師探しがツラくなってきた、というのが始まりです。
勉強会を始めて最初の2年くらいは、講師をお招きしての一般的なカンファレンス式だったんです。講師の方は大阪など都市部にお住いの方が多いので、姫路に来るのって時間も労力も必要で、しんどいんですね。そういう事情もあって、最初は来てくれるけど、2回目、3回目、と続くと徐々に断られるようになり、ブッキングが大変になってきたんです。

――(植木):確かに。姫路は関西のほぼ西端で、都市部の講師さんが来るには遠いですもんね。

のがた:
やりたかったのは勉強会なのに、実際にやっているのは講師探し。また講師の方も、話すだけ話したらすぐ帰ってしまい、参加者との交流も持てない。当時は「これ、僕のやりたかったことと違うんちゃうか?」という思いがありました。
そんなときTwitterで、福岡に「サト研」(FWW_サイト研究会(仮))というアンカンファレンス式の勉強会があるのを知ったんです。講師を立てず、参加者に付箋紙を渡して「お題」を書いてもらい、その「お題」に沿ってみんなでワイワイと話し合う。司会者もくじ引きで決める。「これは良えんとちゃうか?」と思ったんです。僕はサト研に行ったことないんですけど(笑)。
(一同笑い)

のがた:
アンカンファレンス式を導入したところ、あまり馴染みのない方法だったからか、参加者は減りました。そのかわり、めちゃくちゃ盛り上がるようになりました。
なにしろ参加者の数だけ「お題」があり、トークテーマが多い。またお題を出した人がしゃべって終わりではなく、参加者全員でディスカッションが始まるので、話が広がるんですよ。

――(植木):カンファレンス式が講師の知見を聴衆に広く伝えるという1対nのアプローチなのに対し、アンカンファレンス式は一種の集合知的なアプローチですね。私も参加した当初とても新鮮で面白いと感じました。

のがた:
福岡のサト研は今も続いていて、姫路のこの勉強会も10年以上続いてます。IT人材が豊富ではない地方では、少数の参加者で成立するアンカンファレンス式のほうが合ってるのかもしれませんね。

wate:
カンファレンス式は講師の話を聞くのが中心で、誰かに相談する場じゃないんですよね。それに対しアンカンファレンス式は「こんな悩みあるんやけど、みんな聞いてくれる?」という相談の場にもなるんですよ。付箋紙に書く「お題」にお悩みを書けば、みんなが知恵を出し合って解決策を提案してくれる。コンプラに注意する必要はあるけど、課題解決や意見交換の場としては非常に優れている。

のがた:
先ほどの「DXやIT化で苦労している」というのもお題になりますよね。

――(植木):仕事の愚痴とかも「お題」にあったりするんですけど、そのお題についてディスカッションして持ち帰りできる情報が多くて、結果的にポジティブな気持ちになれる勉強会でもありますよね。

のがた:
「知らないことを言ってくれる人がいる」って環境がいいんですよね。知らないレイヤーや分野の話を聞いて、とりあえずキーワードだけ拾っておくと、後で役立つことが多い。

――(植木):そうそう。勉強会中に出てきた知らないキーワードはかったぱしからググっちゃう。勉強会が終わるとChromeのタブがいっぱい残ってる(笑)。

wate:
あと、人の入れ替わりがちょうどいい粒度であるのも良いですよね。近くに明石高専があるので、ときどきそこの学生さんが参加してくれます。

のがた:
明石高専の参加者で印象的なのが、正規表現について語る人が居たことですね。お題が「正規表現」だったので、正規表現の使い方について話をするのかな?と思ったら、「正規表現エンジンについて語ります!」って言いだして。

(一同笑い)

のがた:
私とwateさんは爆笑しながら盛り上がって、他の人はポカーンとしてたんですけど、あれは面白かった。
あとawkへの愛があふれていた人が居ました。gnuawkほかいろんなawkの実装について熱く語りだして、私も「awkは使うけどそこまで深く考えたことないなぁ……」ってポカーンと聞いてましたね。

――(植木):私もその場にいましたね。「それPerlかPythonでやる話ちゃうんかいな?」って思ってました。でも話してる人が心底楽しそうなんですよね。

のがた:
「awkを流行らせるためには、まずゲームを作らなければならない。ゲームを作るためにはメジャーなライブラリを操作できなければならない」と、awkでOpenGLを操作するライブラリ(※)を発表したりしてね。

※:takubo/awkGL

あと面白かったのが、60歳過ぎのおじいちゃんが来たことですね。最初は間違って参加されたのかな?と思ってたんですが、よくよく話を聞いてみるとお仕事が農業で、「農場の管理をシステムで自動化したい、システムを作るにはどうすればいいか教えてくれ」という話でした。とりあえずその日はみんなでホワイトボードなどを駆使しながら、PHPとMySQLを用いたシステムの作り方を即興で教えたんですね。
そしたら次の勉強会にも出席してきて「システムの作り方はわかった、これを運用するにはどうすればいい」という質問にステップアップしていました。その間に作ったというプログラムを見せてもらったんですが、長年蓄積したと思われる農業のノウハウがコードに反映されていました。作りは正直言って稚拙でしたけど実践的で、あれはたぶん他の農家にも役立つと思います。

wate:
60を過ぎた農業一筋の高齢者がイチからシステムを作って運用するところを目の当たりにしたので、「自分もまだまだ意気込みが足らん」と思い知らされましたね。技術がある・ないじゃなく、意欲の問題。

223n:
そのおじいちゃんがラズパイまで使っていたのが驚きでした。田畑の温度を取ってSlackに通知して水やりの判断材料にしたり、ハウス内の温度・湿度の管理にも使っていましたね。

wate:
IoTの先駆けみたいなことをやってらっしゃいましたね。多分まだIoTがバズワードになる前の時代。

のがた:
姫路IT系勉強会は「ITに関することならなんでもOK」というスタンスなので、別にこんな尖った話でなくてもいいんです。たとえばリモートワークどんな感じ?とか、普段どんな手段で情報収集してる?とか、コードエディタ用フォントは何がオススメ?のようなエンジニア同士の雑談や、やってみた系の成果物発表やポートフォリオの披露などでも毎回盛り上がっています。

――(植木):話題を選ばないのもこの勉強会の特徴ですね。地方は都市部に比べてITの担い手の絶対数が少ないので、テーマやレイヤーを絞り込まずに自由に参加できるのがいい。

のがた:
あとアンカンファレンス式って「準備コストが圧倒的に低い」というメリットがあるんです。なにせ付箋とペンを用意すればいいんで。あとはその場でググったり
HackMD(※)にログを残すためのWiFi環境があればなお良し、くらいのカジュアルさ。コロナ禍では会場も押さえず、付箋紙の代わりにHackMDに直接お題を書いて、Discordでオンライン開催もしていました。
※:Markdownで共同編集型できるオンラインドキュメントサービス

――(植木):コストが低いというのは絶大なメリットですね。
ところで前佛さんも一度この勉強会に参加されていますが、どんな感想をお持ちになりました?

弊社前佛(右)も参加経験あり

弊社前佛(右)も参加経験あり

――(前佛):「年齢の幅が広いな」という感想がありました。私が参加したときに小学生の女の子が参加されていて、ホームページの作り方を質問していたのが印象に残っています。たぶんその子の周り、つまり同級生や先生って「ホームページの作り方」は知らないと思うんです。身の回りの誰も知らないことを聞ける場所がある、というのはいいことだと思いました。

のがた:
ありましたありました。どなたかが連れてこられたお子さんだったと思います。飛び入りOKにしてるのもあって、小学生の女の子でも参加できるし、質問もできちゃうんですよね。それに対して大人が真剣に答えているのもいい場所だと思います。

公式サイトで勉強会ログを公開・さくらのクラウドでIaCを実践

――(植木):さてさてそんな楽しい勉強会ですが、みんなで持ち寄った知識や議論はHackMDにログとして残し、そこからHTMLを生成して公式サイト(※)で公開し、いつでも振り返りできるようになっているのも素晴らしいですよね。そしてこの公式サイトのインフラは弊社から「さくらのクラウド」を提供して使ってもらっています。
※:姫路系IT勉強会公式サイト

のがた:
「勉強会やりました、楽しかったね~」だけで終わるのはイヤでしたからね。当初からログは残す方針でした。HackMDが登場する前はGoogle Docsでしたが、全員で共同編集に参加して、手が空いた人が自主的に書いていくスタイルです。

wate:
私が文章書くのが苦手で、勉強会の間はおしゃべりに徹してるというのもあって、ログを書いてくれる参加者には感謝しています。
あとログを残しておくと、議論中に「これ前にもしゃべったんですが」という文脈で引用しやすいんですよね。

――(植木):この公式サイトではAnsibleを中心にIaCを実践されていると伺いました。

wate:
もともと勉強会の中で私が書いたAnsibleのコードは見せていたんですが、ちょうど公式サイトの構築当時、Ansibleの勉強がしたいというメンバーが出てきたので、「じゃぁこれ使ってみてー」と私のGitHubにあるコードを渡して、改良を加えてもらいました。あと公式サイトとは別に、勉強会のタスク管理用RedmineもAnsibleで構築しています。

――(植木):Ansible Playbookを姫路IT系勉強会のリポジトリ(※)でPublic公開しているのも素晴らしいですよね。他にも流用できそうですし。
Himeji IT Study Meeting

wate:
あまりコードをメンテナンスできてないのが心苦しいんですけど。
ただ構築当時の手順が「手順書」や「チェックシート」ではなく、「コード」で残っている、というところに価値があると思っています。客観的に検証できる明確な手順がそこにあるので。

――(植木):他人が作ったサーバって正直触りたくないですもんね(笑)。どこをどういじったのかわからない。

wate:
人の手による作業って「秘伝のタレ」化してることが往々にしてあるというか、想定外のところをいじっていたりして、属人化による弊害や、作業ログの保全性の面で怖いんですよ。だからコードで管理しておきたい。またコード化しておくとGitHub Actionsでのアプリケーションデプロイなども含めて自動化できる。そして作業ログに相当するコードが残っているので、サーバに対して何やったのかも後から検証できる。

――(植木):自分で構築したサーバを半年後に触る、みたいなシチュエーションにも使えますもんね。「半年後の自分は他人」ですし。

wate:
半年後にコードを検証して、必要なところを変更すればいいので、非常に気が楽ですね。

――(植木):TeraTermの作業ログとか追いかけるのってしんどい作業ですもんね。

wate:
数あるIaCツールの中でもAnsibleを選んだのはYAMLがきれいに書けることですね。読みやすいし、メンテナンスがやりやすい。エージェントレスで環境を選ばないのも良いですね。

――(植木):Ansibleって究極的に言うと、人がSSHでやってた作業をコードに従って自動化してるだけですもんね。エージェントが必要な他のIaCツールよりも原理がシンプルで、環境を選ばない。

wate:
あとAnsibleはYAMLの書き方に制限があるんですよ。コードの自由度がかなり低い。Ansible Lintでのルール化が容易で、属人化を排しやすい仕組みになってる。イヤでも可読性が良くなるので、引継ぎがしやすい。

のがた:
実際、勉強会のリポジトリに各ロールがあるんで、そこからフォークして使ってもらってもいいですよね。

wate:
あのロールはちょっと古くて、今は私個人のリポジトリに最新版があるんですが……特にCentOS実質終了問題(※)でDebianに移行するときに中身を書き換える必要があったんで。
※:RHELのライフサイクル内でのCentOSの立ち位置が変わり、安定版がなくなった問題。本番環境向けとしてデファクトスタンダードだった無償OSが実質的に提供終了したことで、乗り換え先OSをどうするのかが課題となっている。

――(植木):CentOSからDebianへの移行するときってどうでした? Ansibleが作業を抽象化してくれることで、手作業で設定ファイルいじるよりは楽そうに聞こえますが……。

wate:
一言でいうと「覚悟してたほど大変じゃなかった」ですね。基本的にはyumモジュールをaptモジュールに書き換えて、パッケージ名やディレクトリ構造をDebian風に変更する、という作業でした。どちらかと言うと、テストコードの書き方で悩んでる時間が多かったですね。
実は業務でも、CentOSの問題にあたったお客様にはDebianへの移行を提案しています。私がプライベートでDebian派なので、Ansibleのコードが統一化できて工数削減にもつながっています。
あとサーバ納品時も、お客様にはAnsibleのロールもつけてお渡ししています。

――(植木):あー! ユーザーがAnsibleを学習すれば再現できる!

wate:
もし私がプロジェクトから離れても、お客様やその外注先がAnsibleを理解できれば、私が作ったサーバの中身はコードから紐解けるんです。

――(植木):なるほど。変な言い方ですけど「潔い」ですね。囲い込みをしてない。

wate:
私がプロジェクトから外されるのは囲い込みをしてないからじゃなくて、「私のサービスレベルの問題だ」と真摯に受け止めたいんですよね。なので、私のやりやすいAnsibleという手段ではありますが、お客様にはオープンな姿勢でありたい。

のがた:
私も大学で古いサーバのメンテナンスする機会あるんですが、構築時の業者が残した手順書やチェックシートって、どうしても漏れや抜けが存在するんですよ。人の手が介在している以上これは避けられない。それらをチェックしていく作業が大変。
「このサーバ、コードでできてたらな~。それ見ればすぐわかるのにな~」って思いながらサーバの中を触ってますね。

――(植木):私も前職のインフラエンジニア時代に作業が予定通り進まず、チェックシートが形骸化したことがあるので、よくわかります。
ここから急に宣伝ぽくなるんですが(笑)、「さくらのクラウド」におけるIaCにはどんな手ごたえを持っていらっしゃいますか?

wate:
仕事柄、他のクラウド事業者さんを使いますし、それぞれに合ったIaCでやるんですけど、さくらさんに関してはTerrafrom(※)やPacker(※)といったモダンなIaCツールが一通り揃ってるのがやりやすいと感じますね。他の国内事業者を見渡しても、ここまで整備されているサービスは知らないです。
※:Terrafrom for Sakura Cloud
※:sacloud/packer-plugin-sakuracloud
またお客様に提案するとき、海外のいわゆるメガクラウドは従量課金の成分が多くて見積もりがしにくく、提案が難しいんですよね。さくらさんだとほとんどのケースで定額に収まるので、お話がしやすい。

のがた:
最初の「地方のITは予算が厳しい」って話にもつながりますね。

wate:
予算の話だと、さくらさんには廉価なVPSやレンタルサーバがあるのもメリットですね。クラウドの月額数千~数万円のコスト感に難色を示されても、月額数百円からで使えるサービスって提案の間口として入りやすい。のちのちのスケール時にクラウドへの移行も含め、さくらさんの中で完結できます。経理処理やお客様の学習コストの面からも、次のステップのハードルを低めに設定できるのがいいですね。

――(植木):ありがとうございます。
冒頭で223nさんもさくらを使っていただいていると伺いましたが、どんなユースケースでご利用いただけているんでしょうか?

223n:
「さくらのレンタルサーバ」でのホームページとメールの利用が中心ですね。オンプレミスで運用していたそれらを集約するのに使わせてもらっています。

――(植木):「さくらのレンタルサーバ」って歴史が長くてメジャーなサービスだし、ネット上にある知見も多くてヘルプサイトも充実しているので、我々セールスの人間はあまりタッチしないんですが、実際のところ、運用上で欲しい情報ってリーチしやすいですか?

223n:
だいたいググれば出てくる、って感じですね。ヘルプもわかりやすいし、やりたいことを実現するのに方法で困ったことはあまりありません。欲を言えばRedmineなどPHP以外のアプリケーションが動いてくれるとありがたいんですが……。
ただ基本機能であるウェブサーバやメールサーバの機能としては大変満足していて、障害の頻度も少ないし、アクセス過多になってもリソースブーストで一時的にしのげるのはありがたいです。管理面でもUIが使いやすく、メールアドレスの発行くらいならITの知識がない人でもできるので手離れがいい。
あとはサポートですね。メールや電話で日本語のサポートを簡単に受けられるという点は非常に大きなメリットです。

次の勉強会のお題?

wate:
個人的に「さくらのレンタルサーバ」で一番ありがたいのってSSHで入れる点ですね。入った先でgitコマンドが使えるのでGitHubからのgit cloneも簡単にできる。今「さくらのレンタルサーバをAnsibleで管理する」というテーマを考えてます。

――(植木):え? 確かにSSHで入れるってことはAnsibleで操作できるはずですけど、うちのレンタルサーバでAnsibleに取り組む余地ってあります……?

wate:
sudoできないんで万能じゃないですけど……たとえばWordPressのアップデートとか。

――(植木):あぁ!

wate:
サーバにWP-CLI(※)を入れておいて、Ansibleでwpコマンドを叩いていくだけ、というシンプルなものですけど、管理工数はかなり減りますよ。多分テーマファイルをGitHubに置く場合プライベートリポジトリだと思うんで、デプロイキーをどう扱うか、という課題はありますけど、管理画面からポチポチするよりラクだし、確実なはず。
※:WP-CLI:WordPress管理用のコマンドラインツール

――(植木):それいいですね。そのPlaybookが公開されるとうれしい人いますよ。
(編集部注:AnsibleによるWordPressのインストールはインターネット上に既存の記事あり)

wate:
実際、この勉強会にAnsibleを使ったWordPress構築をやってるメンバーがいるんですよ。次の勉強会でちょっと相談してみよ。

のがた:
WP-CLIを手動で使ってる人はいると思うけど、Ansibleから叩いてる人はそうおらんわ。ええやん。次の勉強会のネタできたでwateさん。

――(植木):すごい。このライブ感はまさにいつもの勉強会ですね。「レンサバでAnsible」なんて尖ったネタは他ではそうそう見ないし、あっても勉強会のお題で発表する人はまず見ない(笑)。
今日はこれで終わりにしたいと思います。ありがとうございました。

おわりに

今回のインタビューを通じて、「集まる機会がないだけで、地方にもIT人材は居るのでは」という思いを強く持ちました。集まる場所と付箋紙さえあればとりあえず始められるアンカンファレンス式は、おしゃべりが好きなITの担い手が少人数で楽しく勉強する一つの最適解ではないかと思います。

地方でITに取り組んでいて、交流を持ちたいと思っている方、試してみてはいかがでしょうか。