TEDxHokkaidoU2023における宇宙工学のトークのご紹介

はじめに 〜編集部より〜

さくらインターネットでは、ITコミュニティや研究プロジェクトなどの活動に必要なITインフラを支援する活動を行っています。本記事は、支援先の1つであるTEDxHokkaidoUの奥田健さんに、団体の活動や過去に実施したTEDxイベントにおける講演をご紹介いただいたものです。

TEDxHokkaidoUについて

この記事を読んでいる皆さんは、TEDという団体をご存知でしょうか。TEDとは「Technology Entertainment Design」の略で、さまざまなトピックについて価値あるアイデアを持った人物が登壇する世界的な講演イベントです。そしてTEDは世界各地の地域コミュニティにライセンスを発行し、TEDと同じスタイルで実施されるTEDxと呼ばれるイベントが世界中で開催されています。

私たちTEDxHokkaidoUは北海道大学を拠点としてTEDxを開催する団体です。昨年開催したTEDxHokkaidoU2023でもさまざまな分野の方に登壇していただいたのですが、その中から北海道大学工学院宇宙工学部門で教授を務めている永田晴紀さんの講演「リミッターを外して考えよう」を紹介したいと思います。

永田晴紀教授の講演

宇宙に興味をもったきっかけ

彼は五歳のときに「たんせい」という衛星の打ち上げを見て、そこで働く人たちに憧れを感じました。そこで母にどうしたらそこで働けるか聞いたところ東大を勧められ、その通りに進学しました。

幼いころから、どんどんスケールが大きくなっていく、いわゆるインフレーション系の物語が好きで、リミッターを外しながら成長していくということが彼のキーコンセプトになっているそうです。

ロケットにリミッターはない

例えば蒸気機関は水の加熱量がリミッターになっています。これを取り払って登場したのが内燃機関です。しかし内燃機関は空気の吸い込み量が新しいリミッターになっていて、これを増大させたのがガスタービンです。ガスタービンは飛行機やヘリコプターなどの航空機で使われていますが依然として空気吸い込み量がリミッターになっています。

そしてこれを取り払ったのがロケットエンジンです。ロケットエンジンには新たなリミッターもありません。また、乗り物としてみてもロケットにはブレーキが存在せず、リミッターのない乗り物と言えるでしょう。つまり、ロケットはインフレーション的な乗り物であるということです。永田さんはインフレーション的なものに魅かれる性質があると言います。

研究や教育でもリミッターを外す

永田さんは研究室の学生の教育にもこの考え方を活かしており、彼らの心のリミッターを外すために、常にワクワクしてもらうことを心掛けているそうです。自分たちでロケットを作って打ち上げの実証実験を行うというのは彼らのワクワクを呼び起こしました。ロケットのサイズを大きくしては到達高度を上げていくというのを繰り返していったのです。

しかし、ワクワクは永遠に続くものではありません。単純な打ち上げにもだんだんと飽きてきたところで、別のテーマが舞い降りてきました。それは、ハイブリッドキックモーターという装置の開発です。きっかけは東京大学の先生からの、火星や金星への相乗り宇宙機の打ち上げの相談でした。相乗りとは大型の主衛星の打ち上げの余剰能力を活用して小型衛星などをついでに打ち上げることですが、火星や金星までの打ち上げというのはそう頻繁に行われないため、地球の静止衛星軌道まで打ち上げられた後に自力で地球重力圏を脱出できるようにする必要があります。そのためにハイブリッドキックモーターと呼ばれる推進装置を用いました。ロケットを打ち上げるだけの実証実験ではワクワクしなくなってしまっても、「我々のキックモーターで月へ、火星へ行こう」となったことで、またワクワクを取り戻すことができたのです。

人類の未来もリミッターを外して考える

また永田さんは、人類の未来についてもリミッターを外そうと考えています。将来の宇宙では地球〜月〜火星圏大量物流ネットワークができており、そこではステーションからステーションまでの大量輸送と、「ラストマイル輸送」とよばれる最寄りのステーションから地表の基地までの輸送が行われます。そのラストマイル輸送において、ハイブリッドキックモーターが必ず必要になってくると永田さんは言います。

また、地球〜月〜火星ネットワークの先は太陽系ネットワークを、その先は銀河系ネットワークを構築したいと考えています。人類の活動圏すらもリミッターを外して考えるのです。

ロケットのみならず、学生の教育や研究指針、ひいては人類の未来まで「リミッターを外す」ことを考えている永田さんでした。これを読んでいるあなたも、ふとしたときに「リミッターを外すこと」を意識してみませんか?

おわりに

TEDxイベントのトークの雰囲気は掴めたでしょうか? 次回のイベントは2025年の5月を予定しています。去年からメンバーの総入れ替えが起こり、私自身も新しく入った身でまだまだ手探りなところもありますが、個性的で魅力的なメンバーで良いイベントを作ろうと日々活動していますので、ぜひとも応援よろしくお願いします! 最後まで読んでいただきありがとうございました。