エスプレッソ抽出制御システム「CONNOISSEUR」の開発
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はじめに
こんにちは、立命館大学理工学部機械工学科の岡田拓真と申します。
2023年度に未踏IT人材発掘・育成事業として「乳化量最大化を目指したエスプレッソ抽出制御システムの開発」というテーマで採択され、エスプレッソマシンの制御システムを作りました。今回は2023年度未踏での成果と課題、また未踏での開発期間を経て現在取り組んでいることについてご紹介いたします。
開発期間での成果
2023年度未踏では「美味しいエスプレッソとは何か」を追求するために、エスプレッソマシンのシステムを改良し、エスプレッソの味をコントロールする方法を開発しました。
ここではエスプレッソマシンのヒーターにセンサーをつけ、ヒーターのオンオフを制御する装置を組み込むことで抽出温度の制御を可能にしています。装置の作成に当たっては基板を作り、部品をコンパクトにまとめました。未踏では複数人のプロジェクトもありますが、こちらは1人でのプロジェクトということもあり、時間をやりくりしながら開発を行っていました。
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また、泡の量の測定では、泡の量を解析するアルゴリズムを作成し、さくらインターネット株式会社のクラウドサービス「さくらのクラウド」にて提供されているGPU(NVIDIA V100)搭載サーバーを利用して解析を行っていました。
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たくさんのコーヒー豆を焙煎・抽出する中で、エスプレッソを美味しくするために温度が重要だということはあらかじめ分かっていましたが、制作の過程でマンゴーやパイナップルの風味を生成することにも成功しました。そしてこれらを京都のマルシェでも提供し、消費者の方にマンゴーの味を体験してもらいました。そのほかにもいくつかの場でエスプレッソを提供してきましたが、改めて提供の中でエスプレッソの美味しさに驚かれる場面が数多くありました。
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エスプレッソ提供の機会
- 船岡山オープンパークマルシェ
- 未踏のブースト会議
- 未踏の八合目会議
- 未踏の成果報告会
- 未踏会議
- Maker Fare Kyoto
※提供の様子やインタビュー動画は未踏成果報告会の動画にて紹介されています。
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従来のエスプレッソの文化
エスプレッソは伝統的にイタリアなどで1杯30mlほど抽出し、砂糖を加えて飲まれています。そして日本ではラテなどに使われており、エスプレッソ単体で楽しむ文化はないように感じています。
そのため、砂糖を入れたエスプレッソを提供した際の新しい味わいについて消費者の方が驚くことが多いのではないかと思います。さらにそこにフルーツの香りがある、そんな驚きも同時に感じられているようです。
ただ、日本ではエスプレッソをそのまま楽しむ文化があまりなく、質の高いエスプレッソを飲める場所の絶対数が多くはありません。自分好みのエスプレッソに限定すれば尚のことです。現状だとラテ用に最適化された深煎りのコーヒー豆でのエスプレッソの提供や、ドリップに最適化された浅煎りのコーヒー豆での提供となることが多いように感じます。
深煎りの伝統的なコーヒーの味わいや、浅煎りのフルーティーな味などさまざまなフレーバーがある中で、今までの展示では新体験を伝えるためにフルーティーな味わいのエスプレッソを提供してきました。
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エスプレッソ提供における品質の壁
未踏の開発期間では思いがけずマンゴーやパイナップルといった特徴的な風味の生成に成功し提供した一方、継続的な出店にあたりその風味を安定して提供することに課題を持っていました。
例えば、特徴的な風味を持ったコーヒー豆でも、3ヶ月後に同じ条件で抽出してもそのコーヒー豆特有の風味が消えてしまいます。それは時間経過によってコーヒー豆自体の品質が変化してしまうからです。また同じ産地のコーヒー豆でも作物の出来によって味の出方が変わってしまうことがあります。
マンゴーやパイナップルといった特徴的な風味を確実に提供するためには、この品質の壁を乗り越える必要があります。
エスプレッソの評価の壁
また特徴的な風味が実現できる一方、特に重要になるのは評価です。
「これは〇〇の風味に近い」「これは以前と比較して〇〇になった」など、従来であればバリスタが行っていた評価を数値で客観的に行い、さらに詳細に評価を行う必要があります。それはバリスタが評価を行う限り、評価できる範囲と数が限定されてしまうためです。
コーヒーの風味とは何か
そもそも素晴らしいコーヒーとはなんでしょうか。
私はコーヒーを飲んだ時に香りが立ち、何かを連想させるコーヒーを素晴らしいコーヒーだと定義しています。一般的にどんなコーヒーでもコーヒーの味がしますが、その上にマンゴーやパイナップル、カシス、など素晴らしいフルーツの香りがするコーヒーも存在します。
有名なものだと、ゲイシャコーヒーは花の香りだと形容されますが、ゲイシャコーヒーであれば必ず花の香りがするというものではなく、農園の種類や収穫時期によって花の香りの種類が変化したり、香りの強弱も変化します。
また焙煎の深さによっても香りの出方が変化し、焙煎からの経過日数によっても変化します。さらに、焙煎前の生豆の保管状況によっても香りは変化します。
そんな中で、バリスタが「これは〇〇の香りがします」とコーヒーを提供しても、その香りの強弱や出方にはブレがあり、そのブレを許容しながら提供しているのが現状です。
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現在の取り組みと将来の展望
そこで現在開発しているのが、センサーと機械学習を利用したコーヒー豆の香りの分析装置です。変化しやすいコーヒー豆の香りを分析し、今まで蓄積してきたデータと照らし合わせることで、従来はバリスタが行っていたコーヒーの香りを言語化するシステムを開発しています。
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技術的には、コーヒー豆ごとにセンサーからデータを取得し、それを元に機械学習モデルをトレーニングし、コーヒー豆の香りを覚えさせるというものです。現在はセンサーデータの取得方法の改良や機械学習モデルの改善を行っています。
また技術開発と並行してユースケースヒアリングを行っています。コーヒーにまつわる事業の中で、この技術をどう活かせるかを探るものです。将来的にはこの技術を通してコーヒーの品質向上に寄与できればと思います。
終わりに
今回は2023年度未踏での開発成果とその課題、また現在取り組んでいることについてご紹介しました。コーヒーの品質を評価し、美味しいコーヒーを作ることを通して社会への価値を提供していければと思います。