西日本のデータセンター事情の現在と未来 〜JADOG17レポート〜

はじめに

さくらのナレッジ編集部の法林です。

2025年8月29日(金)に、大阪のアーバンネット御堂筋ホールにてJADOG17ミーティングが開催されました。こちらのイベントで実施されたパネルディスカッション「西日本のデータセンター事情の現在と未来」の模様をレポートします。

JADOG17の会場の様子

JADOGについて

セッションの模様をレポートする前に、JADOGについて簡単にご紹介しておきます。

JADOG(Japan Data Center Operators' Group)は、データセンター(DC)事業者をはじめ、ユーザー、メーカー、SIer、ネットワーク事業者など、多様な業界のプレーヤーが業界の枠を超えて集まり、建設的な情報共有と活発な議論を行うコミュニティです。2017年から活動しており、毎年2回行われるJADOGミーティングや、Slackやfacebookグループなどを活用したオンラインコミュニケーションを行っています。

JADOGのウェブサイト

過去のJADOGミーティングのイベント履歴を見ると、これまでのJADOGミーティングはすべて東京で行われてきましたが、JADOG17は初めて東京以外の地域での開催となりました。現地参加者は約130人、現地に行けない人のためにZoomによるオンライン参加も用意され、こちらにも230人ぐらいの登録があったようです。

パネルディスカッションの概要

さて本題であるパネルディスカッション「西日本のデータセンター事情の現在と未来」のレポートに入ります。

このセッションは、データセンター事業者、回線事業者、データセンター利用者の立場からパネリストを招き、それぞれの現状をお話しいただくとともに、西日本のデータセンターの今後について議論するという内容で行われました。パネリストやモデレーターは以下の方々です。

  • パネリスト
    • 後藤浩司さん (近鉄ケーブルネットワーク株式会社)
    • 宍戸隆志さん (さくらインターネット株式会社)
    • 冨宅秀幸さん (NTTスマートコネクト株式会社)
  • モデレーター: 田沢一郎さん (JADOG運営委員)
登壇者の皆さん。左から2人目(起立)が田沢さん、そこから右へ、宍戸さん、後藤さん、冨宅さん

回線事業者の立場から

はじめに近鉄ケーブルネットワークの後藤さんからお話がありました。

近鉄ケーブルネットワーク(KCN)は、奈良県においてケーブルテレビとインターネットサービスを提供している会社です。つまりこのセッションにおいては、インターネット回線を提供している事業者という立場になります。

関西には近鉄だけでなく多くの鉄道会社がありますが、それらの鉄道会社の線路に沿って光ファイバー網が敷設されており、さらに各社のファイバー網は相互に接続されています。後藤さんからは近鉄の路線図を中心とした各社との相互接続図が示されました。これによると、まず海外との接続は、三重県の志摩にある海底ケーブルの陸揚局が接続点になっています。ここから近鉄の線路沿いに構築されたKCNのネットワークを通り、阪神や名鉄をはじめ関西・東海地区の鉄道事業者などと接続しています。近鉄の営業エリアの中では、京都と大阪と奈良の県境に位置するけいはんな学研都市の発展に伴うネットワーク需要が高まっており、KCNではそれに対応するためにけいはんなと堂島(大阪市内のデータセンター拠点)の間に光ファイバーを新設しました。

また、鉄道線に敷設しているファイバーについても写真を交えて紹介がありました。ファイバーは鉄道線の側溝に敷設しています。これは架線に敷設すると列車事故の影響を受ける可能性があるため、より安全な方法として採用されています。堅牢である代わりに、作業が深夜でないと行えないという問題もあります。現在の課題として、ハイパースケーラが要望してくる巨大なファイバー需要への対応を挙げていました。

データセンター利用者としてのさくらインターネット

続いてさくらインターネットの宍戸さんの話です。宍戸さんは当社で長くデータセンター構築に携わっており、現在はデータセンター構築全般を管掌する執行役員を務めています。

当社のデータセンターは北海道の石狩、東京、大阪の3拠点体制となっています。このうち石狩データセンターは土地や建物なども自社で保有していますが、東京と大阪のデータセンターは既存の施設を借りて構築しています。今回のセッションは西日本のデータセンターがテーマとなっているので、当社はデータセンター利用者という立場で参加していることになります。

宍戸さんからは、石狩データセンターの近況として2025年6月に稼働を開始したコンテナ型データセンターの紹介や、当社のデータセンターは主に自社サービス基盤、特にクラウド事業の基盤としての利用が主であり、会社としても現在はデータセンター事業者ではなくクラウド事業者と名乗っていいます。モデレーターとの質疑応答においても、大阪のデータセンターにおいては利用しているラック数は横ばいだが、コロケーションの割合が減って自社サービス基盤としての利用比率が上がっていることや、現在のデータセンターは価格で優位性を持たせることは難しく、いかに付加価値を持たせるかが勝負になっていると感じているという話がありました。

データセンター提供者の立場から

3人目の登壇者はNTTスマートコネクトの冨宅さんです。NTTスマートコネクトはNTT西日本のグループ会社で、ハウジング、クラウド、ストリーミング、データ分析・活用を中心に事業を展開しています。今回のセッションではデータセンターを提供している事業者という立場になります。

冨宅さんからは、日本全体のトラフィックのうち大阪・関西が3割前後のシェアまで伸びてきている可能性があることや、今後は東京一極集中を避けるために西日本のデータセンターをさらに強化していきたいことに加えて、NTT西日本・NTTスマートコネクト・アット東京の3社による、西日本エリアにおける次世代デジタルインフラ整備の共同検討の話がありました。ニュースリリースから、本取り組みの目的や展開についての記述を抜粋して紹介します。

我々3社は、デジタルインフラの首都圏への集中を解消するため、情報流通における東京のオルタナティブとしての大阪に焦点を当て、現在の西日本における情報流通の中心地である堂島・曽根崎のデータセンター群に続く次世代のコネクティビティデータセンターの開発をはじめとした、西日本におけるデジタルインフラの整備について共同での検討を開始します。
また、今後の展開として、今回の大阪におけるデジタルインフラの整備に続き、大阪に次ぐ西日本の拠点として、九州の中核都市である福岡を中心に、地域の情報流通基盤の強化と分散型インフラの構築に向けた取り組みを進めてまいります。

ちなみにこの共同検討の件は今回のJADOGに合わせて準備したそうで、ニュースリリースをJADOGの前日(8月28日)に出してきたことからもその意気込みがうかがえました。

ディスカッション

3人の発表の後は、モデレーターから質問を投げかけてパネリストが回答する形式でディスカッションが行われました。その中からいくつかの話題をお届けします。

高火力B200プランについて

高火力に関する質問に回答する宍戸さん

はじめに、当社の石狩データセンターで最近稼働を開始したNVIDIA B200についての話題が出ました。田沢さんからの質問に宍戸さんが回答する形で進行しました。要約してお伝えします。

田沢:コンテナ型データセンターで稼働しているとのことですが、コンテナ型を導入した目的は何ですか?
宍戸:提供開始までの工期を短縮する必要があり、その要件をクリアするためにコンテナ型を採用しました。

田沢:コンテナは20フィートや40フィートなどの規格に沿ったものですか?
宍戸:そうではなく、特注でカスタマイズした大きさのコンテナを連結して組み合わせています。

田沢:液体冷却方式を導入したと聞いていますが、それもコンテナ型を採用した理由のひとつですか?
宍戸:そうですね。従来の建物(3号棟)ではNVIDIA H100が稼働していて、そちらは空冷で動かしていますが、空冷だと収容効率が悪いです。今後は水冷が標準になるだろうと予想して今回採用しました。

田沢:プレスリリースに、発注からローンチまで1年半と書いてあったのですが本当ですか?
宍戸:はい。設計検討と業者選定で半年ぐらい、工事が始まってから1年で合計1年半です。ビルを建てるよりはかなり短かったです。

日立システムズのYouTubeチャンネルで公開されているコンテナ型データセンターサービスの紹介動画

この他に田沢さんからは、このプロジェクトを遂行した日立システムズが公開している動画やインタビュー記事の紹介もありました。

関西と九州について

次の話題は関西と九州での事業展開に関することで、主に田沢さんと冨宅さん、後藤さんの間で議論が進行しました。こちらも要約してお伝えします。

田沢:NTTスマートコネクトは郊外型よりも都市型(コネクティビティ型)のデータセンターを推進する意向ですか?
冨宅:その方向で考えています。例えばAIの推論はそこまでレイテンシを厳しく求められないので郊外型DCを利用し、その結果を大阪市内の都市型DCで交換していくといった構成が良いと考えています。それを具現化するために「堂島コネクト」という、各地にあるデータセンターをつないだネットワークも構築しています。

NTTスマートコネクトのインターネットデータセンターサービス。各地のDCが堂島コネクトで接続されている

田沢:アット東京のATBeXというサービスでは地域のデータセンターなどの接続もやっていますが、そういった取り組みも巻き込んでコネクティビティを上げていくことを検討しているのですか?
冨宅:そういったところも含めてまさに検討を始めようとしているところです。今はただ新しいデータセンターというだけではユーザに選んでもらえず、環境とセットで用意していかないと選ばれない時代になっていると感じています。

田沢:政府は、データセンターが首都圏と関西圏に集中しているので第三圏として北海道や九州を強化したいと考えているようですが、九州も拠点として考えていますか?
冨宅:そうですね。福岡は天神のDCを地場の事業者と接続し、ケーブリングサービスもセットで提供しています。それと現在計画中の郊外型DCを結び、さらに関西ともつなぎ合って発展させていきたいです。

田沢:スマコネは九州も視野に入れているようですがKCNはどうですか?
後藤:西日本エリアからJR九州につながる可能性はありますが距離がかなりあるのでどうでしょうか。鉄道事業者に声をかけて相互接続を始めたのが広がっていって、今は後輩たちが引き継いでやっていますが、その中で九州も範囲に入ってきているのではないかと思います。

海底ケーブルについて

ファイバーに関連して、田沢さんから日本周辺の海底ケーブルの敷設図が示され(出典)、それに関する議論がありました。こちらも要約してお伝えします。

田沢:海底ケーブルの回線はこれからどうなっていくのかを後藤さんに聞いてみたいです。
後藤:伊勢志摩には、数年前にはJUPITERという海底ケーブルが上がってきましたし、最近はGoogleのファイバーも来るという話を聞いています。他にも日本中のいろんな所にケーブルを引き上げる必要がありそうです。他にもローカルな話としては、四国と中国をつなぐファイバーや、南海沖地震に対応するために太平洋側を通っているものを日本海側に通す地上ルートなどの話もありますが具体化はしていません。地域の小規模ニーズに対して海底ケーブルはコストが大き過ぎるとか、漁船などがケーブルを切ってしまったらどうするかといった問題もあり、なかなか難しいです。

田沢:日本海側の海底ケーブルを敷設するという話があります。これができると石狩から九州まで日本海ルートで通信できるようになりますが、北海道で事業をしている立場から見ても日本海のケーブルは欲しいですか?
宍戸:石狩データセンターからのファイバーには日本海を巡るルートは存在しないので、安定性を考えるとあった方がいいですね。石狩データセンター開設時には太平洋側のファイバーを2系統引く話で進めていましたが、東日本大震災で両方とも切れてしまったため、日本海側の海ではなく陸を使ったルートで引き直して開設にごぎつけました。そういう経験もしているので、やはり日本海側に海底ケーブルがあった方がよいと考えています。

2030年の関西のデータセンター

最後に今後の展望として、2030年(今から5年後)の関西のデータセンターはどうなっているかという話題が出ました。こちらも要約してお伝えします。

田沢:2030年の大阪のデータセンター、関西のデータセンターをこうしたいとか、こうなっているだろうという予想でもいいので、登壇者の皆さんに一言ずついただきたいです。

後藤:一時はNetflixなどの動画視聴の需要が非常に高く、そこではやはりレイテンシの要件を厳しく言われていました。しかし需要がAIに移行して、レイテンシの要件については多少緩和されていると感じています。コネクティビティの問題や位置の問題などが適切にバランシングされた、用途に応じたデータセンターと、回線事業者としてはそういうところに対して提供できるファイバー網を作っていきたいです。さらにこういうのを可視化する仕組みができるといいですね。それこそAIで作れるかもしれないので、AIデータセンター回線ネットワークみたいなことができたら面白いと思っています。

宍戸:弊社は現在、ガバメントクラウドの正式認定を受けるために努力していて、認定を受けた後も国内の企業、政府系だけではなく一般企業にも安心して使ってもらえるクラウドサービスを提供していきたいです。その中で石狩データセンターもあと5年ぐらいすると用地を使い切るだろうと予想していて、次の場所を考える時期に来ています。これまでの事業は北海道と東京と大阪で行ってきましたが、それ以外の地域も増やしていかなければいけないし、日本全国どこからでもクラウドサービスを安心して使っていただけるように努めていきたいです。

冨宅:堂島データセンターはサービス提供から長くご愛顧いただいてますが、非常に堅牢で私の寿命より長く稼働し続ける見込みです(笑)。今後も大阪や福岡の中心地で不断のデータセンター提供を続けることが重要と考えており、それが2030年、そしてさらにその先につながっていくでしょう。AIの推論や学習は郊外型DCで、レイテンシを重視したい部分は都市型DCでという話をしましたが、2030年ぐらいになるとAIもレイテンシを重視したものになるかもしれません。そうなるとデータセンターだけでなくデータセンター間ネットワークももう一段階上のものを作る必要が出てくるかもしれませんね。それを関西の皆さんと一緒に作り上げていくこれからの5年、そして10年にしていきたいです。

おわりに

さくらインターネットは石狩・東京・大阪にデータセンターがあり、自社の取り組みはニュースリリースやオウンドメディア、イベントなどで見聞きしていますが、データセンター業界でどういう動きがあるのかはこういうイベントに出てみないとわからないものです。今回はデータセンターに関わるさまざまな立場の人の話を聞くことができ、参考になりました。また、セッションを拝聴する中で、当社の取り組みが注目されていることも感じました。他社や業界の皆さんにとって良い参考事例となるように取り組んでいきたいですし、それを発信していきたいと思います。

それではまた次回のイベントでお会いしましょう!

登壇者の皆さんありがとうございました!