【イベントレポート】国産GPUクラウドで実現する次世代AIモデル開発 x ブロックチェーン連携
はじめに
さくらのナレッジ編集部の法林です。
3月18日(水)に、オンラインセミナー「国産GPUクラウドで実現する次世代AIモデル開発 x ブロックチェーン連携 ― 事例企業が語る基盤の選定・構築・運用のリアル」が開催されました。このセミナーでは、株式会社インフォメーション・ディベロプメントの牧野剛明さん、SBI R3 Japan株式会社の生永雄輔さんをお招きし、両社が共同で開発を進める次世代型セキュアAIエージェント「SAPHI」と、SAPHIの開発に際して利用した当社のGPUクラウドサービス「高火力 VRT」の紹介を行いました。それではイベントの模様を見てみましょう。
VM型GPUクラウド「高火力 VRT」
はじめにさくらインターネットの村元建太より、当社のVM型GPUクラウド「高火力 VRT」について説明がありました。
現在、多くの現場でAIの開発・活用が進んでいますが、導入までのさまざまなフェーズで悩みや心配事があります。特にその中でGPUの調達については、オンプレミスでの運用が大変、GPUの進歩が急激で購入してもすぐに陳腐化してしまう、管理できる人材の不足といった問題があります。
このようなGPU調達の課題に対する解決策として、さくらインターネットではGPUのホスティングサービスを3種類提供しています。物理サーバーを丸ごと貸し出す「高火力 PHY」、1GPUを専有できる仮想サーバー「高火力 VRT」、コンテナ実行環境「高火力 DOK」です。
高火力 VRTの特徴を一言で説明すると「1GPUを専有できるセキュアで明朗会計な国産GPUクラウドサービス」となります。当社のクラウドサービス「さくらのクラウド」と同様の料金体系になっており、データ転送量による課金がないとか、月額費用の上限が決まっているといった特徴を引き継いでいます。GPUはNVIDIA V100とH100の2種類を用意しています。H100プランには通常のストレージ(SSD)の他に6.9TiBの一時領域(電源を切らない限りデータが保持される)も用意されており、例えばここに大量のデータを載せて学習に利用することができます。
高火力 VRTはさくらのクラウドとシームレスに接続できるので、クラウドのさまざまなリソース(スイッチ/ロードバランサ/データベースなど)と組み合わせて、多種多様な構成のシステムを組むことができます。村元からはシンプルなインターネット直結の構成からスケーラビリティを確保した複雑な構成まで、3種類の構成例が提示されました。
また、代表的な利用事例が2つ紹介されました。1つは当社のグループ会社でもある株式会社Tellusの事例で、衛星データとAIモデル、ITインフラを一体化させた「Tellus AI Playground」の基盤として高火力 VRTのH100プランを利用しています。もう1つはHarvestX 株式会社の事例で、イチゴの自動授粉における画像解析に高火力 VRTを利用しています。
最後に高火力 VRTの料金プランと、それに加えて他社のGPUプランとの比較表も提示されました。海外のハイパースケーラに対しては約1/4、国内の他事業者に比べても約2/3程度の価格で利用できるとのことです。
上記のグラフは以下の条件にて作成しています。
- 2026年2月時点の情報をもとにしています。
- 為替レートは1ドル=150円で計算しています。
- 料金はすべてオンデマンドプランを前提とし、日本リージョンでの提供があるものはその金額を使用しています。
次世代AIモデル「SAPHI」開発秘話
続いて、牧野さんからSAPHIの紹介がありました。
はじめに現在の生成AIが持つ課題や限界が提示されました。学習やチューニングなどの調整作業が継続的に発生し負荷が小さくないこと、答えは出せても、その答えがどういう過程を経て出てきたのかが見えにくいこと、現場ごとの暗黙知や価値観、組織文化のようなものを継続的に学び続けるのが不得意なことなどです。
SAPHIはこのような限界を突破し、「人間とともに働ける知性」の獲得を目的として開発された、人間の学び方に近い逐次学習型AIです。単に正解らしい文章を返すAIではなく、現場の中で学び、相手や組織に合わせて育ち、判断の理由も示せる知性を身につけることを目指しています。例えば実際の業務では、マニュアル通りに答えるだけでは十分とは言えません。会社の文化や各担当者の癖を把握し、例外対応を積み重ねることで人と協働できるようになります。SAPHIは協働や対話を通じて業務担当者と同等のスキルに近づいていく、いわば業務担当者のクローンを育てるような方向性を狙って開発しています。
そんなSAPHIの大きな特徴の一つが継続学習です。従来のAIはまず大量に学習させ、それから個別用途に合わせて調整していきます。これに対してSAPHIは、会話や業務の中で少しずつ経験を蓄積しながら更新していくという逐次学習を重視しています。人間も毎日フルスクラッチで学び直しているわけではなく、日々の経験の中で成功や失敗を蓄積していきますが、SAPHIはその学び方に近いと言えます。従来の生成AIとSAPHIを比較した表を以下に提示します。
牧野さんからはSAPHIの想定ユースケースが3つ示されました。1つ目はカスタマーサポートで、これは実際に実装も行いました。この領域はクレーム対応やメンタル面の負荷などが人的コスト圧迫の要因になっています。生成AIによるチャット対応も普及しつつありますが、一人ひとりに寄り添った対応はなかなか実現できません。ここでSAPHIを使うと、顧客ごとの文脈や性格、感情も考慮して、より人間的なコミュニケーションができるようになります。将来的には声色やジェスチャーなどのマルチモーダルにも対応し、非言語コミュニケーションも活用して顧客とより強い関係を築くことを目指しています。
2つ目は行政や自治体など説明責任が重い分野です。制度変更やルール変更が頻繁に発生し、実務もマニュアル通りではなく、暗黙知に近い対応も多くあります。このような現場に従来型の生成AIを入れても、答えは出せてもルール変更への追随が難しいという問題があります。これに対してSAPHIは会話の中で学習の時系列を保持できるのでルール変更や実務変更に追随しやすいですし、SAPHIがなぜそう判断したのかを追跡して説明することもできます。
3つ目は融資審査です。この分野では個人情報や借入履歴などを扱うので外部のAIサービスに学習させたくありません。また、AI分析プロセスも専門性の高いものになり、AIの判断結果の根拠を説明するのも難しいです。ここでSAPHIを利用すると、立ち上げから学習、そして活用までを内部で完結することができ、対話ベースで学習を進められるので専門的な調整作業も少なくできるという利点があります。さらに判断の根拠を学習データの来歴やSAPHIの状態変化と結びつけて説明できるという利点もあります。
最後に今後の発展性として、フィジカルAIへの応用や、ブロックチェーンなどの記録基盤との組み合わせによる学習や判断の証跡記録といった可能性が示されました。
高火力 VRTを試してみた!
続いては生永さんから、SAPHIの開発において利用した高火力 VRTの使用感について話がありました。
SAPHIの開発においてリソース面で問題となっていたのは、GPUがなかなか手に入らないことでした。SAPHIはまだ研究開発の段階なので、新しいアイデアをすぐに検証できることが重要です。エンジニアがクラウド基盤の細かい設定に時間をかけることなく本来の開発に集中できるように、手早く利用できるGPU基盤を探したところ、さくらインターネットの高火力 VRTに出会いました。導入決定につながった要因は、コストパフォーマンスの良さ、国内事業者としての信頼性、それからさくら社員の回答の早さだそうです。
高火力 VRTを導入した効果として一番大きかったのは、やはり検証のスピードが大幅に向上したことです。また、ドキュメントがすべて日本語なので、外国のクラウド事業者を利用したときにありがちな英語のドキュメントを読む必要に迫られる事態もなく、運用コストが低下しました。UIが扱いやすい点も好評で、エンジニアが描いた構成図通りのシステムを迅速に構築することができました。
逆に良くないと思った点としては、管理画面における起動ボタンの色がわかりにくい、コンソール画面で日本語の文字化けがときどき発生する、別のリージョンにデータを移動するときに苦労した、コンソールが自動でログアウトされてしまうので面倒だった、などが挙がりました。料金プランについても満足はしていますが、さらにお得なプランが出てくるとうれしいとのことです。
将来に向けて 〜ブロックチェーン界隈から見た本取組〜
最後に生永さんから、ご自身が専門とするブロックチェーン界隈の動向と、SAPHIとの関係について話がありました。
はじめにブロックチェーン周辺の世界動向として、まず米国の政治情勢の変化に伴う影響を挙げました。トランプ政権が国際的に整備されたブロックチェーン利用ルールを無視し、独自の法律(Clarity法案)を制定しようとしています。またブロックチェーンの使われ方としては、物理サーバーからクラウドへの移行という流れの続きで、安くて落ちない計算インフラとしてWeb3やブロックチェーンが位置づけられるようになってきています。一方、日本の動向ではデジタル赤字が大きな課題です。クレジットカード、SaaS、医療技術と製薬といった分野で外国製品がよく利用されて大きな赤字を生んでいますが、AIもそれに続くのではないかという懸念があります。
このような状況の中で生永さんが考えるAIの未来像は、従来の中央集権的なAI(1か所にあるすごく賢いAIサービスに対して質問し答えてもらう)から、ユーザの手元に寄り添うAIへのパラダイムシフトです。また、学習データが枯渇し、データそのものの価値が上がるという予想もしています。現在でも音声データをはじめとして専門的なデータを提供するサービスやマーケットプレイスが出現していることが根拠です。
このような未来像を実現するために必要な技術要素としては、1つは自分のデータを誰かに渡して学習させるのではなく、自分の手元で学習させるような仕組みです。例えばSAPHIはそういった機能を持っています。もう1つはデータのやり取りと決済が連動できることです。特にAIに関しては、やり取りするデータに対する課金単位が非常に小さく、単価が1円未満になるようなマイクロペイメントが日常化すると考えられます。既存の決済インフラ(銀行振込など)ではこのような決済は成立しませんが、ブロックチェーンを利用すれば低コストで微小単位の決済を実現できるため、AIデータ取引の基盤に適しています。これに関連して、日本円で決済するなら日本の法律下で管理されているデータの存在が必須になる点も指摘しました。
最後に今後のSAPHIの開発目標として、学習記録をすべて残すAIとしてサービス提供できるレベルまで引き上げること、常に継続学習ができる点をビジネス価値として創出すること、データ取引に決済機能を組み込み、リソースを自己管理できるAIに発展させることを掲げました。ビジネス実証実験も実施したいので興味のある方は連絡をくださいとのことです。
おわりに
今回のセミナーでは、国産のGPUクラウドサービスである「高火力」シリーズ、特に高火力 VRTの概要を紹介するとともに、それを次世代AIの開発にご利用いただいた事例を紹介しました。SAPHIは手元での学習や人間との協働を意識した作りになっており、従来のAIよりも安心して使えるAIになる可能性を示しています。このような技術の進歩に高火力シリーズが貢献できることをうれしく思います。今後の発展に期待しています。
なお、さくらインターネットの導入事例サイトには、この他にも高火力シリーズを活用した事例を多数紹介しています。そちらもぜひご覧ください。
それではまた次回のイベントでお会いしましょう!














