【インタビュー】Drupal Association担当者が語る、Drupalコミュニティのこれまでと、これから。
上部写真)Lizz Trudeauさん
※本インタビューは2016年12月に行ったものです。
Drupalコミュニティのサポートを目的に設立された、Drupal Associationは、プロモーション活動から、コミュニティへの資金・ノウハウ提供まで、幅広く、かつ精力的に活動中。今回は、その渉外担当者であるLizz Trudeauさんに、Drupalコミュニティの最新状況について独占インタビューを実施。日本のDrupalコミュニティに対する期待についても語っていただきました。
日本のDrupalコミュニティに感謝と期待をしている
――まずはDrupal Associationについて教えてください。何を目的に、どういった活動をされているんですか?
Lizzさん:Drupal Associationは、Drupalのソフトウェアを構築するコミュニティの支援を目的としたNPO法人です。私たちのミッションはDrupalでWebの理想型を創ること。具体的にはグローバルOSSコミュニティを1つにし、Drupalの情報交換や宣伝をとりまとめるという活動を行なっています。
「DrupalCon」といったイベントの実施や、オフィシャルサイト「Drupal.org」の運営、メンテナンス、コミュニティ活動の金銭的な支援などが、主たる活動。ほか、Drupalの認知度向上や、資金を募るためのさまざまな特別プログラムを実施しています。
――Drupalのコミュニティは、現在どのようになっているのでしょうか。欧米で盛り上がっていることは分かるのですが、それ以外の地域はどうなのでしょうか?
Lizzさん:最近では、南アフリカやメキシコシティ周辺でのDrupalイベントの開催が増えています。中でも後者はユニークで、他とは少し異なったかたちで成長を遂げています。2年前(2014年)、メキシコシティのDrupalエンジニアたちはより大きなPHPコミュニティと共同でイベントを開催しました。また、去年(2015年)はグアダラハラで大規模なCampを実施しています。そこにはDrupal 8を学びつつ、そこで使われているSymfony2について学びたいという人が集まりました。私がそれらを通じて感じたのは、彼らがDrupalという枠を越えて、他の有益な技術についても併せて学ぶということに挑戦しているということです。
――南アフリカやメキシコシティでDrupalが盛り上がっている理由はどこにあるのでしょうか?
Lizzさん:細かいことは現地のオーガナイザーに確認しなければ分からないのですが、私が感じているのは、イベントが開催されることで、“ドア”が開かれ、その国、その都市での人々のコネクションが生まれているということです。これによって、どこかの企業がDrupalを使いたいと思った時に、開発者をすぐに見つけられるようになりました。やはり、机に向き合って座り、直接話すということが大事だということでしょう。
――これから盛り上がりそうなエリアはどこでしょうか?
Lizzさん:たとえば昨年はシベリアのコミュニティが初めてのDrupal Campを開催しました。また、アイスランドのコミュニティが「Drupal Camp Northern Lights」という名称で、近々Campを実施する予定です。ほか、ベトナムのハノイでも初のCampが開催されました。
――日本はいかがでしょうか? 東京でも来年(2017年)、Drupal Campが行なわれる予定です。
Lizzさん:もちろん知っていますよ!(笑) 東京では初のCamp開催ですよね。先だって、10月にはDriesが東京で公演を行なっています(2016年10月21日「Drupal Summit Tokyo 2016」にて。くわしくはこちら『「Drupal Summit Tokyo 2016」イベントレポート』参照)。インドではDriesの訪問後にDrupalコミュニティの意欲が高まり急成長したということがあります。日本でも同じ事があるかもしれませんね。
なお、日本には複数のDrupal Association会員がいます。我々は彼らにサポートしてもらっていることをとても感謝しています。Drupal Associationは日本の皆さんとグローバルのコミュニティをつなぐお手伝いをするために存在します。アドバイスが必要なときはいつでも声をかけてくださいね。またDrupalの翻訳をしてくれている73名のコントリビューターたちにも大変感謝しています。翻訳は各国でDrupalが採用されるために必須。彼らのおかげで今、Drupal8がマルチリンガル(多言語対応)をすることができ、今後さらに多くの人がDrupalを試す機会を提供できているのだと考えています。
(編集部追記:DrupalCamp Japan 2017 in Tokyoのイベントレポートはこちら)
オープンソース技術の採用が企業に“貢献の文化”を育てる
――エンジニアの盛り上がりのお話に続いて、エンドユーザーがどのようにDrupalを駆使しているかについても教えてください。「さくナレ」でも国内外、たくさんの事例について紹介していますが、それ以外の、最新の活用事例を紹介していただけますか?
Lizzさん:我々が全てのエンドユーザーを把握しているわけではないのですが、つねづね彼らとコミュニケーションを取り、理解しなければならないと思っています。ただ、全てのDrupal開発会社、我々は彼らを「Drupal Shop」と呼んでいます――が事例を公開しているわけではないのが悩ましいところですね。
そんな中、ちょうど先日、ハビタット・フォー・ヒューマニティというNPO法人がDrupal 8で構築したサイトとそのストーリーを公開しました。それ以外にはご存じの事例もあると思いますが、ホワイトハウス、ハーバード大学、プリンセス・クルーズ、ジョンソン&ジョンソンなどがあります。ジョンソン&ジョンソンは、今年(2016年)ダブリンで開催したDrupalConのスポンサーにもなってくれました。Drupal Shopではない、エンドユーザーから直接スポンサードされるというのは非常にありがたいことでした。
ほか、オーストラリア政府、ロンドン・ガトウィック空港、グラミーなどなど、本当にたくさんあります。なお、それらの中で一番私が気に入っているのが、ニューヨーク州都市交通局(MTA)の事例。私はニューヨークが好きで、地下鉄にも乗りますし、過去数年間住んでいたことがあるんです。
こうした事例はDrupal.orgでも紹介していますので、そちらも参照してください。
https://www.drupal.org/case-studies
https://www.drupal.com/
――企業がDrupalのようなオープンソース技術を採用するメリットについて教えてください。
Lizzさん:オープンソース技術を積極的に活用している企業は、成功により近い位置に立つことができます。また、そういった企業は従業員に対して“貢献の文化”を育てます。貢献やコラボレーションの精神は、とてもポジティブなもの。そうした企業では競争よりも共有が是とされます。もちろん健全な競争もありますが、コードやアイデア、情熱の共有の方が、より素早い革新を生むと考えています。オープンソース技術の開発に貢献するということは、そうした企業で働きたいと思っている優秀な人材を獲得するということにもつながるのです。
――Drupalのようなオープンソース技術に貢献するにはどうすれば良いのでしょうか?
Lizzさん:Drupalに貢献をするために従業員を雇用し、コアの開発を支援することでDrupalに貢献している企業があります。BlackmeshやACQUIA、そしてChapter3などがその例です。また、Drupal Associationにはサポーティングパートナーと呼ばれる、Drupal Associationを支援する企業がほかにもたくさんあります。彼らはDrupal.orgを維持するのに必要なエンジニアチームのための資金調達をしています。彼らはそうすることでDrupalの精神を具象化しているといえます。
――最後にDrupal Associationが今後、目指すことについて教えてください。
Lizzさん:2017年半ば頃までは、組織の持続性を構築することに集中しています。それと併せて、Drupalをより普及させるための宣伝活動を強化することにも力を入れています。もちろん、4月にボルチモアで行なわれるDrupalConにも参加しますよ!
■英語版はこちら(English version)
【Interview】Drupal Association’s officer describes Drupal community’s up to now and hereafter.pdf