【インタビュー】なぜDrupal? その魅力を訊く (Vol.2:スタジオ・ウミ~今年はブレイクの年に。Drupalの盛り上がりを肌で感じている)
上部写真)左から、スタジオ・ウミのエンジニアの山中さん、大野さん、ディレクターの福井さん、エンジニアの小林さん
最先端のコンテンツ・マネジメント・システム(CMS)「Drupal(ドゥルーパル)」の魅力を、業界の“先駆者たち”が語る本連載。その第2回目は、東京から遠く離れた滋賀県、琵琶湖のほとりにて“Drupal専業”を謳うスタジオ・ウミのエンジニア大野裕太郎さんにお話をお伺いしてきました。
大野さんは、Drupalの最新情報をわかりやすくまとめたブログの著者として、Drupal界隈で知らない人はいないというほどの有名人。そのDrupal歴はなんと10年にも及ぶそうです(2016年時点)。国内ではまだ誰も注目していなかった時期からDrupalに惚れ込み、これを強力に推進してきた大野さんに「今、なぜDrupalなのか」を語っていただきます。
Drupalは必ずしも高コストではない?
——まずは大野さんとDrupalの出会いについて教えていただけますか?
大野さん:スタジオ・ウミの経営母体であるニチカレ株式会社は、400名ほどの従業員を抱えた工場業務請負および運送業を生業とする企業です。スタジオ・ウミはその経営多角化の一端として誕生した一部門。当時(2004年)はまだ「開発部」という名前で、スタッフも外部から引き抜かれて神奈川からはるばる引っ越してきた私と、当時の開発部長(現・代表取締役社長・小林泰平さん)のたった2人しかいませんでした。
その少ない人員で何をやろうかと考えた時に思い付いたのが、オンラインゲーム大会の運営/請負です。当時は海外で「プロゲーマー」という存在を生み出すほどにゲーム大会が盛り上がっており、そのムーブメントを日本にも持ち込めないかと考えたのです。
ただ、その仕組みをゼロから作り出すのは、当時の我々のリソースでは現実的ではありません。当然ながらCMSを利用することになったのですが、当時主流だったCMSは動的コンテンツの制作に向かず、それとは別の多機能を謳ったCMSも動作速度などの点で要望を満たしていませんでした。さあ、どうしたものかと思案していたところで出会ったのが、その頃、海外で徐々に流行り始めていたDrupal(当時のバージョンは4.7)です。
最初は半信半疑で試してみたのですが、実際に使ってみると開発もしやすく、柔軟性も非常に高い。何より私の肌に合いました(笑)。当時、実質1人でオンラインゲーム大会サイトを立ち上げることができたのは、ひとえにDrupalのおかげですね。こうして立ち上げたサービス「CyAC(サイアック)」はおかげさまで多くのゲーマーの方から支持していただき、『コール オブ デューティ』シリーズなど、多くの人気オンラインゲーム大会を主催するまでに至っています。
そして、そこで得た知見や人材をWeb制作という方向に発展。CyACチームから分離するかたちで2009年から業務を開始し、2013年に「スタジオ・ウミ」というかたちにリニューアルしました。現在は7名のスタッフで運営しており、私も今はこちらに専念しています。
——スタジオ・ウミは、その出自もあってDrupalに特化しているということですが、2009年というと、国内ではほぼ誰も、エンジニアですらDrupalを知らないのが当たり前でした。そんな状況下でDrupalを前面に押し出すというのは相当にリスクが高いように感じます。お客様からの理解は得られたのでしょうか?
大野さん:その頃は、企業のWeb担当者レベルではDrupalというかCMS自体があまり認知されていませんでした。特に地方企業の場合は「きちんとホームページを編集できる仕組みを作ってくれれば何でもいい」というリクエストがほとんど。そこで、それを良いことに問答無用でDrupalを導入してしまったり……いや、もちろん、きちんと説明した上で、ですけれども(笑)。
——受注の際は、他社との競合になることも多いと思います。そうした際、DrupalはWordPressなどと比べてコスト高になりがちですよね。この辺りの不利はどのように切り抜けているのですか?
大野さん:皆さんそうおっしゃるのですが、実はきちんとヒアリングしていくと、WordPressなどとは競合しないことがほとんどなんです。
一般的なコーポレートサイトを作る際には、他のCMSと比べると割高になってしまいがちなのですが、例えば企業の基幹システムとウェブサイトを連携させたいなど、普通のCMSにない機能の要望がある場合にはメリットが少なくありません。また、システム開発においてもDrupalにはWeb用のフレームワークとして機能できるほどの多様なAPIやモジュールが用意されているため、開発コストを削減することが可能です。トータルで見ると、むしろDrupalの方が低コストだったということも珍しくないんですよ。
また、セキュリティについても他のCMSより信頼感があると考えています。欧米の有名な企業が多数採用している実績があることからもわかるよう、これまでに表立って大きな問題が起きたことがありません。また、Drupalには専門のセキュリティ対策をするチームがおり、脆弱性が発見された場合もチームが主導となって対策を行なっています。
実は先日、セキュリティ周りでちょっとした騒動があったのですが、機転の利いた見事な対応で、トラブルを未然に防いでくれました。詳しくは私のブログの方に記事を書きましたのでそちらをご覧ください。
スタジオ・ウミ Drupalブログ
PSA-2016-001: RESTWS と Coder モジュールの深刻な脆弱性を修正したセキュリティリリースについて
——その具体的な導入事例を教えていただけますか?
大野さん:大きめの案件ですと、2014年にコニカミノルタ株式会社様の販社向け情報サイト(一般非公開)のリニューアルを手がけました。元々は別のCMSで開発されていたのですが、複合機からヘルスケア用機器、医療用計測機器、光学デバイスなど、多岐にわたる製品を扱うサイトとして煩雑になりすぎていたことや、日本語と英語のページが別個に運用されていたことなどをDrupalを駆使することで解消しています。柔軟性が高く、多言語対応が容易なDrupalのメリットを活かせた事例の1つですね。
スタジオウミ開発事例紹介
コニカミノルタ株式会社 販社向け情報サイト
「Drupalでちゃんと作れる会社」を増やしていきたい
——Drupalでの開発における今後の課題についてはどのように考えておられますか。
大野さん:今、全てのDrupal開発会社が直面している最大の問題がバージョン7から8への移行ですね。現在は圧倒的に7が主流なのですが、5年後にそのサポートが終了したときにどうするのかが悩みどころとなっています。
当然ながらバージョン8への移行を進めていくことになるのですが、対応モジュールの数がまだまだ少ないこともあり、思うように移行することができていません。基本的なモジュールは揃ってきたのですが、ちょっと変わったことをしようとすると対応しきれないというのが実情です。実際、弊社の案件も全てバージョン7で開発しています。あえてバージョン8を使っているのはスタジオ・ウミのWebサイトくらいですね(笑)。おそらくあと1~2年はDrupal 7が主流であり続けるように思います。
——とはいえ、それは他のCMSにも言えることですよね。モジュールが足りないという問題も時間が解決してくれるのでは?
大野さん:実はDrupalはバージョン8で、それまでと大きく仕組みが変わってしまったんです。具体的にはそれまで独自API上で動作していたのが、PHPフレームワークの「Symfony(シンフォニー)」で動作するようになりました。一転、オブジェクト指向になってしまったため、多くのDrupalエンジニアが大混乱することに。中には8への移行を諦めてしまったなんて言うエンジニアもいるほど。コミュニティでもかなり大きな議論が巻き起こっています。
——それは心配ですね……。Drupalの今後は大丈夫なんでしょうか?
大野さん:いや、それをもってしても個人的には今年が国内におけるブレイクの年、「Drupalイヤー」となると考えています。
実は今年、スタジオ・ウミの東京オフィスができ、私もそちらに常駐するようになったのですが、首都圏でのDrupalの盛り上がりを日々、肌で感じています。セミナーやイベントの数が急増しているほか、扱う業者さんも多くなりました。企業のWeb担当者にDrupalを知っている人も増えていますね。
本当はもっと早く注目されると思っていたのですが(笑)、いよいよDrupalの時代がやってくるのかな、と。
——第1回目のインタビューで株式会社メノックス(旧・株式会社アイキューム)の井村さんも「みんな黙っているだけで、Drupalを使っている企業はどんどん増えているのかも?」とおっしゃっていました。
大野さん:同感です。ただ、残念ながら、それら全ての開発会社さんが「Drupalでちゃんと作れる会社」ではないことが気にかかっています。
——それはどういう意味ですか?
大野さん:Drupalはその柔軟性ゆえ、ほぼスクラッチ開発に似た形で利用することも可能なのですが、それはDrupal的にはあまり上手いやり方ではないんです。手間が省けるのがDrupalのメリットなのに、それを捨てているわけですから。せっかくたくさんのモジュールが用意されているのに、使わないのはもったいないですよね。
また、中にはコアの部分をカスタマイズしてしまうところもあるのですが、それはセキュリティの面で非常に危険。できるだけ既存の資産を活かすのが「Drupalでちゃんと作る」ためのコツです。
実はあまり大きな声では言えないのですが、最近は他社さんの作ったDrupalサイトを“セカンドオピニオン”的にチェックしてほしいというご相談を受けることも増えました。
——そう考えると、今後は啓蒙活動も重要になりそうですね。
大野さん:そうですね。スタジオ・ウミの東京進出と合わせ、今後は、OSS寄りの方たちと共同でイベントなどを開催していけたらな、と。
また、スタジオ・ウミのWebサイト内で展開しているブログについても、きちんと継続していきたいですね。実はあれのおかげで「あのスタジオ・ウミさんですか?」と言ってもらえることが多くて……(笑)。弊社窓口のひとつにもなっているので、今後も中立的な立場から有用な情報発信をしていきたいと考えています。
——最後に、現在Drupalに興味を持ち始めている企業Web担当者や、エンジニアに向けてメッセージをお願いします。
大野さん:Drupalが全ての案件にベストな回答だとは言いませんが、先にも説明したよう、企業の基幹システムと連携したWebサイトの構築などには大きな威力を発揮します。こうしたDrupal向きの案件であれば、機能面はもちろん、コスト面、セキュリティ面でもご満足いただけるはず。WordPressなどと比べて取っつきにくいところもあるとは思うのですが、全体の運用のしやすさでご評価いただければ幸いです。
また、エンジニアの皆さんにも、ぜひDrupalでの開発に取り組んでいただきたいと考えています。残念ながら大きく先行している海外と比べて、日本のDrupalコミュニティは規模の点でもレベルの点でもまだまだ。スタジオ・ウミとしてはこれを海外に通じるレベルにまで底上げしていくお手伝いをしたい。技術的なことについては出し惜しみをするつもりはないので、ぜひとも一緒にやっていきましょう! 最新のバージョン8ではSymfonyなど、最新のPHPフレームワークを学べるので、キャリアパスとしても有効なはずです。
なお、さくらのクラウドで先日提供開始されたスタートアップスクリプト「Drupal for CentOS 7」にもスタジオ・ウミが協力しています。パッケージのインストールや各種設定作業の自動化などを簡単に行なえるようにしているので、まずはそこからチャレンジしてみていただければ。
さくらのクラウド スタートアップスクリプト「Drupal for CentOS 7」の提供開始のお知らせ
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