【インタビュー】なぜDrupal? その魅力を訊く (Vol.3:デジタルサーカス株式会社~Drupalは開発にベストなフレームワーク)

上部写真)デジタルサーカスの団長、田口健さん

最先端のコンテンツ・マネジメント・システム(CMS)「Drupal(ドゥルーパル)」の魅力を、業界の“先駆者たち”が語る本連載。第3回目となる今回は、国内Drupalマーケットを黎明期から先導してきたデジタルサーカスの“団長”田口健さんにご登場いただきました。先駆者中の先駆者が語るDrupalのこれからとは?

Drupalの国内ブレイクの日はもう間近に迫っている

——始めにデジタルサーカス株式会社の概要から教えてください。

田口さん:デジタルサーカスは1999年に創業された開発会社で、Webサイト構築とスマートフォンアプリの開発を主たる事業としています。前者についてはDrupalでの開発にのみ専念しています。

——Drupalを手がけるようになったのはいつ頃なのですか? またそのきっかけを教えてください。

田口さん:我々がDrupalに注力し始めたのは2008年頃から。バージョンでいうと6の頃からですね。それまでは企業のWebサイトを作る際、それぞれ個別にスクラッチで作っていたのですが、これからはそういう時代ではないだろう、フレームワーク的なものを探して、効率的にやっていくべきだと考え、さまざまな選択肢を検討した結果、Drupalに行き着きました。当時は業界の中心が既存のメジャーなCMSからWordPressに切り替わっていこうとしていた時期だったのですが、我々のような開発会社がフレームワークとして利用するのであればDrupalがベストだろう、と。

——そう決断させたDrupalの魅力とはなんでしょう。

田口さん:CMSなんてどれも一緒でしょうと思われがちで、実際、登録画面だけ見ると大して変わらないのですが、エンジニアリングの観点から見ると全く違うんです。Drupalの、構造的にサイトを拡張しやすいようにできている点が我々にぴったりだと思いました。

――エンジニアの目から見てDrupalにメリットがあることは分かります。が、2008年当時はそれをお客様に理解していただくのは難しかったのでは?

田口さん:日本企業にDrupalを導入していくにあたっては、大きく2つのパターンがあります。1つは、我々のほうからDrupalを使いましょうと提案していくパターン。このパターンでやっかいだったのが、当時はまだオープンソースに対する理解が進んでいなかったこと。サポートがないとか、セキュリティに不安があるとか、どうしてもまずネガティブな面に目が行ってしまうんですね。そこについてはもう、丁寧に払拭していくしかありません。実績や対策を提示して、むしろオープンソースであることのメリットをご理解いただけるよう言葉を尽くしました。
そこでメリットについてご理解いただければ、オープンソースのエンタープライズ向けCMSとしてDrupalの右に出るものはありません。後は海外の採用実績などもアピールしつつ、「中身」で勝負することができます。
ちなみに最近はこの前段の部分でつまづくことはほとんどなくなっています。WordPressがこれだけ国内に広まったということもあって、オープンソースに対する拒否感が劇的に下がってきているんです。これはDrupalにとっては追い風ですね。
そしてもう1つはお客様の側からDrupalを指名してくるパターン。企業内でいろいろ検討した結果、やろうとしていることがDrupalでなければできない、Drupalが向いているということがわかり、それで弊社にお声がけいただくというケースですね。最近はこのパターンがとても増えているんですよ。

——そうした導入事例の中から、Drupalならではのメリットを引き出せたものをいくつかご紹介いただけますか?

田口さん:大きなところでは毎日新聞社様のWebサイト「毎日.jp」が成功事例の1つに挙げられるでしょう。Drupalはこのサイトのコンテンツ生成エンジンとして活躍しています。弊社にご依頼いただく前の段階で、さまざまなCMSを検討したそうなのですが、やろうとしていることを実現するにはかなり本格的なカスタマイズが必要になると言うことで、最終的にDrupalが選ばれました。

——そのあたり、もう少し具体的に教えてください。

田口さん:毎日.jpではサイト上でいくつものサブシステムが動いていて、それと連携できる構造にすることが大前提。その上で、大新聞社ならではの大量配信に耐えうる堅牢性、安定性、そして拡張性が求められました。大新聞社のサイトということもあり、正直、かなり厳しいハードルを設定されていたのですが、Drupalのおかげで何とかクリアできました。

我々が成功することがDrupalの成功につながる

——現状、Drupalのライバルと言える技術にはどんなものがありますか?

田口さん:やはりCMSとして圧倒的なシェアを誇るWordPressは外せません。また、シェアではWordPressに劣りますが、MovableTypeを利用しているという企業も多い。ただ、これって日本特有の現象。ワールドワイドでのDrupalのライバルは彼らではありません。世界市場でDrupalと競合しているのは、エンタープライズ市場向けに提供されている商用CMS。「Oracle WebCenter Sites」や「Adobe Experience Manager Sites」などですね。オープンソースCMSでこれらに比肩できるのはDrupalだけと言われています。

——日本はだいぶ遅れている、と。

田口さん:そうですね。ただこの状況って、WordPressが国内で普及する前夜にとてもよく似ているんです。かつて、世界的にWordPressが普及していく中、日本だけMovable Typeのほうがシェアが高い時期がありました。ところがWordPressの世界シェアが一定レベルを超えた瞬間、日本でもあっという間にナンバーワンCMSに上り詰めているんです。日本では他国と比べて新しい技術の導入を慎重にする傾向が強いのかもしれません。
そう考えるとDrupalについても、今はまだ一時的なギャップのある状態だと考えています。本来ハイエンドなエンタープライズ向けCMSが導入されるべきエリアで、いまだWordPressなどが使い続けられているというのは世界的に見て少し異常。いずれ間違いなく是正されるでしょう。そして変わるときは一瞬のはず。ただ、それが1年後なのか、2年後なのかは分かりません。少しでも早いと良いんですけどね(笑)。

——海外でDrupalが大企業に支持されている理由はどこにあるとお考えですか?

田口さん:まず、ここ数年のDrupalのマーケティングがそうなっているというのが最も大きな理由ですね。ベンダーもその方針を踏まえ、Drupalをエンタープライズ向けのプロダクトとしてセールスしています。
その上で、欧米の官公庁プロジェクトの成功など、華々しい事例が相次いだのが大きかった。グローバルに展開する企業の多くは、世界中のWebサイトを1つのプラットフォームに統一したいと考えています。あの国ではWordPress、この国では商用CMSというのでは効果的なブランディングができませんし、ノウハウの共有もできませんから。また、統一するにしても商用CMSではコストがとんでもない事になってしまいます。エンタープライズ向けの強力な機能を有し、しかもオープンソースというDrupalが選ばれるのは当然のことではないでしょうか。
繰り返しますが、日本にもこの流れは必ずやってきます。これはもう既定路線と言ってもいい。

——本連載でも紹介していますが、“その日”を1日でも早めるために、多くのDrupal開発会社がさまざまな取り組みを行なっています。デジタルサーカスが、Drupalの普及に向けて行なっている活動を教えていただけますか?

田口さん:デジタルサーカスはDrupal公式サポーティングパートナーに日本企業として初めて認定された企業。米国のDrupal Associationと密に連絡を取り合いながら、長らく日本でのDrupal普及に努めてきました。
そこで実感したのが、Drupalを普及させるためにはまずディベロッパーのすそ野を広げていかねばならないということ。そこで、まずは東京でDrupalのコミュニティをきちんと成立させたいと考えています。まずは定期的に集まる場を設けるところから、ですね。

——ディベロッパーのすそ野を広げるという点では、Drupalには日本語でまとめられたドキュメントが少ないという不満をよく目にします。この辺りについてはどのようにお考えでしょう。

田口さん:デジタルサーカスはDrupal開発者に向けた情報提供サイト「Drupalナビ」を運営中。Drupalの基礎知識から、脆弱性の報告などといった最新ニュースをまとめたサイトです。少なくとも国内にはこういった情報を定期的に配信しているサイトはないはず。日本語でまとめられたDrupalの最新情報がほしいという人に活用していただけているようです。
ただ、そこからもう少し深い情報を知りたいと思った時、日本語のドキュメントが少ないのは確かです。とは言え、これについては多かれ少なかれ、他のオープンソースプラットフォームも同じことでしょう。日本語訳していくそばから情報がアップデートされていくので、最新情報は英語で読まざるを得ませんよね。
それを踏まえた上で、今後はちょっとした技術情報やノウハウをドキュメント化し、シェアしていこうと考えています。

——Drupalナビのアクセス数はここ数年でどのように変わりましたか?

田口さん:数字だけを見ると、まだ『ブレイクした』とは言いがたい状況です。脆弱性が発見されたとか、大きなイベントの直後などにはドーンと来訪者が増えるのですが、全体的にはまだまだ微増ベースといったところ。ガツンと来るのはこれからだと考えています。

——今後の国内Drupalコミュニティにおいて、デジタルサーカスが果たしていく役割をどのようにお考えですか?

田口さん:手前味噌になってしまいますが、デジタルサーカスはDrupalを使って開発を行なっているベンダーとしてはトップランナーの一社。我々が失速するということは、即ちDrupalの失速を意味しています。逆に言えば、我々が成功を積み重ねていくことがDrupalの普及につながっている。そのくらいの覚悟で取り組んでいます。
そのためにはまず足下をしっかり固めていくことが大事。今、このタイミングでDrupalの導入を決意してくださったお客様にご満足いただくことを第一に考えるようにしています。そうすることで、新しい別のサイトもDrupalで作ろうという流れが生まれ、もっともっとDrupalを使っていこうという気運が生まれていくはず。
より多くの企業、エンジニアにDrupalの魅力を知ってもらいたい。そのために、今後も全力で開発、啓蒙に取り組んでいきたいと考えています。

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