沖縄のITエンジニアの熱量をお届け!ハッカーズチャンプルー2017レポート 〜カンファレンス編〜
さくらインターネットでコミュニティマネージャーをしている法林です。
6月21-24日(水-土)に沖縄でハッカーズチャンプルー2017が開催されました。前回の開発合宿編に続き、今回は6月24日(土)に行われたカンファレンスの模様をレポートします。
今年の沖縄は梅雨明けが遅く、数日前までは雨模様の日が続いたのですが、ハッカーズチャンプルーに合わせたかのように梅雨明けし、カンファレンスの日は快晴!そして暑い!そんな中、カンファレンス会場である国際電子ビジネス専門学校には100人以上の参加者が集まりました。国際会議や全国規模の団体が沖縄で開催するイベントは別にして、地元の人々が主催するイベントでこの規模はそう多くありません。沖縄のITコミュニティの熱量を感じさせますね。
では、カンファレンスのプログラムからいくつかをご紹介します。
データの可視化で地域課題を解決
カンファレンスの先頭打者は矢崎裕一さん(合同会社ノーテーション/DataVisualization Japan/Code For Tokyo)。「データ・ビジュアライゼーションによる地域や社会との関わり方」というタイトルで発表しました。
データは、単なる数値の羅列を見せるよりも、グラフなどの形で見せた方がわかりやすくなります。これがデータ・ビジュアライゼーション、すなわちデータの可視化です。矢崎さんは「データは解きほぐしてかけ算すると価値が出る」として、女性の年齢別労働力率が全国平均と東京都区内では異なることや、オリンピックの国別獲得メダル数を人口やGDPあたりの数で順位付けした「もうひとつのメダル順位」などの例を紹介しました。
また、データの可視化を地域課題の解決に適用した例として、Code for Tokyoで制作したTokyo保育園マップがあります。東京では保育園不足が深刻で、しかもどこにどんな保育園があるのかを把握することも困難な状況です。これに対して、OpenStreetMapなどの地図データと、自治体が提供している保育所などの施設情報のオープンデータを組み合わせて作成したのが保育園マップです。このマップはCode for Sapporoが制作した「さっぽろ保育園マップ」から分岐して作ったものですが、これについて矢崎さんは「定型化したデータとオープンソースソフトウェア(OSS)があれば全国に展開できる」という考えを示しました。展開するためにはブラックボックス化されていないこと、すなわちツッコミが入れられる(=ハックできる)ことが重要で、この点においてOSSやオープンデータの存在は意義深いものであると感じました。矢崎さんの発表資料は公開されていますので、そちらもご参照ください。
ArduinoとIoTでセキュリティシステムを構築
カンファレンスの最後に登場したのが山本裕介さん(株式会社サムライズム)。「ArduinoではじめるIoT 触り始めて2ヶ月で構築できたセキュリティシステム」というタイトルで発表しました。
Arduinoは、簡単に電子工作が行えるボードと開発環境のセットです。オープンソース(ソフトウェアだけでなくハードウェアも)、低消費電力、OSの焼き込みが不要、ライブラリが豊富などの特徴があります。
Arduinoを使ったシステムの開発手順としては、まずデバイスとArduinoを接続する回路を作成します。ブレッドボードを使って配線すればはんだ付けも不要です。次にスケッチ(プログラム)を書きます。これは開発環境上でC/C++に似たArduino言語で作成します。プログラムを書いたらコンパイルしArduinoに書き込むと動作します。山本さんは壇上に小型のカメラを用意してArduinoの実機や回路を映し出し、LEDの点灯やセンサー情報の読み取りを実演しました。また、Arduinoはさまざまなタイプの派生品が数多く発売されていて、それらを使ったデモもありました。
後半はArduinoを使って構築したシステムの話です。山本さんは事務所の玄関にモニター付きドアホンを設置していますが、来客がボタンを押してからモニターに人が映るまで時間がかかるという問題がありました。そこで玄関に人感センサーとAruduino互換品で作った「お客様センサー」を設置し、人を検出したら自動的にモニターが起動するようにしました。さらに、Aruduino言語以外の言語で開発する方法として、Firmataというプロトコルを使う手法が紹介されました。こうすることで山本さんが得意なJavaでプログラムを書き、自作のTwitter4J(JavaでTwitterのAPIを操作するツール)を使ったTwitterへの自動投稿もできるようになりました。
Arduinoは、当社が各地で実施している「sakura.io体験ハンズオン」でも利用しています。Arduinoの体験としても良い機会ですので、興味のある方はぜひ参加してみてください。
他にも興味深い発表がたくさん
この他にもハッカーズチャンプルーではこんな発表がありました。
Goにおける静的解析と製品開発への応用
上田拓也さん(株式会社メルカリ/株式会社ソウゾウ)による発表です。静的解析とは、プログラムを実行せずにソースコードを解析することでいろいろなことを知る手法です。上田さんからは、Goにおける構文解析の仕組みの解説や、メルカリのサービスで実際に使用した例としてバナー入稿管理ツールの話がありました。
Alexa & Google Homeと半年間闘った記録
清野剛史さん(クラスメソッド株式会社)による、音声認識技術に関する発表です。VUI(ボイスユーザインタフェース)はUIの歴史に新時代を作るだろうと予想されていて、各社が音声アシスタントデバイスを開発しています。ここではその中でも二大巨頭と目されるAmazon AlexaとGoogle Homeについて、VUIの仕組みや、音声によるアシスタントを自分で作る方法が紹介されました。日本ではまだ発売されていませんが、来年には入ってくるらしいので注目です。
サーバーレスのアーキテクチャパターンとそれぞれの実装・テストの勘所
吉田真吾さん(株式会社セクションナイン)による発表です。サーバーレスという言葉は「サーバを使わない」という意味ではなく、サーバを意識せずにシステムを構築/運用できるという考え方です。吉田さんからは、サーバーレスの代表的なアーキテクチャ、よく使われるフレームワーク、サーバーレスによるシステム構築の注意点、シングルページアプリケーションやWordPressのコンテンツ配信といった適用例の解説がありました。詳しくは公開されている資料をご覧ください。
ライトニングトーク
これらの発表の合間にはライトニングトークの時間があり、開発合宿の成果発表をはじめとして全部で12件の発表がありました。以下、タイトルと発表者の一覧です。
- JavaScript一切無しで作るお絵かきアプリ @tompng
- 沖縄にも、世界にも 〜 オープンソースが支える子ども向けITコミュニティ @yasulab
- 5分で分かるRaspberry Piでハイレゾオーディオ再生 @tmiyahar
- ハッカーズチャンプルーでのLTのやり方、そしてLTをすることによるその効果 @cloneko
- GeekhouseOkinawaをRebuildします @saboyutaka
- Rekognitionを自社サービスに組み込んでみた @miyaz
- 名刺アプリEightのサーバーレスアーキテクチャーへの挑戦 @yotaro-fujii
- ついにやります!! YAPC::Okinawa!! @AnaTofuZ
- 文系大学生たちが初めてのハッカーズチャンプルーでISUCONをしたらこうなった @masayoshi-tokumoto
- 愛着を持てるガジェットを目指して・・・(日常に疲れた現代人へ贈る、Murmuring deodorant) @chocolaolantan
- 大阪からきて開発してみた(仮) @hyamauchi
- もう一度死んだ話 @kimihito
このうち @chocolaolantan さんの発表は、開発合宿編で紹介したクオリサイトテクノロジーズの皆さんによる電子工作です。合宿では何をやっているのかわからなかったのですが、実は人感センサー付き消臭剤とRaspberry Piを接続し、人が近づくと音声合成システムで作った労いの言葉をかけてくれるというものでした。また、沖縄のコミュニティによる合同イベントらしく、@yasulabさんによるCoderDojoの紹介や @AnaTofuZ さんによるYAPC::Okinawaの開催宣言もあり、沖縄のITコミュニティはますます活性化しそうです。
クロージング芸人と、受け継がれる想い
カンファレンスの最後に、実行委員の米須渉さん(JAWS-UG沖縄)から「継続的コミュニティ」と題する話がありました。米須さんはイベントの締めのあいさつで登場することが多く、沖縄では「クロージング芸人」と呼ばれています。
米須さんは「継続的コミュニティに必要なもの」として、参加者、話題、金、スタッフ、知恵の5つを挙げ、ハッカーズチャンプルーではスタッフ、特にコアメンバーの不足や高齢化の問題が表面化していることを明らかにしました。そして、自身がコミュニティを続ける理由として、アニメ「SHIROBAKO」の登場人物・宮森あおいの言葉「小さな灯が次々に受け継がれていく」を引用し、先人から受け継いできたコミュニティ活動というものを次の世代に渡していきたい、だからこのイベントの継続を望む人はコアメンバーに加わってほしいと訴えました。
米須さんのトークは、ある程度の年数を経過したコミュニティが抱える問題と運営側の想いを的確に表現した、とても心に残る話でした。これを聞いてコアメンバーに名乗りを上げる人が増え、このイベントが来年以降もずっと続いていくことを願ってやみません。このトークの資料も公開されていますので、ぜひご覧ください。
おわりに
今回、開発合宿とカンファレンスの2日間にわたって参加しましたが、沖縄の皆さんによくしていただいたこともあり、とても楽しく過ごすことができました。また参加したいと思えるイベントでした。このレポートを通して、イベントの楽しさや、沖縄のITコミュニティの熱量を伝えることができたならうれしいです。最後になりましたが、取材にご協力いただいた、ハッカーズチャンプルーの実行委員会の皆さん、発表者や参加者の皆さんに、厚くお礼を申し上げます。本当にありがとうございました。
それではまた、次回のイベントでお会いしましょう!