北海道のITが集う技術者の交流会、Kita-Tech 2016現地レポート!

10月21日(金)に北海道札幌市中央区にあるジャスマックプラザで開催された「Kita-Tech 2016」(キタテック2016)に行ってきました!

「北海道のIT丸ごと味わう北海道IT企業合同技術交流会」Kita-Tech 2016は北海道IT企業の技術者が集まる交流会です。単なる交流会ではなく、各社の技術発表と審査、賞の授与、特別講演もあるのが特徴。もちろん懇親会もあり、各社の技術者同士の交流もできます。さくらインターネットは今回、初めての発表として参加してきました。

北海道が本社のビットスター株式会社株式会社ノースグリッドネットスター株式会社株式会社インフィニットループ株式会社ダイナシステム有限会社サイレントシステムなどの会社に加え、北海道の石狩市にデータセンターがあるさくらインターネットが参加しました。

Kita-Techとは?主催者インタビュー

主催者の1人、ビットスター株式会社取締役COO若狭敏樹さんにKita-Techについてインタビューを行いました。

ビットスター株式会社取締役COO若狭敏樹さん

――Kita-Techを始めた経緯について教えてください。

若狭さん:技術者の発表の場が非常に少なくて、その練習としてまずはクローズドな発表会を行おうと思いました。

技術者は情報を取り入れて自分の技術にするインプットは得意。だけど、それをアウトプットする場がプログラムや設計書しかないのは問題と思っています。ITに疎い人たちに対して技術を伝えるには、言語化して伝えることも非常に大事だと思い、アウトプットする能力は技術者も持つべき能力だと思います。

初めはビットスター単体でイベントを行い、次に他社も含めるようになりました。さくらインターネットが来てもらえるようになり、この会場でやるようになりました。今もクローズドなイベントは踏襲していて、誰でも来れるものではないかわりに、各参加企業の若手の発表の練習、普段業務でできないようなことを調査、追求、発表する場としてやっています。

発表には場馴れが大事だと思っています。他の大きいイベントでいきなり発表して上手くやるのは難しいでしょう。ただ、クローズドな集まりのKita-Techでは失敗しても誰にもとがらめられない。むしろ失敗して勉強してもらえればいい。ステージ、演出作りで雰囲気も作り上げているところで発表するのは、やる気になるし、大事なことという意識のもとでやっています

――Kita-Techの成果についてはいかがでしょうか?

若狭さん:発表の仕方、相手にどう伝えるかが年々上手くなっています。Kita-Techで他の発表を見てコツを掴むのでしょう。

技術者にはアウトプット能力が大事というメッセージを感じたインタビューとなりました。それではセッションの一部を紹介します!

ディープラーニングが切り開くAlの未来


株式会社ノースグリッドの長谷川雅俊さんからはAI技術「ディープラーニング」についての発表です。発表では現代の第三次AIブームまでの歴史を解説、猫を判別して話題になったGoogleのAIを紹介。
AIの実演としてAKB48チームAの集合写真から、小嶋陽菜の顔を当てるデモを行います。複数人の顔が写っている写真から見事、小嶋陽菜の顔を当てた後、デモで利用した顔認識技術について解説します。
今回はGoogle社製のディープラーニングのフレームワーク、TensorFlowを使用。Pythonでの記述が可能で、処理は高速であり、画像の角度や色合いを変えて、学習データを水増しできる機能があります。顔認識は学習するデータが多ければ多いほど、精度は上がります。

使用したマシンはOS:Ubuntu14.04、CPU:Intel(R) Core(TM) i7-3820 CPU @3.60GHz、GPU:GeForce GTX980、メインメモリ:32GB。

「GPUがキーポイントになっています。GTX980は高性能なGPUです。良いGPUを使っているのは意味があります。GPUはディープラーニングに向いています」

なぜGPUがディープラーニングに向いているのでしょうか。「ディープラーニングは多数の並列処理、行列演算を必要としますが、数千も演算コアを持ったGPUはそれらの処理が得意であり、非常に早い」

「GPUは、対CPUで体感100倍程度の演算パフォーマンスを発揮します。GPUはコストが高くなるのでは?と思いますが、実は次のようなサービスを活用すると、手軽に環境構築が可能です」

前述したとおり、さくらインターネットも来ており、「これは仕込みかな?」と思わせるようなスムーズなサービスの紹介に会場は沸きます

「こちらが本日の商品です」とGPUが利用できるさくらインターネットの高火力コンピューティングを紹介。「現在、無料トライアルお申込み中です。URLは・・・」とテレビショッピングを思わせるようなスムーズな話し、会場を沸かせました。

IoTで可視化する水道の利用状況に関する考察


ネットスター株式会社の渋谷一将さんからは流量センサーと赤外線センサーを用いて蛇口をloT化し、水道の利用状況を可視化する発表です。

「今回はIoTで水道の利用状況を可視化する発表なのですが、どうしてIoTというテーマになったのか?」と渋谷さんは切り出します。続いて現れたのが次のスライド。

2セッション連続のさくらインターネットサービスの登場に「ふたたびさくらの仕込みではないのか?」と会場は笑いに包まれます

さくらIoT Platformのα版を借りたことが今回のIoTへの探究心がスタート。IoTで何をしようか色々考えますが、世はIoTブーム。思いつくようなIoTはすでに製品として発売していることを知ります。思索を巡らしているところ、アイデアが降りてきたのは会社の給湯室。蛇口から流れている水が全て利用されているわけではなく、無駄になった水があるのではないか、という疑問が浮かびます。
IoTを使ってこの疑問の調査することとします。「蛇口の下に手をかざしているとき、水を使用。蛇口の下に何もないときは無駄」という定義の元、蛇口の下に手があるかどうかを赤外線センサー、流れた水を流量センサーという2種類のセンサーを用いて調べます。

使った通信機はさくらIotプラットフォーム。マイコンはArduino。

ネットワークの説明

センサーの情報を有線で繋がったモジュールに渡し、モジュールから3Gの環境でさくらIoTプラットフォームに渡します。さくらVPSを使って、HTTPサーバーからブラウザにデータを渡します。使用状況はブラウザで逐一確認できます。
約一ヶ月調査した結果、使用が1937.2リットル、無駄867.5リットル。結果は69%使用、無駄が31%という結果になりました。実際に使っているが、センサーの圏内に手が無い場合は無駄と判定されてしまうので、その点が課題と振り返ります。

開発が作るドキュメントで運用が消耗した話


さくらインターネットからは「開発が作るドキュメントで運用が消耗した話」と題して、運用側の立場から、技術本部データセンター運用チーム リーダーの玉城智樹さん、開発側の立場からは技術本部ビジネス推進グループで運用改善プロジェクトの責任者、吉田美香さんの発表です。
さくらインターネットでは、開発する人と運用する人は別になっており、運用に必要なドキュメントを開発する人が書くのがスタンダードです。

しかし、開発する人が作成するドキュメントは運用する人にとって、問題点があります。障害対応の方法については書いていますが、「お客様への報告・連絡」の方法は書かれていないのです。そのため、「お客様への報告・連絡」は運用する人が書く必要があります。ですので、一つの作業に関しても、運用する人は開発の人が書いたドキュメントと、運用の人が書いたドキュメントという2つのドキュメントを参照する必要があります。


「ドキュメントをいったりきたりするので、やりづらい。新人にはキツイ状況です」

作業の順番を変えて運用を楽にしようとも、開発の人が作ったドキュメントを改善しようとも、両者のドキュメントのプラットフォームが違うという実情があります。例えば、wikiの記法が違う、変更しようともアカウントがわからない、変えるにはどのような段取りを踏むべきかもそれぞれ違います。
「無駄な作業が多い」という問題に対して、運用改善プロジェクトが行った改善策は、依頼の出し方を定める正しいフォーマット化。今までは運用にとって不要な情報も開発の人は調べて送っており、そのため依頼文章は長くなる一方。フォーマットを定め、運用にとって本当に必要な情報のみだけ出してもらいました。結果、下記のように長いものがぎゅっと短く、簡潔に読みやすくなります。

依頼の出し方を定める正しいフォーマット化。Afterを見ると、かなり短くなっています

手順書の構成も見直します。今まではAからB、BからC、CからB…というように複数の手順書を参照しなければいけませんでした。

「複数の手順書を参照しなければならない」という問題に対しては、手順書を統合した上に分割します。全部の作業を一つの手順書にした後、時系列、作業をする場所別、作業に必要なスキル別などに基準を設けて分割。一つの手順書が短くなったので、作業しやすくなります。一つの手順書が作業の一つの区切りなので、引き継ぎもしやすくなりました。手順書を良くするために可読性を良くし、上から読んでいけば作業が終わるようにします。構成を見直した後の手順書の参照イメージです。

最後に、「ドキュメントを書くのは手間がかかるとは思うのですが、ドキュメントが何もないと自動化したいという話も通らないと思います。そ運用はドキュメントありきで進めていくと、幸せな運用ができるのではないでしょうか」と話すと、拍手が起き、発表を締めくくりました。

さくらインターネット株式会社田中邦裕社長による特別講演

Kita-Techは各社の発表後、特別講演が行われました。特別講演を締めくくるのは、さくらインターネット株式会社代表取締役社長の田中邦裕さんです。

「今日皆さんに一番お伝えしたいことは、IT業界はまだまだ伸びるので、みんなで伸びると信じましょう、という話です。景気の"気"は気分の"気"と言われます。みんなが伸びると思ったら投資をするし、投資をしたらそのぶん景気が良くなります。景気が良くなるとまた投資をするので、そのいいサイクルに入れないといけない。しかし、残念ながらほとんどの産業は右肩下がりになっています。ただ、ITに関してはこれから絶対伸びます」

もうすぐ40歳を迎える田中さんを始め、それより下の年齢の人間は日本が成長したのを見たことはない。その環境の中では利益を出すためにはコストを削減する、という考えに陥りがちになってしまう。そのときに必要なのは「とにかく人を採用して、どんどん投資するマインドが必要」と語ります。

「今3号棟を建設進めています。1号棟500ラック、2号棟600ラックで合わせて、1100ラックあります。3号棟は2000ラックありまして、全部合わせると3100ラックになります」

北海道開催のKita-Techということで、石狩データセンターの近況紹介があります。

「実は石狩データセンターは機械の効率性と人の快適性をコンセプトにしました。その中でも見どころは、石狩の土地は手稲山をすごく綺麗に見通すことができるところです。そういう利点もあり、せっかくだから綺麗な景色で仕事したいという話になりまして、手稲山が綺麗に見えるようにしたり、狭いところで仕事しなくて済むように、事務所をすごく広くしたり、人に対する快適性をとても重視しています。いかに自由度を上げ快適に過ごせる環境にするのか。これがITの今の課題です」と石狩データセンター3号棟のコンセプトに込めたITに対する課題意識を提示します。

続いては、ここ25年の出来事として、日本のバブル時代の状況から産業革命、そしてAIによる第四次産業革命が始まりつつあること、各年代における時価総額を紹介しながら産業の主役が変わっていくこと、現代はサービスの時代であるとしつつも、サービスは参入障壁が低く、「ハードウェアという参入障壁を抱えつつもサービスをソフトウェアで稼ぐというのが今の時代の主流になってきています」との認識を話します。

昔は物が中心になり、物に対して企画書があり、企画書に沿って必要な人材を集めてくる流れが多かったのですが、「今はプロジェクトがあって人が集まってくるよりも、人に合わせてプロジェクトが発生してくる」と発生が人であるとの認識を話します。「今までは会社ができて、人が就職しに来たんですね。そうではなくて、今はいい人がいるところに会社が集まってくる」

さくらインターネット社内で特にプロジェクトが進んでいるVPSとIoT。進む源泉は「本当にやる気のある人が社内にいるからなんですよね」と話します。いかに社内にやる気のある人を増やすのか。人間は得手不得手があり、それを会社の方針で縛るのはもったいない。

「人によって全く得意とする部分は違いますが、マニュアルや会社の方針で縛ってしまい、人を会社に合わさせるのは非常にもったいないことだと最近は認識をされ始めています。どちらかというと、人に合わせてプロジェクトをアサインします」

やる気や才能にある人に会社に来てもらい、その人が生き生きと仕事ができる環境をどう作るか。ITはまだまだ伸びていく。ITはもっともっと稼げる。最後に以下のようなメッセージで特別講演を締めくくりました。

「成長する環境に我々は身を置いているだということを認識することと、そもそもまだまだ成長するとみんなで信じることだと思っています。この業界は必ず伸びる。そして、ソフトウェアやサービスが今本当に世界の中心になろうとしています。ものづくりがこれからのサービスのキーワードになってきます。ものが売れない時代になりましたが、ものを使ってサービスを売る、そういったことを最後にお伝えできればと思います」

おわりに

特別講演後は懇親会では豪華な食事と、お酒、そして歌とダンスのショーもあり、会場はおおいに盛り上りました。会場のあちらこちらでは、発表を終えて緊張から解き放たれた発表者たちの清々しい笑顔や、発表内容について真剣に議論しあう光景が見られました。各社の技術者による真剣な技術の発表と、交流。北海道にも多くの技術が大好きな技術者がいることを再確認した豪華な1日でした。

懇親会の一幕。普段、結婚式やパーティーが開催されているところで開催