北の技術者たちが興味のある最新技術が大集結!北海道IT企業合同技術交流会、Kita-Tech 2017レポート!
10月27日(金)に北海道札幌市中央区にあるジャスマックプラザで開催された「Kita-Tech 2017」(キタテック2017)に行ってきました!
「北海道IT企業合同技術交流会」Kita-Tech 2017は北海道本社を中心としたIT企業の技術者が集まる技術交流会。各社による技術発表から審査、賞の授与、特別講演、懇親会も同会場で行われる13時から20時までの7時間の長時間イベントです。
さくらのナレッジでは昨年度も取材。2016年の様子は以下の記事をご覧ください。
北海道のITが集う技術者の交流会、Kita-Tech 2016現地レポート!
今年はさくらインターネット株式会社をはじめ、ビットスター株式会社、株式会社ノースグリッド、株式会社インフィニットループ、ネットスター株式会社など計10社、105名の方が参加しました。
今回、Kita-Tech 2017では各社から8チームが発表。発表はプロトタイプを作成する必要があり、技術発表だけではなく、デモと合わせての発表が多いのがKita-Techの特徴。さくらのナレッジ本記事では印象的な発表と、さくらインターネット株式会社取締役の伊勢幸一さんによる特別講演を紹介します。
目次
DALIを用いた照明制御について (さくらインターネット株式会社)
さくらインターネット株式会社からは久木聖大さんが発表。最初に紹介したのが照明制御に特化したDALI(ダリ)というヨーロッパ発祥のオープンプロトコル。DALIの規格に対応している照明であれば、プログラムからオフィスの照明を個々に制御することができます。例えば、照明を点滅させたり、色を変えたりすることが可能に。DALIはどのプログラム言語でも使用可能で、今回はGO言語を使用します。
さくらインターネットの石狩データセンターでは、サーバーやネットワーク障害が起きると、運用スタッフの近くに置いてあるパトライトが点滅し、ブザーが鳴ります。そのため、障害が起きてもすぐに気づけるようになっています。
2016年、石狩データセンターは3棟目(3号棟)を増築。それにともない、運用スタッフが働く事務所も新しくなりました。
しかし、新しい事務所が自分の固定席を持たないフリーアドレス制になったことで新たな問題が発生します。今までは運用スタッフの近く置いてあったパトライトですが、フリーアドレス制によって、運用スタッフの席が毎日変わるため、パトライトに気づきにくい席に座り、障害に気づかない可能性が出てきました。
運用スタッフがパトライトの近くだけに座るようになると、フリーアドレス制の意味がありません。運用スタッフと共に毎日パトライトを移動するのもかなり面倒。そこで考えたのがDALIを用いた照明装置システムです。
事務所の天井にDALI規格の照明装置であるLEDテープをつけます。LEDテープは障害に応じて、照明の色を変えます。
続いては事務所のデモ動画が流れます。
このDALIを用いた照明の制御装置がうまくいくと、パトライトから離れ、事務所のどこの場所でも運用担当者が障害に気づくことができ、フリーアドレス制が問題なく、実現できます。さらに障害検知だけではなく、事務所の不要な箇所を自動消灯できれば、省エネも可能です。
DALIの照明システムの運用はまだ始まったばかりの試用段階。「本当に天井の光を気づくことができるか」など課題はまだ多いようです。実用化されれば、IT業界のオフィスにおいて、かなり応用範囲が広いと感じる発表でした。
(たぶん)世界初!?おっさんでも美少女になれるリモートプレゼンシステム(株式会社インフィニットループ)
Kita-Tech 2017で最も異色だったのは株式会社インフィニットループの山口直樹さんのVRライブスタジオを使ったリモートプレゼンシステムの発表です。
通常、Kita-Techでは壇上に上がり、発表者がスライドを用いたプレゼンを行います。しかし、インフィニットループの発表は誰も壇上に上がりません。壇上の下手側にヘッドマウントディスプレイを被った山口さんが一人いるだけでした。
発表開始時間となり、スクリーンに映し出されたのは、インフィニットループの松井社長と思われる方(画面左側)と、インフィニットループの公式キャラクター、あいえるたん(画面右側)。
画面上にいるのは松井社長の3Dモデル。実際の松井社長は福岡のスタジオで3Dモデルの松井社長を動かしています。画面上のキャラクターのあいえるたんは、先ほど紹介したヘッドマウントディスプレイを被った札幌のKita-Tech会場にいる山口さんが操作。福岡と札幌という場所を越えて、一つの画面上で発表するというVRライブスタジオを使用したリモートプレゼンでした。
発表はあいえるたんと、3D松井社長の掛け合いでスタート。大きくなったり、声を変えたり……と、リモートプレゼンシステムでできることを実際に行っていく発表でした。
他にも3D松井社長のキレキレのダンスが行われたり、システム構成の説明、操作UIの説明があり、発表は終了。発表終了後も会場のどよめきは収まらず……完全に異色の発表となりました。
この技術が評価され、インフィニットループは技術賞を受賞しました。
プレゼンターのさくらインターネットの伊勢さんからの講評
「技術賞は審査員のほぼ全会一致でインフィニットループさんに決まりました。テクノロジーというよりは、実装力の高さが非常に光ったなと。プレゼンテーションも他のチームとは全然違うプレゼンテーションでした。松井社長が出たのは反則かなという気がしますが(笑)。表現力や、くすぐりがあり、会場を賑わせていただきました。これらの発表の背景にあるのが非常に精密な実装力であったというのが評価の高い部分でした。お話を聞くと、最初は会社のプロジェクトではなく、山口さんが個人的趣味で作り出しているということを聞いて、社員に勝手にやらせる余裕があるんだなと感じました。社員の成長を促す体制ができているんだなと思いまして、技術賞になりました。おめでとうございます」
技術賞を受賞した山口さんは「中の人がおっさんですいません(笑) 個人的趣味で始めて、途中から業務時間内でやりたいと思い始め、社長に伝え、了承いただきました。こういう機会もいただき、社長を含めて、会社にありがとうと言いたいです」と嬉しさを話しました。
良心に訴えろ!エスカレーター歩行防止システム(KidsVenture)
Kita-Tech史上、最年少の登壇者が登場します。KidsVentureの小学6年生の佐々木ハナさん、中学1年生の原田崇志さん、小学4年生の森下知秋さんです。
KidsVentureは小学生の高学年から中学生を対象としたプログラミング教室です。手のひらサイズのコンピュータ「IchigoJam」を使ったBASIC言語のプログラミング講習や参加者自身がプリント基盤に、はんだ付けをして組み立て、簡単なオリジナルゲームを体験することができます。さらなる制作物を作りたい意欲のある参加者が集まったのが今回のチーム。
KidsVentureはさくらのナレッジでも何度か紹介。詳しくはさくらのナレッジのKidsVentureタグ一覧をご覧ください。
今回、KidsVentureチームが目をつけたのはエスカレーターの歩行に関するマナー。
「東豊線(※)の表示ではエスカレーターで歩くことを禁止しています。それでも歩く人がいます」(※東豊線は札幌市の市営地下鉄)と話します。エスカレーターの歩行は危険なため、禁止してしています。にもかかわらず、歩く人達が多い。会場の大人たちからは「ごめんなさい!」との声が聞こえます。
マナーを守らない人には何かしらの罰を与える必要がある、とKidsVentureチームは考えました。そこで、「最初はエスカレーターを歩いた人には水がドシャーとかかるのはどうかなと思いました」と話すと、会場が笑いに包まれます。
水に濡れてしまうのはさすがに可哀想と考え、今回は「日本人のできるだけ他人に迷惑をかけないようにするという美徳と良心」に訴え、エスカレーターを歩くと、エスカレーターを停止するシステムを考案。
「今回はエスカレーターを作ることが難しかったので、プロトタイプとしてベルトコンベアを作ることにしました」と話すと、会場には笑いと、驚きの声が響きます。作成したベルトコンベアはこちら。
ベルトコンベアのデモを披露します。
主な機能は3つあります。
1つ目はエスカレーターを歩いている人を検知する機能。ベルトを押した時に圧力センサーが反応します。全体重がかかっているときは停止、1/2の体重の時は歩いているとみなします。
2つ目はエスカレーターを停止する機能。歩いている人を検知すると、エスカレーターのモーターを停止します。歩くのを止めると「エスカレーターガウゴキマスノデチュウイシテクダサイ」と文字が出て、エスカレーターが動きます。
3つ目は光、音、文字で警告する機能。音を鳴らしたり、信号の色を変えたり、メッセージを表示したり、機能2のエスカレーターの停止と合わせて、エスカレーターを歩いている人に対して、歩行禁止であることを理解してもらうのが目的です。
発表の最後では一人ひとり、感想を話します。
「自分の力だけではなく、3人で作ることができました。できないところもありましたが、アイデアを出し合って作れたのが嬉しかったです。これからもっと上手くなっていこうと思います」(森下知秋さん)
「今回はプロトタイプの制作に時間かかったので、もっとプレゼンのほうに時間をかけれるように計画的に物事を進めていきたいです」(原田崇志さん)
「今回、私はこの企画に参加することで、同じ興味を持つ仲間と出会うことができました。今までは電子工作に関して話せる仲間がいなかったので、とてもうれしく思います。この企画に参加して本当に良かったです」(佐々木ハナさん)と語りました。
KidsVentureチームは特別賞を受賞。プレゼンターのサイレントシステム中本さんより、「本来、特別賞はありません。でも、どうしても賞を上げたい、という全員の意見を一致、急遽、特別賞を設けることにしました」と特別賞設置の理由を語ります。
サイレントシステムの中本さんは受賞の理由として、
「心が洗われた。エンジニアって素晴らしい仕事なんだと思いましたよ。君たちは若いと思います。大人と子供って何が違うかというと、20歳過ぎれば大人かというと、そうではありません。思いやりが持てると、大人なんです。そう考えると君たちはすでに大人です。今回、圧力センサーがキャタピラに押されない位置に調整したり、信号が壁の向こうから見えるようにポールを立てて調整してる。それは僕らの世界でもすごく重要です。お客さんからどういうふうに見えるか、というのを意識して、あのシステムを作っている。そして、プレゼンテーションをしっかり練習した。正直、今日発表した中で、1、2を争う素晴らしいプレゼンテーションでした。今後もこの世界でもっと勉強して、またここでいろんなものを見せてもらいたいと思います。ということで、この特別賞をお送りしたいと思います。(特別賞の包みを確かめて)これたぶん、図書券ですね。もっと勉強せい、ということですね」
と話し、会場を沸かせました。
ぼくのかんがえたさいきょうのさくらのクラウドみつもりツール(ビットスター株式会社)
ビットスター株式会社からは畠沙公子さんが発表。インフラエンジニアの畠さんが苦労しているのはシステム構築の提案書のためのサーバーの見積もり。サーバー構成図を描き、構成図から料金シミュレーションを使って月額費用を試算、作業費を算出して、提案書、見積書を作成しています。
ただし、提案後でも予算が合わないと、再度やり直しも発生します。「もっと楽がしたい。絵を書いたら料金が出るようになったらいいのに」と畠さんは考えます。
そこで要望を出したのは、
①ブラウザ上のキャンバスに各機能のアイコンをドラッグアンドドロップができ、アイコンを線で繋げたり、枠で囲ったりができ、作成した構成図を画像で出力できる
②ドラッグアンドドロップしたアイコンを元に月額利用料金が自動で計算される。サーバーのスペックを選択可能。複数リージョンにも対応する
という機能。Kita-Techに合わせて、ビットスターチームが作成しました。今回はデモを披露。
発表後、「さくらインターネット側で価格改定があった場合、自動で変わりますか?」という質問に対して、畠さんは「今は手動で変更します。価格改定に対しては手動で変更をする必要があります」と返答。
その質疑応答に対して、さくらインターネットの榎本さんより「手動でサーバー価格を変更をするという件ですが、弊社の価格マスタをAPIで同期を取ることもできます。または、本ツール上から受注処理が飛ぶこともできるのではないでしょうか。見積書にQRコードをつけて、そのQRコードから受注処理ができるという夢が広がると思いました」との返答があり、将来的に提携する可能性のあるやりとりが会場で行われました。
また、他のビットスター社員から「さくらインターネットさんのサイトに載っていると強力な武器になるのでは。さくらインターネットさんで買ってもらえませんか?」と提案があがると、さくらインターネットの江草さんから「ぜひとも、仕事としてご依頼できればと思います」と答えがあり、会場は歓声と拍手に包まれました。
本発表、発表の素晴らしさと現実感が、大賞を受賞。
ノースグリッドの菊池社長は「プレゼンもデモも素晴らしく、そもそもなんでさくらインターネットにないのかな?と思うぐらいのツールでした。ちゃんと動いて、ちゃんとお金も出る。ぜひビジネスにしてもらいたいと思います」と評しました。
特別講演 ITエンジニアの評価の仕方(され方) 伊勢幸一
全ての発表終了後は、さくらインターネット株式会社取締役の伊勢幸一さんより特別講演が行われます。まず話したのはエンジニアが採用できない企業(評価できない企業)についてのお話です。以下のような傾向があるとあげます。
・プロジェクトが決まってから人材募集や採用に着手する
・取締役に技術系出身者がいない
・製造・運用コストを人月で考える
・エンジニア、プログラマを「在庫」と呼ぶ
・社内に知名度のあるエンジニアがいない
・技術ブログがない
これを踏まえ、話したのはエンジニアが採用できている企業についての傾向をあげます。先ほどのエンジニアを評価できない企業の逆になります。
・常に人材を採用している
・技術系役員がいる
・有名エンジニアがいる
・技術ブログ更新、セミナー開催が活発
・コミュニティなどでの登壇者が多い
・コミュニティなどへの協賛・後援が多い
「一言でいうと、エンジニアを採用できない会社というのは、エンジニアというのはモノなんです。エンジニアを在庫として考えたり、人月としてカウントする。逆に採用できている会社は、エンジニアは財産なんですね。この違いは大きくあります」
そしていよいよ本題。「良いエンジニアを採用できている企業は、良いエンジニアが集まっているので、エンジニアを評価できています」と話します。「エンジニアを評価できている会社はどのように評価しているのでしょうか。どう評価すべきかの前に、皆さんが評価したくないエンジニアとはどんなエンジニアかを考えてみましょう」と投げかけます。
・言われなければ何もしない
・言われたことしかやらない
・今できること以上のことをやりたがらない
・モノ(機械や自動化ツール)で代用可能
・他の人でも代用可能
・何日、何ヶ月、何年たってもアウトプットが同じクオリティ
これらを評価したくないエンジニアとあげます。「つまり、成長しない、または、成長する気がないタイプ。逆に言うと、常に成長し続けているエンジニアを評価すべきだと思います」と話します。
エンジニアをどう評価するか。「エンジニアの成長を評価軸とすればいい」と結論づけました。
ただ、成長の評価も難しいと話します。なぜなら、会社では数値化による評価基準しかありませんが、成長の度合いを数値化することは非常に難しいからです。ではどのような成長があるか。ITエンジニアの成長系統は4つあると解説します。
習得系。何かを習得した時。今までしたことなかったこと、できなかったことを新たにできるようになったということ。業務の役に立ったか立たないかは関係ない。習得系が評価されづらいのは、何の役に立つか、という観点で評価者が見てしまうから。エンジニアの評価で見るのであれば、できなかったことができるようになったのは成長になる。
創造系。何の役に立つかわからないけど、なかったものを作り上げた時。
実践系。実践した時。例えば、1時間かかった仕事が30分で終わるようになるといったスキルや技のようなもの。
拡散系。習得した、創造した、実践したものを本人以外の人間に伝えていく能力。例えば、本人のスキルが2倍になったとしても、その人の価値は2倍にしかなってない。しかし、その人のやりあげたことを5人に伝えると、パフォーマンスは6倍になる。本人がどんどんスキルが上がるよりも、拡散したほうが組織の能力が上がっていく。
伊勢さんは特にその拡散系に対して、「評価されるべきなんですけど、なかなか評価されづらい。そういう意味で、このKita-Techは拡散系として、とても良いイベントだと思います」と話します。
エンジニアに対しての給与以外の評価表現について言及後、以下のようにまとめ、発表を終えました。
「エンジニアの評価の仕方は難しいことはないです。要はチャレンジしないと成長しません。数値化で評価するのは難しい。評価は成長でしかない。それが事業に結びつかないとしても、評価軸として認知せざるを得ない。会社なりの成長を定義して、要素を具体化します。そして会社の環境整える。一言で言うと、余裕のある事業体制にしましょうということです。これらは過去に技術者だった人じゃないと難しい。エンジニアを理解するような人が経営層に必要でしょう。エンジニアにとっての評価はめんどくさいと思うんです。ただし、めんどくさいからといって、年功序列にしてしまうと、いいエンジニアは集まってこない。いいエンジニアがいないとIT業界では新しいものができないし、事業拡大もできないので、エンジニアの評価の手間を疎まないことが大切かと思っています」
懇親会
特別講演終了後は食事やお酒を飲みながらの立食交流会です。心に残った発表者に話しかけ、直接質問をしにいく様子が多く見られました。
懇親会の中盤では、審査員から発表に対する講評と結果発表が行われました。発表後は発表者と審査員で記念写真の撮影も行われます。
記念写真の撮影後は、なんとマジックショーが開催!
おわりに
Kita-Techはテーマの指定がありませんが、結果として旬のテーマが選ばれる傾向があります。前回の2016ではAIやIoTやARが取り上げられました。今年のテーマとしては画像認識やAI系、VR、IoTが多い結果となりました。Kita-Techは北海道という北の場所で開催されますが、技術関心としては、日本全体で話題になっているテーマとあまり差がないのではないかと思います。
皆さんの住んでいる地域では、どのようなテーマが旬でしょうか? 日本全体で話題のテーマと変わらないのか、地域独特のものがあるのか……ぜひ他の地域の技術交流会についても知りたくなります。
先日、さくらインターネットのグループ入りを発表したビットスターですが、今回のKita-Techでは、ビットスターがさくらのクラウドを使ったツールを発表。今後のさらなる提携も匂わせるやりとりが行われました。会社間の関係が近い会社同士で行われるKita-Techではこういう提携のきっかけを間近で観られるのも魅力。今後の展開から目が離せません。