人材という“レガシー”を未来へ紡ぐICTトラブルシューティングコンテスト(と、たくさんの“物語”)

問題やルールを楽しめるよう工夫~運営委員の挑戦

2017年3月4~5日、東京NTT東日本研修センタで第7回「ICTトラブルシューティングコンテスト」が開催されました。

ICTトラブルシューティングコンテスト(ICTSC)は、専門学校生や高専生、大学生、大学院生を対象とした、サーバネットワークのトラブルシューティングや運用技術を競うコンテストです。参加チームには、ルータやスイッチ、IP電話、無線APなどがそれぞれ与えられ、そこで発生する多様なトラブルに挑み、いかに多くの問題に対して適切に対応、報告できたかを競います。コンテストの企画や運営も学生が行っており、「学生の、学生による、学生のためのコンテスト」です。

2日間の競技に挑んだのは、学生14チームとさくらインターネットの大人組チーム。いずれも、1月15日に開催されたオンライン予選を上位通過し、本戦に駒を進めた強者たちです。

コンテスト会場の様子

出題されたのは、7ジャンル合計20問。参加者はトラブルシューティングのスペシャリストとなり、ネットワークやサーバ、IPv6、セキュリティなど、各問題を抱える企業に代わってトラブルを解決するよう依頼されます。得点は、問題の特定や対応など、問題ごとに指定された作業項目をこなすことで入ります。その合計が基準点を超えれば、その会社(ジャンル)の次の問題が解放される仕掛けです。

問題を解く以外にも、2種類のボーナス点が用意されました。1つは、最初に基準点以上の得点をゲットしたチームに与えられる「ファーストブラッド」(満点x10%)。もう1つは、1社に割り当てられた問題すべてで基準点以上を獲得した場合の「完答ボーナス」(100点)です。

前回と大きく変わったのは、問題にストーリーを持たせたことです。たとえばG社を見ると、「社長の意向でネットワーク構築からアプリケーション開発まですべて自社対応。しかし、それには人手が足りず、結局社員は自分の得意でもない業務をこなさなくてはならず、運用管理がぐだぐだになっている」という設定が。


これで問題が起きないはずがない設定のG社

そんなG社の1問目は、「トリニダード・トバゴから届いたルータを設定したところネットワークにつながらなくなり、解決してほしい」という内容。これは、ルータの時間設定をトリニダード・トバゴから日本に変更するとTime-Based ACLsが有効化され、通信が不安定になることを確認し、正しいACLを設定して疎通が取れたら解決です。


G社1問目の内容

1問目が解けると、2問目が解放されます。その内容は「ネットワークにつなげることを確認し、PCをスイッチに接続したがインターネットにつながらない。問題を修正したいが、一部ルータ以外はコンフィグなどを変更できない」というものでした。

G社2問目の内容

「ただ問題を解くだけでなく、参加者にもっと競技を楽しんでもらいたいと思って」

ストーリーやルールを作り込んだ理由について、問題リーダーの川原大輝氏と伊東道明氏はそう答えました。18人のメンバーからバラバラに上がってきた問題を見ながらストーリーを作り、難易度や得点のバランスを調整。コンテスト前日のぎりぎりまで、きちんと障害が発生するかなどの検証を何度も繰り返したそうです。

なぜかミニコントでルールを説明する(左から)川原大輝氏と伊東道明氏

問題の内容は、作問者の実体験に基づくものがほとんど。運営委員の学生は自宅ラックを運用していたり、学校のインフラ運用を任せられている人が多く、そこで経験したトラブルで“これはみんなにも解いてもらいたい!”と思ったものが出題されていると、現在大学のサークル棟のインフラ更新を任せられ奮闘中の川原氏は明かします。

リベンジに燃える~参加者の挑戦

そして本戦は、1日目から激しい点の取り合いとなりました。学生チームを見ると、オンライン予選でも上位だったuecmma(電気通信大学)、tuat_mcc(東京農工大学)、ECC comp.(ECCコンピュータ専門学校)、P47chW0rk(大阪工業大学)がトップ争いに参戦。

実はuecmma、tuat_mcc、P47chW0rkには学生運営委員の元メンバーが出場しています。その理由について、uecmmaで元運営委員の中西建登氏は次のように明かします。

「第6回ICTSCに元運営委員OBとして出場したんですが、現運営から妨害を仕掛けられて思うように点が取れず(笑)。あまりにも悔しくて、じゃあ次回はそれぞれが在籍する大学チームで出場し、運営を見返そうという話になりました」


正々堂々、真正面からぶつかって実力を見せつけるために参戦したuecmma

リベンジと言えば、大人組チームで出場したさくらインターネットも同様です。詳しくは「ICTトラブルシューティングコンテストにさくらから挑戦状!「大人の借りは、大人が返す!学生よ、現役エンジニアの本気を思い知るがいい!」」で書きましたが、第5回ICTSCに出場して2位に散り、“憧れの大人エンジニア”になれなかったDMM.com Laboチームに代わって屈辱を晴らすのが参戦の目的です。

開会式の冒頭で本大会の共催企業、東日本電信電話の岩佐功氏が、さくらインターネットの田中邦裕社長から「優勝できなかったらサーバアクセス権を剥奪しようかな」と冗談めかされたと談話を紹介。運営委員からの「頑張ってくださーい」という温かい煽りの一言もあり、全員本気モードに。1日目は2位のuecmmaに対してダブルスコアでトップに躍り出ました。

でも、何より大人組チームのスイッチを入れたのは、オンライン予選でuecmmaに18点差で1位を譲ってしまったこと。3位には26点差でtuat_mccが続くのを見て、「手を抜くなんてもってのほか。本気で取り組まないと勝てる気がしなかったです」とチームリーダーの江草陽太氏は漏らしました。


もう1つのリベンジに社員生命をかけ(?)さくらインターネットチームは、表情に余裕が見られません

初参加メンバーの多いtuat_mccは、1日目は学生チーム5位で終了。前回出場時よりも問題が難しくなっていると、元運営委員の市川遼氏は吐露。


工学部情報工学科の1~4年生で構成されるtuat_mcc

最終結果は…

2日間の激戦の結果は、次のとおりです。

最優秀賞:uecmma(賞金10万円)
優秀賞 :Ecc Comp.(賞金5万円)
準優秀賞:P47chW0rk(賞金2万円)
新人賞 :tuat_mcc(賞金1万円)

準優秀賞のP47chW0rkは、ネットワーク担当2名とサーバ担当2名で本戦に挑みました。元運営で4年生の河瀬大伸氏に対し、「(表彰台に立つことができ)卒業する先輩に良いはなむけとなり嬉しい」と後輩たちは喜びます。


地道に点数を重ねて準優秀賞に輝いたP47chW0rk

優秀賞を獲得し、最後までuecmmaとトップ争いを繰り広げたのは、Ecc Comp.(ECCコンピュータ専門学校)です。これまで3回出場したけど良い成績を残せなかったと話す先輩メンバーは、今回は後輩たちと協力してこつこつ点数を稼ぎ、表彰にこぎつけて嬉しいと語りました。今回初参加で、基盤構築に興味のあるサーバ大好きな古林優希氏は、「過去問で対策してきました。今回は最近話題になった脆弱性を取り上げる問題があるなど、歯ごたえのある問題が多く、勉強になって面白いです」と楽しんだ様子でした。


ホワイトボードのネットワーク図が美しいEcc Comp.

tuat_mccは、参加メンバーの過半数が初参加かつ最も高得点を出したチームに与えられる新人賞を受賞。もっと時間があれば解けたと悔しがるメンバーたちは、「結果にあまり満足していない」と次回参加を誓いました。


賞金1万円はファミレスでの打ち上げに使いたいとtuat_mcc

最優秀賞に輝いたuecmmaは、大人組チームも苦戦したCloudStack問題で唯一基準点を満たしたチーム。以前たまたまCloudStack案件に携わったことがあったメンバーは「知識が役立った」と満足の表情でした。一方で、ネットワーク関係は疎く、実機をあまり触ったことがないと話すメンバーは、手を動かすことの重要性を改めて感じたと述べました。


優勝候補だったuecmmaは見事最優秀賞に

学生運営委員の全体リーダー、池田悠人氏は「昨年9月から準備を開始し、たくさんのやりたいことを調整して今日を迎えることができました」と振り返ります。「ここで得た知見や経験が今後皆さんのプラスになれば幸いです。また、次回も運営や出場チームどちらでもいいので、ぜひ参加してください」


計画から実施まで、コンテストを支え成功に導いた学生運営の皆さん

最後に実行委員長の岩佐功氏は、表彰式が行われたNTT中央研修センターの講堂を見渡し、こうまとめました。

「この講堂は、1956年に当時の電電公社の建築部にいた内田祥哉さんが設計されたものです。1925年生まれの内田さんは、なんと30歳そこそこで後々まで引き継がれる“レガシー”を残したことになります。レガシーという言葉は、東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会(以下、東京オリンピック)のキーワードとしてよく耳にします。東京オリンピックのために整備した競技会場や社会インフラを、閉会後も意味のなる持続可能なものにするという重要な考え方です。弊社もネットワークやセキュリティで東京オリンピックに関わっていくことになりますが、ではどんなレガシーを残せるのか。そう考えたとき、ICTSCの出場者や運営委員の皆さんの悪戦苦闘を見ながら、それは“人材”ではないだろうかと思いました。ICTSCに携わった皆さんが今後もつながりを持って、コミュニティを形成、成長させ、コンテストの足跡をレガシーとして残していく、そんな未来を期待しています」


素敵な戦いを見せてくれた全参加チームで記念撮影

次回はさくらインターネットから出題あるかも?

そして、さくらインターネットの結果です。

第5回ICTSCの実行委員を務め数々のCTF出場経験がある江草陽太氏、VyOSのコミッターでネットワークプログラミングは任せろと胸を張る日下部雄也氏、社会人1年目でオールラウンダーの関根隆信氏、ネットワークが一番得意なさくらインターネット研究所の大久保修一氏と、どう考えても本気過ぎる選抜メンバーで挑んだ本コンテスト。数あるプレッシャーを乗り越えて、最高得点で堂々の1位に輝きました。

「勝って当然!」と笑う江草氏は、ヤバい状況をより多く経験、対応していることが勝利につながったと述べ、同時に想像力や発想力豊かに取り組むことも意識したとポイントを明かします。「自分たちと同じくらい、学生の皆さんも解けるはずです。ぜひ次回は満点を目指して頑張ってください!」


満面の笑みの江草氏

1日目からぶっちぎりで得点を稼ぎまくっていた同チーム。余裕の勝利に見えますが、実際は相当追い込まれていた模様。2日目はみんな御髪が乱れ、ゼッケンも慌てて羽織ってPCに向かう江草氏の姿がありました。それだけ、学生チームが脅威だったと言えます。

実は、点数を稼ぎ過ぎているさくらチームをスコアサーバで見るたびにやる気が削がれるとし、2日目の競技開始時、さくらチームの成績を見えなくするブラウザの拡張機能を公開するチームもあり、会場を沸かせていました。

さくらインターネットの成績が見えなくなる拡張機能。(※大人組は招待チームで表彰対象外)


2日目、まったくもって余裕が見られない4人


DMM.com Laboの熊谷暁氏が応援に駆けつけてくれたときは、良い息抜きになり、気合いも再注入されたようです

実行委員でさくらインターネットの川畑裕行氏は、「次回はさくらに1問、作問してもらおうかな」と提案。メンバーも乗り気だったので、次回はさくら渾身の問題に挑戦できるかもしれません。
コンテストの2日間、そこには多くの“物語”がありました。前回のコンテストに出場して煮え湯を飲み、優勝を誓って各大学チームへと散った元運営メンバー。3回目にして表彰台に立つことができた先輩と、その背を追い次戦を目指す後輩。もっと楽しんで競技してもらいたいと試行錯誤する現学生運営委員たち。DMM.com Laboのリベンジに燃えるさくらインターネットの若き社員。その1つ1つはまさに、岩佐氏がおっしゃっていた“レガシー”を紡ぐ大切なかけらに感じました。

第8回は、8月26・27日に電気通信大学で開催予定です。次はどんな“物語”が語られるのでしょうか。次回も楽しみです。