4月26日(火)に、さくらインターネット東京支社カンファレンスルームにて「Akerun & BONX Tech Talk Supported by さくらインターネット ~IoTスタートアップを支えるエンジニアの夕べ~」を行いました。このイベントは、IoT業界の中でもっともアツいスタートアップ2社とさくらインターネットの3社合同によるトークイベントで、この日が初開催でした。会場に入りきらないぐらい多くの方にお集まりいただいた熱気あふれるイベントの模様をお伝えします!

anb01会場はおかげさまで満席!

AkerunとBONX

はじめに、今回のイベントを共催した2社のCTOが登壇し、開会のあいさつとサービスの紹介を行いました。

anb02開会のあいさつをする楢崎さん(右)と本間さん

Akerun:スマホアプリで鍵を開閉できるスマートロックデバイス

まずは株式会社フォトシンスから本間和弘さん。同社で開発する「Akerun」は、スマートフォンで鍵の開閉ができるスマートロックデバイスです。特に、ドアに専用の端末を設置する後付型のスマートロックは世界初の製品となります。2015年4月の製品化以降も、ゲートウェイデバイスAkerun Remoteや企業向け鍵管理システムAkerun Managerなど関連製品を続々と開発中で、メディアにも多数取り上げられている注目の会社です。

Akerun オフィシャルウェブサイト(https://akerun.com/

 

BONX:野外でのグループコミュニケーションに適したウェアラブルトランシーバー

続いてウェアラブルトランシーバー「BONX」を開発するチケイ株式会社からは楢崎雄太さん。BONXは耳に装着するタイプのトランシーバーと、Bluetoothで接続するスマートフォンアプリから構成されます。「スノーボードで滑りながら仲間と話したい」というのが開発の動機だけあり、厳しい条件下でもスムーズなコミュニケーションができるように数々の工夫がなされています。IoT関連のクラウドファンディングで大手企業をしのぐ資金を集め、多くのユーザから支持されています。

BONX オフィシャルウェブサイト(https://bonx.co/

BONXを支える技術

サービス紹介に続いては、AkerunやBONXの開発に携わるエンジニアが登壇し、製品の要素技術やIoTスタートアップにおけるエンジニアの役割を説明しました。前半はBONXの時間で、こんな話がありました。

音声ガイダンスを導入した話 (iOS編)

発表者:森本利博(フリーランス)

開発当初のBONXは、デバイスの接続やルームへの入退室などをすべて効果音で知らせていたのですが、音だけでは何の通知かわからないという問題に直面したため、iOSのスピーチシンセサイザーを用いて音声ガイダンスを実装しました。iOSのバージョンや言語設定により読み上げの再生速度が異なる、言語設定が英語だとマルチバイトの文字列は読み上げてくれない、読み上げ機能を使うと強制的にダッキング(音が小さくなる現象)が発生するなどの問題を乗り越え、UXの向上を実現しました。

Bluetoothを120%使い倒す方法

発表者:麻植泰輔(Japan Scala Association)

BONXはトランシーバーもアプリもBluetoothによる通信を多用しています。特にBlueToothの新規格であるBlueTooth Low Energy(BLE)と、旧規格であるClassic Bluetoothの両方を活用しているサービスは珍しいです。麻植さんの発表では、BLEを用いてユーザを発見しルームに招待して通話するまでの仕組みが解説されました。しかし、これを実装する際に問題となったのがAndroidのBLEサポート状況で、OSもチップもBLEに対応している端末は全体の4割未満しかありません。そこでBONXトランシーバーが端末間の通信を仲介することにより、BLEへの対応を実現しました。

BONXのBluetooth利用について発表する麻植さん

発話区間検出(VAD)の話

発表者:粟飯原俊介(フリーランス)

音声でコミュニケーションするツールであるBONXにおいては、会話を明瞭に聴かせる技術が求められます。ここで、与えられた音声データから人間が発話している部分を抽出するのが「発話区間検出」です。一見簡単なように思われるかもしれませんが、背景ノイズを学習して除去したり、人/端末による音質の差異を吸収するなどの難しさがあります。BONXにおける発話区間検出は、まずトランシーバーにて前方マイク(口側)の音を強調する処理を行い、続いてスマートフォンにてノイズの推定・除去と発話判定を行っています。また、音声信号の処理にはリアルタイム性が求められるので、高速な実装のためにC/C++を使うとか、ハードウェア側のDSPチップを利用するなどの工夫をしています。

BONX関連の発表はいずれも資料が公開されていますので、さらに詳しく知りたい方はそちらをご参照ください。

Akerunを支える技術

代わってはAkerunのエンジニアによるトークです。こちらはお2人が登壇しました。

IoTスタートアップでのWebエンジニアの役割

発表者:齋藤孝一(フォトシンス Co-founder/Ruby on Railsチームリーダー)

IoTというとハードウェアを扱う印象が強いですが、サービスとしてリリースするにはアプリやWebなども開発する必要があります。齋藤さんからはAkerunの開発体制やアーキテクチャの紹介に加えて、WebエンジニアとしてIoTの開発に参加した印象についての話がありました。Akerunの開発プロセスはハードウェア製作からソフトウェア開発へと流れるウォーターフォール的な進行になっていますが、設計変更がしやすいのはソフトウェア、特にサーバサイドなので、複雑な処理はできるだけサーバ側に寄せています。また、こうすることでWeb開発の経験が生かせるのも強みで、継続的改善の考え方やスケーラブルなインフラ設計などが役立ちました。逆にIoTの世界に飛び込んでみて新鮮だったのは、データをビットやバイト単位で考えたり、通信量や通信プロトコルに配慮する必要があることでした。

アプリエンジニアの役割について発表する木下さん

IoTスタートアップでのアプリエンジニアの役割

発表者:木下照章(フォトシンス アプリチームリーダー)

続いて木下さんからは、アプリ開発者の視点から見たAkerunやフォトシンスの話がありました。木下さんはもともとSI事業者、つまり堅い職場で働いていたので、IoTスタートアップであるフォトシンスに参加して、事業のスピード感や非IT部署との連携がとても新鮮でした。アプリエンジニアの日常業務は、開発/機能改善/不具合対応/ユーザサポート/利用レビューの確認などです。BLE通信が安定しない、iOSとAndroidの2つのアプリが必要、開発スケジュールのしわ寄せがアプリチームに来るなどの苦労もあるものの、ハードウェアと人をつなぐIoTはとても楽しいと感じながら仕事をしています。最近はiOSアプリをObjective-CからSwift+RxSwiftに移行したり、全社でRedmineを導入するなどの取り組みも行っています。Redmineの導入については本間さんのブログにて詳しく解説されていますので、そちらをご覧ください。

Akerun × BONX × さくら トークセッション

後半は、本間さん、楢崎さん、当社の山口亮介(IoT事業推進室 室長)の3人によるトークセッションを行いました。休憩中にビールなどの飲物をお配りし、登壇者/参加者とも軽く飲みながらのトークとなりました。セッションはいくつかのお題を用意し、それに3人がコメントする形式で進行しました。

IoTならではの楽しさ/難しさ

「各レイヤーで協力してプロダクトが動くのが楽しい。辛いのはイニシャル開発コストが高いこと」(本間さん)、
「手に触れられるモノがあるのがうれしい。難しいのは障害の切り分けや再現性」(楢崎さん)、
「設計した物が納品されるはずなのに予定通り来ないことが普通にある」(山口)
というように、楽しさも難しさも物理的なモノを扱うことに起因するコメントが並びました。このあたりはIoTに関わる人達の共通見解のようで、登壇者同士もお互いの回答に「共感しかない」と言っていました。

開発中のボードを手にトークする山口

どんな技術/チームで製品を作っているか

チケイとフォトシンスはハードウェアとソフトウェアでチーム分けしているのに対し、当社はまだα版の開発中のせいか非常に少人数で作業している様子が報告されました。「何人ぐらい欲しい?」という質問には各社とも「現実的には10人は欲しい」という回答でした。

また、生産を日本で行うか中国で行うかという議論もありました。中国での生産は安いですが、やってほしいことが伝わらないという問題があります。チケイでは日中両方に通じている人が仲介役を務めています。逆に日本での生産はコスト的にどうなの?という質問に、本間さんは「イニシャルの製造台数が少なければなんとかなる。工場への旅費が少なくて済むのもメリット」と回答しました。

IoTあるある話

続いては、プロトタイプから最終製品までの進化の様子が各社ごとに紹介されたのですが、それよりも開発の過程で遭遇したトラブルの話で盛り上がりました。特にハードウェア関連の問題はどこも経験しているようで、例えばどうしてもうまく動かず四苦八苦していたチップについてメーカーに問い合わせると秘伝のノウハウを伝授されていきなり動き出したとか、ある時期に生産されたチップだけに特有の問題があり、それを購入した人達同士で飲み会を開いて情報交換したなどのエピソードが紹介されました。

IoT企業がWeb系ベンチャーと違う部分は?

「Webは2次元だけどIoTは3次元。五感に訴えることができるのもIoTの魅力」(楢崎さん)、
「物理世界に影響を及ぼすことができるのがIoTの醍醐味」(本間さん)、
「問題に対してソフトウェアだけでなくハードウェアで解決することもできるので、対処方法が広がる」(山口)
というように、やはりIoTはモノを扱うという点が一番の違いと考えているようです。もっともそれは楽しいことばかりではなく、「IoTは最初に物を買わないといけないので初期投資が大きい」「しかも買った物が使えるとは限らず、ゴミになる可能性すらある」というようにリスクもあります。

それでも最後に一言を求められた3人からは、
「モノが好きな人はぜひIoTの世界へ」(本間さん)、
「IoTはおもしろい世界だし今のビッグウェーブに乗るしかない」(楢崎さん)、
「さくらのIoT Platformで簡単にデータを上げられる世界を提供したい」(山口)
というように、IoTに大きな魅力を感じているコメントが寄せられました。

おわりに

トークセッションを終えた後は懇親会。軽食やビールに加えて運営メンバーの自主提供による日本酒も振る舞われ、エンジニア同士ならではのテクニカルな歓談があちらこちらで繰り広げられました。

今回、初めてのイベントということもあり、関心を持ってくださる方がどれぐらいいるか不安でしたが、運営側の予想以上に多くの方にお集まりいただき、うれしく思っています。ご参加いただいた皆さん、ありがとうございました。このイベントはできれば定期開催したいという意向を持っていますので、引き続きご注目いただければ幸いです。

それではまた、次のイベントでお会いしましょう!

登壇者と運営メンバー。
お疲れさまでした!