沖縄の暑い夜をコミュニティの力でさらに熱く!「第32回さくらの夕べ in 沖縄」レポート

7月6日(水)の夜に、沖縄県那覇市にあるてんぶす那覇にて「第32回さくらの夕べ in 沖縄」を行いました。さくらの夕べの開始から5年、ようやく「北は北海道から南は九州・沖縄まで各地で開催しています」と言える日が来ました。

当日は台風1号の接近が懸念されましたがが、幸いにも沖縄本島まで来ることはなく、無事にイベントを開催することができました。同時期に沖縄県内で全国規模のITイベントがいくつか行われていたこともあり、沖縄県内だけでなく県外からもたくさんの方にご参加いただきました。ありがとうございました。

それでは、イベントの模様をお届けします。ごゆっくりお楽しみください!

おかげさまで満員に!たくさんのご来場ありがとうございます!

いま明かされる閉域網サービスの裏側

最初の発表は、さくらインターネット研究所に所属する大久保が担当しました。大久保はJANOGInteropなどネットワーク管理系のコミュニティ/イベントでは登壇者の常連なのですが、さくらの夕べでの発表はなぜかこれまで一度もなく(パネリストでの参加実績はあり)、今回が初登壇となりました。今回の演題は「さくらインターネットの『閉域網サービス』の裏側」で、当社のいくつかのサービスでバックボーンに使われている閉域網(インターネットからの到達性のないネットワーク)について、それがどんな技術を使って作られているかをご紹介しました。

閉域網サービスについて紹介する大久保(写真提供:常盤木龍治さん)

閉域網サービスができたわけ

はじめにこのようなサービスが出てきた背景として、最近は複数のクラウド事業者、CDN、オンプレミスを組み合わせてシステムを作るケースが増えていること、その中でデータのやり取りをインターネット経由で行うとセキュリティ面での不安があるため、インターネットからの到達性のない閉域網を利用していることを挙げました。

当社のサービスで閉域網を利用するものとしては、さくらのクラウド・さくらの専用サーバ・ハウジングなどのサービス間を接続する「ハイブリッド接続」、お客様の拠点と当社の閉域網を接続する「プライベートリンク」、学術系の情報ネットワークであるSINETと接続する「SINET接続サービス」などがあります。また、「さくらのIoT Platform」でも、センサーからのデータをアップロードする際の通信路に閉域網を利用しています。

ハイブリッド接続やプライベートリンクの仕組み

続いて、閉域網サービスの裏側を、ハイブリッド接続やプライベートリンクを例に説明しました。まずハイブリッド接続については、もともと各サービスごとに独立してVLAN IDが発行されているため、ハイブリッド接続用の内部VLAN IDを発行し、これを用いてVLAN IDの変換やVXLANトンネリングを行うことによりサービス間の接続を実現しています。実装に際しては、実用的な性能を出すための機器のチューニングに苦労したとのことです。

プライベートリンクの方は、東京のデータセンター(KDDI大手町、エクイニクスTY4)にて、当社ハイブリッド接続網と外部ネットワークを接続しています。仕組みとしては実績を重視してMPLSベースのIP-VPNを採用しています。異なる事業者間でのIP-VPN接続には3つの方式がありますが、当社ではユーザごとにVLANを設定しBGPで接続するOption-Aと、1本のBGP接続上にMPLSラベルの付いたパケットを流すOption-Bの2種類を使用しています。

最後に大久保は、閉域網と言っても孤立したネットワークではなく、さまざまなネットワークが接続できるオープンなプラットフォームを目指していきたいとコメントしました。講演内容をより詳しく知りたい方は、発表資料が公開されていますのでご参照ください。

2016.7.6 さくらの夕べ@沖縄 さくらインターネットの「閉域網サービス」の裏側 from Shuichi Ohkubo

沖縄のコミュニティ活動家が語る成功の秘訣

続いては、地元・沖縄からレキサスの常盤木さんが登壇され、「東京から沖縄に移住したからこそわかるクラウドとコミュニティの有り難み〜人はもっと自由になれる」というタイトルでご発表いただきました。

沖縄でもさかんなコミュニティ活動

はじめに常盤木さんの自己紹介やレキサスの紹介があった後、常盤木さんが沖縄で取り組んで来られたコミュニティ活動をいくつか紹介されました。例えば、沖縄県内でクラウドに関わる人々のコミュニティ形成を目指した「クラウドチャンプルー」、kintoneの勉強コミュニティである「kintone Café 沖縄」、SAPのデータウェアハウスHANAに関する勉強会「HANA Innovation Day OKINAWA」、クラウドに関する中立なカンファレンスをやりたいという想いで開催した「レキサスクラウドカンファレンス」などです。結果として、エンジニア系からスーツ系までさまざまなコミュニティの運営を経験しました。

沖縄でのコミュニティ活動について発表する常盤木さん(写真提供:常盤木龍治さん)

やってみたわかったこと

こうしてコミュニティの運営をしていく中で常盤木さんが感じたことがいくつかあります。

  • 沖縄県内の人は内地から講師を呼ぶのは難しいと考えているが、実は講師側は理由をつけて沖縄に来たがっているので、交渉次第で講師は集められる。
  • 何回かやっていると継続することが目標になりがちだが、それよりも開催目的の方が大切。目的によっては単発のイベントでもよい。
  • 人脈が足りないとか、運営をどう回していけばよいかわからないという相談を受けることがあるが、自分1人で抱え込まないことが大切。この点については、沖縄は頼り合う文化があるので、そこは強みである。

また、コミュニティ運営を成功させる秘訣として、いくつかのポイントを示されました。

  • 目的を明確にする
    より具体的には、誰を対象に、何のために、何をするのか、などです。対象者に関しては、大別してスーツ族・Tシャツ族・両方ぐらいでもよいでしょう。技術系のコミュニティに関しては、勉強会を開く目的が明確になりやすいので、他のジャンルのコミュニティに比べれば運営しやすいとのことです。
  • 内輪に閉じない
    コミュニティを継続していく中でメンバーが固定化すると共通の話題が増えるため、新人が入ってきてもついていけないというケースが見られます。こういう展開を防ぐために内輪に閉じないことは重要です。特に新人に対してベテランの方から声をかける姿勢が必要です。
  • 定期的な振り返りや破壊
    イベントの後などに反省会を行い、コンテンツや運営体制などを振り返ることが大切です。そしてマンネリを防止するためにはコアメンバーを定期的に入れ替えるのがおすすめです。
  • 主体意識を持って参加する
    最後に、各自が「自分がやっている」という意識を持って参加することが重要であると力説されました。中には情熱が空回りするタイプの人や、コミュニケーションが苦手なタイプの人もいますが、そういう人でも受け入れられるのがコミュニティの良さです。

そして最後に、これからは自ら進んで外の世界(コミュニティ)という自由を手に入れることにより、ユーザ企業がベンダーと対等に渡り合えるようになり、エンジニアも組織に依存せずに本人の実力で主役になれる時代を作りたいという話をされました。常盤木さんの発表資料もご本人の手により公開されています。ぜひご参照ください。

東京から沖縄に移住したからこそわかるクラウドとコミュニティの有り難み 〜人はもっと自由になれる〜 from 龍治 常盤木

ただいま絶賛開発中!さくらのIoT Platformの裏側見せます

3本目の発表は、「さくらのIoT Platform」の開発責任者を務める江草から、サービスの概要や内部実装をご紹介いたしました。

さくらのIoT Platformが目指すもの

IoTと呼ばれているものを分類すると、実用的なサービスを提供するもの(垂直統合型)、サービスを作るための汎用的な基盤を提供するもの(水平統合型)、サービスや基盤を構成する部品を提供するもの(要素技術)に分けられます。さくらのIoT Platformはこのうち水平統合型の基盤を提供するものです。従来のIoTプラットフォームは、デバイスがインターネットにつながっていることが前提になっていますが、実は難しいのはデバイスをネットワークにつないでデータを送信することや、その際の安全性確保です。当社はこの点に着目し、送信手段や安全な通信経路も一緒に提供することで、モジュールをデバイスに組み込めば電源を入れるだけで使えるようになるものを目指しています。

実際にさくらのIoT Platformで提供するものとしては、携帯回線から閉域網への通信を提供する通信モジュール、モジュール・データ・他のサービスとの連携などを管理するコントロールパネル、データを取り扱うAPIなどがあります。持参した通信モジュールを使って簡単なデモもご覧いただきました。

通信モジュールを手に取りながら説明する江草(写真提供:常盤木龍治さん)

どうやって作ったの?

続いては「さくらのIoT Platform」を支える技術のご紹介です。まず通信モジュールは、ハードウェアとしてはCerevo製の3G/LTEモデムとエイビット製のARMマイコンで構成されています。ソフトウェアは、OSやTCP/IPスタックは既存のもの(FreeRTOS,LwIP)を使用し、その上でHTTPやMQTTによる通信を行う処理は独自に実装しています。また、通信モジュールにはファームウェアの死活チェックやバージョン確認を行う機能が備わっていて、更新の指示が来たら新しいファームウェアを取得して自身を書き換えることで更新が可能です。

一方、データセンター側には、ロードバランサ、DNS、データベース、RabbitMQによるメッセージキューイング、たくさんのアプリを並列で動かすためのDockerクラスタ、BGPルータなどが必要ですが、これらをすべてさくらのクラウドで実装しています。特にDockerクラスタの構築と管理においては、Mesos, Marathon, Ansibleといったツールを使うことで、設定の自動化、稼働させるDockerコンテナの調整、アプリのデプロイや切り替えの自動化を実現しています。

私たちは"T"を知らなすぎる

この後は利用例の紹介に移りました。社内でもポットの湯量・給湯時間の測定システムや温湿度計などを製作し、展示会などでご覧いただいておりますが、もっと事例を増やすべく、さまざまな地域で取り組みを行っています。

例えば福井県ではIchigoJamを使ってイノシシをつかまえるオリを製作するプロジェクトが進行中ですが、イノシシは子供が減ると親が妊娠する性質があるため、親だけを捕獲する必要があります。そこで、オリに入ったイノシシのサイズを検知し、子供がつかまった場合は解放する仕組みをIoTを使って実装しようとしています。同様の試みとして、沖縄県でもマングースを駆除するためのオリの制御(つかまった動物の判定や解放など)にIoTを活用しています。

これらとは全く別の取り組みとして、熊本県天草市で行われる「天草Xアスロン」という競技会への協力を行っています。種目の1つにパラグライダーがあり、目標地点の通過や到達の精度を競うのですが、従来は競技者自身が持ち込んだGPSのログで判定していたため、フォーマットの違いやデータの破損などの問題がありました。ここでIoT通信モジュールを使ってデータ送信を自動化すれば楽になるだろうと思い作業を始めたのですが、携帯回線による通信を空中で行うと電波法違反になるため(飛行機の機内で携帯電話が使えないのと同じです)、別の方法を模索しているところです。

江草は、これらの取り組みを通して感じたことを「私たちは"T"を知らなすぎる」と表現しました。TというのはInternet of ThingsのT、つまり「モノ」のことです。さくらのIoT Platformは2016年9月にβ版、さらに2016年度内に正式版をリリースすべく鋭意開発中ですが、このプラットフォームを使えるものにしていくには、もっといろいろなモノを接続するという組み込み側へのアプローチと、吸い上げたデータの扱いを容易にする使いやすいAPIを提供するというアプリケーションへのアプローチの両方が必要であると述べました。

江草の発表資料も公開されていますので、ぜひご覧ください。

さくらのIoT Platform αの裏側すべて見せます(第32回さくらの夕べ in 沖縄) from さくらインターネット株式会社

おわりに

イベントの最後に2本ほど、当社社員からの告知がありました。タイトルと登壇者を紹介いたします。

そしてイベント終了後は、近くのお店で懇親会を行いました。こちらにも多くの方が参加され、地元の方と県外の方、そして当社ユーザの皆様と社員が交流する良い機会となりました。

こうした交流の中から、次のイベントや新たなコラボレーションのきっかけが生まれることが多々あります。当社がまだイベントで訪れていない土地もたくさんあります。少しずつではありますが、ユーザの皆様とつながりを持ち、これからもさくらインターネットに親しんでもらえるように努めていきます。

自身の著書「インフラエンジニアになるための教科書」を紹介する寺尾(写真提供:常盤木龍治さん)

次回予告

いつもは「それではまた、次のイベントでお会いしましょう!」で締めるのですが、実は次回レポートする予定のイベントがすでに決まっていますので、見どころ紹介を兼ねて予告します。

第33回さくらの夕べ in 松江

  • 日時:7月27日(水) 19:00-20:30 (終了後に懇親会)
  • 場所:松江オープンソースラボ
  • プログラム
    • 「そういえば、さくらと出会ったのって、確か2年前のオープンソースカンファレンスだったよね。あれからいろいろあったけど、今では君のいない日々なんて想像できないよ。」
      システムアトリエ ブルーオメガ 代表/しまねソフト研究開発センター 専門研究員 きむら しのぶ 様
      島根県農協電算センター 坂本 篤史 様
    • 「対談:Rubyのパパとさくらの社長」
      Rubyアソシエーション 理事長 まつもと ゆきひろ 様
      さくらインターネット 代表取締役社長 田中 邦裕
      司会:さくらインターネット コミュニティマネージャー 法林 浩之

見どころは何と言っても、Rubyの作者・まつもとさんと、当社代表・田中の対談でしょう。エンジニアなら見たいですよね?実は筆者自身が見たいという理由でお二人にお願いしました。どんな話が飛び出すかは当日のお楽しみ!ぜひご期待ください!それから、もう1件の発表をしてくださるきむらさんは、9月に予定されているオープンソースカンファレンス2016 Shimaneの実行委員長を務めている方です。当社のユーザでもいらっしゃるそうで、どんな話が聞けるか楽しみです!

イベントへの参加登録はこちらのページにて受付中です。ご都合よろしければぜひご参加ください!
https://sakura-chushikoku.doorkeeper.jp/events/47255

それでは、次回は「第33回さくらの夕べ in 松江」でお会いしましょう!