「子供向けプログラミング教室・最新事情 〜今、どんな取り組みが行われているのか〜」レポート

こんにちは、さくらインターネットの大喜多です。

2018年8月26日(日)に、日本工学院専門学校にて「Learn Languages 2018 in ODC」が開催されました。本記事ではその中から、「子供向けプログラミング教室・最新事情 〜今、どんな取り組みが行われているのか〜」というセッションの様子をレポートいたします。

Learn Languages 2018 in ODCの総合司会は、さくらのナレッジ編集長でもある法林が務めました

本セッションの司会を務めた、アスキードワンゴ編集部の鈴木嘉平さん

本セッションは「実際に子供向けプログラミング教室に携わっている登壇者の発表から、今、子供向けプログラミング教室で何が行われて、どのような状況になっているか」が共有されました。

CoderDojo

新妻正夫さん (CoderDojoひばりヶ丘主宰)

kintoneのエバンジェリストでもある新妻さん。CoderDojoの全体像にはじまり、新妻さんの主宰するCoderDojoひばりヶ丘で実際どのようにしているかのセッションがありました。

CoderDojoは元々海外ではじまった世界的な活動で、「リラックスできて楽しいプログラミングのクラブ」「子供のためのプログラミング道場」と説明されます。CoderDojoのDojoは日本語の「道場」に由来するのだとか。CoderDojoではオープンソースの文化に非常に敬意を払っており、「オープンソースの活動をローカルなクラブに展開していったらいいのではないか」という考えで行われている取り組みとのことです。世界中の各地域に多くのDojoが存在しますが、それぞれのDojoは独立して運営されており、おこなっていることも違うのだとか。日本のCoderDojoは2018年8月現在で150以上あるそうです。

新妻さんが主宰しているCoderDojoひばりヶ丘は日本で2番目に設立されたCoderDojoで、月2回開催を基本として活動しており、8月で130回を超えたそうです。Scratchを扱うことが多いですが、Raspberry PiMinecraftなどに取り組む子供もいるとのことです。一方的に教えない。わからないことがあれば(付き添っている親御さんたちも)一緒になって考える。できれば自分で答えを出せる機会を与える。という方針で運営されているとのことです。

Scratchは、ブロックを組み合わせてプログラミングができるWebサイトで、ワールドワイドで3000万のユーザー(日本は31万ユーザー)がいるサービスです。作品を作るとともに、作品を共有するGitHub的な機能も持っており、全世界からLikeやViewなどのリアクションがあり、それが子供たちのモチベーションになっているとのことです。

新妻さんの作品「ねこたいほう」のデモンストレーションでは、マイクで周囲の声量を拾って一定数を超えるとねこのキャラクターが大砲から打ち出されるという作品で、デモでは「ハードコーディングしているトリガーの値(声量)が小さすぎてすぐ飛んでしまった。しかしこうやって失敗してどうすればいいのか考えることがまた楽しく学びになる」と解説されていました。


プログラミング教育必修化については、プログラミングそのものも大事としながら「6年間CoderDojoひばりヶ丘をやってきて、やってみる、挑戦してみる。自発的に課題を決める。仮説をたてて検証するプロセスが大事だと思うようになってきた」と語られていました。

KidsVenture

高橋隆行 (さくらインターネット株式会社執行役員、KidsVenture創設者)

さくらインターネットの営業を統括する執行役員である高橋がなぜKidsVentureを立ち上げるに至ったのか、というところから話ははじまりました。偶然IchigoJamというボード型コンピュータに出会った高橋は「非常に手軽にプログラミングができる、開発や実行が1台で完結すること、テレビと100円ショップにある部材を集めれば簡単に動かせる、電子工作でモーター制御などもできる」といったところに感銘を受け、IchigoJamの開発元である株式会社jig.jpの福野社長(当時)と意気投合し、KidsVentureの設立に至ったとのことでした。

設立したものの最初は試行錯誤で、第1回では電子工作(Lチカ)を取り扱ったものの地味で子供たちの食いつきが悪く、第2回は自動車の制御をテーマにしたものの2日間という長い日程で子供たちの集中力が続かず、3回目にゲームを取り扱ったところ「子供たちはゲーム大好きで食いつきが良かった。なので最初は必ずゲームを扱うようにしている」ということで、そのカリキュラムは試行錯誤の末に生み出されたものとのことです。

KidsVentureのテーマは「きっかけ作り」。最近はさくらインターネットの事業所がある拠点(大阪・東京・札幌・福岡)を離れて他の地方での出張開催を多く行っており、フィリピンやルワンダなどの海外でも開催しているとのことです(ルワンダはかつて内戦で荒廃した国でしたが、今はプログラミング教育に非常に力を入れている国として知られています)。

「きっかけを与えることに注力する。非営利だからこそきっかけの少ないところにきっかけを作っていく。きっかけを作ったらその地域の組織に継承していく」と語る高橋は、KidsVentureを運営していく中で「子供たち意外とできるぞ、子供たちすごいぞと。子供たちから我々大人が学ぶことが大きかった」と語りました。また、運営メンバーも20代の若者を中心に据え、彼らの成長にもつながる活動になっているとのことです。

秋葉原プログラミング教室

福岡俊弘さん (株式会社UEIエデュケーションズ 代表取締役社長)

週刊アスキーの編集長を長く務められていた、デジタルハリウッド大学で教鞭を執ってもおられる福岡さん。株式会社UEIの教育事業を手がけるグループ会社の代表として「秋葉原プログラミング教室」を運営されています。秋葉原プログラミング教室には「ベーシックコース(子供向け)」と「AIプログラミングコース(社会人向け)」の2つのコースが用意されているのが特徴です。教材は公文式を参考にしたプリント型になっており、子供の進捗に合わせて取り組めるような工夫がなされているとのことです。

MOONBlockを使ったビジュアルプログラミングに始まり、enchant.jsというゲーム作成用JavaScriptフレームワークを使ってゲームを作成するようなカリキュラムになっているとのことです。カリキュラムには小学校では習わない要素も多く出てくるそうですが、後からわかればよいということで取り入れているとのことです。

「なぜ月が地球に落ちてこないのか」という命題をJavaScriptでプログラミングして証明するものや、大きな素数を出力するカリキュラムなど、数理的要素が多く含まれているのが特徴的に感じました。「なぜ月が地球に落ちてこないのか」というものは、UEIエデュケーションズの清水会長が小学生の頃にプログラミングで証明して先生に見せて大変褒められたという原体験に基づいているのだそうです。

高等学校での「情報Ⅰ」必修化を控え、大学受験にプログラミングの問題が出題されるようになるかもしれないといった状況の中、世間のプログラミング教育に対しての注目が増してきていることを感じておられるとのこと。

秋葉原プログラミング教室では、フランチャイズ化によって地方にも広げていこうという計画があったそうですが、「教える人がいない、十分な教材がない」という問題があり、現在はそれに対応するべく、「教える人を育てる」「教える人が使える教材を作る」ことにも注力していくとのことでした。

質疑応答

※以下、回答者敬称略

CoderDojoの運営費はどのように賄っているのですか?

新妻:いくつかのケースがありますが、基本寄付です。CoderDojoひばりヶ丘では自社のオフィスを会場に使っていることで会場費が抑制できています。そのほかでは公民館を借りるというケースもあります。

こどもが何歳からどのようなプログラムが書けるようになるかなど実感はございますか?

新妻:ループとか繰り返しという概念は比較的早く理解しているようですが、「繰り返し」という言葉に結びつくまでに時間がかかっているように感じます。言語能力が後から追いついてくるようです。
高橋:我々は(繰り返しという考え方がわかるのは)小学3年生からだとおもっています。よく双六に例えて説明していますが、最近の子供は双六を知らないことも多く……(一同笑)
福岡:秋葉原プログラミング教室は写経派で、最初はわからなくてもいいからやってもらっているが、だんだんやっていることの中身を理解していく子もいれば、ずっと写経をやっている子もおり、まちまちです。

プログラミング教育と英語教育のバランスをどのようにとったらよいと考えておられますか?

新妻:Scratchは全世界に公開されていることもあり、説明を英語で書いた方が良いといったところがあります。また感想が英語でつくこともあります。そうやって自然に英語に触れていくようになっています。
高橋:我々が使っているBASICというプログラミング言語は英単語でできているので、どっちが先かというよりも、一緒にやりながら覚えていくことが大事だと思っています。また、子供たちは楽しいとどんどん積極的に取り組んでいきますので、両方楽しんで覚えていく雰囲気作りが必要だと思います。
福岡:英語教育とプログラミング教育は目的が異なり、プログラミング教育は「計画する力」「イマジネーションを創発する」のが目的で、そこで作ったものを世界に伝えたいと思えば英語が必要になってくるので、どちらも重要な教育だと思っています。

子供たちがどのくらい集中力をもって取り組めるか、感じておられる点はございますか?

新妻:集中力は個人差があります。長くても1時間くらいだと感じていますが、ずっと取り組んでいて帰ってくれない子もいます(一同笑)。
高橋:個人差は相当あります。我々は電子工作からやるのでそこで飽きてしまう子もいます。しかしものづくりが好きでゲームが好きな子であれば、休憩をはさみながら4時間くらいはいけると感じています。
福岡:秋葉原プログラミング教室では9分間メソッド(子供が集中できるのは9分間)という考え方があります。実感としても大体10分くらいだなと感じています。また、プログラムの動作に音を加えるなどすることで子供にスイッチが入り、集中力が増すことがあります。

まとめ

「子供たちが楽しいと感じる」ことが、重要なポイントなのではないかと思いました。集中して帰ってくれない子や、どんどん積極的に取り組んでいく子など、そのスイッチを入れるためにいろいろな工夫がなされており、それらも試行錯誤の中から生まれてきているのだと感じました。今後もこれらの取り組みに注目していきたいと思います!