はじめての「ヤマハ vRX さくらのクラウド版」(1)はじめる前に
2024年10月17日 に「ヤマハ」と「さくらインターネット」から「さくらのクラウド版 vRX」が報道発表されました。お試しいただけておりますでしょうか? まだこれからという方に向けて、ヤマハ 仮想ルーター vRXの連載をスタートいたします。
この連載では、ヤマハ 仮想ルーター vRXをさくらのクラウドで検証する環境を構築いたします。「ヤマハ vRX さくらのクラウド版」がどのように動作するのかや検証費用について説明する予定です。皆さんも検証環境を作って、いろいろ試してみてください。
第1回は、前提となる知識と、さくらのクラウドを利用するための準備を説明いたします。
報道発表資料
さくらインターネットがヤマハの仮想ルーター『さくらのクラウド版vRX』を2024年10月24日より提供開始 |
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https://www.yamaha.com/ja/news_release/2024/24101701/ |
https://www.sakura.ad.jp/corporate/information/newsreleases/2024/10/17/1968215097/ |
Webニュース
- ASCII.JP
- 2019/10/25: クラウドエンジニアが語るヤマハの仮想ルーター「vRX」への期待感 - 週刊アスキー
- 2024/10/18: ASCII.jp:国産コラボが熱い!「さくらのクラウド」にヤマハの仮想ルーターが追加
- クラウドWatch
- ビジネスネットワーク
目次
前提知識(1):ヤマハネットワーク機器とは?
ヤマハが作るネットワーク機器って何もの?
ヤマハといえば、ピアノや楽器です。学校などで、リコーダー、鍵盤ハーモニカ、音楽の授業(音楽室)で製品に触れたことがあるかもしれません。時々「バイクだよね」と言われることもありますね。それは、楽器事業から派生したバイク事業が子会社化されたヤマハ発動機です。そして、ロゴが楽器風からバイク風にアレンジされています。
1995年: ヤマハネットワーク機器の誕生
- ヤマハは半導体メーカーの通信事業の位置づけで、世界初の「デジタルFAXモデムLSI」を開発して、PCへのFAXモデム機能搭載、FAXの小型化、家庭用FAX市場登場に貢献してきました。その次に「ISDN LSI」を製品化して、その需要開拓にも取り組んできました。たとえば、NTT技術史料館に保存されている「FDトランスファー(フロッピーディスク転送装置)」などです。
- ISDN LSI(ISDN回線)の需要開発の一環で、楽器のヤマハから1995年3月にISDN回線に対応した「リモートルーター RT100i」が発売されました。
- 当時は、一般向けにインターネットが利用可能になり、技術者や研究者が仕事でもプライベートでもインターネットにつなぎ始めたころでした。「64Kbpsまたは128Kbpsの高速なISDN回線(INSネット64など)を利用してインターネットにつなぎたい」という技術者の夢をかなえる国産技術による製品でした。
1997年: ISDNからブロードバンドへの備え
- シーズ(1):1997年、高速化とバックアップに対応するRT140シリーズ発売
- 高速回線が選べたり、回線を束ねたり、障害発生時にバックアップ経路を用意したりするために、複数のWAN回線に対応できるモデル展開が始まりました。そのなかに、複数のLANインターフェースを搭載するモデルがラインナップされていました。元々はローカルルーター用途でしたが、ちょうどCATVインターネットが始まって、WAN回線に適用するための機能開発をスタートしていました。
- RT140i(1997/10):LAN×1,ISDN BRI×2
- RT140p(1998/5):LAN×1、ISDN BRI×2、ISDN PRI×1
- RT140e(1998/5):LAN×2、ISDN BRI×1
- RT140f(1999/2):LAN×2、ISDN BRI×2
- 高速回線が選べたり、回線を束ねたり、障害発生時にバックアップ経路を用意したりするために、複数のWAN回線に対応できるモデル展開が始まりました。そのなかに、複数のLANインターフェースを搭載するモデルがラインナップされていました。元々はローカルルーター用途でしたが、ちょうどCATVインターネットが始まって、WAN回線に適用するための機能開発をスタートしていました。
- シーズ(2):1998年、セキュリティーゲートウェイ機能リリース(Rev.3系)
- セキュリティーゲートウェイ機能とは、IPsec技術(リリース当初はdraft仕様)によってインターネットVPNを構築する機能です。
- 当初は、OCNエコノミーなどの常時接続サービスを活用したインターネットVPNが活発に構築されるようになりました。
- シーズ(3):1999年、NATディスクリプタ機能リリース(Rev.4系)
- ISDN回線専用だったNAT機能をイーサネットに適用して、イーサネットがWAN回線として利用できるようになりました。
- ニーズ(1):2000年、ISDN回線からADSL回線へ
- 回線の高速化が求められISDN回線からADSL回線への乗り換えニーズが高まりました。
- ADSLモデム搭載ではなく、光ファイバー回線などに汎用的に対応できるイーサネット搭載モデルにフォーカスしていきました。
- 振り返ると、ADSLなど回線専用モデルであったら短命に終わっていたところでしたが、イーサネットに絞り込むことで長く使える(長く愛される)製品になっていきました。
- ニーズ(2):ADSL回線や広域イーサネットの障害対応
- 急速に拡大したADSL回線や広域イーサネットは、障害に対して脆弱でした。ニーズとして落ちないISDN回線の併用が求められる時代になりました。
- RT140シリーズの高速性とバックアップ機能に着目したブロードバンド回線導入が拡大していきます。
2002年: 満を持してイーサアクセスVPNルーター『RTX1000』発売
- RT140シリーズの実績をベースに、小型、高速、低消費電力(低故障率)、安価、バックアップ機能の充実を実現しました。この製品が法人向け小型ルーターのデファクトスタンダードになりました。
2011年: スイッチングハブ(SWX2200シリーズ)や無線LANアクセスポイント(WLX302)に展開開始
- ミッションを「拠点間接続」から「端末とサービスをつなぐ」にシフトします。これに応じて、テーマも「WANの障害対応(バックアップソリューション)」から「LANの障害対応(ビジュアライズソリューション)」へと移っていきました。
2016年: 「サービス」は「オンプレミス」から「クラウド」へ
- 2002年にリリースしたネットボランチDNSサービスは、データセンター(ホスティング)からクラウドへ移行しました。
- 2016年、ネットワーク統合管理サービス「Yamaha Network Organizer」が発売されました。
- 2019年、ヤマハ 仮想ルーター 『vRX』 AWS版 が発売されました。ヤマハルーター初のクラウド化です。
- 2024年、ヤマハ 仮想ルーター 『vRX』 さくらのクラウド版 が発売されました。「国産クラウド + 国産仮想ルーター」の組み合わせが実現しました。
2024年: INSネット「ディジタル通信モード」のサービス終了
- 2000年頃にブロードバンドが登場し、ISDNはすぐになくなると言われていました。実際にはそれから20年以上も継続提供されてきましたが、2024年にINSネットのサービスが終了しました。
- 基幹システムや金融業界などの通信回線として信頼性と安定性から長く重宝されてきたISDN回線がなくなり、新たな通信回線を構築する必要性に迫られたため、「2024年問題」と言われました。
- ISDN回線の新しい需要開拓として始まったヤマハのルーター(RTシリーズ)は、ISDN回線がなくなった今でも「RTXシリーズ」として利用され続けています。
30年かけて、ここまで来ました! 次はどこへ行くのでしょうかね?
関連リンク
前提知識(2):ヤマハ仮想ルーター vRX さくらのクラウド版
物理ルーターと仮想ルーターの違いを簡単にピックアップしてみると、環境に依存する周辺のものはかなり違います。その代わり、動作するソフトウェアはほぼ同じです。
物理ルーター RTX830 | 仮想ルーター vRX | |
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プラットフォーム | 筐体 | 仮想マシン |
設定方法 | コンソールポート (RJ-45シリアル、USB) | 仮想ディスプレイ |
イーサネット | LANポート WANポート | 仮想NIC |
内部メモリー | 内部メモリー | 仮想ディスク |
外部メモリー | microSDカード USBメモリー | 仮想ディスク ファイルサーバー |
周辺ネットワーク機器 | スイッチングハブ サーバー | 仮想スイッチ 仮想サーバー |
設定方法 | Web GUI CUI(CLI) | CUI(CLI) |
利用するための費用 | 通信回線の利用料 製品の購入費用 | 仮想マシンの利用料 vRXのライセンス費用 |
設定操作例
下記の画像は、さくらのクラウドのコントロールパネルでvRXの「コンソール」を指定し、初期状態から初めてログインしたところです。
関連リンク
さくらインターネットの公開情報 |
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さくらのクラウド 製品ページ |
→ ヤマハ vRX さくらのクラウド版 製品ページ |
さくらのマニュアル |
→ さくらのクラウド |
→ → さくらのクラウド版 vRX (マーケットプレイス>マーケットプレイスとは>さくらのクラウド版vRX) |
ヤマハの公開情報 |
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ヤマハ ネットワーク機器 製品ページ |
→ ヤマハ vRX 製品情報 |
→ ヤマハ RTX830 製品情報 |
ヤマハネットワーク製品 技術情報ページ |
→ ヤマハ vRX ユーザーガイド |
→ ヤマハ vRX コマンドリファレンス(vRX/RTX3510/RTX1300/RTX1220/RTX830/RTX1210など) |
前提知識(3):さくらのクラウド
さくらのクラウドは、さくらインターネットが2011年から提供している、サーバーやネットワークなどを仮想環境で提供する国産クラウドサービス(IaaS)です。さくらのクラウドは、「(1) 構築スピードと料金体系、(2) 信頼のクラウド基盤、(3) 高い操作性と充実の機能」で選ばれています。
さくらのクラウドの製品には、次のようなものがあります。目的や用途に合わせてお選びください。この連載に関係ありそうなものを赤枠で囲っています。
さくらのクラウドには「VPCルータ」があります。サードパーティー製ルーターとどう違うのでしょうか? 表にまとめましたので、目的や用途に合わせてお選びください。
VPCルータ | サードパーティー製ルーター(仮想ルーター vRX) | |
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提供元 | クラウド事業者 | ネットワーク機器ベンダー(ヤマハ) |
搭載機能 | 少ない(必須機能への絞り込み) | 多い |
物理ルーターとのVPN接続 | 相互接続情報はあるが、互換性が保証されるとは限らない | 同一ベンダーとの相互接続は保証されることが多い |
設定手段 | クラウドの管理コンソール(Web GUIが多い) | ベンダー独自の管理コンソール(CUI/CLIが多い) |
細部の設定調整 | 不得意 | 得意 |
利用するための費用 | VPCルーターの利用料 | 仮想マシンの利用料 仮想ルーターのライセンス費用 |
サードパーティー製ルーター(仮想ルーター vRX)は、物理ルーターとVPN接続したり、使い慣れた管理ツールや環境、操作性、管理性が必要になったりしたときに選ばれるようです。
関連リンク
さくらインターネットの公開情報 |
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さくらのクラウド 製品ページ |
→ さくらのクラウドを選ぶ理由 |
→ VPCルータ |
→ さくらのクラウド版 vRX 製品ページ |
さくらのマニュアル |
→ さくらのクラウド |
→ → VPCルータ |
→ → さくらのクラウド版 vRX |
環境準備:さくらインターネットの会員IDとクラウドアカウントの作成
ヤマハ仮想ルーター vRX さくらのクラウド版を利用するにあたり、さくらインターネットの会員IDの作成、さくらのクラウドのアカウントの作成、クレジットカードの登録が必要です。
- 会員IDを作成する
- ひとつの会員IDでさくらインターネットのすべてのサービスを管理することができます。
- マニュアル
- アカウントを作成する
- ここでいう「アカウント」は、さくらのクラウドのリソース作業空間です。
- マニュアル
- クレジットカードを登録する
- クラウド利用料のお支払いに関する設定です。
- マニュアル
- お支払いに関するサポート情報
会員IDを作成する
利用を始めるために会員IDを作成します。
- 「さくらのマニュアル」:「さくらのクラウド」-「さくらインターネットの会員IDの取得」
- 準備するもの
- 登録するメールアドレス
- 電話番号認証のための電話番号(スマートフォンなど)
1. Webブラウザーで、さくらのクラウドのサービスサイトを開きます。
2. ページ右上の「アカウント作成」をクリックします。
3. 「さくらインターネット会員登録」画面で、「メールアドレス」を入力して「同意して認証コードを送信」をクリックします。
- 「さくらインターネット会員登録」画面では、上部に6ステップの会員登録手順のガイドラインが表示されています。
- さくらインターネット会員に登録済みでしたら、「会員IDをお持ちの方はログイン」からログインして次の「アカウント作成」に進んでください。
4. 会員登録が完了し、「会員ID」を取得したら、次の「アカウント作成」に進みます。
アカウントを作成する
会員IDを作成したら、リソースの作業空間である「アカウント」を作成します。
- 「さくらのマニュアル」:「さくらのクラウド」-「ユーザ・アカウント機能」
- 準備するもの
- アカウントの名前
- アカウントのコード
- アカウントのパスワード
- 支払い方法のクレジットカード登録
1. Webブラウザーで、さくらのクラウドのサービスサイトを開きます。
2. ページ右上の「コントロールパネル」をクリックします。
3. 「ログイン」画面の左側にある「さくらインターネット会員としてログイン」のフォームを使用します。こちらに、「さくらインターネット会員」の会員IDとパスワードを入力して、青い「ログイン」ボタンをクリックしてください。(会員IDが未登録の方はページ右下にある「新規会員登録」から登録してください)
4. ログインに成功すると、「さくらのクラウド ホーム」画面に遷移します。ここで左側メニューの「アカウント」をクリックします。なおページの右上隅には会員ID、アカウント作成済みの場合は現在選択中のアカウントがページ左上に表示されます(赤い点線の枠で囲っている部分がそれです)。
5. さくらのクラウドの「サービス」画面で、「+アカウントの作成」をクリックします。
6. さくらのクラウドの「サービス」画面に表示される「約款」や「個人情報の取り扱い」の内容を確認し、同意できたら、チェックボックスにチェック(✅)を入れます。チェックを入れると、名前、アカウントコード、パスワード、パスワード(再入力)の項目が表示されます。
7. アカウント作成画面が表示されます。作成するアカウント情報を記入して「作成」ボタンをクリックします。
8. 「アカウントの作成」の「確認」画面が出ますので、「作成」ボタンをクリックします。
9. 「ユーザーのアクセス制限」設定の画面が表示されるので、アクセス制限を設定して保存します。作成済みのアカウントがあれば、既存のアカウントからのアクセスも制限することができます。
クレジットカードを登録する
さくらのクラウドのご利用にはクレジットカードによるお支払いが必須です。「さくらのサポート情報」や「さくらのマニュアル」を参考にクレジットカードを登録します。
- 「さくらのサポート情報」:「料金のお支払いに関する確認・変更」-「クレジットカード番号を登録・変更したい 」
- 「さくらのマニュアル」:「さくらのクラウド」-「クレジットカード登録」
- 用意するもの
- 支払いに利用するクレジットカード
- さくらのクラウドのホーム画面で「さくらのクラウド(IaaS)」をクリックして「クレジットカードエラー」が表示された場合は、「クレジットカード登録」ボタンをクリックしてクレジットカードを登録してください。
1. 「さくらの会員メニュー」画面の左側メニューの「会員登録情報の確認・変更」にある「クレジットカード」をクリックします。
2. 「クレジットカード情報」画面で「+新しいクレジットカードを登録」をクリックします。
3. 「クレジットカード情報の新規登録」画面でクレジットカード情報を登録します。
詳しくは「クレジットカード番号を登録・変更したい」をご確認ください。
関連リンク
さくらのマニュアル の公開情報 |
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さくらのマニュアル |
→ さくらのクラウド |
→ → さくらインターネットの会員IDの取得 |
→ → ユーザ・アカウント機能 |
→ → クレジットカード登録 |
さくらのサポート情報 |
→ 料金のお支払いに関する確認・変更 |
→ → クレジットカード番号を登録・変更したい |
検証経費
第1回で準備した会員IDの作成などには、費用はかかりません。
項目 | 経費 |
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会員IDの作成 | 費用は発生しません。 |
アカウントの作成 | 費用は発生しません。 |
クレジットカードの登録 | 登録だけなら費用は発生しません。 |
連載一覧
連載回数番号 | リンク |
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第1回 (本記事) | はじめる前に |
第2回 | インストールと状態確認 |
第3回 | 入出力を観測 |
第4回 | インストール状態確認 |
第5回 | インターネットアクセスする設定 |
第6回 | SSHでリモート管理する設定 |
第7回 | 内部LANの構築 |
第8回 | VPCとvRXの比較 |
第9回 | VPN接続の準備 |
第10回 | 物理ルーターとVPN接続 |
※画面キャプチャーなどは2024年12月時点のものです。