世界中で使われているECプラットフォーム"Magento(マジェント)"をご存知ですか?

日本国内で「オープンソースのECサイト構築ソフトウエア」といえば、多分殆どの方は「EC-CUBE」とお答えになるでしょう。実際それくらい知名度はあると思います。
これに対して、日本国外で同じ質問をすると、色々な回答が返ってきます。例えば、

などがメジャーどころではないかと思います。
(大半がPHPでできているあたりが面白いですが)

もちろんその他にもBigCommerceShopifyといったSaaS型のプラットフォームもよく使われていますが、そのなかでもMagentoとWoo Commerceのシェアは突出しています。下記の円グラフはAlexa TOP100,000サイトの使用ソフトウエアの統計をグラフにしたものですが、MagentoとWoo Commerceだけで約4割のシェアを占めています。

この連載では、日本の方にMagentoをご紹介し、その魅力をお伝えできればと思っています。

Magentoってなんだろう?

さて、今回はMagentoについてご存じない方向けに、Magentoの概要についてご説明したいと思います。

開発元について

Magentoはアメリカ・ロサンゼルスに本拠を構える、Magento Inc.が開発しているECサイト構築用のオープンソースソフトウエアです。2007年の開発開始当初はVarienという社名で、後にMagentoに社名変更。さらに2011年にeBayに買収され、最終的に2015年に投資ファンド・Permiraの支援を受けて再独立しました。この間、Magentoを利用して構築されたサイトの数は25万サイトを超え、10万人以上の開発者が様々な形でMagentoに関わるようになっていきました。Magentoは元々、OsCommerceやZenCartの導入・カスタマイズを手がけていた会社が設計・開発したこともあり、Magento1系の初期バージョンにはOsCommerceからの移行機能が標準搭載されていました。そのため、OsCommerceやZenCartから移行したサイトが相当数あったと聞いています。

Magento社のオフィシャルサイト(https://magento.com/

実は複数あるMagento

一般的にMagentoと呼ばれているものは、実は「Magento Community Edition」という製品です。オープンソースプロジェクトとして、Githubで公開されていて、誰でも無料で利用することができます。Community Edition以外にもMagentoには高機能版の「Magento Enterprise Edition」や「Magento Enterprise Cloud Edition」という商用版が存在します。相応のライセンス費がかかりますが、より多くの機能と大規模サイト向けの調整が加えられています。

Magentoって何がいいの?

Magentoの良いところはたくさんあるのですが、今回は2つの視点から取り上げてみたいと思います。

ビジネスオーナーの視点

MagentoをベースにしてECサイトを構築すると、次のようなことができるようになります。

  • 多言語・多通貨サイトの構築
  • マルチサイト運用の実現
  • すぐ始められる越境EC
  • 既成の拡張機能(エクステンション)を使用した、外部サービスとの連携
  • (英語が堪能な方限定)オフショアを活用しやすい

多言語・多通貨サイトの構築は、海外製のECサイト構築ソフトでは比較的当たり前のように実装されています。アメリカではスペイン語が英語に次ぐ地位にありますし、日本以上に複雑な税制や法制度があります。ヨーロッパには歴史的な理由により、様々な言語・習慣・制度があります。こういった様々な要求に対応したサイトを作るという意味では、主に北米やヨーロッパで評価されている製品を選ぶ必要があります。なかでもMagentoは小規模から大規模サイトまで幅広いサイトで利用されており、ビジネスの立ち上げをスムーズに行える強みがあります。また、Magentoは中国や東南アジア、インド、東欧を拠点とする開発企業がオフショアビジネスの商材として利用しています。英語が堪能な方であれば、こういった国々の企業・フリーランスにオフショア開発を依頼することで、開発費を抑えることができるでしょう。

開発者の視点

私自身が開発者のため、開発者の視点もご紹介しましょう。Magentoもオープンソースプロジェクトとして公開されていることから、他のオープンソースと同じようなメリットがあります。例えば、

  • 自分の考え方とは違う設計・実装に触れることができる
  • 英語に恐怖心がなくなる(私も最近多少マシになりました)
  • 自分の書いたコードを公開して、フィードバックを受けることができる
  • 日本以外の国のプロジェクトに参加できるチャンスがある
  • 他の国の開発者と知り合いになるチャンスがある

といったところでしょうか。人によってはもっと他のメリットがあるかもしれません。
少なくとも私は9年間Magentoに携わり続けた結果、2016年からMagento Master:MakerをMagento公式から拝命することができました。
(ちなみに今のところアジア圏では私一人です)

私とMagentoとの出会い

私がMagentoというソフトウエアを知ったのは、2007年の9月7日。Moongiftに掲載された記事を見たのが最初です。この当時のMagentoは開発中のベータ版で、今よりもずっと遅い・不安定なソフトウエアでした。ただ、後ほどご説明するような機能は最初からすでに備えられていて、「このソフトは一大ブームを起こすのではないか?」という直感的な印象があったことを今でも覚えています。もしMagentoに関わることがなければ、私はこうして記事を書くこともなかったかもしれません。オープンソースというものはそういった可能性を開発者にもたらしてくれるものだ、と私は認識しています。

Magentoって日本だと流行ってないよね?

私はMagentoがベータ版の頃から触っているので、その当時と比較すると「随分流行ってきた」と思っています。2008〜2011年頃まではMagentoの日本での知名度は大変低く、オープンソースカンファレンスや色々な勉強会などで周知活動をしていましたが、現在よりも「それって何?」という反応だったことをよく覚えています。ただその後、国内市場の縮小に伴う越境ECの流行などを受け、外資系企業を中心に導入が増えるようになり、弊社・ベリテワークスで開発・配布しているMagento1系用の日本語ロケールや日本語化エクステンションの累計配布件数は3,000件を軽く超えるようになりました。GitHubでも公開しているため、正確な数字を把握することは非常に難しいのですが、日本国内でも相当数のサイトがMagentoで構築・運用されていると思います。
また、最近ではMagento2系にメインストリームが移ってきていることもあり、Magento2系用のエクステンションの配布件数が急速に増えています。
このような状況を考えると、Magentoは日本国内でもある程度の知名度を獲得したのではないかなと私は感じています。とはいえ、北米やヨーロッパ市場のそれと比べるとまだまだマイナーな地位にあることは事実で、もっと布教活動が必要だなと思う次第です。

Magentoを支えているのはコミュニティ

Magentoが世界的に利用されている背景に、コミュニティの力があります。前述の通り、10万人以上の開発者がMagentoには様々な形で関わっているほか、エクステンションやサービスを提供する企業も非常に多く存在します。毎年4〜5月にラスベガスで開催されている年次カンファレンス「Imagine Conference」では、日本円で10万円以上という高額な参加費にも関わらず、世界中から2,000人以上の参加者と、数十社の出展企業が一同に会します。
その他にも、日本では弊社・ベリテワークスが主催を務めている「Meet Magento」と「Magento Meetup」をはじめ、「MageTitans」「Nomad Mage」といったコミュニティ主導のイベントが数多く催されています。
(これらのイベント情報は、毎週月曜日にMagentoの公式フォーラム上で公開される、「Magento Monday Digest」をみるとわかります)

日本でももっと流行らせたい

日本国内では、現状年1回開催の「Meet Magento」と毎月開催の「Magento Meetup」だけですが、さらなる活性化のための企画も進行中なので、決まり次第お知らせしたいと思っています。もちろん、コミュニティは誰でも参加できるものなので、イベントをやりたい・自分の経験やノウハウを共有したいという方は大歓迎です。

今後のMagentoについて

本記事の執筆時点でのMagentoの最新版は2.1.5です。概ね1年に1回のペースで新しいメジャーバージョンがリリースされているほか、不定期にマイナーバージョンアップが行われています。2017年中には2.2系がリリースされる予定で、さらなる熟成と機能拡張が行われると思われます。また、サードパーティによるエクステンションやテーマ開発はMagento2系の安定度向上に伴ってますます活発化していきます。様々なサービスやシステムと安価に連携できるようになるだけでなく、優れたデザインの高品質なテーマが提供されるようになるでしょう。

各バージョンのメンテナンス期限

Magentoの各バージョンには明確にメンテナンス期限が設けられています。

Magento1系のメンテナンス期限

Magento1系は2018年11月までメンテナンスされる予定になっています。最初の正式バージョンが公開されたのが2008年の3月末であることを考えると、約10年間利用されてきたことになります。既にこの告知は2015年の段階で公表されています。そのためMagento側がこの期限を延長することはおそらくありません。PHP5系の最終版であるPHP5.6のサポートもほぼ同じ時期に終了することを考えると、もうそろそろMagento1系で新規サイトを構築するのはやめたほうが良いでしょう。
(むしろ既存サイトは移行を本気で考えないと危険な時期に入ってきています)

セキュリティパッチは必ず適用!

昨今ではMagento1系を狙った攻撃やマルウェアが流行しており、IPAやクレジットカードブランドから注意喚起がなされています。ECサイトは個人情報やクレジットカード情報などを取り扱うという性質があるため、アプリケーションの安全性を維持し続けることは最優先で取り組むべき課題であると思います。Magento1系でサイトを運営されている方は、公式から提供されているセキュリティパッチを確実に適用するように心がける必要があります。

Magento2系のメンテナンス期限

Magento2系の各バージョンは、初回のリリースから2年間ずつメンテナンスされる予定になっています。
(意外と知らない方が多いので、良い機会ですからお知らせします)

そのため、下記のタイミングでメンテナンスが打ち切られていきます。

  • 2.0.x → 2017年11月
  • 2.1.x → 2018年6月
  • 2.2.x → 2019年?月

短いとお考えになられる方もおられると思いますが、これらはMagentoが定めている適切なカスタマイズにそっている限りにおいては、比較的追従しやすいように作られています。反対に言えば、正しいカスタマイズをしている限りにおいてはさほど心配しなくてよいとも言えるわけです。では、「正しいカスタマイズ」とは何だろうか?となるとこれが意外に難しいものですこの連載では、Magentoの正しいカスタマイズ方法や運用方法などを解説できればと思っています。