さくらのナレッジ編集部の法林です。

2020年6月1日(月)に「さくらの夕べオンライン 新型コロナウイルス対策ナイト」を開催しました。新型コロナウイルスの影響により、IT企業もワークスタイルやビジネスのやり方などに急激な変化が起きています。今回のイベントでは、新型コロナウイルスに対するIT企業各社の取り組みをご紹介し、あわせて参加者の方々から質問をいただいてのディスカッションを行いました。イベントの模様をお伝えします。

新型コロナウイルスに対する各社の取り組み

イベントの前半は、さくらインターネット、日本IBM、ラックの3社に、それぞれの取り組みをうかがいました。

リモートワーク前提企業への転換:さくらインターネット

さくらインターネットからは、執行役員ならびにエバンジェリストである横田真俊が発表しました。

当社の取り組みは「従業員」「社会」「お客様」の3つの視点に分けられます。従業員に対する取り組みでは、まず基本スタンスとして「在宅勤務を含むリモートワークを、さくらインターネットの働き方の風土の前提とする」方針への転換を掲げたこと、それを実施できた背景に「さぶりこ」をはじめとする労働環境や制度の整備があったことを挙げました。具体的な施策としては、オフィス勤務の制限、Zoomなどを用いたオンラインミーティングの徹底、電話窓口の休止などがあります。しかしデータセンターは物理的な作業があり無人では運用できないので、衛生面に配慮しつつ入館を継続しています。

次に社会への取り組みとして、新型コロナ情報まとめサイト向けのサーバ提供や、Folding@home(タンパク質の分析を行う分散コンピューティングプロジェクト)へのインフラ提供といった活動を紹介しました。最後にお客様に対する取り組みとして、Tellusオンライン講座の無料提供、法人向けテレワーク推進支援プログラムを紹介しました。Tellusオンライン講座は6月末(予定)まで無料で受講できますので、興味のある方はこの機会にどうぞ。

状況適応からNew Normalへ:日本IBM

続いては、日本IBMにてデベロッパーアドボケイトを務める戸倉彩さんが発表しました。

IBMでは、新型コロナウイルスの拡大に伴う変化を時間の経過に応じて「混乱」「慣れ・状況適応」「New Normal」の3段階に分け、各段階ごとにテーマを決めて取り組みを推進しています(下図参照)。本イベントの開催時点では「慣れ・状況適応」の段階にあります。

具体的な対応方針は「勤務形態」「本人および周囲が感染した場合」「出張」「イベント/会議」の4項目について定めてあり、例えば勤務については必要最小限の社員のみ出社する体制を7月まで継続する予定です。また、対外的な取り組みとしては、研究支援コンソーシアムの設立や、迅速なリモートワーク導入のソリューション提供などを行っています。

さらに、2018年から実施しているCall for Codeグローバルチャレンジ(差し迫る社会問題をコードで解決しようというコンテスト)において、2020年のテーマに新型コロナウイルスが急きょ追加されました。ただいま応募受付中です(7/31締切)。グローバル最優秀チームには20万ドルの賞金が出ます。

最後に「コロナ対策エンジニア」コミュニティの紹介がありました。業種や職種の壁を越えて集まった参加者が情報共有・発信・トレーニングを行っており、それを通して自らのスキル向上や社会貢献を目指しています。

詳しく知りたい方は、戸倉さんにより公開されている資料や、日本IBMのウェブサイトにおける「新型コロナウイルス対策へのIBMの取り組み」というコーナーをご覧ください。

24時間365日対応拠点の在宅勤務化:ラック

各社の取り組みの最後に、ラックの内田さんが発表しました。ラックではJSOC(Japan Security Operation Center)という24時間365日体制のセキュリティ監視拠点を運用していますが、こちらの新型コロナウイルス対策が主な内容です。ちなみにJSOCのメンバーは総勢200名以上おり、24時間対応ということでシフト制で勤務しています。

JSOCの対応としては、3月27日から全運用業務を対象に在宅勤務を開始し、これを顧客に案内しました。そして、その後もこの体制を維持しつつサービスを継続しています。実際にどこまで在宅での業務に切り替えられたかという報告もあり、4月1日の時点では5割強だったのが、5月下旬には80%以上にまで伸ばすことができました。現在も出社して対応している業務としては、顧客のデバイス管理(機器のアップデートなど)や電話対応などがあります。

在宅勤務への切り替えに際しては、リモートデスクトップなどの用途にTeamViewerを導入しました。導入理由は、約200名が同時接続できるVPN装置を用意するよりも早期に導入できる、RDPより軽い、コピー&ペースト禁止などのセキュリティ対策ができる、などです。特にJSOCのメンバーは大量のログ監視などを行うためにプログラマブルなマウスを使用して超高速な操作を行っており、RDPでは画面切り替えが追いつかないとのことです。また、JSOCから顧客に電話する業務にはAmazon Connectを導入しました。これを使うと複数人から同じ電話番号で発信できるので、カスタマーサポートに使用する電話番号を一本化できます。6月以降は自宅以外の場所でのリモートワークもできるように検討中で、そのために覗き見防止ブロッカーを導入予定とのことです。

ディスカッション

後半は質疑応答を中心とするディスカッションを行いました。その中からいくつかを紹介します。

ーーリモートワークを進める上で、従来は想定していなかった悩みや課題はありましたか?

横田:自宅の椅子が仕事をするのに合っていないという人が多かったですね。会社の椅子は結構いいのを使ってるんですが、みんな知らなかったようです(笑)。
内田:JSOCのメンバーは横長の大きなモニターを使っているんですが、在宅勤務でノートPCだと作業効率が大きく落ちるという声が多かったです。たまたまモニターの買い替えの時期だったので、希望者には払い下げて自宅用に提供しました。
戸倉:オフィスでは気軽にできていた雑談がなくなり、情報共有の機会が失われました。エンジニアには雑談は重要だったんだなと気づかされました。対策として定期的に「雑談タイム」というミーティングを設定しています。

JSOCのオフィス。ディスプレイを横に2台並べて作業する姿が見える(出典:https://www.lac.co.jp/service/operation/)

ーー在宅勤務で個人の回線を使う場合、情報漏えいなどのセキュリティ対策はしていますか?

内田:まず、社員は持ち出し専用PCを使用し、そこには情報を保存しないようにします。通信回線は暗号化されており、さらにコピペやファイル転送の禁止、二段階認証の利用といったことも行っています。TeamViewerは動作が比較的軽く、iPhoneのテザリングでも業務できているようです。
戸倉:通常の業務もセキュアな環境でやっていたので、今回のために特別に何かしたというのはないですね。ただ、在宅勤務特有のセキュリティ問題としては、私がPCを使っているところを子供が見に来るのでショルダーハッキングの危険性があるんです(笑)。対策として出社時と同様に画面をロックしたり指紋認証を使ったりしてます。
横田:弊社も普段から対策はしているんですが、今回の事態でVPNの利用が急増して設備を圧迫するおそれが出てきたので、VPNをできるだけ減らして、ゼロトラストに準拠した仕組みに切り替えようとしています。

ーーテレワーク体制を始めるにあたっては、セキュリティ問題、機材問題、費用問題の3つの壁があり、導入に踏み切れない企業も多いように思いますが、敏速な対応ができた秘訣はありますか?

横田:以前からテレワークの準備ができていたことが大きかったと思います。それから、役員層のマインドが一番の壁でしょうね。上層部がやると言えば導入は早く進むでしょう。
内田:ISMSを制定している会社は多いと思いますが、今回のような事態はISMSのルールに記載してないケースが多く、そこも障壁になると思います。弊社は私が責任者だったので速攻で改定しました。それから、機材問題が意外に大変でした。社員に持ち出しPCを提供しようにも、この事態のせいかレンタル業者に在庫がないんですよ。社内の余剰PCをかき集めて初期化してなんとか対応しました。
戸倉:テレワークも含めて、これからDX(デジタルトランスフォーメーション)が加速するだろうと思っています。これから導入したい会社はまずロードマップを作って、できるところからやっていくのがよいでしょう。IBMのウェブサイトにも事例などの情報をたくさん載せているので、ぜひ見てください。

ーー来たるべきNew Normalの世界はどんなものになると思いますか?

横田:20年前ぐらいに「コンピュータが発達するとこういう社会になる」というような漫画を見た覚えがあるんですが、その通りの世界になりつつあるような気がします。ITの力をもう少しうまく使った働き方が実現できるのではないかと考えています。
戸倉:IBMでは、New Normalに関して4つのキーワードを掲げています。顧客との関係強化、コスト削減、省人化の加速、リスク態勢の強化です。特に顧客との関係強化については、デジタルを活用したリレーションシップの構築が重要になると見ています。省人化の加速というのは、要するに自動化できるところはしていくということですね。クラウドネイティブのような流れもその1つです。
内田:ここ数か月、在宅勤務してみて、クラウドにアクセスすればほとんどの仕事が回るので、出社する必要がなくなってきています。つまり、エンドポイントとクラウドで業務が完結して、働く場所を選ばなくてよくなりつつあるということです。これに慣れてしまうと、以前の形にはたぶん戻れないんじゃないですかね。もしかしたらこれがNew Normalなのかも?と思ったりしてます。

おわりに

新型コロナウイルスの影響で、IT業界のみならず、社会全体が大きな変革の時を迎えています。今回登壇した各社の取り組みからは、コロナウイルスを単なる制約や障壁とだけとらえるのではなく、それを前提条件とした上で新しい何か(ツールや仕組みなど)を生み出そうという、前向きな姿勢が感じられました。こうして作り出されたものたちが、これからのNew Normalの世界を形成していくのだろうと思いました。

そして、New Normalに向けての動きは、ITイベントについても例外ではありません。さくらの夕べは2011年の開始以来、基本的にずっと会場で開催してきましたが、本イベントの1週間前に実施した「さくらの夕べ Tech Night #1 Online」、そして本イベントと、ようやくオンラインイベントの開催にこぎつけることができました。当日もたくさんの方にご覧いただき感謝しています。映像アーカイブも残っていますので、発表やディスカッションの模様をより詳しく知りたい方は、そちらをご覧ください。



また、これからも継続的にオンラインイベントを開催していく予定です。以下のコミュニティ/グループのいずれかで告知する可能性が高いので、よろしければ登録をお願いします。

それではまた、次回のイベントでお会いしましょう!