Rubyのパパとさくらの社長の対談が実現!「第33回さくらの夕べ in 松江」レポート

7月27日(水)に、島根県松江市にある松江オープンソースラボにて「第33回さくらの夕べ in 松江」を行いました。さくらの夕べとしては山陰地方のみならず中国地方での初開催です。今回もおかげさまで満席となるほどのご来場をいただきました。本当にありがとうございます!

それではイベントの模様をお伝えします。ごゆっくりお楽しみください!

会場の様子。たくさんのご来場ありがとうございます!

島根のOSSコミュニティを支える男がさくらの夕べに参戦!

最初にご発表いただいたのは、システムアトリエ ブルーオメガ代表のきむらしのぶさんと、島根県農協(JA島根)電算センターの坂本篤史さんです。きむらさんはオープンソースカンファレンス(OSC)島根の実行委員長を8年も務めている方で、島根のOSSコミュニティを支える男と言ってもよいでしょう。そんなきむらさんからいただいた演題は「そういえば、さくらと出会ったのって、確か2年前のオープンソースカンファレンスだったよね。あれからいろいろあったけど、今では君のいない日々なんて想像できないよ。」。タイトルそのままに、当社サービスをどのように使っているかを存分にお話しいただきました。

OSC島根でさくらと出会いユーザに

きむらさんがさくらインターネットと出会ったのは2014年のOSC島根で、当社の展示ブースにてさくらのクラウドの2万円分無料チケットを手にしたところからお付き合いが始まりました。そのチケットは他の人にあげてしまい、ご自身はさくらのVPSを契約しましたが、使ってみると自宅にサーバを置くよりもずっと楽に運用できるため、使い続けたいと思うようになりました。

その後、独立して個人事業主となったきむらさんは、ご自身の事務所であるブルーオメガのWebサイトをさくらのレンタルサーバで製作しました。一番安いライトプランでもRubyやSQLiteが使えることが選択の決め手になりました。しかし、ライトプランでRubyからSQLiteを使うには細工が必要とのことです。詳細はきむらさんが書かれたQiitaの記事をご覧ください。

当社サービスを題材に軽快なトークを展開するきむらさん

農協でもさくらを使っている!

続いて発表した坂本さんは、きむらさんがかつてJA島根で働いていたときの後輩です。今回ご紹介いただいた「JAしまねATMマップ」は、文字通りJA島根のATMを地図上にマッピングし、現在地がわかる場合はそこからの距離も表示されるというものです。

このシステムはApache, MySQL, PHPを用いて開発しましたが、その基盤となるサーバはきむらさんの助言によりさくらのVPSを選定しました。スペックと価格のバランス、対応OSの多さが選定の理由です。実際に使ってみた感想としては、使えるようになるまでのスピード、価格、セキュリティなどのサポート面で良さを感じているとのことです。農協という堅い組織ゆえ、クラウドを使うことに抵抗も示されましたが、そこは「きむらさんの話術でなんとかした」(坂本さん)そうです。

JAしまねATMマップを紹介する坂本さん。外部での発表は初めてだったとか。

きむらさん&坂本さんの発表内容をより詳しく知りたい方は、映像を公開していますのでご覧ください。

お待ちかね!「対談:Rubyのパパとさくらの社長」

続いてのプログラムは「対談:Rubyのパパとさくらの社長」。Rubyの作者・まつもとゆきひろさんをお招きし、当社代表・田中邦裕との対談をお届けしました。お二人の自己紹介に続いて、司会を務める筆者からお題を提示し、お二人に答えていただく形で進行しました。

対談に臨む登壇者。スクリーン左側に田中(左)、まつもとさん。
スクリーン右側は筆者。

最近のRubyとさくら

まずは近況報告ということで、「最近のRuby」「最近のさくら」というお題でお話しいただきました。まつもとさんからはRubyの近況として、昨年のクリスマスに2.3をリリースし現在は2.4を開発中、2.4の新機能の紹介、Ruby3の開発も始めていて東京オリンピックまでには出したい、Ruby3はRuby2よりも3倍速くするのが目標、組み込み向けのmrubyの紹介などがありました。一方、田中の方は「変化がないと面白くない」ということで社内の変化を中心に紹介しました。例えば、昨年1月以降に入った社員が全体の1/3、在籍3年以内の社員が過半数を占めること、役員も大幅に入れ替わり、25歳の執行役員が誕生したことなどです。

近況を報告するまつもとさんと田中

こんなところでEmacs vs Vimが勃発!?

続いて「プログラミングの楽しさ」についてうかがいました。お二人から共通して出てきたのは、プログラムが動いたときの感動や達成感という言葉です。「コンピュータに仕事をさせているのは自分なので、『ほんとにすごいのは僕なんじゃないか?』的な感覚になる」(まつもとさん)そうです。

また、プログラミングに欠かせないのがエディタですが、それに関するネタとして、今年の4月に刊行された「Vim & Emacsエキスパート活用術」という書籍を紹介しました。この本はお二人がそろってコラムを寄稿しているのですが、そのタイトルが「男は黙ってVim!」(田中)「もしEmacsがなかったら?」(まつもとさん)ということで、ここでまさかのEmacs対Vimが実現!というほどの論争にはなりませんでしたが、まつもとさんからはEmacsのソースコードを読んで勉強したのがRubyの実装に生かされたこと、田中からはviが使いにくいのでエディタを作っていたが、それをviで開発しているうちにviの操作に熟練してしまった、などのエピソードが披露されました。

和やかなEmacs vs Vim論争

Rubyの開発にみるサーバの使い方

次はサーバの話をしました。まつもとさんによると、Rubyの開発を始めた頃(1990年代前半)は自宅にLinuxのPC、職場にSunOSのマシンがあり、当時はまだネットが普及していなかったのでソースコードをフロッピーディスクに入れて持ち運んでいました。ソースコード管理にサーバを使うようになったのはCVSを導入してからで、数年後にSubversionに移行し現在に至ります。サーバ本体も当初はネットワーク応用通信研究所のサーバ室にありましたが、やがてクラウドに移行しました。

Rubyのソースコードは今でもSubversionのリポジトリがメインで、GitHubはそのミラーという位置付けです。Rubyコミッターの間ではメインのリポジトリをGitやGitHubに移行する話題が時々出ますが、チケット管理システム(Redmineを使用)との連携の仕組みなどを独自に実装しているため、簡単には移せないそうです。これについては田中からも「さくらの社内でもソースコード管理については同様の議論がある」というコメントがあり、使い込まれたシステムの置き換えは容易ではないことを感じさせました。

東京以外の土地で活動するメリット

ここで話題を少し方向転換して、お二人の働き方に迫ってみました。まつもとさんは松江で働いていますし、田中も大阪の会社の代表ということで、「本拠地を東京以外に置く」という共通点があります。その経緯や居住地と仕事に対する考えをうかがってみたのですが、「東京以外の土地でやっていて良かったことは?」という質問への回答が共通していたので紹介します。

「松江は人口が少ないので、東京で1番になるよりは楽です。東京で働いていても都知事には会えなかったと思いますが、松江だったので市長や県知事にも会えました。結果的に自分の希少性を高めることになりました」(まつもとさん)

「一部上場企業で大阪が本社の会社は少なくなっています。そのため、こちらも市長が会ってくれたり、うちの役員が市長と一緒にサンフランシスコ市長を表敬訪問したりしています。プレゼンスを上げやすいのは間違いないですね」(田中)

また、「今後、ITの力で、東京以外で働くことが一般化すると思いますか?」という質問に対してまつもとさんは「仕事は自分に合ったものが1つあればいいのですが、ほとんどの人は『仕事が多かったら自分にも回ってくるだろう』という判断に陥りがちで、そのため他のことを我慢してでも仕事の多い土地、つまり東京で働こうとします。しかし、それは自分の希少性を下げることになるので得策ではありません。そのあたりの先入観を取り去れば結構なんとかなります」と答えました。一方、田中からは「地方でもITの仕事はできますが、雇用者側が地方の生活水準に合わせて給与を下げているようではダメです。仕事に応じた正当な給与を払う企業がもっと出てこないと状況は改善しないでしょう」という、経営者らしいコメントがありました。

松江で活動するメリットは多いと語るまつもとさん

プロジェクトを20年続けるには

筆者からの最後のお題として「プロジェクトを20年続けること」についてお聞きしました。Rubyは1993年の開発開始から23年が経過しており、当社も田中が創業してから今年で20年を迎えます。プロジェクトを長く続けるコツみたいなものをお聞きしたのですが、「苦労して続けた感覚はないですね。特に2001年ぐらいからはRubyの開発が専業になり、それまで他の仕事の合間を縫ってRubyの開発をしていたのに比べれば時間もできました」(まつもとさん)「インターネットとサーバが好きだから続けられました。インターネットはもはや文化だと思っていて、開放的なところが好きですね」(田中さん)。お二人の答えに共通するのは、自分の好きなことを仕事にするという実にシンプルな考えでした。

最後に衝撃の質問が!

こんな感じで話を進めるうちにあっという間に時間となり、最後に参加者からの質問をお受けしたのですが、質問したのは最初のプログラムで発表したきむらさん。

「さくらのレンタルサーバのライトプランを使っていますが、Rubyのバージョンが1.8なのはなんとかなりませんか?」

まつもとさんから話があったようにRubyの最新版が2.3であることを考えると1.8というのはかなり古いバージョンで、例えばRuby on Railsが動かないなどの問題があります。当社のエンジニアも徐々にRubyユーザが増えており、最近β版が公開されたArukasのようにRailsで作られたサービスも出てきていますが、サーバエンジニアとソフトウェアエンジニアの溝はやはり深いようです。田中も以前から懸案と考えていたようで、要望を開発陣に伝えるという回答に加えて「今日がRubyをちゃんとサポートするための変化の契機になればいい」とコメントしました。

最後の質疑応答まで笑いの絶えない対談でした

その後、お二人から「オープンソースとインターネットは相互に依存した関係にあるので、今後も共存していきたいですね」(まつもとさん)「当社はサーバ会社と思われていますが、実際にはサーバはソフトウェアで動いています。サーバエンジニアとソフトウェアエンジニアの融合を目指していきたいです」(田中)というメッセージをいただいて対談を終了しました。こちらの映像も公開していますので、ぜひご覧ください。

おわりに

こうしてイベントは終了し、その後は松江駅前のお店で懇親会を行いました。登壇者や地元の方々はもちろんのこと、東京から帰省ついでに参加された方、近県で取材があったので立ち寄ってくださったマスコミの方など、さまざまな方が参加してくださいました。皆さんありがとうございました。

そして最後に、きむらさんが実行委員長を務めるOSC島根のご紹介です。今年も9月24日(土)に松江テルサにて開催されます。今回は基調講演にTRONの提唱者である坂村健先生をお迎えします。当社も展示とセミナーで参加することが決まりました!これからも松江を、島根を、そして各地域を盛り上げるべく、がんばっていきます!

それではまた、次のイベントでお会いしましょう!

懇親会にて歓談する登壇者と参加者の皆さん。ありがとうございました!