さくらの学校支援プロジェクトを振り返る【第1回】石狩市へのプログラミング教育支援が始まるまで
はじめに
さくらインターネット株式会社(社長室)の朝倉と申します。幼稚園教諭からキャリアをスタートし、IT業界の様々な仕事を経てさくらインターネットに入社。現在は私が生まれ育った北海道石狩市で働いています。教育者としての経験を活かし、小学校プログラミング教育支援のプロジェクトを2016年2月に立ち上げ、シニアプロデューサーとして推進しました。
2021年1月14日(木)に、さくらインターネット社員に向けた「さくらの学校支援プロジェクト成果発表会」をオンラインで実施しました。2017年2月からスタートした4年にわたるプロジェクト活動は、小学校におけるプログラミング教育の実施によって節目を迎え、成果発表会でその成果を確認しました。
この連載では、「さくらの学校支援プロジェクトを振り返る」と題し、さくらの学校支援プロジェクトの活動や、その中で得た学校支援のノウハウについて、プロジェクト活動の取り組みの経緯や、「こどもプログラミング通信」の記事を振り返りながら6回にわたってまとめていきたいと思います。
これらの情報が、公教育のプログラミング教育支援に協力したい企業や、実際に学校でプログラミング教育を行う先生方の手助けになれば幸いです。
第1回は、この教育支援活動が始まるまでの経緯と、準備段階のエピソードについて記していきます。
「石狩市への小学校プログラミング教育支援プロジェクト」発足
さくらインターネット社長の田中は、2016年8月に業界団体である一般社団法人コンピュータソフトウェア協会(CSAJ)のプログラミング教育委員会委員長に就任。当時必修化の検討段階だった小学校でのプログラミング教育を、業界団体として良い方向に導くための模索を始めていました。
その中で「小学校にプログラミング教育が入るに当たり、業界団体として支援できることは何か?」を検討するため、情報収集の協力をいただける自治体を探していましたが、さくらのデータセンターが立地する石狩市を候補としたい意向を固めていました。
石狩市出身で元幼稚園教諭の朝倉に田中から打診があり、2016年10月以降担当者として、プログラミング教育に関する情報収集や、石狩市や石狩市教育委員会との調整をスタート。2017年度からさくらが石狩市のプログラミング教育支援を実施する方向で調整が進みつつあった2017年2月に、CSAJプログラミング教育委員会が石狩市長を表敬訪問。教育委員会とも交流し、いよいよ本格的な活動が始まるのを前に、社内でも「石狩市への小学校プログラミング教育支援プロジェクト」が発足しました。
2016年度の石狩市教育委員会の状況
プロジェクトが活動を始めた2017年2月の段階では、まだプログラミング教育が小学校の教育課程にどのように取り入れられるのかがはっきり決まっていませんでした。
2020年度から小学校で全面実施される学習指導要領は、2017年2月14日に案が公表され、パブリックコメントの受付を開始。正式発表は2017年3月31日ですので、さくらが石狩市教育委員会にプログラミング教育支援を申し出た段階では、まだ小学校でプログラミング教育が実施されるかどうかが正式決定していない段階だったのです。
また、プログラミング教育は教科にはならないことが事前にわかっており、学習指導要領にもその具体的な取り入れ方までは示されていません。小学校では英語と道徳が2020年度から正式な教科として加わることが周知され、教育委員会でもそれに向けた研修などを既に計画している状況で、「プログラミング教育は後回し」という雰囲気がありました。
当初は、さくらで年間数回の研修会を企画することを提案したのですが、このような事情で2017年度はプログラミング教育をテーマとした研修会を計画すること自体あきらめざるを得ませんでした。
代わりに石狩市教育委員会からは、以下のような提案がありました。
- 企業による出前授業であれば学校側で判断して受け入れが可能、教育委員会からも全学校が受講するよう後押しする
- まずはプログラミング教育とは何か、情報を持たない先生方に手軽に見てもらえる情報紙を発行して配ってみてはどうか
これら提案を考慮し、無理なく先生方に情報が伝わることを優先した支援の形を検討することになりました。
2017年度の支援内容決定と、こどもプログラミング通信第1号の発行
2017年2月以降、プログラミング教育支援に向けて急ピッチで準備を進めました。出前授業に関しては、どのような環境でも取り組みやすい、ウェブサイト上で無償提供されているプログラミング教材の体験メニューを中心に、「ルビィのぼうけん」を使ったアンプラグド(※)教材を作ることにしました。
出前授業のメニューの開発と並行して、先生方が申し込む際の手順も検討し、学校向けのパンフレットにまとめました。
※アンプラグド…コンピュータを使わずプログラミングやコンピュータの概念を学ぶ手法。コンピュータを使って体験を通して学びつつ、アンプラグドの手法を取り入れることにより理解が深まるとされる。
この支援については、2月の校長会で教育委員会が頭出し、3月下旬の教育委員会の指示で校長・教頭会で直接説明させていただいて了承を得ました。
年度が明けて4月下旬、こどもプログラミング通信第1号とともに、プログラミング教育支援パンフレットを教頭会の場で配布、プログラミング教育支援がついにスタートを切りました。
こどもプログラミング通信第1号の冒頭には、プログラミング教育支援に対する理解を広げるべく、田中からのメッセージを掲載しました。
初めまして!よろしくお願いいたします。
さくらインターネットの代表をしております、田中と申します。
このたびは、石狩の地において小学校プログラミング教育支援を開始させていただけること、大変うれしく思っております。
当社では、2011年に石狩新港にデータセンターを開設し、当社の主力拠点として昨年12月には3号棟が竣工いたしました。インターネットの利用が本格化して25年、ますますITの役割は向上し、それを担う技術者の育成が急務となり、かつセキュリティなどの高度IT人材の発掘が、社会全体の課題となっています。
近い将来、今よりももっとITが前提になる社会において、普通の人たちがITを使い、ITを作るような社会になると思います。小学校におけるプログラミング教育は、職業訓練のような実践的なものでなく、まずは子供たちがITに対して興味を持ってもらい、ITを使うだけでなく、ITを作るという感覚を持つ第一歩だと思います。
小学校でのサッカーや水泳によって趣味として幅が広がる子供もいますし、中には類まれなる才能を持つ子供が発掘されて、練習に練習を重ねて世界レベルで活躍している人たちもいます。
プログラミングも同様で、子供たちが楽しみながらプログラミングにふれるなかで、将来抵抗なくITを使えるようにするだけでなく、才能のある子供を発掘して世界レベルで活躍できる人を見出していくのも重要です。
プログラミングをする、それを使って何か試してみることを、子供たちが「楽しい!もっとやってみたい!こんな風にしたい!」と気付き、感じられる授業を、先生方と共に考え、一緒に作っていきたいと思っております。
次回の連載予告
連載の第2回目では、こどもプログラミング通信第2号から11号の記事を振り返りながら、2017年度にプログラミング教育支援を模索していく様子をお伝えできたらと思います。
お楽しみに!