さくらの学校支援プロジェクトを振り返る【第4回】自走し始めたプログラミング教育と、他地域への広がり
「さくらの学校支援プロジェクトを振り返る」4回目の今回は、2019年度に発行した「こどもプログラミング通信」の記事を中心に、この年で支援3年目を迎えた石狩市のプログラミング教育が自走し始めた様子や、大阪府門真市でのプログラミング教育支援がスタートした様子を振り返っていきたいと思います。
また、北海道内のプログラミング教育支援者が集まり、情報交換や共同でのセミナー開催などを実施、ITコミュニティでのエンジニア向けの情報発信など、支援の輪を広げていくことの重要性についても感じることのできる1年でした。
第3回の記事は、こちらをご参照ください。
目次
- こどもプログラミング通信第23号(2019年3月26日発行)
- こどもプログラミング通信第24号(2019年4月22日発行)
- こどもプログラミング通信第25号(2019年5月27日発行)
- こどもプログラミング通信第26号(2019年6月24日発行)
- こどもプログラミング通信第27号(2019年7月22日発行)
- こどもプログラミング通信第28号(2019年8月26日発行)
- こどもプログラミング通信第29号(2019年9月27日発行)
- こどもプログラミング通信第30号(2019年10月24日発行)
- こどもプログラミング通信第31号(2019年11月25日発行)
- こどもプログラミング通信第32号(2019年12月25日発行)
- こどもプログラミング通信第33号(2020年1月27日発行)
- こどもプログラミング通信第34号(2020年2月26日発行)
- こどもプログラミング通信第35号(2019年3月26日発行)
- 2019年度の取り組みを振り返って
こどもプログラミング通信第23号(2019年3月26日発行)
前年度の最終となる23号で、2019年度のプログラミング教育支援メニューと、支援の受付開始についての告知を行いました。
支援メニューは2018年度と変わらないものの、教育委員会からは、支援メニューの中でも「プログラミング教育補助※」を使い、先生自身がプログラミング教育の実践を行うことを、各学校の管理職を通じて強く求めていました。
新学習指導要領の実施まで1年となったタイミングで、いよいよ支援ありきのプログラミング教育から、各学校が自走するプログラミング教育への転換が始まりました。
※先生がメインで指導をし、さくらインターネット講師が補助を行うもの
こどもプログラミング通信第24号(2019年4月22日発行)
第24号では、これまで「石狩市への小学校プログラミング教育支援プロジェクト」としてきた活動の範囲を拡張し、「さくらの学校支援プロジェクト」として名称変更をすることになった経緯や目的をお知らせしました。
また、小学校プログラミング教育の動向として、Scratch3.0ではInternetExplorerが非推奨になったという話題や、ICT CONNECT21※によるプログラミング教育フレームワークの公開についてご紹介しています。
※ICT CONNECT21は、情報通信技術を活用して教育をより良くして行こうという意思を持つさまざまなステークホルダーが集まるオープンな場を提供するとともに、格差なく誰でもいつでもどこでも生涯を通じて学べる学習環境づくりに取り組み、教育の情報化の一層の進展に寄与し、社会の発展に貢献する団体です。(ICT CONNECT21 Webサイトより)
石狩地域から北海道全域へ拡張!!
“さくらの学校支援プロジェクト”が始まります。
プロジェクトの活動範囲を拡張いたします
さくらインターネットで2017年2月に発足した「石狩市への小学校プログラミング教育支援プロジェクト」は、2年間の活動を経て、目標であった「2020年のプログラミング教育必須化までに、石狩市内の全小学校の授業で、プログラミング教育が行えるようにする」を予定通り達成できる見通しとなりました。
石狩市教育委員会による「石狩市のプログラミング教育の取組」が2019年3月に発行され、市内小学校ではガイドラインに基づいて学校ごとのカリキュラムの中に「プログラミング教育」が位置付けられ、自律的に取り組みが進んでいくことになります。
このように、目標の達成が確実になった状況を受けて、このプロジェクトの目標達成後の在り方をプロジェクトメンバーで協議した結果、新しい目的と、3つの活動範囲を軸として定め、活動を継続していくことになりました。
さくらの学校支援プロジェクトとは
- 「情報活用能力の育成」につながる授業支援をしていくため、敢えて「プログラミング教育」の言葉をプロジェクト名から省きました。
- 北海道石狩市がメインですが、北海道全体への支援も視野に入れることとしたため、プロジェクト名から自治体名を省きました。
- 小学校への支援がメインですが、中学校や高等学校とのつながり、連携も考えていく必要があるため、「小学校」もプロジェクト名から省きました。
今後も石狩市や北海道、および地域で教育に携わる団体と協議しながら、教育の支援を積極的に行って参ります。また、情報活用能力育成に対する支援や相談を受けられるようにすることや、研究や実践発表の後押しなど、石狩市および北海道への地域貢献を継続致します。今後とも、当プロジェクトをよろしくお願いいたします。
こどもプログラミング通信第25号(2019年5月27日発行)
第25号では、2020年度から利用開始となる新学習指導要領に対応した教科書についての情報を紹介しました。
また、2020年12月31日でAdobe Flashの提供とサポートが終了するのに伴い、利用できなくなるプログラミング教材についてや、情報活用能力育成のための思考ツール「パワーチェックカードII」を紹介しました。
来年度からの新教科書情報が出始めています
新学習指導要領に対応した教科書の情報
2020年度(令和二年度)から利用開始となる新学習指導要領に対応した教科書に関する情報が、文部科学省をはじめ各教科書出版社からも情報公開が始まりました。
新しくプログラミングに関する情報も提供されていますので、参考情報としてご紹介します。
教育出版 令和2年 教科書特設サイト
東京書籍 2年度用 小学校教科書のご紹介
大日本図書 令和2年版 小学校教科書のご案内
学校図書 2020年度版 教科書特設ページ(特設ページは削除済)
啓林館 2020年度用 教科書のご案内
日本文教出版 2020年度版 小学校教科書のご案内(特設ページは削除済)
教科書の中でのプログラミング教育
未来の学びコンソーシアム※では、来年度から使われる小学校の教科書の中で、プログラミングに関する部分を抽出した一覧表を作成しました。学習指導要領に例示がある、5年生の算数と、6年生の理科について、単元や題材の情報が掲載されています。
1~4年生も調査対象となっていますが、具体的な出版社名や単元については、9月に改めて公開予定です。
2020年度から使用される教科書の中のプログラミング | 未来の学びコンソーシアム
※未来の学びコンソーシアムは、2020年12月25日で業務を終了し、「小学校を中心としたプログラミング教育ポータル」については、文部科学省において、引き続き運営しています。
こどもプログラミング通信第26号(2019年6月24日発行)
第26号では、札幌で開催されたオープンソースカンファレンス北海道のレポートを掲載しました。
また、小学校プログラミング教育推進の動向として、文部科学省が公開した小学校プログラミング教育に関する研修教材や、ICT CONNECT21が公開したプログラミング教育支援ハンドブックをご紹介しました。
オープンソースカンファレンス北海道に出展しました
「プログラミング教育」とは? 今、わたしたち道民ができること
2019年5月31日(金)から6月1日(土)にかけて、札幌コンベンションセンターで、オープンソースカンファレンス 2019 Hokkaidoが開催され、さくらインターネットもプログラミング教育に関するセミナーの実施と、展示ブースでの出展を通したプログラミング教育の普及活動を行いました。
第1部では、プログラミング教育についての誤解の解消、正しい理解を促進するため、小学校におけるプログラミング教育の解説と実践例をさくらインターネット朝倉と大畠 玲 先生(石狩市立聚富小学校)が行いました。また、学校外の活動として地元で活動しているプログラミング教育関連コミュニティのご紹介を行いました。
続いての第2部では、パネルディスカッションと質疑応答を実施し、会場の参加者全体をまきこみ、理解を深める場になりました。
OSCのアンケートにお寄せいただいた声より
- CoderDojoがすごい。
- 小学生の母です。子どもがプログラミング、電子工作好きなので、お伺いしました。本人は楽しかったようです。ありがとうございました。
- TEAM IchigoJam ほっかいどうが仕組みなどで面白いと思いました。
- 初めてのOSC参加だったのですが、新しいものづくしでとても楽しかったです。自身の知識向上になりました。次回以降もぜひ参加しようと思います。
- ハード系の実物に触れたのは良かった。IT系の技術者と教育系の人で「プログラミング教育」の話が聞けたのが良かった。
- CoderDojoが恵庭市島松で開催されていることを初めて知り、大興奮でした。島松出身ですが、全く知りませんでした。OSCに来ることの意義を強く感じた年でした。
- プログラミング教育に関してや、ラズパイを使って色々な事をやってみたくなりました。すごく楽しい知識の詰まった1日をありがとうございました。
北海道のプログラミング教育関連コミュニティ
セミナーでは、以下コミュニティの代表者のかたより登壇いただきました。活動内容については、各ページをご覧ください。
こどもプログラミング通信第27号(2019年7月22日発行)
第27号では、プログラミング教育と共に聞かれるようになった「STEM(ステム)」「STEAM(スティーム)」教育や、経済産業省が実施している「未来の教室」事業について紹介しました。
小学校プログラミング教育推進の動向として、YouTube「つべこべチャンネル」や、micro:bitのMakeCodeエディタの更新を取り上げています。
STEM・STEAM教育と、みらいの教室
「STEM教育」や「STEAM教育」とは?
プログラミング教育について調べると「STEM」や「STEAM」といったキーワードを時折目にすることがないでしょうか。学校における先生方だけでなく、おそらく保護者や一般の方でも同様でしょう。
STEM(ステム)の定義は
- 科学( Science )
- 技術( Technology )
- 工学( Engineering )
- 数学( Mathematics )
これら4つの分野の頭文字を表す言葉です。これらに加えて
- 芸術( Art )
を合わせたものがSTEAM(スティーム)と呼び、各要素を組み合わせる教育スタイルや学習方式がSTEAM教育です。
STEMの概念は2000年代初等にアメリカで議論がはじまりました。いわゆるIT(情報通信技術)が進歩する一方で、これら要素を統合的に学ぶカリキュラムが学校に存在せず、また多くの一般人も継続的に学ぶ必要性が求められ続けているからです。
STEMは「21世紀の創造、変革、問題解決に必要な力」として、アメリカでは2013年に重要な国家戦略となりました。近年では、オーストラリア、カナダ、ベトナム、中国、香港でも行政機関による取り組みが進みつつあります。
STEAMはSTEM教育の中心に「芸術」と「デザイン(設計)」をおいたものです。これらは単なるプログラミング教育ではなく、社会における問題解決のために行うものであり、創造性と密接に結びつくものという考え方に基づいています。
近年の日本国内では、政策ビジョンとして「Society 5.0に向けた人材育成」が提唱されています。AI技術の発達により、私たちの生活や経済、社会そのものが変わると言われています。新たな社会を牽引する人材育成のため、文部科学省・経済産業省・総務省が様々な実証実験や事業支援に取り組んでいるのが現状です。文系・理系の垣根を無くす教育という意味でも使われています。
これらの動きによって、今すぐ授業内容や学校が変わるわけではありません。しかし動向を把握しておくことで、総合的な授業でのプログラミング教育実施だけでなく、どのような場面でプログラミングを授業に取り入れるかの参考になるものと思われます。
未来の教室 Learning Innovation
未来の教室とは経済産業省の実証事業であり、EdTech(教育にコンピュータなどの技術を取り入れること)や個別最適化、文理融合、社会課題解決をキーワードにした、新しい学習プログラムの開発・実証を2018年から進めています。実証事業は全国各地で進められています。
このプロジェクトにおける事例などの取り組みが、ポータルサイト上で公開されています。小学校の事例としては、音楽・算数・プログラミングの横断学習なども紹介されています。
STEM・STEAM参考資料
- 初等中等教育における情報教育等の推進 2019年1月、文部科学省・経済産業省・総務省
- 21世紀の教育・学習 2018年、steAm, Inc. 代表 中島さち子
- 「未来の教室」ポータルサイト
- 「未来の教室」プロジェクトから見たEdTechやSTEAM教育の課題 2018年11月、経済産業省
こどもプログラミング通信第28号(2019年8月26日発行)
第28号では、さくらの学校支援プロジェクトが企画するイベント「第4回プログラミング教育を考える夕べ@大阪」をご紹介しました。
また、9月の「未来の学びプログラミング教育推進月間」や、協力企業と連携した総合的な学習の時間「みらプロ」について、石狩市教育委員会が視察で訪れた横須賀市浦賀小学校の授業のインターネット配信についてご紹介しています。
小学校プログラミング教育推進の動向としては、プログラミング教育に関する教育委員会(宮城県総合教育センター、岡山県総合教育センター、大分県教育委員会、鹿児島県総合教育センター)の取り組み例をご紹介しました。
第4回プログラミング教育を考える夕べ@大阪を開催
2019年7月19日(金)、さくらインターネット大阪本社(大阪市梅田)で、第4回プログラミング教育を考える夕べ(さくらインターネット株式会社、株式会社しくみデザイン様との共催)を開催いたしました。当日の参加者は約40名で、近畿地方からの参加者が大変で、教育関係者、保護者、エンジニアと多岐にわたる層からの参加がありました。
勉強会は2つの講演と質問タイムで構成。冒頭、さくらインターネット前佛からは『小学校におけるプログラミング教育とは?』と題し、勘違いされがちなプログラミング教育についての現状や課題、石狩市での取り組み状況を解説いたしました。引き続きしくみデザイン中村様からは、『楽しく「作る力」を育てるプログラミング教育』で、児童の創造性とプログラミングについての講演と、iPadアプリを用いた授業体験を行いました。
今後もさくらインターネットでは、プログラミング教育のスムーズな実施に向け、先生方はもちろん、一般の方も含めた理解の促進のために、情報の提供や勉強会の開催を継続して参ります。最新の取り組みやプログラミング教育の情報は、当プロジェクトのツイッターアカウントの活動をご覧ください。
こどもプログラミング通信第29号(2019年9月27日発行)
第29号では、ITエンジニアや一般の方に向けたイベント登壇の様子をレポートしました。
さくらの学校支援プロジェクトでは、主に先生に向けた発信を続けてきていましたが、学校がスムーズにプログラミング教育を推進するために欠かせないのが、保護者の理解です。
特に、ITエンジニアが自分たちの持つ知識やイメージで、小学校で実施するプログラミング教育を誤解してしまうことは、学校にとっても協力が得られないだけでなく、現場が混乱して推進が困難になってしまう可能性もあります。
先生方にも、ITエンジニアや保護者の方がどんな意見や疑問を持っているのかを知っていただく良い機会となったと思います。
また、小学校プログラミング教育推進の動向として、北海道教育委員会によるプログラミング教育事業についてや、理科・算数のための設備整備費補助の一部改訂についてご紹介しました。
半年後に迫るプログラミング教育の全面実施
IT業界でも理解が乏しいプログラミング教育
2019年9月12日開催の、JAIPA(一般社団法人日本インターネットプロバイダー協会)主催による第52回ISP&クラウド事業者の集い in 旭川における「日本のプログラム教育について」のパネルディスカッションに、当プロジェクトの朝倉が、西原氏(国立研究開発法人情報通信研究機構)、下村氏(旭川工業高校)と一緒にパネリストをつとめました。モデレータは、弊社社長の田中がつとめました。
プログラミング教育に携わる小学校の先生や関係者にとっては、「プログラミングという教科ができるわけでもなく、既存の教科の中で、プログラミングを体験しながら論理的思考を育成する」というのは自明になりつつあります。
一方で、パネルディスカッション中に寄せられたITエンジニアからの質問は、「そもそも小学校のプログラミング教育で、どのようなことをやろうとしているのかわからない、教えてほしい」というものでした。朝倉からは、プログラミング教育の手引きや、プログラミング教材であるプログルの例を挙げながら説明を行い、質問者に対して回答しました。
アンプラグドの授業としては、掃除するロボット(コンピュータ)を人間に見立て、人間に対して命令を出す事例を紹介。授業後の感想では「指示にないことを、つい行ってしまう」「でも、それが人間の力」という気づきにつながりました。
ITエンジニアからは、なかなか出来ない発想だという感想も。先生の得意とすること、ITエンジニアの得意とすること、それぞれ力を合わせた授業作りの必要性を感じていただけました。
保護者も気がかり~KidsPG!フェスいたみで登壇
2019年9月7日、兵庫県伊丹市で開催のKidsPG!フェスいたみ(https://kidspg.net/fes/)のセミナーにて、当プロジェクトの芳浦が保護者を対象とした「小学校プログラミング教育とは」を発表しました。
セミナーでは小学校の授業で行うプログラミング教育について、アンプラグドの授業例の紹介のほか、企業が求めている人材とプログラミングの領域について解説。
また、世論や取り巻く環境に苦悩している小学校現場の現状も紹介。親という立場からも、保護者として学校に対する理解や応援するための必要性を訴えました。
こどもプログラミング通信第30号(2019年10月24日発行)
第30号では、中学生が小学校プログラミング教育の取り組みや、さくらインターネットによる支援に興味を持ち、壁新聞の記事として取り上げられたという話題をご紹介しました。
小学校プログラミング教育推進の動向としては、文部科学省が公開した「小学校プログラミング教育に関する指導案集」を紹介しています。
子どもたち自身も知りたいプログラミング教育
花川中学校・樽川中学校の生徒から取材
さくらインターネット株式会社は、石狩市内の中学校から小学校で始まるプログラミング教育に対する取材を受けました。花川中学校、樽川中学校の生徒たちからの質問に、本プロジェクトの朝倉が回答。それぞれ壁新聞のテーマでプログラミング教育を扱っていただきました。
記事では、既に小中学校でプログラミング教育が始まっていることや、情報活用能力を高めることが目標であるなど、時代の変化に伴って自らの学ぶ内容も変わっていくことの気づきなどが述べられています。是非ごらんください。
花川中
IT時代に求められる力とは
昨年、学習指導要領が改訂され、小学校でプログラミング教育が必修化された。IT時代と呼ばれる今、私たちが身につけるべき力とは何なのか、プログラミング教育の実態に迫った。
プログラミング教育が必修化。そのこと自体をそもそも知らないという人が大半を占めているだろう。実は、プログラミング教育は既に小学校だけでなく、中学校でも実施されているのだ。技術科の授業でコンピュータ室のパソコン、タブレットを使ったことはないだろうか。それは、「プログラミングによる計測と制御」という項目で行われている教育だ。
私たちは、意外と身近に存在し、近年重視されるようになってきたプログラミング教育の必要性や将来期待される変化に焦点を置いた。そこで、石狩市教育委員会と連携し、3年前から石狩市で活動している「さくらインターネット株式会社」の朝倉さんに取材をした。朝倉さん曰く「このままの教育ではいけないから必修化となった訳ではない。昔と今とでは社会の変化のスピードが全く違い、昔はなかったコンピュータが身近な存在になりつつある今だからこそ学ぶ必要が出てきた。」という。私たちの身の回りには、沢山のコンピュータが溢れている。それらのコンピュータを使って便利な道具を作るためには、「必ず人間がプログラミングをする」ことが必要なのである。
朝倉さんは「中学校の各教科の学習は、プログラミングに通じる。」とも言っていた。一つの例を挙げると、国語は一見プログラミングとはあまり関係のないことのように思えるかもしれないが、プログラムはコンピュータとコミュニケーションをとるための「言語」なのである。このように、普段学習している各教科がプログラミングをする上での基礎となり得るため、より一層学習に励むことが重要なのである。
日本の社会は、これから更に速いスピードで変化していくだろう。日本は若い働き手が減っており、それとは反対に、仕事の量は増える一方である。そんな中で、プログラミングができない、コンピュータを使えない、という人たちばかりでは仕事が滞り、大きな課題を解決することができなくなるだろう。そのためにも、私たちはプログラミングと向き合い、一人一人がプログラミングの技術を得るための努力を積み重ねる必要があるのだ。
樽川中
プログラミング教育必修化
さくらインターネットと協働推進学びの基盤 情報活用能力を高める
論理的思考の習慣化来年度から、小学校でプログラミング教育が必修となる。石狩市とさくらインターネット株式会社が連携して推進する事業内容について、詳細に迫った。
令和二年度から新学習指導要領が小学校で全面実施となる。新学習指導要領では、育成すべき資質・能力を高めるための学びの基礎として「情報活用能力」と「言語能力」を重要視している。プログラミング教育は、情報活用能力育成の一端を担っている。
そこで私たちは、さくらインターネットの朝倉さんにお話を伺った。プログラミング教育とは、プログラミング的思考を育むことをねらいの中心とし、学習活動全般を通して実施される。実際の授業では、PCやタブレットを使って、実際にプログラミングを体験したり、プログラミングの基本概念を取り入れた学習活動が展開されると朝倉さんは説明してくれた。また、プログラミング的思考を「目標や夢を実現するために、何をどのようにしたら良いのか」を論理的に考える問題解決型の思考ととらえている。さらに、この思考を習慣化し、考える力を高めることで、今後、より複雑化する社会の中で直面する様々な課題の解決策を見つけることができるのではないかと述べた。
石狩市では、全面実施に向けて三年前から準備が進められており、市内の小学校全十三校で、さくらインターネットと連携した出前授業が実施されてきた。朝倉さん自身も、学校に赴き、小学校の先生と連携を図りながら、子どもたちに指導してきたという。
様々な教育的効果が期待されるプログラミング教育だが、全面実施に向けて、課題もある。全国的な指導者不足やICT環境の未整備、推進の地域格差など「人・もの・こと」におけるそれぞれの課題を挙げた。他の市町村に先立って準備を進めてきた石狩市は、それらの課題に対して指導者育成を目的とした研修会や出前授業の実施、指導実践の積み重ねや指導カリキュラムの作成など、様々な対応をしているという。
今後は、中学校でも関連する取り組みを実施し、小中連携したプログラミング教育の円滑な実施を進めていきたいと朝倉さんは述べる。また、地域の特性を生かして、教育的特色を持った町づくりに貢献したいという想いも語ってくれた。
様々な物事を論理的にとらえ、未来から逆算して、順序だてて考えることや、得られた結果を評価・分析する力を高めることは、私たち中学生にとっても大切なことである。日常生活の中から論理的思考の習慣化を図り、目の前にある課題を一つひとつ乗り越えていくことが、豊かで充実した生活を送ることにつながるのではないだろうか。
こどもプログラミング通信第31号(2019年11月25日発行)
第31号では、北海道石狩市に続き、大阪府門真市でも小学校プログラミング教育支援を開始したことをお伝えしました。小学校プログラミング教育推進の動向として、新学習指導要領Q&Aを取り上げています。
また、さくらインターネットからのお知らせとして、北海道プログラミング教育支援ネットワーク(北海道内でプログラミング教育推進を支援する団体の情報交換ネットワーク)や、北海道教育委員会によるプログラミング教育相談窓口の開設についてご紹介しました。
大阪府門真市で小学校プログラミング教育を開始
石狩での実践経験を元に、門真市で実施します
さくらインターネット株式会社の「さくらの学校支援プロジェクト」は、現在実施中の北海道石狩市における経験をもとに、活動範囲を拡大します。
2019年11月より大阪府門真市教育委員会に協力しながら、本プロジェクトは大阪府門真市内の全小学校(14校)でプログラミング教育出前授業を実施します。
この11月中に、門真市内の3校で「身の回りのコンピュータを探そう」を題材にしたアンプラグドや、コンピュータを使う場合はアングリーバードも用いた授業を実施いたしました。
門真市で実施する出前授業のメニューや教材、目指している方向性は、北海道石狩市で実施しているものと同じです。
これまで石狩市の先生方のご協力によって得られた授業実施のノウハウをもとに、門真市内でも各学校ごとに先生からのご要望や生徒たちの状況にあわせ、出前授業を検討・実施して参ります。最終的には、大阪府門真市でも先生方が自ら授業での実践ができるよう支援いたします。
こどもプログラミング通信第32号(2019年12月25日発行)
第32号では、OECDの学習到達度調査「PISA2018」の結果について触れ、荻生田文部科学大臣のコメントと共にご紹介しました。
また、2023年度までに1人1台のPC配置を目標とした補正予算についてや、高等学校の情報科「情報I」の教員研修用教材についてもご紹介しています。
さくらインターネットからのお知らせとして、石狩市立紅南小学校で実施された「プログラミング教育先行実践研究発表会」のレポートも掲載しています。
OECDの学習到達度調査「PISA2018」結果が発表
学校制度の質や公平性、効率の国際的評価
OECD(経済協力開発機構)は、生徒の学習到達度を調査するため、学校制度の質や公平性、効率を国際的に評価する「PISA(Programme for International Student Assessment)2018」を実施し、その結果を2019年12月3日に発表しました。
「PISA2018」は、79カ国・地域の15歳の生徒約60万人を対象に、「読解力」「数学的リテラシー」「科学的リテラシー」のテストを実施しています。
日本は、「読解力」が504点、「数学的リテラシー」が527点、「科学的リテラシー」が529点という結果になり、「数学的リテラシー」「科学的リテラシー」において世界トップレベルを維持するも、「読解力」については過去最低の結果となるなど、課題の残る結果となりました。
この結果を受け、萩生田文部科学大臣は、学校や教育委員会と連携して以下のような取り組みをしていくとコメントしています。
- 来年度からの新学習指導要領の着実な実施により、主体的・対話的で深い学びの視点からの授業改善や、言語能力、情報活用能力育成のための指導の充実
- 学校における一人一台のコンピュータの実現等のICT環境の整備と効果的な活用
- 幼児期から高等教育段階までの教育の無償化・負担軽減等による格差縮小に向けた質の高い教育機会の提供
石狩市立紅南小学校で「プログラミング教育先行実践研究発表会」が開催
2019年12月6日に、石狩市立紅南小学校にて「プログラミング教育先行実践研究発表会」が開催されました。
公開授業では、3年生「ロボットのお仕事(アンプラグド)」4年生「ライトボットで体験しよう(ビジュアルプログラミング)」5年生「mBotで考えよう(フィジカルプログラミング)」6年生「拡大図と縮図(アンプラグド)」の4つの授業がおこなわれました。アンプラグドでコンピューターについて理解を深め、ビジュアルプログラミングとフィジカルプログラミングでプログラミングを体験して学び、普通の算数の授業にプログラミング的思考を取り入れるなど、特色のある授業が展開されていました。
主幹教諭の長坂先生は「これらの授業は、どれかが大事なのではなく、すべて大事です」と説明していました。公開授業の後は研究概要の発表のほか、プログラミング教材各社による展示がありました。さくらインターネットもプログラミング教育支援としてブースで全道から集まった先生方の相談に対応していました。
こどもプログラミング通信第33号(2020年1月27日発行)
第33号では、こどもプログラミング通信で毎号紹介してきたプログラミング教育関連の教材を一覧にして紹介しました。教材紹介につきましては、連載の最終回でまとめたいと思います。
小学校プログラミング教育推進の動向として、市町村教育委員会における小学校プログラミング教育に関する取組状況等調査の結果を取り上げ、更に第32号でも紹介した小中学生への1人1台PC配布などの施策(GIGAスクール構想)についても触れています。
市町村教育委員会における小学校プログラミング教育に関する取組状況等調査の結果が発表
文部科学省は、市町村教育委員会における小学校プログラミング教育に関する取組状況等を調査し、結果について取りまとめて公開しました。
小学校プログラミング教育の実施に向けて、約93%の教育委員会が、令和元年度末までに各校に1人以上、教員に実践的な研修を実施したり、教員が授業の実践や模擬授業を実施済み・実施予定と回答した一方、約7%の教育委員会は、「実施しておらず、実施する予定もない」と回答しており、最低限必要と考えられる指導体制の基礎が整っていないことが明らかになりました。
市町村教育委員会における小学校プログラミング教育に関する取組状況等調査
【用語解説】GIGAスクール構想とは
GIGAスクール構想とは、「児童生徒1人1台端末、および高速大容量の通信ネットワークを一体的に整備し、公正に個別最適化された学びを全国の学校現場で持続的に実現させる構想」のことです。
2023年度までに義務教育段階にある生徒児童1人1台の情報端末、および高速大容量の通信ネットワークを一体的に整備し、さらに、クラウドの活用推進、ICT機器の整備調達体制の構築、利活用優良事例の普及、利活用のPDCAサイクル徹底等を進めることで、多様な子どもたちを誰ひとり取り残すことのない、公正に個別最適化された学びを全国の学校現場で持続的に実現させようというもので、文部科学省は2019年12月19日、文部科学大臣を本部長とする「GIGAスクール実現推進本部」を設置して推進するとしています。
※GIGAはGlobal and Innovation Gateway for ALLの略
こどもプログラミング通信第34号(2020年2月26日発行)
第34号では、特定非営利活動法人みんなのコード代表の利根川氏と、「みんなのコード プログラミング指導教員養成塾」で講師を務めた平井氏による書籍「なぜ、いま学校でプログラミングを学ぶのか」をご紹介しました。
小学校プログラミング教育推進の動向として、「教育の情報化に関する手引」のご紹介、そして、さくらインターネットからのお知らせとして、大阪府門真市でのプログラミング教育支援の状況報告を掲載しました。
「教育の情報化に関する手引」(令和元年12月)が文部科学省から公開されました
文部科学省は、「教育の情報化に関する手引」(令和元年12月)を公開しました。
新学習指導要領では、「情報活用能力」を学習の基盤となる資質・能力と位置付け、教科等横断的にその育成を図ることとされています。あわせて、その育成のために必要なICT環境を整え、それらを適切に活用した学習活動の充実を図ることとしています。
今回公開された手引は、新学習指導要領の元で、教育の情報化が一層進展するよう、教師による指導、学校・教育委員会の具体的な取り組みの参考となることが目的です。
大阪府門真市でのプログラミング教育支援の状況をご報告いたします
さくらインターネットでは、本年度より大阪府門真市へのプログラミング教育支援を開始しています。現在は門真市内の小学校で出前授業を中心に、教員研修などにも携わっています。
現場の声として聞かれるのは、先生方は混乱している方がほとんどで、不安を感じていらっしゃるようです。
- 何からはじめればいいかもわからない
- 教科書がない中でどう進めていけばいいのか
- 今の授業や子どもたちの問題があるのに、これ以上どう時間を割いたらいいのだろう
それでも、前向きに「子どもたちのために何かをしよう!」と、一生懸命メモをとるなどして、出前授業の内容をインプットするように取り組んでおられるようでした。
こどもプログラミング通信第35号(2019年3月26日発行)
第35号では、小学校プログラミング教育の手引(第三版)について、主な改定内容などをご紹介しました。
また、インターネット豆知識として、国別トップレベルドメイン(ccTLD)について学べるポスターの紹介、そしてGIGAスクール構想で一気に注目を集めることになった「Chromebook」についての解説を掲載しています。
小学校プログラミング教育の手引(第三版)が公開されました
文部科学省は、「小学校プログラミング教育の手引」を改訂し、令和2年2月に第三版として公開しました。
今回の改訂では、総合的な学習の時間における、企業と連携しながら行う授業実践を踏まえた指導例の追加や、プログラミング教育に必要なICT環境・教材整備、研修の留意事項等についての説明を追加したものです。
第二版で示されていた、小学校プログラミング教育のねらいや育む資質・能力、学習活動の分類などの考え方については変更されておらず、第二版を参考にしながら行われた実践や教員研修などの内容を改める必要はないことを留意事項として挙げています。
GIGAスクール構想に関連して注目される「Chromebook」とはどのようなものか?
第33号でもお伝えした通り、文部科学省を主体として国が推進するGIGAスクール構想とは、「児童生徒1人1台端末、および高速大容量の通信ネットワークを一体的に整備し、公正に個別最適化された学びを全国の学校現場で持続的に実現させる構想」のことです。
この構想において学習者(児童・生徒)用の端末として求められる仕様が、「GIGAスクール構想の実現パッケージ」という資料として公開されています。
この資料では、Microsoft Windows(マイクロソフト ウィンドウズ)、Google Chrome OS(グーグル クローム オーエス)、iPadOS(アイパッドオーエス)の3種類のOS(Operating System[オペレーティング システム]:コンピュータを動かすための基本となるソフトウェア)ごとに標準仕様を定義しています。また、端末の価格については「米国の300ドルパソコンを念頭に、大量調達実現を含めて、5万円程度の価格帯」としています。
ここで示されている端末1台あたりの調達コストは日本円で5万円程度とされていることから、Microsoft Windowsを搭載したPCの調達は難しい、コスト面を勘案するとGoogle Chrome OSを搭載したChromebook(クロームブック)が現実的なのではないかという声が調達に関わる関係者から出ています。
それではなぜChromebookはWindowsを搭載するPCより安いのでしょうか。それはGoogle Chrome OSが「同じスペックのWindowsを搭載するPCと比較して動作が軽いこと」と「データは基本的にクラウド上に保存すること」としている点で、Windowsを搭載するPCよりもより低いスペック・少ないディスク容量で済むことから、低価格で販売することができるのです。
それではChromebook(Chrome OS)は、Windowsと何が違うのでしょうか。
- Chrome OSは起動が速い
- Windowsよりも機能が少ないぶん軽量なため高速に起動します。電源スイッチを押してから10秒程度で起動すると言われています。
- ChromeとGoogle Playで提供されるソフトウェアしか動かない
- Chrome OSは、WebブラウザであるGoogle Chromeのほか、Googleが提供するプラットフォームであるGoogle Play上からダウンロードできるソフトウェアのみ動作します。プログラミング教育で利用されるソフトウェアの多くはWebブラウザ上で動作するものがほとんどですから問題ありませんが、Microsoft Officeなど、Windows用しか用意されていないソフトウェアはChrome OS上では動きません。
- データは原則としてクラウド(Google Drive)に保存される
- データはインターネットを経由してクラウド上に保管されることを基本としています。ただし少量ではありますがPC上の保存領域もあるため、例えばmicro:bitに書き込むためのプログラムをWebサイトからダウンロードしたものなどはChromebookの保存領域に保存され、micro:bitに書き込むことができます。
以上、簡単ではありますがWindowsとChromebook(Chrome OS)の違いについてご説明いたしました。端末の調達にあたっては、文部科学省が提示しているものはモデルであり、実際にはモデルをもとに各自治体で仕様書を作成するとされています。このため、市町村・教育委員会・学校が協力して「本当に現場で使えるICT環境」を導入することが理想なのではと思います。
Windows | 比較項目 | Chrome OS |
要求するスペックがChrome OSと比較して高い | PCの価格 | 低いスペックで十分動作するため安価 |
Microsoft Officeなど、市販のパッケージソフトウェアが多く存在 | 動作する ソフトウェア |
Webブラウザ「Google Chrome」と、Google Playで提供されるソフトウェア |
PC内蔵のディスクやクラウド(OneDrive) | データの保存先 | クラウド(Google Drive) |
可能 | micro:bitの利用 | 可能 |
2019年度の取り組みを振り返って
2019年度は、支援3年目となる石狩市では出前授業の開催回数が減り、その代わり先生がメインで授業をされることが大幅に増えました。
こどもプログラミング通信でもご紹介した、北海道プログラミング教育事業の実践研究発表会を始め、他にも研究会の場でプログラミング教育を取り入れた学校や、参観日を利用して保護者の皆さんにプログラミング教育に対する理解を深めていただくなど、学校が主体的にプログラミング教育に取り組む土壌が形成された1年だったと思います。
また、石狩市の事例を元に、北海道内の各地でプログラミング教育支援を行う団体とつながりを持ち、お互いに情報交換したり、大阪府門真市で支援を開始したりなど、大きく活動の幅を広げた1年となりました。
ITエンジニアや一般の方向けのイベントにも多数登壇させていただき、さくらインターネットならではの支援(学校にも・ITエンジニア・支援者にも情報を届け、支援の輪を広げる)が定着し、良い相乗効果を生んでいったと考えています。
次回の連載第5回では、いよいよ小学校の学習指導要領の全面実施となり、支援から自立した石狩市での新たな実践の様子など、2020年度の活動をこどもプログラミング通信の記事と共に振り返ります。