はじめに

さくらインターネットでは「さくらの全国行脚オンラインイベント」という取り組みを始めました。この記事では、このイベントを始めることにした経緯の説明と、7月21日(水)の夜に行った第1回イベント「【岐阜編】さくらの全国行脚オンラインイベント」の模様をレポートします。

なぜこんなことを始めたのか

2020年に新型コロナウイルスが流行してから、それまで日常的に行われていた対面でのイベントができなくなりました。それに代わる手段として登場したのがZoomやYouTubeなどを活用したオンラインイベントです。当社でも2020年6月から「さくらの夕べオンライン」などの各種オンラインイベントを手掛け、セミナーに関してはむしろ対面イベントよりも多くの人に見てもらえるという、オンラインにして良かったこともありました。

しかし、イベントの醍醐味の1つは、会場で出会った人との対話にあります。オンラインイベントを実施してきた中で浮かび上がってきたのは、参加者との対話が生まれにくいという課題でした。また、各地を訪問してのイベントができなくなったため、その地域で活動されている方々と会話することで近況や課題を知る機会が失われたという問題もありました。

そこで私達は考えました。「コロナ禍で直接伺えないのであれば、オンラインで全国の皆さまと会えばいいじゃない」。つまり、全国各地の皆さんとオンラインで対面し、会話することを目的とするイベントをやろうという企画です。こうして、「全国行脚オンラインイベント」という取り組みがスタートしました。とりあえずは各都道府県ごとにイベントを開催する予定で、果たしていくつ達成できるかわかりませんが、まずは走りながら考えます。

岐阜からスタート

とにかくどこかの都道府県から始めようと探っていたところ、7月14-16日(水-金)に岐阜県大垣市でJANOGミーティングが開催されることになり、当社も協賛・出展しました。これは岐阜県の方々と交流する良いタイミングだと考えたので、第1回は岐阜県に設定し、7月21日(水)の夜にイベントを開催しました。

イベントの参加対象者は特に制限を設けませんでしたが、「岐阜県に在住・在勤の方だけでなく、当地ご出身の方、何らかの縁のある方もぜひご参加ください!」として、岐阜県に関わりのある方々の参加を促しました。また、岐阜県に縁のある方々にお願いし、各々の取り組みを発表をしていただきました。

それでは、イベントの模様を紹介します。

地方データセンターが活用される理由(岐阜編)

最初の発表は、岐阜県を本拠地にISPやデータセンターなどの事業を行っているミライコミュニケーションネットワークから加藤雄基さんにお越しいただき、「地方データセンターが活用される理由(岐阜編)」というタイトルでお話しいただきました。

近年はクラウドがごく普通に使われるようになり、オンプレミスはもういらないのでは?と言われたりしていますが、加藤さんによると地方のデータセンターはそんな今でもさかんに使われていて、それどころか事業が拡大さえしている状況です。どうして元気にやれているのでしょうか?

その理由として、まず岐阜という土地の特徴があります。もっとも近い大都市である名古屋でも30-40分かかり、東京や大阪は名古屋経由になるのでさらに遠いです。また、県内も広く、県の中心である岐阜市や大垣市から県北の飛騨地方まで2.5時間かかります。このような状況では保守を東京や大阪のベンダーに依頼すると時間がかかるので、県内で済ませたくなります。

こういった地理的な特性に加えて、県民の特性として節約志向があったり、地元企業を使おうという雰囲気があること、県庁や公的機関が使っているという安心感を大事にする傾向から、データセンターも地元にあるものを利用するケースが多くなっています。

そして、岐阜県にはこれを支えるインフラとして「岐阜情報スーパーハイウェイ」という県内を網羅するダークファイバー網があり、岐阜県で事業を展開する民間企業は無償で利用できます。学術向けのSINET5や自治体向けのLGWAN、大手クラウドにも接続しています。また、岐阜県は土地代や人件費が安いことに加えて、大垣市は「水都大垣」と言われるほど地下水が豊富で、これを利用した冷却により空調代も安く、結果として低コストでデータセンターを提供できています。

単なるデータセンターの紹介だけでなく、岐阜県の特徴も知ることができる発表でした。加藤さんありがとうございました!

飛騨の地下で宇宙と素粒子を追う!

2番目の発表者は、東京大学の神岡宇宙素粒子研究施設から早戸良成さんです。素粒子の一種であるニュートリノの観測装置として知られる「スーパーカミオカンデ」を擁する神岡宇宙素粒子研究施設は、岐阜県飛騨市神岡町にあります。早戸さんは同施設で素粒子の研究に従事するとともに、そのデータ収集システムの開発に携わっています。

今回の発表では「どうして飛騨の山奥でニュートリノの研究をしているのか」が主なテーマでしたが、それを理解するにはまず素粒子について知る必要があるので、その話題が多くを占めました。

素粒子は、物質を構成する最小単位です。水を例にすると、水分子は酸素原子と水素原子からなり、さらにその構成要素を追っていくと、原子核、核子、素粒子というように細分化されます。素粒子にも多くの種類があり、ニュートリノもその一種ですが、性質が不明な点が多く、研究対象になっています。

このニュートリノを観測するための装置として、1983年に神岡の鉱山内に建設されたのが初代のカミオカンデで、その装置をさらに大幅に高性能化したものとして、1996年から稼働しているのがスーパーカミオカンデです。なぜ鉱山の中に作ったかというと、まず宇宙からは常に大量の宇宙線が降り注いでいるのですが、ニュートリノのような1日20個ぐらいしか観測できない希少な事象をとらえるには宇宙線が邪魔になります。ところが、地下では宇宙線が遮断されるため(神岡の場合は10-5程度まで減少)、ニュートリノの観測がしやすくなります。また、観測装置を設置するには地下に巨大な空洞を作る必要がありますが、神岡鉱山は飛騨片麻岩による強固な岩盤を持っており、空洞の掘削に耐えうると判断されました。さらに、観測装置には大量のきれいな水を入れますが、これも豊富な地下水により供給可能でした。これらのことから神岡鉱山が建設地として選ばれ、今日まで観測が続けられています。

時間の関係で少しだけでしたがデータ収集システムの説明もありました。センサーで読み出したデータ量は約400MB/秒ほどもあり、そこから選別して一次記録として残すデータが2日で1TBぐらいになるそうです。過去のデータはすべて残しているとのことで、その膨大なスケールに圧倒されました。

今後の展望としては、さらに大きな検出器を備え、多くの事象を観測できるハイパーカミオカンデを建設中で、2027年に稼働開始予定です。

はじめてのISMS取得

3番目の発表者はテックプレッソの坂之上達成さんです。坂之上さんは岐阜県の出身で、現在も岐阜市在住です。テックプレッソはクラウドサーバの構築や運用支援、領収書・納品書自動発行サービス「まとめて領収書」などの事業を行っている会社で、当社がパートナー企業とともにビジネスの拡大を加速させる取り組みである「さくらのパートナーネットワーク」のメンバーにもなっています。今回はISMS取得の体験談をお話しいただきました。

ISMS(情報セキュリティマネジメントシステム)とは、組織における情報セキュリティを管理するための枠組みです。「ISMSの取得」は、情報セキュリティマネジメントの認証基準であるJIS Q 27001:2014に準拠した体制を構築し、その体制を第三者機関に認めてもらうことを指します。さくらインターネットも取得しています。坂之上さんもISMSに対してなんとなくの認識はあり、いずれはテックプレッソでも取得しなければ…と思っていましたが、岐阜市の情報セキュリティ対策チェックシートにもISMSに関する条項が追加されたり、取引先からも「そろそろ取ってください」と言われたことから、取得に向けて動き出しました。

そして、どうやったら取得できるかを探索するうちに、ISMSの取得をサポートしてくれるSecureNaviというサービスを発見し、そこに書いてある手順に則って作業を進めていきました。作業項目を列挙するとかなり長くなってしまうのですが、下図のようになります。

この中でわかりにくいのが「教材の配信」で、これは各担当者を教育するための資料を作成し、教育した実績を記録することを指します。また「供給者を洗い出す」というのは、自分たちが利用しているサービスの提供事業者をリストアップすることです。例えばさくらのクラウドを利用しているのであれば、さくらインターネットが供給者になります。

そして、これらの作業項目をクリアしたら、取得するための審査を受けます。審査は2段階あり、第1段階では文書や物理環境などが審査されます。第2段階では担当者インタビューなどがあるようです。テックプレッソでは第1段階の審査が完了し(近年のコロナ禍のため審査もリモートで行われました)、第2段階の審査待ちとのことです。

第2部は岐阜とITにまつわる雑談タイム!

イベントの後半は、参加者がみんなでワイワイする時間です。

はじめに全員で自己紹介をしました。お名前、何をやっているか、岐阜県との関わりなどを簡単にお話しいただいたのですが、岐阜県に在住/在勤の方が半分ぐらいで、さらに岐阜県出身者や隣県(愛知/富山)の方も数人いました。仕事や観光などで岐阜に行ったことがあるという方も何人かいました。

次に、イベントの参加登録時に「岐阜とITといえば?」という質問を出して回答していただいたのですが、その回答をボードに並べたものを表示して、それを見ながら皆で雑談しました。その中からいくつか紹介します。

スーパーカミオカンデのシステム

スーパーカミオカンデは、先代のカミオカンデも合わせて約25年ほど稼働していますが、その間の観測データはすべて保存されています。解析システムは数年ごとに更新していますが、そのたびに全データを解析システムに通し、解析できることを確認しています。データを収容するストレージのサイズは9PBもあるそうです。

ちなみに、現行のシステムはCentOSで稼働していますが、CentOS 8のサポートが2021年末で終了すると発表されたため、次期システムはRed Hat Enterprise Linuxで構築するそうです。CentOSのサポート終了問題はこんなところにも影響しています。

岐阜の一大IT拠点!ソフトピアジャパン

ソフトピアジャパンは大垣市にあるIT拠点です。岐阜県がIT関連に力を入れようとしていた1990年代に、大垣市にIT集積地を建設したのがこちらです。敷地内にはIT関連企業が集積するオフィス群だけでなく、高度IT人材育成拠点となるIAMAS(情報科学芸術大学院大学)やイベントホールなどもあります。冒頭で紹介したJANOGミーティングもここで開催されました。

今はITはどこでもやれるようになったので、このような地方のIT拠点はさほど珍しいものではなくなったようですが、25年も前にこのような施設を作っていたのは、全国的にも先駆けとなる存在だったかもしれません。

ソフトピアジャパンの全景 (出典:https://www.softopia.info/about/)

岐阜のITを支える情報スーパーハイウェイ

県内のIT産業を発展させるには、ソフトピアジャパンのような施設を作るだけでは不足でインターネットが必要という考えのもと、岐阜県内全域をカバーする光ファイバー網「岐阜情報スーパーハイウェイ」が構築され、2003年から運用されています。県内で事業を展開する民間企業には無料で開放されています。一時は廃止の話もあったそうですが、今では病院や警察など公的な施設も接続されており、県内のITインフラとして欠かせない存在になっています。

岐阜情報スーパーハイウェイのネットワーク網(出典:岐阜情報スーパーハイウェイの概要について)

全国最速レベルで進む学校教育のIT化

参加者の中にいた学生さんが話題を出してくださったのですが、岐阜市は全国的にも最速レベルで教育のIT化が進んでいるようです。例えば学校から黒板がなくなって電子黒板になったとか、学生にタブレットを配布し、教科書はタブレットで参照するといったことが行われています。

岐阜のITコミュニティ

岐阜県内のITコミュニティの活動状況をうかがってみました。CODE for GIFUGifu WordPress Meetupなど、定期的に活動しているコミュニティもありますが、コミュニティの数はあまり多くなく、エンジニア同士の横のつながりは薄いようです。当社のユーザグループである「さくらクラブGIFU」もあり、坂之上さんが運営されています。これまでに、sakura.ioやNode-REDのハンズオンWebフォントのセミナーなどを開催した実績があります。facebookページがあるのでぜひご登録ください。

その他の話題

この他にも、名古屋との関係や、岐阜県内の各周辺地域と中心部の関係など、地元ならではの話題がたくさん展開され、とても楽しいトークセッションになりました。参加者の皆さんありがとうございました!

というわけでやってみた

というわけで始まりました全国行脚オンラインイベント。まずは1回やってみました。やってみて思ったのは、同じIT業界&同じ地域という共通項を持つ人達で集まることで楽しい時間を過ごせることと、運営側から見ると同じ日本のITといっても均一ではなく、各地域の特色があって興味深いということです。

こうなると他県はどうなんだろう?ということで気になるので、これからも順次実施していきたいと思います。「うちの県でやってくれ!」という方がいらっしゃいましたら、率先してそこからやっていきたいと思いますので、さくらのナレッジ編集部か筆者までご連絡いただくか、Twitterで「#さくらのナレッジ」をつけてツイートしてください。

それではまた、次回のイベントでお会いましょう!