プログラミング教育必須化 ~さくらの取り組み~ (2) 「出前授業」を覗いてみよう

こんにちは、さくらインターネットの大喜多です。

小学校プログラミング教育必須化に関して、今ある情報を検証しお伝えするとともに、さくらインターネットが実際におこなっている取り組みについてご紹介する本連載。第2回となる今回は、さくらインターネットが石狩市内の小学校でおこなっている「出前授業」についてご紹介いたします。

出前授業とは?

さくらインターネットでは、「自治体や学校が主体となってプログラミング教育を行える」環境づくりの一環として、「出前授業」と称して、さくらインターネットの社員が小学校の教壇に立ち、小学校の教育課程内での実践を想定し検討したプログラミング教育の授業をおこなう活動をしています。

具体的にはどんなことをしているの?

出前授業は、大きく分けて「コンピュータを使わない授業(アンプラグドコンピューティング)」と、「コンピュータを使った授業」の2つがあります。それぞれの特徴を見ていきましょう。

コンピュータを使わない授業(アンプラグドコンピューティング)

コンピュータを使用せず、課題に対してグループワークで取り組んでもらう、比較的どの学年、教科でも取り入れやすい授業形式です。プログラミング的思考を醸成していくことを目的として、主に余時数(各教科等の授業時数に当てはまらない余剰分(学校裁量での柔軟な授業時間確保や、臨時休校などに備えるためのもの))や「総合的な学習の時間」を利用して実践できる内容を想定してメニューを作成し実施しています。

1・2年生複式クラス:「くるま」「てれび」「そうじき」「そふぁ」「ごみばこ」はコンピューターが入ってる?入ってない?みんなで相談して考えよう!

5年生:コンピューターが使われていると思うものに色を塗って、なぜそう思うか、コンピューターはどんな役割をしていると思うかをグループごとに発表

コンピュータを使った授業

小学校のコンピュータ室にあるパソコンを使用したり、教育用マイコンボードを利用したりする授業形式です。キーボードやマウスを使った入力作業を伴うため、中学年から高学年向けのメニューになっています。2018年度からは、余時数や「総合的な学習の時間」を想定した内容に加え、学習指導要領の中で例示される内容をメニューに取り入れ、実施しています。小学校プログラミング教育の手引(第一版)にも解説されている通り、既存教科の中で実践するプログラミング教育については、「各教科等での学びをより確実なものとするため」に行うことを目的としています。

6年生:IchigoJamを使って、本格的なプログラミングにチャレンジ!

キーマンに訊く!

ここからは、実際に出前授業を担当している、本プロジェクトの責任者でもある朝倉にインタビューをおこないましたので、その様子をお届けします。

── 本プロジェクトの支援メニューとして「出前授業」が誕生したいきさつを教えてください。

アイデアを出してくださったのは、石狩市教育委員会の松井次長(当時)です。当初は先生方向けの研修会を提案をする予定でしたが、「先生はすでに研修会の予定がいっぱいで、新たな研修会に対応する時間がとれない」「実際に授業をしている姿を見せたほうがイメージをすぐつかんでもらえるんじゃないかと思うので、出前授業という形でやってもらえないか」という話になったのがはじまりです。

── コンピュータを使わない授業をおこなう際に心がけていることがあれば教えてください。

子供たちが、「どんな手順で」「何をすればいいのか」がわかるように心がけています。子供は後で使う物でも机上にあるとどうしてもそっちに意識が集中してしまって気が散ってしまうことがあるため、物を出す順番や、使う順番など、手順で子供たちが迷わないように心がけています。

また、コンピュータを使わない授業は全部グループワークなので、子供たちが意見を交換しながら、「自分が気づかなかったことに他の人が気づいた」というプロセスを大事にしています。コンピュータを使わない授業では、授業の内容とコンピュータとの関わりを紹介しています。コンピュータってこういう風に手順を細かく正確に伝えなきゃ思った通りには動かないんだよ、コンピュータにやってほしいことを決めるのは人間なんだよ、コンピュータはみんなの周りにたくさんあって、実は日常的に使っているんだよ、ということを伝えるようにしています。

── コンピューターを使った授業をおこなう際に心がけていることがあれば教えてください。

何といっても「環境の事前確認」が一番ですね。やろうとしている授業がその学校の環境でできるか事前に確認しておきます。

授業はコンピュータ室でおこなうことが多いのですが、石狩市の場合、コンピュータ室の椅子はOAチェアで、普段使っていないOAチェアに子供の意識がいってしまうことがあります。最初にコンピュータ室で授業を行う目的を話し、授業の進行をスムーズにするためのお願いとして、椅子の使い方に対する注意をしています。コンピュータを使うというか、コンピュータ室を使う上での特殊事情ですね。普段使わない物を使うとどうしても子供たちの意識がそちらにいってしまう。

また「答えを教えないこと」もポイントです。迷路を通るプログラミングをしているときに「どのブロックを使えばいいかわからない」「どこが違っているかわからない」ということがあります。わからない子供は見る場所が違うんですよ。自分で作ったプログラムを見てほしいんだけど、画面上のキャラクターなどに目がいってしまう。事前に「カトラリーカード」というもので設計をしておく場合があるのですが、カトラリーカードの段階で合っているのに実際のプログラミングは間違っていて、それを見つけられないことがあります。

そんなときは、子供に迷路の上をどう進めたいか言って(指で差して)もらって、自分の作ったプログラミングの命令とどこが違っているか自分で気づいてもらうように誘導します。カトラリーカードを使って事前に作っておいたものと、画面上のプログラムを見比べたりすることで、見るべき場所はどこか、気づいてもらうということが大事です。なかなか抜け出せない子供にはヒントをあげて抜け出せるように誘導はしますが、答えは言わないようにしています。

Code Monkey(プログラムによって猿を操作してバナナをとるプログラミング教材)は「すごい頭使った」という感想が多いです。大人がやっても、後半は結構難しいです。Code Monkeyはコードの質や限られた制約を大事にしていて、動かし方の選択・とるべきルートによってコードの長さが変わってきます。プログラミングができる人でも結構難しいと思います。

猿の前と後ろにバナナがある場合、「前に進んで前のバナナをとり、ターンして前に進んで後ろのバナナをとる」というのも解答のひとつですが、「前に進んで前のバナナをとり、バックして後ろのバナナをとる」というほうが短く書けるので、よりよい解答とされています。バックするためには、「進む歩数をマイナスにする」工夫が必要になってくるんですよ。

── 答えはひとつではないけれど、よりよい答えがあるということですね。

そうですね。気づきがさえている子は星の数(評価)が少ないことに気づいて、「どうしてこれは星1つなんだろう」と言い出す子供がいます。結構気づかない子供が多いのですが。それはコードの長さなんだよと教えると、「絶対星3つとる」と言って一生懸命になります。子供たち結構集中しますね。静かになります。

5年生:Code Monkeyという教材でプログラミング おさるのモンタはバナナを取れるかな?

── 実際に出前授業をおこなってみて得られた手応えなどありましたら教えてください。

子供たちの反応ですね。「ええっ、もう終わりなの」「もっとやりたい」という声が多く聞かれます。子供にとっては「あっという間」なんでしょうね。また、子供たちが楽しんで取り組んでいることが先生たちにも伝わり、「こういう感じだったらできるかな」というような気づきが、先生たちにも生まれたことが大きかったです。

出前授業後に、授業をご覧になった先生にはアンケートにご協力いただいているのですが、昨年の集計では9割近い先生が「(自信はないが)自分にもできそう」という感触を持ってくださっていました。出前授業をきっかけに、プログラミング教育の意義や可能性を感じ取られた先生も多くいらっしゃったことが、今年の石狩市のプログラミング教育に対する取り組み全体にも影響を及ぼしています。

── 本プロジェクトの目的は「自治体・学校のみで持続可能なプログラミング教育の実現」ですが、その実現のために出前授業で心がけているポイントと、今後の課題などありましたら教えてください。

出前授業の実施によって生まれた、「共有できるような教材」を残そうとしています。ご要望があれば印刷教材などのデータをお渡ししています。また、出前授業の前には、必ず先生と打ち合わせをするようにしており、私の立てた指導案を見てもらって、先生の意見を取り入れて各授業ごとにアレンジを入れています。

コンピュータを使わない授業の場合、同じテーマでも実施する学年や教科によってアレンジを入れられることをお伝えし、発達に応じた適切な内容を先生と一緒に考えるようにしています。例えば、1・2年生の複式学級で出前授業をおこなったケースでは、1・2年生にはフリーフォーマットで回答を書くことが難しかったり、字を書くことにものすごく時間がかかるなどの懸案があり、先生方がアイデアを出してくださって、カードを使って回答できるようにしたり、選択肢で回答ができるようにしたりしました。先生たちが意見を出すことで、より深くプログラミング教育について知ることができたのだと思います。先生たちと一緒になって指導案を考えることで、私もプログラミング教育のやり方に気づきが得られます。

また、ワークショップ形式のカリキュラムの場合、何にもフォーマットがないと、子供たちはどう書けばいいかわからず、ぼんやりしてしまうことがあり、ワークシートを作って定型化しました。「○○の中にはコンピュータが入っている」「○○なら□□する」みたいに枠を作り、「自動ドアの前に立つとドアが開く」というような例を見せることでコンピュータが絡んでくるものが具体的にイメージして書けるようになってきました。

── 「蛇口をひねると水が出る」ということを書く子供もいたそうですが、水道に気づくのが面白いですね。確かにコンピュータは入っていないですけど、入力と出力はあるのでプログラム的ではありますね。

そうですね、例えば手を前に出したら水が出る自動水栓みたいなものだったらコンピュータが関係してきますよね。そのような話を子供たちとしていると、「これからコンピュータが入らなさそうなものってほとんどないよね」ということに気づきます。子供たちと一緒にやりながら気づく、というのが面白いですね。

── 学校の先生がプログラミング教育を実践するために必要だと思われるものと、それに対するさくらインターネットとしてのアプローチを教えてください。

石狩市は住宅地と農村部とで生徒数などの実情が大きく異なることから、教育委員会では、市として一律のカリキュラムは持たずに、できるだけ学校裁量で、学校の特色を生かしてプログラミング教育をやっていくという方向性を検討しているそうです。そういった場合にどの学校でも均質に導入していけるかということが課題です。今はひとりひとりの先生がまずは自分の学級で授業ができるように研修していますが、体系だったカリキュラムをどうするかが課題ですね。

また、先生は石狩振興局管内を異動することになっており、いずれ転勤してしまいます。逆に、石狩振興局管内の他の市町村から石狩市へ転勤してくる先生もおられます。石狩市にプログラミング教育を根付かせるためには、石狩市が持つ研修体制に加えて、石狩振興局管内全体のフォローが必要と考えられます。支援の対象とする地域が石狩振興局管内全体に広がると、リソースの問題から私たちだけでは担えなくなるので、そこをどうするかが今後の課題です。

── 最後に、本プロジェクトにかける思いなど、メッセージをお願い致します。

石狩市って、思っていたよりも先生も教育委員会もプログラミング教育に対して熱い思いを持っている。先生たちがこの取り組みにのってくれる。私たちもそれに応えていけるようにしていきたいです。また、北海道にプログラミング教育が根付く必要があると考えています。都市部よりもIoTなどで「技術を使って便利になる要素」がたくさんあると思うんですよ。そういうことに地域で気づけるような社会にしていきたいです。

── ありがとうございました。

まとめ

いかがでしたでしょうか。プログラミング教育に携わる現場の空気が少しでも伝われば幸いです。次回からはプログラミング教育の授業で使用している教材の紹介をしてまいります。