プログラミング教育必須化 ~さくらの取り組み~ (7) プログラミングによる課題解決 - SNSの有効な使い方を考えてみよう

はじめに

2020年度より開始される小学校プログラミング教育。本連載では、「自立できるプログラミング教育」を目指し、自治体・学校への支援を実施しているさくらインターネットの取り組みについてご紹介しています。第7回となる今回は、中学校で実施した出前授業の様子をご紹介いたします。

今回は中学校の話です

小学校プログラミング教育を支援している本プロジェクトですが、石狩市立花川南中学校の技術科教諭である折田先生からの要望で、プログラミングの授業を一緒に考え、実践してみることになりました。

2020年の小学校プログラミング教育必須化がホットな話題になっていますが、中学校では現在すでに「技術・家庭」教科の中で、プログラミングの授業が実施されています。そして2021年に全面実施の新学習指導要領から、プログラミングの項目が増えます。内容「D 情報の技術」で、これまであった「プログラムによる計測・制御」に加えて、「ネットワークを利用した双方向性のあるコンテンツのプログラミング」が追加され、更に学習目標としてはいずれもプログラミングをすることによる「問題の解決」を目指すことになりました。

中学校のプログラミングに関する指導内容が2021年からの新学習指導要領で増えます!

石狩市では2020年の小学校プログラミング教育必須化と、2021年からの中学校プログラミング教育で求められる内容のつながりを考え、小学校から中学校への橋渡しをどのようにするべきかという検討に入っています。そのため今回の出前授業には中学校の先生のみならず、石狩市教育委員会も視察し、この授業がきっかけとなって小学校プログラミング教育の石狩版カリキュラム作りの動きに大きな弾みがつきました。

授業の大枠

「ネットワークを利用した双方向性のあるコンテンツのプログラミングによる問題の解決」では、以下のような学習内容が示されています。

  • 情報通信ネットワークの構成
  • 情報を利用するための基本的な仕組み
  • 問題の発見、課題の設定
  • 使用するメディアを複合する方法とその効果的な利用方法等の構想
  • 情報処理の手順の具体化
  • プログラムの制作、動作の確認、デバッグ等
  • 制作の過程や過程の評価、改善・修正

そこで、ネットワークを利用した双方向性のあるコンテンツとして「SNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)」を題材に選定し、既存の授業の流れも考慮に入れつつ折田先生が以下のような指導計画を作成しました。

学習活動 目標とする生徒の姿
情報通信ネットワークの構成を理解する コンピュータ同士を接続する方法や、情報通信ネットワークの構成について理解することができる(知識・技能)
SNSの機能や特徴、問題点について調べる 生活や社会の中から情報のデジタル化や処理の自動化、情報セキュリティ等に関わる問題を見出して課題を設定することができる(思考・判断・表現)
SNSの課題を解決するためのプログラムの制作 設定した課題を解決するために、安全・適切に、順次、分岐、反復という情報処理の手順や構造を入力し、プログラムの編集・保存、動作の確認、デバッグ等ができる(知識・技能)
生活や社会の中から情報のデジタル化や処理の自動化、情報セキュリティ等に関わる問題を見出して課題を設定することができる(思考・判断・表現)
課題の解決策を、条件を踏まえて構想し、全体構成やアルゴリズムを図に表す力、思考・試作等を通じて解決策を具体化することができる(思考・判断・表現)
設計に基づく合理的な解決作業について考えることができる(思考・判断・表現)
課題の解決結果や解決過程を評価、改善及び修正する力など情報の見方・考え方を働かせて、問題を見いだして課題を設定し解決することができる(主体的に学習に取り組む態度)
情報を利用するための基本的な仕組みを理解する
データセンターについて知る
サーバやルータなどの働きや、パケット通信やWebでの情報の表現、記録や管理などの情報通信ネットワーク上で情報を利用する仕組みについて理解する(知識・技能)
映画や楽曲、プログラム等の違法な複製が社会にどのような影響を与えるのかを調べる 知的財産を保護し、活用を図ることが新たな知的財産の創造につながることに気付くことができる(主体的に学習に取り組む態度)
知的財産を創造、保護及び活用しようとする態度を身に付けることができる(主体的に学習に取り組む態度)

この授業は全8コマで構成され、実習にあたる「SNSの課題を解決するためのプログラムの制作」と、その前後1コマの授業をさくらインターネットが出前授業形式で実践しました。

授業の様子

「SNSの課題を解決するためのプログラムの制作」の授業の様子を取材しました。

本授業では、折田先生のほか、札幌龍谷学園高等学校の情報科の先生と、ロボティクス部の生徒にチューターとしてご協力いただき実施いたしました。

授業「SNSの機能や特徴、問題点について調べる」の中で「SNSの機能や特徴、問題点」について調べた結果がGoogleフォームの集計機能を使ってスクリーンに示され、他の生徒がどのように考えているかをクラス内で共有しながら授業が進められました。

この時間は、「できそこないSNS」に機能を追加していくことで、それぞれが挙げた課題の解決に取り組みます。
※本授業の中では、機能が実装されておらず不十分なSNS教材を用意し、そのSNSのことを「できそこないSNS」と呼称しています。

Blocklyというブロックプログラミング言語を用いて機能を作成し、SNSに組み込む際はJavaScriptに変換して書き込みます。

授業のまとめとして、今回実装した機能をフローチャートにまとめます。

この後の授業では、それぞれのグループに分かれて「みんなの役に立つSNSってどんなだろう?」という課題に対して、各グループがSNS教材にアレンジを加えていくという取り組みがなされました。

また、SNSのフローチャートはこの授業の中で十分に理解できなかった部分があり、別の日の授業で「SNS劇場」と題し、通信やサーバを人間が演じ、その流れを具体的に見せるなどの工夫も行いました。

SNSの仕組みを学習した上で、その安全な使い方について考えたアンケートの結果

まとめ

今回この依頼をお引き受けした背景として、小学校でのプログラミング教育を受けて、中学校ではどのような授業につながっていくのかが見えない、そしてそもそも中学生が何を知っていて何を知らないかがわからないということを、石狩市教育委員会の中でも課題として認識しており、その課題をひも解くチャンスであると認識したということがあります。

今回の授業を通じて、中学生が「すでに理解していること」「まだ理解していないこと」が明らかになったと思います。世にあふれているSNSの名前やどのような使われ方をしているか、かなりいろいろな意見がアンケートで集まった一方で、「双方向性のあるコンテンツはなぜ双方向のやりとりができるのか」といった内部的な仕組みや、フローチャートのまとめ方といった部分については課題の残る結果となりました。

データセンター事業者である我々の想いとして「インターネットとデータセンターの関わりを知ってほしい」ということがありますが、それを中学生向けにどのように伝えるのが良いのかが今後の課題としても残ったと感じています。

今回ご協力いただいた高等学校の先生からは「中学校と高等学校の教科書で重なり合っている部分が多くあり、中高の連携を踏まえて精査したうえで切り分けをし、社会で必要なスキルを学ぶ場を提供できれば」という旨のコメントがありました。

今回わかったことを元に、石狩市教育委員会では今後の中学校におけるプログラミングの授業の在り方を検討するとともに、石狩市における「小学校から中学校までつながりのあるカリキュラム案」を検討していく予定です。