プログラミング教育必須化 ~さくらの取り組み~ (5) プログラミングで電気を節約するには?出前授業レポート
目次
はじめに
2020年度より開始される小学校プログラミング教育。本連載では、「自立できるプログラミング教育」を目指し、自治体・学校への支援を実施しているさくらインターネットの取り組みについてご紹介しています。第5回となる今回は、micro:bitを使って電気について学ぶ出前授業に参加してきましたので、その様子についてご紹介致します。
なお、さくらインターネットで実施している出前授業のメニューや、コンピューターを使った授業とコンピューターを使わない授業のそれぞれの特徴などは本連載第2回記事に記載があります。micro:bitにつきましては、本連載第3回記事にてご紹介しております。併せてご覧ください。
プロジェクトのロードマップと現在のステータス
この取り組みは2017年度より開始し、「2020年のプログラミング教育必須化までに、石狩市内全小学校の授業で、プログラミング教育が行えるようにする」ことを目標として活動しているものです。
2020年のプログラミング教育必須化に向け、年度ごとに以下の目標を設定して支援を行っています。
- 2017年度:石狩市小学校教員・石狩市教育委員会に、プログラミング教育に対しての理解を深めてもらう
- 情報誌「こどもプログラミング通信」の月1回発行・配布
- 市内小学校でのプログラミング教育出前授業の実施
- 石狩市小学校教員・石狩市教育委員会の協力のもと、プログラミング教育出前授業を石狩市内13校すべてで実施する
- 2018年度:石狩市小学校教員・石狩市教育委員会主導でプログラミング教育推進が可能な体制づくりを支援する
- 情報誌「こどもプログラミング通信」の月1回発行・配布
- 市内小学校でのプログラミング教育出前授業の実施
- 教員によるプログラミング教育授業のサポート(指導案検討、教材準備、当日補助)の実施
- 石狩市小学校教員によるプログラミング教育実践事例を石狩市内13校で1例ずつ作る
- サマーセミナー、校内研修、個別相談など、教員や学校の状況に合わせた研修の提供
- 石狩市小学校教員に広くプログラミング教育が理解され、教員主導で各学校のプログラミング教育カリキュラムを検討できる素地を作る
※サマーセミナー:石狩市内の教職員を対象とした研修会の集まりで、その中にさくらインターネットが提供するプログラミング教育研修とNPO法人みんなのコードが提供するプログラミング教員養成講座がメニューのひとつに含まれています。
※2019年度の目標は、2018年度までの進捗をもとに策定中
出前授業は、「石狩市小学校教員に広くプログラミング教育が理解され、教員主導で各学校のプログラミング教育カリキュラムを検討できる素地を作る」ための活動の一部として、昨年より継続して実施しているものです。
石狩市におけるプログラミング教育推進の現状をまとめると、以下のようなステータスになります。
- 「プログラミング教育を知る」フェーズから、「プログラミング教育を実践する」フェーズへの過渡期にある
- 各小学校にプログラミング教育推進担当の教員が設定され、カリキュラム・マネジメントの検討が開始されようとしている
- 小学校教員による授業実践と、さくらインターネットによる出前授業をミックスしノウハウの醸成に取り組む学校も出てきている
出前授業「電気の性質」
出前授業には「児童がプログラミングに触れる」「プログラミング的思考を通じて単元の理解につなげる」といった『児童に向けての目標』と、「先生にプログラミング教育を知ってもらう」「実践のための材料としてもらう」といった『先生に向けての目標』の2つの側面があります。
そのうち『児童に向けての目標』については、指導案という形で先生と共有しています。本出前授業では、以下を目標として挙げています(以下は指導案からの抜粋です)。
- 本時(この指導案が対象としている授業時間内)の目標
- コンピューターに命令を送る時には、1つの動作を細かい命令にして伝える必要があることを学ぶ
- コンピューターに意図通りに動作させるためには、命令を正しい順で並べて伝える必要があることを学ぶ
- 電気の特性を踏まえながら、節電をするにはどんな手段があるのかを考え、モデルを使って手段を再現する
- 期待する児童の姿
- 自分の送った命令の通りに画面が動くことに、驚きと関心を示す
- 自分の送った命令が間違っていた時、間違った通りに画面が動くことに気付く
- どう命令を組み合わせたら良いかわからない場面では、試行錯誤したり、友達と相談し合ったりしながら、正解にたどり着く
- なぜその方法が節電につながるのか、他にもっと良い方法がないのか、友達のモデルを見たり、説明を聞いたりして深く考える
- プログラミングで電気のON / OFFを制御したり、センサーを利用したりする手法に触れて興味を持つ
今回の出前授業の資料はさくらのプログラミング教育ポータルの資料ページからダウンロード可能です。出前授業は2時間で構成され、1時間目で「プログラミング体験(micro:bit)」、2時間目で「電気の利用(micro:bit)」を実施しています。
出前授業前半~まずはmicro:bitに触ってみよう
授業は講師の自己紹介からはじまりました。石狩市にあるさくらインターネットのデータセンターにはコンピューターがたくさんあり、講師はその会社で働いていることを説明し、コンピューターが何をしているのか、授業の導入部分に入っていきます。
これからみんながおこなうプログラミングとはコンピューターに送る命令のかたまりを作ることなんだよと説明して、講師がmicro:bitを使ってプログラミングを体験するための基本操作の説明に入ります。
ここでmicro:bitの基本操作を理解するために、LEDを光らせたり、ボタンによってLEDが光ったり消えたりするプログラムを作ってみようということで、画面の操作方法を説明しながら児童に手を動かしてもらいます。
まず、ブロックの操作(ドラッグして画面上に配置する)を講師が実演します。その後、これから使うブロックがどれで、どこにあるのかを示します。必要な5つのブロックをまずは画面に出すように指示し、5つのブロックを組み合わせてできることを順に指示していきます。
「好きなアイコンをWeb画面上のmicro:bitエミュレーターに表示させること」ができたら、次に「アイコンを点滅させるためには5つのブロックをどう組み合わせたら良いか」「点滅の速さを変えるにはどうしたらよいか」を考えてやってもらいます。
担任の先生も教室を回って様子を見たりアドバイスをしたりしています。
micro:bitを使ってLEDを操作するプログラムを作った児童に、「micro:bitが動くために必要なものは何かな?」と聞いてみます。
出前授業後半~電気を節約するプログラムを書いてみよう
前半の最後に「コンピューターは電気で動く」ことを説明した後、後半ではまず「身近にある電化製品はどんな機能を持っているか、それによってどのような利点があるのか」をみんなで考えてみます。そこから話を発展させて「電化製品が電気を無駄なく使う工夫」について考えてもらいます。
ここでは街路灯を例にとって「明るいときは消える」「暗くなると点く」という点をクローズアップし、明度センサーとLEDがついているmicro:bitでそれをプログラミングして動かしてみよう!という流れで授業を進めていきます。
児童の反応
- プログラミングはむずかしそうと思っていたが、小学生の自分でもできるんだということがわかった
- 楽しかったので家に帰ってから続きをやってみます!
先生の反応
- これなら授業でできそうですねー。楽しかったし子どもたちもそれなりに理解できていたようです。(担任の先生)
- これをどのようにカリキュラム・マネジメントで入れていくかまだ課題は多いが、実際に出前授業を見て、どんな投げかけやどんな手順で指導すると子どもが理解できるのか、子どもがプログラムを組むスピードはどのくらいなのかなどのイメージができた。(プログラミング教育担当の先生)
まとめ
はじめて出前授業に参加してみて、小学校でのプログラミングを使った教科・単元の授業実践について理解を深めることができました。担当の朝倉は本連載第2回記事でも「授業の内容とコンピュータとの関わりを紹介しています。コンピュータってこういう風に手順を細かく正確に伝えなきゃ思った通りには動かないんだよ、コンピュータにやってほしいことを決めるのは人間なんだよ、コンピュータはみんなの周りにたくさんあって、実は日常的に使っているんだよ、ということを伝えるようにしています」「北海道にプログラミング教育が根付く必要があると考えています。都市部よりもIoTなどで「技術を使って便利になる要素」がたくさんあると思うんですよ。そういうことに地域で気づけるような社会にしていきたいです」と語っていたとおり、この授業から、児童に身の回りにプログラミングされたコンピューターがたくさんあることを知ってもらい、どうやったらコンピューターを使って便利にしていけるか考えてもらいたいといったメッセージを強く感じ取りました。また児童もプログラミングというものを楽しいものとして受け入れており、課題はありつつも学校の先生も実践に向かって考えを進めている様子が感じられました。
個人的に「これは今後の課題かな」と思った点を挙げてみます。
- パソコンの操作(マウスの操作、フォルダの操作、キーボードの操作)で苦戦していた子供(児童)が多く、講師側の指示を言葉だけで理解してもらうことが難しかった
- 事前に理解しておくべきパソコン操作の習熟
- 指示をする時の「見せ方」の工夫
- プログラミングの経験がなかったので、ループの理解が難しかった
- まずはアンプラグドコンピューティングでの授業経験や、プログラミングの体験教材(Hour of Code他)などによる「プログラミング的思考」育成
- 学校ごとのカリキュラム・マネジメントによる段階的な計画
マウスやキーボードの操作、フォルダの操作など、そもそもコンピューターを扱うための基礎的な知識がない状態ではどんな指示が理解されないのか、逆にひとたびそれらを扱う経験をした後ではどのように変わっていくのかを、小学校の先生にも実際の授業の中で見ていただき、今後のプログラミング教育計画を立てる上で参考にしていただけるのではないかと思います。石狩市小学校の今後の取り組みに期待しています。